ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 外典   作:ミストラル0

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仕事が少し忙しくなったのと個人的な事情で執筆遅れ気味ですが、書けたので投稿です。


六十一話 憤怒と死闘

リディナの案内でベル達の元へ急ぐ八雲達だったが、その途中で彼らの前に立ちはだかる者がいた。

 

「【猛者】………」

 

そう、現オラリオ最強の男・オッタルである。

しかも、本人は個人な理由でロキファミリアに喧嘩を吹っ掛けたと言っているが、彼らをこの先に進ませたくないのが丸わかりである。

 

「すまないが今は………八雲?」

 

それでも先に進もうとフィンは自分とガレスが残りアイズらを先に進ませようとしたのだが、八雲の様子がおかしい事に気付く。

 

「………フザケンナッ」

 

「や、八雲!?」

 

そう八雲は怒っていた。

前回………怪物祭での魔物の脱走、あのときは我慢していた八雲が今回の所業にとうとうキレたのだ。

その証拠に八雲の全身を覆うようにおかしな紅い紋様が浮かび上がっている。

その紋様がおかしいのは身体の体表ではなくそこから少し浮いたところに現れており、その一部は体表を沿わずに角のように突き出したりしている点だ。

 

「ぬ………」

 

それが何を示しているのかを知るオッタルは珍しく表情を歪ませる。

よく知っているが故に今のこの状況でそれを使わせるのはマズイと察しているからだ。

ロキファミリアの面々もかつて豊穣の女主人にて起こったトマト事件の時に感じたもの以上の“死という概念を圧縮したかのような何か”を感じ取り、レフィーヤは以前見た大鎌【死ヲ刻ム影】を連想する。

 

「………仕方あるまい、ここは退くとしよう」

 

オッタルは自身の本能とフレイヤが「八雲の奥の手には注意するように」と警告されていた言葉に従いその場から退く。

 

「■■■■■ッ!!」

 

オッタルが去った後、八雲は残っていた理性で発動しかけたソレ(憑神)を抑え込み紋様を消す。

紋様は消えたが、無理矢理強制中断(キャンセル)したのは身体に負荷があったようで、大量の汗が噴き出している。

 

「だ、大丈夫!?」

 

「あ、ああ………これくらい少し休めば回復する」

 

「遠征には影響は無いんだね?」

 

「無い」

 

心配するティオナに対して八雲は大丈夫だと答えるが、隊を率いるフィンとしては確認しておかなければならない事があった。

 

「他の派閥だから詳しくは聞かないけど、アレが君の奥の手かい?」

 

「………ああ、とっておきではあるが、その分発動時のデメリットも重いからな。余程の事が無ければ使う気はねぇぞ?」

 

「【猛者】は知っていたようだけど?」

 

「そりゃあ見られてるからな………前に話した食人花の時に」

 

「なるほど………あの食人花を当時レベル1の君がどう乗り切ったのかは気になっていたけど、そういう事か」

 

「数レベル分を自己強化する類いのスキルか………確かにそうなれば相応の代償が発生するのも無理はないか」

 

「………それよりも今はベル達だろ?リディナ、大丈夫か?」

 

「あっ、はい」

 

気付けばトップファミリア同士のぶつかり合いに巻き込まれ、八雲のヤバいオーラに当てられ何も言えずにいたリディナだったが、八雲が声をかけた事で再起動したかのように返事をする。

 

「皆は彼女と先行して行ってくれ。僕は八雲についていく」

 

「わかった」

 

「八雲も無理はしちゃ駄目だよ?」

 

先に進むアイズ達を見送るとフィンは八雲に手を貸し後を追う。

 

「で、今回の件はやはり神フレイヤの仕業かい?」

 

「………それを聞くのが残った本当の理由って訳か」

 

「うん。君の怒った理由が弟子の彼への女神の試練という名の怪物進呈………しかもこれが初めてという訳ではなく………あぁそうか、怪物祭の時の魔物の脱走もそのカモフラージュという訳か」

 

「察しが良すぎませんかね、この勇者………」

 

「こう見えても君より長生きだからね」

 

八雲の反応から自分の推論が正しいと判ったフィンは少し歩みを速めるのであった。

 

***********************

 

「はぁああああ!!」

 

「だりゃああああ!!」

 

一方、変異種のミノタウロスと戦い続けるベルとヴェルフは先程のような軽口を言う余裕もなくなり必死にミノタウロスに食らいついていた。

 

「ブモォオオオオ!!」

 

ミノタウロスの方もここまで食らいついてきたベルとヴェルフをこれまで殺してきた冒険者とは違うと認識し、敵と認めたようで攻撃の苛烈さが増していた。

ここまでベルとヴェルフが耐えられたのは二人の武器が不壊属性武器であるヘスティアナイフと八雲がくれた素材でヴェルフが打った大剣だからだ。

とはいえ変異種と言ってもよいこのミノタウロスを相手ではレベル1の二人も限界が近かった。

先に限界に達したのはパーティーの盾役を担っていたヴェルフ。

機動力型のベルと違い大剣という武器を扱うためどうしても回避より防御や受け流しとなりダメージや疲労が蓄積していたのだ。

ミノタウロスの大剣の一撃を受けそこね、手にしていた大剣を弾き飛ばされただけでなく、ヴェルフ自身もダンジョンの壁に叩きつけられてしまう。

 

「ヴェルフ!?」

 

そのことに一瞬動揺するベルだったが、直ぐにミノタウロスに視線を戻し警戒態勢をとる。

これも八雲との特訓で学んだ事で、八雲相手に視線を外し過ぎると容赦の無い不意打ちか追撃が飛んでくるからだ。

それがベルを救った。

ミノタウロスはヴェルフを既に攻撃対象としておらず、まだ身動きが出来るベルの方が脅威と認識したようで、ミノタウロスが元から有している強力な脚力を使いベルへと向かってくる。

 

「(あれは僕が受けるのは無理だ)」

 

体格、得物の差で圧倒的に不利のベルは受け流しも危険と判断して跳んで回避するが、ミノタウロスはその腕力で強引に振り下ろした大剣をベルへとアッパースイングで振るう。

それを見たベルは地面へとファイアボルトを放って反動で後ろへ転がって、ファイアボルトが地面を穿った際に弾けた礫がミノタウロスの視線を遮った事で追撃を封じつつ距離を取る事に成功する。

 

「(咄嗟に師匠の真似をして回避したけど、ファイアボルトじゃ威力が低すぎてあまり飛ばない)」

 

ファイアボルトの反動で跳ぶというのは八雲の真似ではあるが、現状のファイアボルトでは威力が足りずあまり飛べない。

今回は偶々何とかなったが、次も上手くいくとは限らない。

 

「(でも、ここで僕が頑張らなきゃ………)」

 

まだ意識を失ったままのヴェルフ、助けを呼びに行ってくれたリディナ、今もミノタウロスからの猛攻を凌いでくれるナイフを用意してくれたヘスティア、攻勢に出る為にナイフとは反対の手に握った脇差をくれたり鍛えてくれた師の八雲………多くの顔が浮かんでは消え、最後に浮かんだのは憧れの女性であるアイズ。

 

「(ミノタウロスで躓いていたらあの人には絶対に追いつけない!)」

 

ヴェルフ製のライトアーマーは所々破損しておりボロボロな状態なのにベルから発せられる気迫は今まで以上のもの。

ミノタウロスもそれを感じ取ったのかベルを見据える。

 

「うおぉおおおお!!」

「ブモォオオオオ!!」

 

お互いに叫び声をあげながら相手に向かっていった。

 

***********************

 

「ーーもう、師匠やアイズ=ヴァレンシュタインに助けられるわけにはいかないんだっ!!」

 

フィンの手を借りつつ現場に辿り着いた八雲の耳に飛び込んできたのはボロボロになり立っているのもキツイであろうベルの啖呵だった。

助けに入ったはずのアイズもそんなベルの気迫に驚く。

そこからのベルの戦いは凄まじかった。

まるで身体強化が掛けられたかの如くミノタウロスと打ち合い、体格の差は敏捷で、力には技術で、徐々にではあるが正しく死闘と言って良い戦いになっていた。

 

「ゾーンか………」

 

ゾーンとはスポーツ等で稀にある「極限状態から一つの物事に集中し、時間の経過が速くもしくは遅く感じたり、止まって見えたり、疲労を感じなくなったりする現象」の事。

おそらくベルはこのゾーンに突入しているのだろう。

不壊属性のヘスティアナイフを防御に、白閃を攻撃に使い分けミノタウロスに決して小さくない傷を刻んでいく。

それでも決定打にはならないとベルは悟ると白閃をしまい、あるものへと駆け出す。

 

「(ヴェルフ、借りるよ!)」

 

そう、ミノタウロスに弾き飛ばされたヴェルフの大剣だ。

幸いにも深く刺さっていなかったそれを引き抜くと、ベルは追い付いたミノタウロスが振るった大剣へと叩きつける。

ガインッ、と鈍い音をあげてぶつかった2本の大剣は、ベルの大剣の扱いが未熟な事もあって押し負けてしまう。

 

「あ〜!!あんな振り方じゃ駄目だよ!」

 

自身が大振りの双刃を使うティオナはそう指摘するも、それから数度打ち合うのを見て八雲とアイズ、あとは興味本位でついてきていた椿だけはベルが何を狙っているかを察する。

そして、何度目かの打ち合いでそれは起きた。

パキッ、と音を立ててミノタウロスが持つ大剣が折れたのだ。

 

「えっ!?何が起きたの!?」

 

「武器破壊………八雲、お主が教えたな?」

 

「見せただけだ」

 

無論、ベルの技量だけではなく、ミノタウロスの大剣がろくに整備されていなかった事と不壊属性のヘスティアナイフと打ち合った事などの理由から耐久値が落ちていたのもあってではあるが、最初の一撃以外はミノタウロスの攻撃に合わせて同じ箇所と執拗に打ち合わせた事でベルは武器破壊を成功させた。

その代償としてヴェルフの大剣も刃がボロボロになってしまってはいるが………

これにはミノタウロスも動揺を隠せない。

更に言えばこの階層には天然武器が無いのでミノタウロスは武器を補充する事が叶わない。

対してベルにはまだヘスティアナイフも白閃も残されている。

そんなミノタウロスにベルは残されていた投擲用のダガーを投げ反射的に防御体勢を取らせるとミノタウロスに左手を掲げファイアボルトの追撃を行う。

勿論ベルもダガーもファイアボルトも有効打にならないのは先刻承知。

全てはその次に放つ一撃を確実に放つ為の布石に過ぎない。

ファイアボルトを放った左手をそのままミノタウロスに向け、右手にヘスティアナイフを持って後ろに矢を引き絞るような構えを取るベル。

 

「その構えは………」

 

特訓の最終日に八雲が見せたものと変わらぬその構えを取ったベルはその技の名を叫ぶ。

 

奪命の一撃(ヴォーパルストライク)!!」

 

その敏捷値も相まって矢の如くミノタウロスに放たれた一撃はミノタウロスの胸を突き刺すが、胸の魔石には届かなかったようでミノタウロスは健在。

右腕を振り上げて反撃しようとするミノタウロスだったが、ベルの攻撃(ターン)はまだ終わりではなかった。

 

「ファイアボルト!」

 

なんと突き刺したヘスティアナイフを起点にファイアボルトを発動して内部からミノタウロスを焼いたのだ。

 

「ブモォオオオオオ!?!?」

 

これには堪らずミノタウロスも絶叫するが、まだ倒れてはいない。

ならばとベルは残った精神力の限りを尽くしてファイアボルトを連発する。

 

「ファイアボルト!ファイアボルト!ファイアボルト!ファイアボルトォ!!」

 

如何に強靭な肉体といえど内部焼かれては意味はなく、ヘスティアナイフの位置が魔石の近くであったせいで魔石も砕けてしまい、ミノタウロスは戦利品(ドロップアイテム)として赤黒く変色した角を残して灰となった。

ベルも精神疲弊によってその場に倒れてしまうが、勝者は間違いなくベルだった。

 

「………勝ちやがった」

 

「【道化の英雄(アルゴノゥト)】………」

 

レベル1のオラリオに来てまだ日の浅い少年が起こした大番狂わせ(ジャイアントキリング)にロキファミリアの面々は驚き、ティオナは大好きだった物語のミノタウロスと戦った英雄の名を口にしつつ、ベルへ興味を持つ。

 

「ベル様っ!」

 

倒れたベルに駆け寄るリディナを見て余韻から覚めた一行はベルとヴェルフ、それと戦利品の角にボロボロとなったヴェルフの大剣等を回収し、彼らの治療の為に一度地上へと戻るのであった。




微妙に展開が変わってはいますが、ミノタウロス討伐という大筋を変えないように書こうとしていたら中々納得がいく描写にならず、大変お待たせしてしまいました。

次回は早く書けるといいなぁ………
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