ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 外典 作:ミストラル0
豊穣の女主人を出た八雲はダンジョンへと向かった。
何故ダンジョンかというと、ベルがベートの言葉でショックを受けたのは確かだが、その程度でベルが潰れるとは八雲は思っておらず、きっと早く強くなりたいとダンジョンへ向かったと予測したからだ。
案の定ベルはダンジョンにいた。幸いにもベルはまだ上層の浅いところまでしか潜れない上に今は戦闘を想定していない服装であるが故にあまり奥にはいけなかったのだ。それでもジャイアントトードやコボルトをボロボロになりながらも撃破する様子からアイズへの憧れとベートの言葉で奮起したと考えられる。
「………本当なら止めるところだが、ここで水を指すのは違うよな」
鉄は熱いうちに叩け、というように今のベルは気持ちが一番乗っている状態だ。だからこそ八雲はいざという時には助けに入れるようにしつつも気配を隠してベルを見守っていた。
すると、ベルを囲むようにウォーシャドウの群れがダンジョンから生み出される。
「ウォーシャドウか、今のベルにはちと荷が重そうだが………」
それでもベルはウォーシャドウの群れに挑む。とはいえ一度に複数を相手にするのではなく、立ち回りを上手くして可能な限り1対1になるようにウォーシャドウを誘導し、確実に一体一体を倒してゆく。
これはウォーシャドウが人型のモンスターであった事と、八雲との組手による対人戦闘能力が磨かれていた事が噛み合った結果でもある。
「まだまだ荒いとこはあるが、及第点ってとこかな?」
一方で、八雲はベルを背後から狙おうとしているウォーシャドウに向かって気配を隠したまま双銃を使って最大限まで手加減した魔力弾を撃ち込みウォーシャドウ達の邪魔をしてベルに気付かれないように援護をしていた。
しばらくしてベルは何とかウォーシャドウの群れを倒し終えるとその疲労からかその場に大の字になって倒れ込む。
「はぁ………はぁ………」
「お疲れさん。ほれ、ポーションでも飲んどけ」
「あ、ありがとうございます………って、師匠!?」
そんなベルに八雲がミアハ製のポーションの入った試験管を手渡すと、ベルは驚きの余り上半身だけではあるが飛び起きた。
「ど、どうしてここに!?」
「色々と理由はあるが、最大の理由は勘」
何処ぞのマッドサイエンティストのような事を言いつつも追加のポーションを渡す八雲。
「あっ!すみません!いきなりお店を飛び出したりなんかして!」
そこでベルは自分が豊穣の女主人を飛び出してダンジョンに直行した事を思い出し、八雲へ謝罪する。
「気にすんな。あの犬っころは俺が〆といたし、金はちゃんと払ってきてる。料理も食い切れなかった分は俺のスキルで保管してるからまた帰ったら皆で食おうぜ」
しかし、八雲はそんな事は気にはしておらず、いつもと同じ笑みをベルに向ける。
「し、師匠………」
「ん?」
「僕はもっと強くなりたいです」
そんな八雲にベルは今の気持ちを素直に吐き出した。
「あの狼人族の人に言われて思ったんです。憧れるだけじゃ駄目なんだって………あの人の隣に立ちたいなら強くならなくちゃって」
「そうか」
こうしてベルが強くなりたいと奮起させた事は八雲もベートを評価するが、それに至る経緯がアレなので何とも言えない。
「だから………もっと色んな事を教えて下さい!師匠には師匠のやる事があるのは重々承知ですが、僕には今頼れる人が師匠しかいないんです!」
「ったく、図々しいとわかってて頼むとかお前らしいな、“バカ弟子”」
「えっ?」
八雲は今までベルが師匠と呼ぶのを何かと突っぱねていたのだが、今何と言ったか。
“バカ弟子”、バカと付いてはいるが、八雲がベルを確かに“弟子”と呼んだのだ。
「とりあえず今日はある程度体力が回復したら帰るぞ。その後、しっかりと休息を取ったら今までの基礎的な事だけじゃなく本格的に色々鍛えてやるから覚悟しとけ」
「は、はいっ!」
その後、ベルの体力がある程度回復したところでダンジョンを出たが、既に日が昇り始めており、ホームの前では心配そうにベルの帰りを待っていたヘスティアとアフロディーテの姿があった。
色々と問い質したいヘスティアではあったが、ベルが疲労困憊であったため、その日は特に理由を訊かずベルを休ませるのであった。
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「それで、弟子って認めちゃったんだ?」
一方、一晩程度の徹夜など苦でもない八雲はアフロディーテと早朝の仕込みをしていた。
「ロキファミリアに逃した魚はデカイぞっていう嫌がらせもあるが………俺自身が無力だったあの時の辛さをベルにさせたくないだけなんだろうな」
「そっか、なら私からは何も言わないよ」
こうしてベルの弟子入りが決定した訳だが………
「で、ロキ達はどうするの?」
「客としてなら拒みはしないが、それ以外は当面スルーで」
「うわ、地味に効くやつだ、それ」
それと同時にロキファミリアへのささやかな嫌がらせも決定した。
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そのロキファミリアはと言うと………
「これは非常に不味いね」
「ベートもだが、せめてアイズが報告さえしていれば………」
「先日の遠征の補填が終わっておらんこのタイミングというのもな」
「ほんま最悪や………」
ロキファミリア3幹部とロキは八雲大暴露の影響を考え頭を抱えていた。
アイズの未報告も問題ではあるが、ベートのやらかした他のファミリアへの意図してはいないとはいえ【怪物贈呈】、しかも本来ならば5層にいてはいけないミノタウロスという10層は下のモンスターという危険極まりない行為を笑い話にするという悪手。更に言うならば、その【怪物贈呈】された本人がその場にいた事やそれがかつて門番の独断で門前払いされた少年であった事………そして最悪なのが八雲に知られ、彼の逆鱗に触れてしまった事だ。
「あやつの交友関係は広いからな………やろうと思えば数日でオラリオ全域に広まるじゃろうて」
「そうでなくとも豊穣の女主人であれだけ盛大に騒いだのだ。広まるのも時間の問題だろう」
「彼は椿や【
「【戦場の聖女】も命を軽視したとして対応が辛辣になるやもしれん」
「ミア母ちゃんの店も当面行けんやろうしなぁ」
尚、主犯たるベートは蓑虫にされて庭の木に吊るされる刑にされている。特に抵抗もなかったことから彼も必要な罰と納得しているのだろう。
「アイズたんも落ち込んでまっとるしなぁ」
「主にベートのせいとはいえ、アイズも責任を感じているのだろう」
「何とかして謝罪してイメージを払拭しなければロキファミリアの評判は地に落ちるだろうね」
物理的な損害であればまだトップファミリアの一角としての財力で立て直せたが、今回のような評判や信用、その他精神的なダメージは落ちれば回復が容易では無い事は数年前に学んでいる。
あの時はオラリオ全体の信用だったが、今回はロキファミリアオンリー………その危険性は3人と1神もよく理解している。
しかし、3人と1神はまだ理解していなかった。キレた八雲の本当の厄介さに………
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「数日留守にする?」
ベルが眠り、八雲達が仕込みを終わらせた頃にヘスティアは八雲とアフロディーテの元を訪れた。
「ああ、ちょっとヘファイストスに用があってね。明日のガネーシャのパーティーに出て彼女に会ってこようかと」
「それが何で数日留守に繋がるんだ?」
「………実はヘファイストスにベル君の武器を頼もうと思ってるんだ」
ヘスティア曰く、強くなりたいと願うベルの後押しがしたいそうで、自分が唯一してあげられるのはヘファイストスへの伝手を利用して武器を作ってもらう事くらいしかないのだという。
「一応言っておくが、今ベルが持ってる双剣は鉄しか使われてないとはいえヘファイストスファミリアの団長の作だぞ?それでも不満か?」
「不満という訳じゃないけど、ボクだってベル君の役に立ちたいんだよ」
実を言うと八雲は双剣以外にも投擲用のダガー等もベルに譲ってはいるのだが、「これ以上師匠から貰ってばかりじゃダメになってしまいますから!」と他の物は遠慮してしまっており、またいつまでも八雲のお古を渡す訳にはいかないとは思っていたため、ヘスティアからのプレゼントとなれば受け取るであろうと予測できる。
「でも、そんなヴァリスあるのか?」
「うっ………そこはローンにしてもらうなりして」
「はぁ………これを持っていってくれ」
そう言って八雲が【宝物庫】から取り出したのはズッシリと金貨の詰まった袋であった。
「こ、これは?」
「ローンの頭金ぐらいにはなるだろ?」
「で、でも………」
「弟子にするって宣言したんだ。師匠から弟子への餞別みたいなもんさ」
「うぅ………ありがとう!八雲君!」
「パーティーには私も一緒に行ってあげるわ。ヘスティアだけだとちょっと心配だし」
「いいのかい?君とヘファイストスって色々アレだったろ?」
「別に嫌いだから別れた訳じゃないけど、こんな機会でも無いとあの子私に会いたがらないじゃない?」
どうも以前に八雲が聞いた通り神話とは微妙にアフロディーテとヘファイストスの関係は異なるようだ。
「ほんと、何したんだよ………」
「別れようって言い出したのはヘファちゃんよ?ああ見えて彼女純朴だもの」
「あ〜、なるほどな」
つまり、いくら方法はあると言えど女神同士というのに抵抗があったようだ。
「私は気にしないって言ったんだけどね」
「いや、気にしろよ!」
「八雲君、アフロディーテにそれを言っても無駄さ」
「あっ、そもそもコイツつまみ食いとか言って他の神とやるようなやつだった!」
結局、交渉の結果はどうあれ【怪物祭】ぐらいには一度戻る事を約束して留守の間ベルの面倒を見る事となった。
ベル君、正式に弟子になる
ロキファミリア、地味にピンチ
ヘスティア、お休みをもらう
の3本でした。
次回はベル君の特訓と夜会の辺りのお話になるかと思います