ヤンデレギア   作:ゴマ醤油

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前編

 人というのはどうしようもない時、つい過去を振り返ってしまうものだ。

 絶対に自分が悪くない場合でも、どうしようもなく自分が原因でこうなったとしてもそれは変わることはないと今の俺になら断言できる。

 

『──◯◯は将来苦労しそうだね。女の子には気をつけるんだよ?』

 

 昔、母からそんなことを言われたのを思い出す。

 頭を撫でられながら言われた言葉。今思えば、あの時母は随分となんとも言えない表情をしていた気がする。

 

 あの頃は、そしてつい最近までまったく記憶になかったその会話。

 何で今頃湧いて出てきたのか。どうしてそんな幼少期の過去が突如として脳に出てきたか。

 

「──説明、してくれるよね?」

 

 俺を取り囲んでいた内の、最も付き合いの長い茶髪の少女が口を開く。

 周りすべてが恐ろしいほど鋭く、冷たい目でこちらを射貫いてくる。

 

 ──ああっ。一体どうしてこんなことに、なってしまったのか。それは結構前から遡ることになる。

 

 

 

 

 ことの始まりは空も青く、風も心地よい。まさに快晴と言えるほどの天気。

 そんなある日に起こった小さな事件。

 

 その日、俺こと◯◯はとある予定があるため休日にも関わらず通っている学校に登校していた。

 

「だりぃな」

「本当にな。……まあ俺らが悪いんだけどな」

「まったくだ」

 

 同じく招集されていた友達とぐだぐだしながら俺達を呼び出した担任を待つ。

 地毛だと言っても信用されないほどに明るい茶髪をしている友達は、来てまだ十数分だというのに帰りたさを全面に押し出しながら机に着いている。

 

 かくいう俺も帰りたさでは負けていないと断言できるのだが、理由もあってさすがにそこまで出し切る訳にもいかない。

 こいつみたいに暇つぶしと連絡用の端末をぽちぽちして時間を潰してもいいのだが、生憎充電を忘れたまま寝てしまったのでがらくた同然の鉄の塊と成り下がっている。

 

「……なあ」

「なんだよ?」

「……この前の土曜にお前と歌姫のマリア・カデンツァヴナ・イヴらしき人と一緒に歩いていたのを見たんだけどさぁ……本物?」

 

 友にそう言われて一体何のことだと思い出す。

 ……土曜土曜。……あっ先週か。

 

「いたな。幼馴染が知り合いらしくてそこで仲良くなったんだ。で、その日は買い物の付き添いだったはず」

「……この前の風鳴翼といい、お前の幼馴染何者だよ?」

 

 何者だと言われても。

 そんなのただの幼馴染だとしか言いようがないが。

 

 最近忙しそうであんまり会えていない幼馴染の片方。人助けを趣味としている彼女の人脈は広く、いろんな人を紹介されるのだ。

 厳密に言えば翼先輩とはその幼馴染と会う前からの知り合いではあったのだが。

 幼馴染に紹介されたとき、その場にいる全員がびっくりしたのは今だ記憶に新しい出来事ではある。

 

「……何でお前はそんな可愛い女性の知り合い多いんだよ」

「なんだなんでって言われても知らんよそんなこと」

 

 俺の交友関係に大変ご立腹な友。先週もおんなじことを聞かれた気がする。

 

 確かに俺の周りにいる女性は誰もが魅力的な娘であると明言できる。

 元気娘とそれのお世話役である幼馴染に歌姫二人にツンデレ、そして後輩ペア。

 ……うん。やっぱり皆、ちょっと……いや大分癖があるけど可愛くて良い娘達だ。

 

 今現在が俺の一生の人間関係において最も人に恵まれているであろう時期であろうとはっきりと言える。

 何か些細な出来事一つでころりと惚れて知らぬ間に振られること間違いなしの彼女達である。まあ友が羨ましくなるのもしょうがないと言える。

 

「……でもお前彼女いるじゃんか。あのめちゃおっぱいでかい娘」

 

 そう、こいつ彼女がいるのである。

 散々人の友達を羨ましく思っていても彼女持ち。写真も見せてもらったのだが翼先輩が見たら何か一言言いそうなぐらいにでっかいギャル風の娘であった。……っけ。

 俺は未だに年齢=人間なのにこいつにはそんな娘と乳繰り合ったいるのだから羨ましいことこの上ない。

 

 だがしかし、今日は様子が変だ。

 いつもならその娘の話題を出すと、すぐに自慢を始めるのに。

 

「…………た」

「??」

「別れたって言ってんの!! あの女俺はキープ要員第三号だとっ!」

 

 ……なんだか悪いことを聞いてしまった。

 あんなに仲良かったのに本命じゃ無かったんだ。……女って怖っ。

 

 もしかすると、俺の周りの女性達もどこかそういった狡猾な面を持っているのかもしれないと想像してしまった。

 ……どうなんだろう。ほぼ全員隠し事とかできそうにない性格をしているけどあれも演技だったりするのだろうか。

 

 

「あの女本命といるとこ見られたときなんて──」

「お待たせー追試始めるぞー」

 

 どんどんとヒートアップしていた友を遮るように担任が扉から入ってくる。

 

 ──追試である。

 テストに出られなかった俺達二人がこうして休日も拘束されている理由はテストを受けるためである。

 

「わかってると思うがここ落とすと本格的に危ないから頑張れよー」

 

 大丈夫なはずである。

 ここ一週間ぐらい皆に勉強を教わったから問題無いと思う。

 皆交代で俺の家に泊まってまで教えてくれたのだ。意識されているのかははっきりしないが、一応男の俺の家に泊まったりご飯を作ってくれたりしてくれたのだ。ここで落としたら申し訳が立たないというもの。

 

 そうこう考えているうちにテスト用紙が配られる。

 精神を集中させる。……よしっ。

 

「始めっ」

 

 そして、運命を決めるテストの幕が開けた。

 

 

 

 

 

 

 空はすっかり茜色。ただ今帰り道、友と一緒にぶらぶらしている最中である。

 特に問題は無く追試を終えることができた。

 

「で、さっきの話の続きなんだけどよぉ」

 

 隣でコロッケを食べながら友が再度話を振ってくる。

 さっきのと言うと別れた女の愚痴かな? 

 

「……なんかないの。風鳴翼やマリア・カデンツァヴナ・イヴの浮いた話とか」

 

 全然違ったわ。さっきもこんな話してなかったけど何処が続きなんだろうか。

 ……浮いた話かぁ。そういえば聞いたことがない。

 

「ないの?」

「……ないな」

 

 思い返すと全くと言って良いほどそんなことを話したことはなかった。

 

 ……もしかして、皆裏ではもうイケメン捕まえてるのかなぁ。

 少なくとも翼先輩やマリアさんは芸能人だし十分に可能性がある。他の皆も女子校に通っているとはいえ、あそこは名門リディアン。それ相応の所と合コンしていることも考えられる。

 

 ……やっぱりいるのかなぁ。はあっ。

 

 ため息がこぼれる。なんだか帰る足取りも重くなってきた。

 こんなに活気があって人も多い街なのに、たった一人でぶちこわしにできるぐらいには滅入ってる気がする。

 まあでも今日は家には誰にもいないのだからそんなに無理して帰んなくてもいいっちゃ良いのだが。

 

「……なあ、帰り遅くなっても大丈夫か?」

「ん? 平気だけど……」

「そうか。なら付き合え」

 

 そんな俺を見かねたのか友が家に帰ろうとしていた俺を誘ってくる。

 一体今日は何に付き合わされるのか。ゲーセンか、それとも年齢詐称の酒飲みか。

 まあ時折あることだ。俺も楽しんでいる部分もあるため特に文句はないのだが。

 

 夕方から夜に変わる街を歩きながら一応友に聞いてみることにする。

 

「……で、何処行くんだよ?」

「決まってんだろ? 未知なる出会いをこの街で見つけるんだよぉ」

 

 こちらに振り返り、今日一の笑顔でこちらに言ってくる友。

 

「まあ、詰まるところナンパさ。楽しもうぜ」

 

 これが俺の運命を決定づけるイベントになるなどとは、今の俺には知るよしもないことだった。

 




 最近筆が止まってるためリハビリ感覚で一作品書きます。
 そんなに長くならないです。あっても精々十話ぐらいです。


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