強キャラ系勇者と復讐系少女はコミュ障である。   作:金木桂

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コミュ障とコミュ障

 

 

「……分かった」

 

 弟子なんて初めて取る。

 何せ幼い頃から剣を握ってきたとは言え、18歳。まだまだ剣士としては修行の足りない年齢だ。

 鍛錬の時間を削ってまで弟子を取ろうだなんて思う若い剣士も殆どいないだろう。普通は老熟してから初めて募るものだ、こういうのは。

 

 しかし、少女の名前を聞いていなかったな。

 いつまでも勇者殺しと呼ぶのは些か面倒が残る。

 名前を聞かなきゃならないだろう。

 

「……お前は誰だ?」

 

 ……はぁ。

 分かってたよ。分かってましたよ。

 自分の口の不出来さに密かに苛立ってしまう。何でこう、強い語調になってしまうのか。

 少女は首を傾げて、言った。

 

「……私は私」

 

 え?哲学か何かか?

 普通そこは名前を返すところじゃないの?

 確かにお前はお前しかいないよ。認めてるよお前の存在は。でもそういう話じゃないんだ。

 

「それと……私は勇者を殺す勇者。勇者になったものを滅する勇者」

 

 続けて少女は言う。

 もう良く分かんない。お手上げです。白旗上げるから翻訳しろ誰か。

 よし、一旦匙を投げよう。この際名前はもう少女でいい。

 他にも師として聞くことはある。

 

「今までの食い扶持は?」

 

 このシビアな国では割と重要だった。

 師として、弟子がスリや窃盗などの犯罪で生きていたのならば修行の前に贖罪から始めなくてはならない。

 

「……山で適当に見つけたもの、食べてた」

 

「へ……?」

 

 納得出来たようで、出来ない。

 大丈夫なのか、それは。いやまあ知識さえあれば問題無いが。

 貴族みたいな可憐な顔立ちをしているからイマイチ想像出来ない。

 

「勇者、お腹空いてない?」

 

 懐を弄りながら少女は何かを取り出した。

 突然なんだ?

 空いてると言えば空いてるけど。

 

 少女が取り出したのは小さな青い果実だった。

 

「……くれるのか?」

 

 左手を腰に添え、右手で差し出しながらコクリと頷いた。

 復讐とか物騒な事を目的にしている女の子だが、根は優しいのかもしれない。

 俺は受け取ると、躊躇なく口入れる。

 うん、苦いのにじょりじょりしてて噛めば噛むほどそれがブヨブヨ感へと変化していく。

 

「……ホントに食べた」

 

 少女は目を大きくして、年相応に驚いたみたいにぽかーんと口を開ける。

 それも当然だ。

 

「不味いな……。初めて食ったが、食えるものじゃない」

 

 スヌギ。

 今俺が口で咀嚼する、毒の成分が含まれた実の名前だ。森の中で自生する木になる実で、普通の人間が食べれば8時間は燃えるような、締め付けられるような喉の痛みで苦しむことになる。

 これだけで死に至る事はない。だがこの少女もそれは承知の様子だった。

 もしここで俺が苦しむようなら、太腿にベルトで固定されていたナイフを左手で取り出し迷わず殺しにくるつもりだったのだろう。現に木の実を渡す時に左手は腰元に据えられていた。

 

 まあ耐毒の心得もある俺には無駄な小細工だ。

 その辺は師匠に殺されるほど食わされて鍛え上げられている。

 

「勇者……人間?」

 

「……俺は人間だ」

 

 ナイフをチラつかせながら疑うように首を傾げた少女に俺は断言する。

 決して魔物の類でも死霊の類でもないんだよなぁ。全部その辺りも死ぬほど辛い鍛錬の賜物で。

 

 そんなことよりこの少女、流れるように俺を殺そうとしてたよな?

 しかも毒まで態々使って。

 殺意係数高くない?ちょっと怖い。

 流石に師匠への仕打ちじゃないってコレ。

 

 指導しようと思い口を開く。

 

「殺すならば、相手を深く知れ。弱点を探れ。そして強くなれ。さもなければ俺を殺すなど不可能だ」

 

 ───ちょっと俺の口、何煽ってんの?

 これじゃあまるで俺が殺されたがってるみたいだろ。死にたくないんだけど。せめて彼女見つけて結婚して50年平和に暮してから死にたい。勇者だから平和に暮らすとか無いんだけど。落ち込む。

 

「……なるほど。分かった。次はもっと上手く殺す」

 

「それで良い」

 

 良くない!良くねえよアホ!

 今日ほど自分の会話力に殺意を抱いたことはない。

 完全に乗り気になっちゃってるからこの少女!

 どうすんの俺。どうしてくれんの俺……!

 

「勇者、強くなる方法。分からない……」

 

 少女はナイフを再び太腿に仕舞い込むと、少し落ち込んだ風に溢した。王城の外壁みたいに白い顔に影が落ちる。

 ……一旦、俺を殺そうとしているという事実は置いておこう。

 何だかんだ言っても、彼女は幼い。

 心構えなど出来ていない。自律心も完全に成っていなければ、剣と殺意さえ無ければ普通の村娘の少女だったに違いない。

 

「……お前には剣の才能が宿ってる。弛まぬ修練さえ熟せれば、確実に俺など簡単に超える」

 

「勇者を殺せるくらい?」

 

「数年やれば分かる」

 

「ならやる」

 

 少女は僅かな俊巡すら見せず即答した。

 師匠として俺に出来ることはそう多くは無い。

 彼女に教えれるのは剣と、剣士の心得。それに戦い方くらいだ。

 でも本当に必要なのはきっと彼女の心に真に寄り添える親役だ。復讐に囚われた少女に与えるべきは温かい心だ。だが俺にはそれが出来ない。

 

 俺は少女の決意を秘めた表情に、苦いものを噛みしめたような気分になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから、一週間経った。

 もう泊まってる宿にもう一つ部屋を取り、そこに少女を押し込んだ。出費は増える事になるが俺は勇者、金ならある。特段痛手でもない。

 少女の鍛錬の方は今は基礎的な物だ。短距離と長距離を交互に走せたり山道を走らせたり、終われば木刀の素振りをさせたり。俺はそれを監督しながら自分の鍛錬に励んでいた。

 少女はそんな地道な修行に文句を言わず打ち込んでいる。時折「絶対殺す」と呟いてるのは気になるが多分弱い自分のことだろう、うん。

 恐らくこれまでこう言った鍛錬はやってこなかったらしい。少女は鍛錬が終わればいつもブッ倒れて気絶してしまう。一応ギリギリ熟せる量に調整してるはずなのにだ。本当ならもうちょっとメニュー増やしたいんだが……と横で剣を振りながら思うが、この感じだと当分先の話になりそうだ。まあそのおかげで積極的に殺しに掛かってくる事はないから安心と言えば安心なんだが。

 

 そんな感じで、鍛錬の方は順調と言えるだろう。

 問題は、コミュニケーションの方だった。

 

「……勇者、どうしたの」

 

「気にするな、お前には関係ない話だ」

 

「……そう」

 

 宿のテーブルで向き合って朝食を摂りながら考える。

 俺は自他共に認めるコミュ障だ。だから言葉が詰まることも、足らないことも多くある。

 少女の方もこの数日で俺程には無いにせよコミュ障であることが分かった。言葉数は少ないし、基本自分の中で完結させるタイプだからか話が一気に飛躍する時もある。

 

 1人なら良い。

 2人共にコミュ障。

 これは流石に不味いのではと思う。

 

「……剣はいつやるの」

 

「今の鍛錬が身に染み付いたらだ」

 

「今が良い」

 

「無理だ」

 

 今こうして交わしている会話にだってすれ違いがあるかもしれない。

 由々しき問題だ。

 やはり、どうにかしてコミュ障を治さなくてはならない。

 いや、治す必要は無い。

 意思疎通さえ出来れば良いのか。

 

「今日は何する……聞いてるの」

 

「ああ。今日も同じだ」

 

「つまらない」

 

「だろうな。耐えろ。後食器で遊ぶのは止めろ」

 

 眼球に飛んできたフォークを親指と人差し指で受け止めながらパンを齧る。

 意思疎通の方法……か。

 難しい議題だが、一応。1つ思い付いたことがある。

 

「……いや。今日は趣向を変える。走らなくて良いぞ」

 

「言って正解。やる」

 

 少女は少し頬を緩めながら、何とかベーコンをスプーンで掬って食べる。

 弟子も乗り気なようだし、やってみる価値はあるな。

 

 

 

 

 

 

 

 普段から稽古場としている空き広場に来ると、早速少女に剣を渡した。

 

「……何をするの」

 

「乱取りだ」

 

「乱取り……?」

 

「剣で自由に攻めて来い。殺す気で良い」

 

 実践稽古みたいなものだ。

 互いに致命傷になる直前で剣を止めるまで打ち合い、切磋琢磨し合う。弟子同士で良くやったものだ。

 昔、師匠は剣を合わせれば自ずと相手の考えが読めると言っていたのを聞いたことがある。剣士が剣を交えること即ち会話であると。

 正直今も良くわからないが、一縷の希望を賭ける価値はある。多分。

 

「分かった」

 

 受け取った瞬間、少女は柄に両手を当て突きを繰り出した。

 危ないだろ!不意打ちとか人間のやることじゃないだろうが!

 

「……まだ甘いな。意識が俺の胴体に行き過ぎて、俺の足元を見ていない」

 

 それに何余裕でお喋りしてるんだ俺は!

 何とか足捌きで避けれたけど今の本気で危なかったんだからな!?分かれよな!?

 

「殺す」

 

 おどろおどろしいつぶやきと共に縦斬りが俺の真横で空を切る。そのまま袈裟斬りに繋げた少女に俺は剣を合わせ、冷徹に捌くと鍔迫り合いすることなく少女はそのまま後ろに退いた。

 

「熱に浮かれるな」

 

 仕切りに間合いを詰めて薙ぎ、不利になれば離れるを繰り返す少女に俺は感心する。

 明確な殺意を放ちながらも、自分が相手より力で劣っていることを良く理解している。鍔迫り合いは絶対に挑まず、不意を突くように攻め込んでくる。

 スタンスは固まってるようだ。非力の型と言うべきか。この年齢で誰の師事も得ず基軸となる動きを作っているのは素直に天才だと思う。

 だからこそ、惜しい。

 まだ体術も剣術も蕾の段階。

 それにこの戦い方では、上を目指せない。

 

「腰を引かすな。間合いを視ろ」

 

 斬撃を大きく避ける少女の行動を読んで一歩踏み込む。その踏み込みで地と平行に一閃。

 逃げられないと悟ったのだろう、少女は剣を盾にする。鈍い金属音が奏で上げられ、言葉にならない苦悶の声が少女の固く結ばれた口から溢れる。

 

 加減した力でも少女は対抗出来ずに剣を弾かれてしまう。そのまま俺は首元に剣を当てた。

 

「弾かれても剣を離さなかったのは上出来だ」

 

「もっ……かい!」

 

 少女は一旦距離を開けると、剣を構え直し、肉食動物のような鋭い目で俺の手先を凝視する。

 何度やっても無駄だ。これが何かの訓練になるかと言えば怪しい。だが、今日くらいは実践形式でも良いのかもしれない。

 少女は前傾姿勢から飛び出して、喉頸を掻っ切らんと刃先を煌めかした。

 





書きづらさ満点。何なんだこのキャラ達は。
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