サモンナイト4 本編後ライがフェア世界に逆行   作:ライフェア好き

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誤字脱字、感想も評価もありがとうございます。
いつも楽しく読ませていただいてます。
何かと召喚獣とリィンバウム民の間に立ってくれた侍の回。


第39話 店主の平和な日 後編

 お昼頃、厨房に立つライの機嫌は良かった。

 

 最近率先して調理を行うコーラルの新作料理が驚くほど美味かったり、

 こっちの世界でも仕込んでいたシルターン風の漬物が上手く仕上がったり、

 事情を伝えられたセイロンへの胸のつかえが取れたりと色々あったが。

 

 やはり一番は、フェアが自由に行動してる事だろう。

 

 コーラルが来る前は「一人より二人でしょ」と、ライが厨房に立ってもフェアは仕事を休もうとはしなかった。

 けれどコーラルがこちらに来て、なおかつフェアの負担を減らすためにずっと宿の仕事を率先して行っていた。

 

(けど、竜の体力に任せて徹夜するのはやりすぎだよなぁ)

 

 明かりもつけず店の帳簿の整理をつけていたときは流石に驚いた。

 気を遣っての事だろうが、あの姿で無理をしていたらライの気も落ち着かず、

 結局次の日の朝からコーラルのやろうとしてる事を手伝い始めた。

 

 結果として、ライとコーラルの二人で競うように日々の仕事を片付けていき、

 本来の店主であるフェアのやる事がなくなってしまった。

 

(オレとコーラルが居れる間だけでも、年相応に自由な時間があってもいいしな)

 

 コーラルの考えを知った時は目頭が熱くなったが、ライとしてもフェアにはもう少し楽をしてもバチは当たらないだろうと常々考えていた。

 

 一緒に働いていたコーラルも、今は客が少ない時間なので休みに出していた。

 倉庫から釣り竿を持っていくのが見えたし、今頃はのんびり釣りを楽しんでるはず。

 

 仕込みを終え食堂の机を拭きながらそんなことを考えていると、扉の開く音が聞こえる。

 

「いらっしゃーい」

 

「ただいまー……」

 

 反射的に客に向けた声を出すが、帰ってきたのはフェアの声。

 

「何だずいぶん早いなフェ……ア?」

 

「あはは……」

 

「パパー……」

 

 そこに居たのは、フェアと御使いと買い物に行ったはずのミルリーフ。

 二人共全身ずぶ濡れの姿だった。

 

 ────────────────────────

 

「どうしよう……」

 

 池に飛び込んだ二人はさっさと宿へと戻って行った。

 ついていこうとしたら「コーラルは気にしなくていいから!」「ごめんね、コーラル……」と、二人に気を使われてしまった。

 

「……」

 

 地味に妹のようなミルリーフに気を使われたことが中々に響いて、ぼんやりと町を歩いていた。

 

 妹と言えば、もう一人いるはずなのだ。

 

 ミルリーフと分かたれた双子、クラウレの手の内に居るはずのもう一匹の竜の子。

 まだ見ぬ存在に、心の奥がざわめく。

 

「ボクが一番年上なんだから、面倒見ないと……」

 

 コーラルは意外と世話好きだった。

 

「おい」

 

 ミルリーフとまだ見ぬ末っ子を甘かやす想像し、心がぽかぽかしていると声をかけられる。

 

「どうした一人で」

 

「あら、コーラルじゃありませんの」

 

 翼を持つ亜人に幼い天使、アロエリとリビエルだ。

 

「二人こそ……、珍しい」

 

 この二人がいるということは……。

 

「もしかして……」

 

「うむ、無論我も居るぞ」

 

 やっぱり、と二人の後に現れたセイロンに手を振る。

 

「ミルリーフなら、フェアと宿に戻った……かと」

 

「ずいぶんと早いな、てっきりフェアと町を見て回るかと思っていたんだが」

 

 あれ、外した。

 御使いが三人ともいるなら、ミルリーフの事だと思ったのに。

 

「……ミルリーフを探してたんじゃないの?」

 

「えっ、えぇ〜と、そう! ちょっとした用事ですわ!」

 

 私誤魔化していますよ、と顔に書いてある天使を無視してセイロンが口を開く。

 

「防衛の為、この町を見て回らねばならぬのだよ」

 

「ちょっとセイロン!?」

 

 ああ、とコーラルは納得した。

 

 元の世界では、遺産が三つ揃って結界を張る事が出来たが現状は不可能。

 ならば、町を把握し敵の行動を予測できるようにしようと考えたのだろう。

 

「……手伝う?」

 

 そうなると無関係ではないため、町に明るい自分も同行しようと申し出たが。

 

「いくらなんでも非常識ですわよ! こんな子供に戦いの話なんて!」

 

「そうか? 子供であろうと宿にいる以上知るべき事だと思うが」

 

「アロエリまで……、コーラル貴方は気にしなくて大丈夫ですからね?」

 

「……」

 

 こちらの事情を知っているセイロン、戦いが身近にあった戦士アロエリは気にしないが、

 知を司る天使のリビエルには幼子を血なまぐさい話に関わらせるのに抵抗があるのだろう。

 

「ほら、二人共行きますわよっ!」

 

「お、押すなリビエルっ!?」

 

「はっはっは、ではまた後ほど」

 

 天使に無理やり連れて行かれる二人へ手を振る。

 

「そうか、お父さんがいるから……」

 

 よく考えたら、セイロンまでも宿屋を離れるのはあまりにも無防備だ。

 現に前の世界では必要以上の外出は控えていたはず、御使いが三人で町を歩けるのはライとコーラルへの信頼の現れなんだろう。

 

「うん、頼られるって……悪くない」

 

 昔のセイロンに頼られる事が少し嬉しくなったが、

 再び暇を持て余し、どうするかと悩んでいるとある音が聞こえて来た。

 

「あ……」

 

 楽器が奏でる独特の音色を聞き間違えるはずはない、コーラルは音の鳴る方へと駆け出した。

 この音の先に、心強い友の心当たりがあるから。

 

 路地を駆け抜けていき、最短で噴水のある広場へとたどり着く。

 音色に魅了された人々が集まって彼を囲んでいる。

 

 コーラルは小柄な身を生かして人々の間をすり抜けていく、そうして噴水の前に座り三味線を奏でるシルターン風の装いをした男へとたどり着いた。

 

「……やっぱり!」

 

 流れの吟遊詩人をしている鬼妖界からの召喚獣シンゲン、食事を目当てにライの仲間となったが、

 損得勘定抜きに仲間のことを考える頼もしい侍だ。

 

 だがその欠点は。

 

「はぁぁぁ──ーん♪ おぉさとぉのぉぉぉ──ー」

 

 予め耳を抑えて備えていたコーラル以外の客が一斉に散り散りになる。

 

「あれ、あれれ? どうして皆さん散り散りに!?」

 

「……歌が問題、かと」

 

「がーんっ! うぅ、それは非常に手厳しいぃ……」

 

 狼狽えるシンゲンに冷静に指摘する、思えば未来でもこの音の外れた歌は健在だ。

 

「演奏は良かった……好きだよ、三味線」

 

「おや、三味線をご存知とはお客さん通ですねぇ」

 

「……ん、少しなら弾ける」

 

 あっちの世界ではシルターン自治区に繋がりができたシンゲンに無理を言って、三味線を一つ貰い受けた。

 宿が閉まってから屋根の上で演奏するのが、ライにも内緒の密かな楽しみになったほど気に入ってる。

 

「なんと、こちらの世界で三味線奏者と出会えるとは、人生分からないものですなぁ」

 

 心底驚いたと言わんばかりに弦を軽く響かせ、急にごますりを始める。

 

「それで一つ、聞いていただけたならこう……お代をですね?」

 

「あの歌で台無し……、無理」

 

「うぅ……返す言葉もなし……」

 

「……ご飯なら、いいけど」

 

 落ち込んでいたシンゲンが急に立ち上がる。

 

「代わりに、三味線を聞かせてほしい人がいる……いい?」

 

「ええ! ええ! お安い御用で!」

 

 三味線を背負い込み、せっせと身支度をする素早さは見習うべき所なのかもしれない。

 

「おお、そうでした。自分はシンゲン流しの弾き語りです。

 三味線をご存知のお客さんなら、出身は言わずとも?」

 

「……コーラル、よろしく」

 

 あの頃はわからなかったけど握手をするとよくわかる、剣術を磨き上げた侍の手だ。

 

「……そうだ、白いお米と漬物」

 

「さぁさぁ! 行きましょうお客人! このシンゲン、何処へでも弾き語りに行きましょうとも!」

 

 もあるよ、とコーラルに言わせることもなく。

 コーラルを担いで駆け出していった。

 

 言うんじゃなかったなぁ、と少し後悔するコーラルだった。

 

 ────────────────────────

 

「ほらよ、温めたミルクだ」

 

「「ありがとー……」」

 

 風邪を引くからと二人を風呂に押し込み、上がってきた二人に飲み物を出しながら経緯を聞いたライは呆れていた。

 

「ミルリーフはちゃんと周りを見なきゃ駄目」

 

「はぁーい……」

 

「フェアは……、いや特に言うことねぇか」

 

「何よ」

 

 まぁ、今日は休みみたいなものだし、

 風呂に入った二人にはのんびりしてもらおう……。

 

「お父さん、シルターンのお客さん!」

 

「フェア、ミルリーフ! ミントさんの所に行って漬物をとってこい!」

 

 その考えはシンゲンを連れてきたコーラルの乱入で吹っ飛んだ。

 

「つ、つけもの?」

 

 ライとコーラルの勢いに、新しいお客さんと一気に動く話にフェアとミルリーフはついていけない。

 

「オレのだって言えばわかる、コーラルは米任せた!」

 

「うん!」

 

 シンゲンを席に案内すると厨房へ飛んでいくコーラルとライ、その熱気に呆れながらフェアはミルリーフの手を握った。

 

「分かったわよ……、じゃあ行ってくるね」

 

「パパとコーラル、何だかすごく張り切ってる」

 

「気持ちはわからないでもないけど……、お客さんゆっくりしていってね」

 

「はい! 白いお米を頂けるのでしたらいつまでも待ちますとも!」

 

 ライは燃えていたリィンバウムの食事に不満を抱くこの時のシンゲンに仕込んでいた漬物、発酵、干物がどれだけ通用するか。

 

 コーラルは燃えていた、自身もシルターン料理が好みでよく研究もしている。

 これだけはライにも負けないと自負があるから。

 

「コーラル、わかってるな」

 

「うん、勿論」

 

「白飯に合うおかずを一つ、いや二つ。

 二品ずつでどっちの料理がシンゲンの好みかだ」

 

「了解、鬼妖界の料理なら……負けない」

 

 シンゲンを審査員とした、親子のシルターン料理対決の幕が切って落とされた。

 

「うまい! うまい!」

 

 その戦いは、白飯に合う物なら何でも好物となる審査員によって引き分けとされたが。

 




次は島の彼らの予定、成長後だとちょっとたくまし過ぎるあの二人。

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