サモンナイト4 本編後ライがフェア世界に逆行 作:ライフェア好き
展開に悩む間にいつの間にか一年が立っていました。
ランチタイムが終わり、昼に向けての仕込みも済んだ頃。
体を動かすついでに剣で薪を割っていた所に声をかけられた。
「やあライ殿、精が出るな」
「まぁな、こういう力仕事をフェアにやらせるのは気分よくねぇし」
自分の中でエリカと同じようについ妹扱いをしてしまう所があるのは自覚している。
それに女の子があまり筋肉つけるのも可哀想だと思うし、兄替わりとしての見栄がライを力仕事に駆り立てていた。
尤も、既にフェアが乙女というよりはおばさんくさい部分が多々あることに気がついていない。
「それでなんだよセイロン、御使いは出るんじゃなかったのか」
手を止め声の方へ向き直れば、外に出たがるミルリーフの護衛のために同行をしていたはずのセイロンが愉快そうに薪割りを見学していた。
「何、御子様にはコーラル殿が付いている。
ある意味最も信頼できる護衛というわけよ」
セイロンは一度咳払いをし、佇まいを愉快な客から御使いへと切り替える。
「人払いは済ませた、例の話を進めよう」
先日、セイロンに全てを話した夜から具体的な話は一度も行われることはなかった。
セイロンが一度考えを整理する時間が欲しい……そう答えあの夜は解散したからだ。
「フェアたちは夜の買い出し、御使いは護衛に出ていて、客人のシンゲンも弾き語りに出ている、か」
この宿唯一の正式な泊り客とも言えるシンゲンが出ているタイミングを選ぶ辺りセイロンの配慮が伺える。
「分かった、茶でも持ってこようか」
「いらぬさ、茶を片手に語る話でもない」
セイロンが木に背を預けるのに合わせ、ライは切り株に座って剣を地面に突き立てた。
「まずライ殿らのことに関してだが、やはり我の胸に留めよう」
これはコーラルと共に予想できた話だった。
証明するに足る理由も証拠もない以上、こちらから未来から来ましたなんて言えるわけもない。
「けどクラウレや先の事も伏せるのか。別に話したって……」
「ならぬ、リビエルは未熟ゆえ。アロエリはクラウレにまつわる話で抑えが効かなくなるやもしれぬ」
リビエルが情緒不安定になり、アロエリが暴走するのは想像しやすい、というよりも一度見た光景だ。
「両者共腹芸が期待出来ぬ正直者、戦力で劣る我らにとってそなたの情報こそが最も隠すべき武器よ」
それに、とセイロンは扇子を広げ口元を隠す。
「万が一クラウレが裏切ってなければあやつに丸投げするには尚更明かすわけにも行くまい」
あっはっはと高らかに笑い飛ばすがその瞳は冷え切っているように見える。
ひとしきり笑い飛ばしたのちセイロンは姿勢を正して仕切り直した。
「さてこちらが本題になるが、情報の確度を確認したいのだよ。
ライ殿の経験を改めて聞かせてほしい」
「別にいいけどこの間話したばっかりだろ?」
「あの時は冷静に聞くことが出来なかったものでな、こちらに来てからも含めライ殿の行動を把握したい」
それなら、とライはゆっくりと語っていく。
コーラルや仲間たちと共に歩んだギアンとの戦い。
戦いを終えたあと、どのような生活を送り、なぜこの世界へとやってきたか。
そして、この世界に来た後に何をしたか……。
「動きに不審な点は多かったが、よもやそこまで奴らと接触していようとは。
いや愉快愉快、事情を知る前ならば即座に敵とみなすほどだ」
ひとしきり話を聞き終えたセイロンの冗談が全く冗談に聞こえない。
「交渉の場を無理矢理にでも整えたのはいいかもしれぬが、御子殿以外で交渉の場に出せる札はあるのか?」
「ある、これもエニシアの願いとギアンの表向きの理由が変わってなけりゃな」
ライは上着の中から今はペンダントにしている腕輪を取り出した。
「浮遊城ラウスブルク、その操縦に必要なのは飲まず食わずでぶっ続けで操縦できる至竜や古き妖精のみ。
エニシアだけなら片道で力尽きるが、半妖精同士でオレが手伝えばなんとかなる」
ついでに操縦経験もある、今この世界で城にライとコーラルより精通している者は居ないだろう。
「これでエニシアの願いを叶え、なおかつエニシアが死なない事を目的としている軍団は説得できる」
敵は大まかに2つのグループで分ける事ができる。
剣の軍団、鋼の軍団、獣の軍団の長に慕われているエニシア。
無色の派閥、紅き手袋を自由に使えるギアン・クラストフ。
エニシアがギアンと共にいるのは絆があるから。
しかしギアンはエニシアを騙し、軍団をも騙している。
それが発覚した前回はすぐにエニシアの身柄を盾に脅迫するような奴だ。
「逆に言えばギアンの手駒だってそんなに多いわけじゃない。
準備が整っていない早い段階でエニシアと和解する事ができれば……」
「確かに目はある、しかしライ殿」
ライの提案にセイロンは腕を組み。
「その前提条件として"ラウスブルクを使用する事"が含まれているのは御使いとしては了承しかねる」
「ぐっ……」
御使いとしてあまりにも当然の返し、
城を使う、使わないでこの戦いは起きている当たり前すぎる事実だ。
「だからこそ我は手を貸すことができぬ、御子殿と隠れ里を守る事柄において協力を惜しまないがそなた達の都合を優先させるのは不可能だな」
「……そうかよ、随分とありがたい事で」
言葉の裏に手は貸さないが止めもしない、消極的な協力を約束してくれるだけで十分だ。
「御使いの長の判断とはいえ、あっちもこっちも変わらないなぁセイロンは……。
この勢いで一度はシンゲンと殺し合い寸前まで行ったときはヒヤヒヤしたぜ」
「ほう、あの御人はただ者ではないと思っていたがそこまでか」
ギアンの策略により仲間を取るか守護竜を取るかで追い詰められたときがあった。
御使いとしての使命を曲げる訳にはいかないセイロン、仲間の命を守る為に鬼となる覚悟を決めたシンゲン。
達人同士の殺し合いは正直二度と見るのはゴメンだ。
「興味引く所そこかよ……とは言っても、もしも無事にギアンの計画を阻止したとして」
「その先の、白き怪物か」
ライとセイロンは困ったように肩を落とす。
未だに謎多き謎の怪物、手がかりは出現するであろう場所だけ。
一体何者か、目的は、どうやって皆がやられてしまったのか全てが謎に包まれている。
「考える材料としてはやはり、コーラル殿の知覚したという点だろう。
そちらの世界では至竜となっているコーラル殿へ伝えられるほどの存在……」
「界の意志……かもしれぬな」
セイロンが神妙な面持ちで呟くように言葉を零したが、
ライはそこまで深く考えているわけでも無かった。
「別にオレはそういうのどうでもいいんだけどな、
オレは雇われ店主……こっちじゃシェフでコーラルの父親ってだけで十分だよ」
面倒臭い話しは終わり終わり、とライが立ち上がり背筋を伸ばす。
「そろそろ夜の仕込みをしないと行けない時間だ、悪いけどこういう話しはコーラルを混ぜてまた今度な」
「これはすまない、我も思っていたより溜め込んでいたようだ……おや?」
互いに先へと向けた確認は終わり、
いつもの日常に戻ろうかという所に駆け足でフェアが現れる。
「あっ、いたライ。それにセイロンもちょっと手伝って!」
「どうしたんだ、そんなに急いで」
「お客さん! それも……」
息を切らしながらもなんとか言葉を出そうとするフェアの後ろから、大男と青年が姿を現した。
「おっ、この雰囲気は鬼妖界のお仲間じゃねぇか?」
片や鬼妖界・シルターンの鬼。
「ちょっと、悪いよスバル。勝手に奥まで入っちゃ」
もう片方は幻獣界・メイトルパの獣人。
「……オレの時こんな事あったか?」
ライの知らぬ、フェアの世界にて巻き起こる新たな外伝が未来を紡いで行く。