ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 外典 作:ミストラル0
久しぶりに長文となりましたが、御容赦下さい。
ベルを正式に弟子と認めた翌朝。八雲とベルはオラリオ外周部にある外壁の上にいた。
「はぁ………はぁ………」
「やっぱ最初はこんなもんか」
ユーリヤの時と同様にまずは外壁の上での早朝マラソンに始まり、筋トレ等の基礎トレーニングを課している。
オラリオの冒険者は恩恵を重要視する傾向にあり、ステータスを強化するべくダンジョンでモンスターを倒す事が強くなる最短ルートだと思っている者が多い。
恩恵は確かにステータスという目に視える形で冒険者を強くする。しかし、それはあくまで“力”であり、それを本当の意味で活かすには“技術”が必要になる。
例えば筋力のステータスがいくら高かろうとそれを振るうのが素人剣術であれば簡単に見切られ当たらない、もしくは当たっても無駄なところに力が入って十分な威力にはならない。
また恩恵は数値の強化にすぎず、ちゃんと鍛えていなければステータス故の無茶な動きに身体がついていけず怪我の要因になるんだとか。
更に言えばそういった恩恵のみを重視する者は上手くいってもレベル2か3で頭打ちになってしまうのだ。
「さて、次いくぞ、ベル」
「は、はい!」
基礎トレーニングの次は双剣同士での模擬戦。八雲の使う双剣には刃の部分に専用のカバーを装着して斬れないようにしたものでベルのはそのままの抜身の双剣だが、レベル1のベルに傷付けられる程レベル4という壁は薄くはなく、何度も直撃を食らいつつも必死に八雲の双剣技や合間に繰り出される体術を真似ようと倒れては回復薬を飲んでは立ち上がる。
「も、もう一度お願いします!」
「いつでも来い」
特訓の後は店に戻って汗を拭い朝食を食べ、ダンジョンで実地訓練。ゴブリン相手に徒手空拳で挑ませたり、あえて粗悪品の双剣を使わせてみたり、3分間反撃を禁止してから倒させたり、と普通の冒険者ならやらないであろう内容ばかり。途中、通りすがった冒険者に笑われもしたが、それでもベルは何一つ不満を口にせず八雲に言われた内容を淡々とこなしていく。
「よし、休憩だ」
「は、はい………」
「どうだ、キツイか?」
「………はい」
「笑われたのが悔しいか?」
「はい」
「なら安心しろ、アレを笑っていられるような奴等なんぞすぐに追い越せる」
「え?」
「あの特訓を笑ってるって事はその意味を理解出来てねぇって事だ。それにアイツ等は万年レベル1か2止まりの連中だ。数ヶ月後が楽しみだぜ」
「………師匠、性格悪いって言われません?」
「俺の兄貴や親友はもっと悪辣だったからなぁ………俺はオラリオに来るまではそこまで言われた事ねぇな」
「(オラリオに来てからは言われたんだ………)師匠のお兄さんとその親友さんはどんな事を?」
「ん?兄貴は昔、顔面にカエル張り付けたガキ大将を素っ裸にして真っ赤なペンキで染めてから公衆の面前に吊るすって仕返ししてたな」
「うわぁ………」
「親友は遊び場を占拠してたグループの親に学校、学校ってのは同じ年代の子供集めて学問を教えてる施設な、そこでの成績をチクってそのグループが遊んでる暇無くして占拠できなくしたりしてたな」
「………」
そんな八雲の兄と親友の所業を聞いてドン引きするベル。
「さて、弁当食ったら少し下にいくぞ」
「下、ですか?」
「ベルの修行と小遣い稼ぎに丁度良いモンスターがいるからな」
そう告げる八雲にベルは嫌な予感を感じた。
そして、それは大当たりであった。
「し、師匠ぉ………この数は無理ですって!?」
「安心しろ、対応できない数は俺がちゃんと間引くから」
「全然安心出来ませんって!」
2人がやってきたのは第7層。そこで八雲がやったのはキラーアントを1匹満身創痍にして他のキラーアントを呼ばせるという故意に怪物贈呈を行う際の定番の方法でモンスターを集めるという行為。その集まったキラーアントの一部をベルに向かわせ、ベルに対応出来ない数は八雲が間引くというえげつないものだった。
「あー!もうこうなったらやってやる!」
事前に聞かされていたキラーアントの特徴を思い出し、堅い甲殻を避け的確に首関節の隙間にナイフを突き刺し、そのままナイフを隙間に沿って動かし首を切断。そして残った頭部を別のキラーアントに投げつけ隙を作ると別のキラーアントに飛びついて首を切断していく。
キラーアントへの定石は如何に後続を呼ばせず素早く仕留めるかにあり、ベルが選んだのは師である八雲と同じ素早く首を狩る方法だった。
「うんうん、ちゃんとキラーアントの特性は把握しているようで何より」
だが、八雲が適度なタイミングでわざとキラーアントの増援を呼ばせるためベルはずっと連戦を強いられる。そうしてベルは1時間もの間キラーアントと戦い続ける事となった。
「うん、大漁大漁」
「ぜぇ………ぜぇ………スパルタ過ぎる、この師匠………」
キラーアントのおかわりが途絶えると2人の周りには大量の魔石とドロップアイテムが転がっていた。
普通なら複数人のサポーターを必要とする数ではあるが、この場にはサポーター泣かせの規格外スキルである【宝物庫】を持つ八雲がいる。集めた魔石とドロップは全て八雲の【宝物庫】へと消え、残されたのはグッタリとしたベルと八雲の2人だけである。
「ところで、この修行にはどんな意味が?」
息が整い始めた頃、ベルはふと気になっていた事を訊ねる。八雲の事なので意味が無い事はさせないというベルなりの信頼の表れではあるが、このキラーアントデスマーチは流石に疑念が浮かんだようだ。
「ダンジョンはいつも理不尽なもんさ。常にこちらが万全で状態で戦えるとは限らないし、入った小部屋がモンスターハウスでしたなんてのもザラだ。特にこのキラーアントなんて対処をミスったらレベル2でも囲まれてご臨終なんて事もある」
それを意図的に発生させ、弟子に体験させるとかいう鬼がここにいます。
「他にも引き連れたモンスターを擦り付ける【怪物贈呈】やモンスターを意図的に集める道具なんてのを使って他の冒険者を始末するような最低な連中もいる。そうなってもある程度は対処出来る連戦能力を身につけさせるのが今回の目的だ」
「師匠はそういう経験があるんですか?」
「………ああ、それで大切な仲間を殺された」
「す、すみません!」
「もう何年も前の話だし、相手にはキッチリ落とし前はつけた。だからベルが気にする事じゃねぇよ」
そうは言うが、その時の八雲の顔はどこか暗い影が感じられた。
「さて、こんだけ狩れば少しは豪華な飯も食えるだろ」
「あっ、そういえば今日は神様達がいないんでしたね」
「アフロディーテは付き添いだから夜会終われば帰ってくるだろうけど、ヘスティア様はしばらく帰って来ないらしいからな。今日は豊穣の女主人でパーっとやろうぜ」
「………もしかして、このキラーアント狩り、そのための資金集めだったんじゃ」
修行としての目的も嘘では無いのであろうが、主の目的はこの資金集めだったのでは?とベルは思わずにはいられないのであった。
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その夜。ガネーシャファミリアのホーム【アイアム・ガネーシャ】にてガネーシャ主催の夜会が開かれていた。
その目的は間近に迫った【怪物祭】への協力を募るものではあるが、ほとんどの神は他の神とどんちゃん騒ぎしたり、情報交換の場として参加している者である。
ヘスティアもこの夜会に参加するであろうヘファイストスへ接触するのが目的であり、アフロディーテもその付き添いだ。
「でも、良かったのかい?ボクにこんなドレスまで用意してもらって」
「流石に私が同伴するのにドレスの一つも身に着けさせてなかったら恥ずかしいでしょ?」
「それはそうだけれども………」
「それにドレスを着てる方がちゃんとやってますってへファちゃんにアピールできるでしょ?」
「うぅ………そこまで考えてくれてたなんて………」
「まあ、これも全部八雲からの指示なんだけどね」
「………うん、彼らしいね」
この数ヶ月で八雲のやり方を嫌と言う程見てきたヘスティアは納得する。
「あら?そこにいるのはヘスティア………とアフロディーテ」
そこへ探し人ならぬ探し神であるヘファイストスがやってきたが、ヘスティアはともかくアフロディーテが一緒にいたのは想定外だったらしく、少し苦い顔をしていた。
「ヘファイストス!」
「おひさ〜、ヘファちゃん」
「何でアンタ達がここにいるのよ?」
「ヘスティアが貴女に用があるって言うから付き添いで来たのよ。私、ガネーシャとも懇意にしてるし、私も久しぶりにヘファちゃんに会いたかったんだから」
「椿から貴女の眷属の事は聞いてたけど、相変わらずみたいね………で、用って何よ、ヘスティア。お金ならもう貸さないわよ?」
「うぐっ………確かにヘファイストスには色々迷惑を掛けたけど、今回はお金の無心に来たんじゃないんだ」
そうやってヘファイストスに目的を伝えようとしたところで会場が騒がしくなる。
「あれは、フレイヤだ」
「珍しいな、フレイヤが夜会に来るなんて」
様々な神が騒ぐ中、フレイヤは真っ直ぐヘスティア達の元へとやってきた。
「こんばんは、ヘスティア、ヘファイストス、それにアフロディーテ」
「久しぶりね、フレイヤ。天界にいた時より綺麗になってるけど、何かいい事でもあったの?」
「ええ、色々と」
アフロディーテとフレイヤ。この2神は同じ金星の女神であり、同じ美を司る女神でもある。その2ショットとなれば多くの神が美に魅入られてしまう。もう1神イシュタルという同じ属性の女神がいるのだが、イシュタルはアフロディーテやフレイヤを敵視しており、そのせいかこの2神の仲は悪くはない。
「うぅ………」
しかし、そんなフレイヤをヘスティアは苦手としていた。
「お邪魔だったかしら、ヘスティア?」
「そんなことはないけど………ボクは君のこと、苦手なんだ」
「うふふ。貴女のそういうところ、私は好きよ?」
美の女神は総じて一筋縄ではいかない性格をしており、一応親族筋に当たるアフロディーテはまだマシに感じてはいるが、ヘスティアからしたらフレイヤ等はあまり関わりになりたくない女神なのだ。
そんな事を考えていると、そこへもう1神やってくる。
「お〜い!ファーイたーん、フレイヤー、ディーたーん、ドチビー!!」
それは細見のドレスに髪を夜会巻きしたロキであった。
「あら、ロキじゃない」
「久しぶりね、ロキ」
ロキに返事を返すフレイヤとヘファイストスに対し、ヘスティアとアフロディーテは何故か返事もせず視線すら向けない。
「ヘスティア?どうしたのよ、いつもならロキに食ってかかる貴女が………それにアフロディーテまで」
「別に〜、何でも無いよ、ヘファイストス」
「そうね」
ヘファイストスが心配して声を掛けるも2神の態度は素っ気ないものだ。対してロキは苦い顔である。
「ロキ、何やらかしたのよ?ヘスティアはともかくアフロディーテまでこんな態度を取るなんて只事じゃないわよ?」
「………うぅ、実はちょいと前に不幸な事故があってな」
「へぇ〜、君はアレを不幸な事故で片付けようってのかい?」
そこでようやくヘスティアがロキに口をきいたかと思えば酷く辛辣な言葉を投げつける。
「うっ………」
「そういえば、この前西地区の酒場でロキファミリアと別のファミリアが騒ぎになったって聞いたわね」
「うぐっ………」
更に訳知り顔でフレイヤがそう告げればロキの顔が青くなる。
豊穣の女主人の店主のミアは今では冒険者を引退しているものの、フレイヤファミリアに所属しており、何らかのルートで情報が回っていても何らおかしくない。故に事態を知らぬのはヘファイストスだけなのだ。
「ロキファミリアと騒ぎを起こすなんてヘスティアでも無謀じゃない?」
「いや、ロキファミリアに食ってかかったのはアフロディーテのとこの八雲君だよ」
「八雲ってあの八雲?」
「そうよ」
ヘファイストスも椿と何やら色々やらかしている八雲の事はよく知っており、そんな八雲がロキファミリアに食ってかかったと聞いて驚いていた。
「何でまたそんな事になったのよ」
「いや、それがやな………」
「八雲君とウチのベル君は仲が良くてね、偶々豊穣の女主人に食事に行ったところでロキのファミリアと出くわしたのさ」
「そこでロキのとこのやんちゃしてたワンコがベルの事を馬鹿にして八雲がブチギレたのよ」
「あの八雲がキレるって何を言ったのよ………」
「遠征帰りに遭遇したミノタウロスを5層まで取り逃がして、そのミノタウロスと遭遇してしまったベル君を笑い話にしたのさ」
「………ロキ、これはアンタが悪いわよ」
これには流石のヘファイストスも呆れ顔である。
「せやから謝ろうと思ってドチビとディーたんを探しとったんやん」
「それが謝る神の態度かい?ロキ」
「ヘスティアをドチビ呼びなんて誠意を感じないわ、出直してらっしゃい」
すかさず追撃を入れるヘスティアとアフロディーテにヘファイストスとフレイヤは2神が今回の件をどれだけ重くみているのか察しロキを憐れむ。
更にわざわざヘスティアとアフロディーテが事情を説明したが故にフレイヤとアフロディーテの2神に注目していた他の神々にも事情が知られてしまうというエゲツない所業にロキは細めた目から涙が滲んでいる。
「うわぁああああん!!」
そして、ロキはとうとう泣き出して走り去っていった。
「ふん、思い知ったか!」
「あのロキの泣き顔が見られるなんて運がいいわね」
「あ、アンタ達、今の全部計算してやってたの!?」
「ああ、と言っても八雲君の案だけどね」
「アレだけの事をしといて反省の色が見えない対応ならこうしてってお願いされてね」
それぞれたった一人しか眷属のいない零細ファミリア2つにトップファミリアの一角であるロキが口でボコボコにされる様を見て他の神々は背筋が凍る感覚に襲われていた。
「やっべー………アフロディーテの眷属ってあの【首狩り族】だろ?」
「今は【単眼鬼の武器庫】だっけ?どのみちにしろあのロキをあそこまでやっちまうとかやっべー奴過ぎる………」
「しかもロリ巨乳の眷属とも仲良いとか………うん、ウチの眷属達にも気を付けるよう言わねぇと」
こうしてロキへの意趣返しのついでに他の神々にも釘を刺すヘスティアとアフロディーテ。
「ふふ、それじゃあ私もこれで失礼するわね」
「あら、もういいの?」
「ええ、確認したい事があったのだけれど、もう聞けたし」
「そう」
「………それに、ここにいる男はみんな食べ飽きちゃったもの」
そうフレイヤが告げると周りの男神達は揃って項垂れる。
「相変わらずお盛んね」
「そういう貴女はどうなの?」
「今は他にやりたい事が出来たから当面はいいわね………貴女が食べ飽きたっていうならその程度でしょうし」
そこへ更にアフロディーテは追撃を入れる。
「君達、やっぱり“美の神”だよ………」
そんなフレイヤとアフロディーテに呆れたとばかりにゲンナリするヘスティア。
フレイヤはその後軽く挨拶をすると夜会を去っていった。
「ほんと嵐のようだったわね」
「ほんとにね」
「ところでさっきは何か言いかけてたみたいだけど」
「そうだった!ヘファイストス!君にベル君の武器を作って欲しいんだよ!」
ここにきてようやくヘスティアは夜会に来た目的を告げる事が出来た。
「武器って………ヘスティア、ウチの武器がどれだけするかわかってる?」
「わかってるよ!だからこれを頭金にローンでお願いしたいんだ!」
そう言ってヘスティアは八雲から預かった袋をヘファイストスに手渡す。
「ちょっと!?こんな大金どうやって用意したのよ!?アンタのとこじゃ到底用意出来る金額じゃないわよ、これ」
そのヘスティアから出てくるとは思えない大金にヘファイストスはその出処を問う。その答えはアフロディーテから返ってきた。
「あっ、それは八雲の蓄えからだよ。ベルが八雲に弟子入りしたからその餞別にって」
「だから貴女が一緒だったのね………あ〜もう!わかったわよ!但し、ローンだなんて今回限りだからね!」
「やった〜!やったよアフロディーテ!」
「良かったわね、ヘスティア」
流石に無一文で頼みに来られたら直ぐには頷けなかったが、ここまでの金を積まれて無碍には出来ないとヘファイストスが折れる事となり、ローンはヘファイストスファミリアの店で週3で働く事で返済していく事、それからヘスティア自身も作成を手伝う事を条件としベルの武器を作ってもらえる事となった。
また、今回はヘスティアとヘファイストスの個人的な用件という事でヘファイストスが鎚を振るうという事になり、ヘスティアが更に喜ぶ事になった。
「上手くお願いは出来たけど………ヘファちゃんが鎚を振るってヘスティアが手伝うって………これまたとんでもないのが出来そうね」
鍛治神と窯の神のコラボレーションというさり気にとんでもない事態になっているが、ヘスティアはおろかヘファイストスすらそれに気付いた様子は無い。
その武器がこれまた一騒動起こす切っ掛けになるとはこの時は誰も想像もしてはいなかった。
ベル君はブートキャンプに放り込まれました。
シルバーパック戦時のステータスの伸びがヤバそう………
一方で、神の宴はこっちもこっちで色々とんでもない事に………
ロキ、完全に出だしで躓きました。