ヤンデレギア   作:ゴマ醤油

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中編

 そうやって始まった第一回ナンパ大会。

 最初の勢いはもはや無く、俺達二人はすっかりファミレスで反省会という名の傷の舐め合いに勤しんでいた。

 

「……やっぱ俺いない方が成功するんじゃねえの?」

「馬鹿言うなって、俺が一人で行ってもなんもできねーよ」

 

 自分のメロンソーダをストローで飲みながら提案してみるがを手を振りながら拒否する友。

 俺からすれば顔の良いこいつ一人でチャレンジする方が絶対に成功する確率が高いと思うのだがコイツはそう思ってはいないらしい。

 自他共に認める平凡人間の俺を隣に置いてもやりにくくなるだけだろうに。俺は幸運の置物じゃないのに。

 

「あー、なんで夜の街ってカップル多いんだろ。可愛い娘は皆誰かと手組んじゃってるし」

「……そりゃ可愛いんだから彼氏いるんだろ?」

「違いねえ。……はあっ」

 

 特に静かというわけでもない店なのにカランと動く氷の音が耳に響き、なんだか氷にまで頷かれてしまったようで更に虚しさがこみ上げてくる。

 

「……ナンパに誘った手前聞くのもあれなんだけどさぁ、◯◯は好きな人とかいないの?」

「え?」

「いやなに、クラスのやつとかと付き合うとかしねぇのかなって。さっきもあんま楽しそうじゃなかったし」

 

 そう聞かれて少し考えてみるが、正直思いつかない。

 何でだろう。よくわからない。

 もちろん女と付き合うということに興味はある。俺は同性愛者というわけではない。

 

 幼少期に母が語った恋の話は今でも覚えている。

 若い頃に父と出会い、己のすべてを出し燃えるように生きた恋愛譚。それを聞いて恋愛というものに興味が湧かなかったということはない。

 むしろその逆。自分もそんな風に恋をしてみたい。中学まではそう思っていたはずなのである。

 

「……ナンパがつまんなかったとかそういうんじゃないよ。ただ、どうにも惹かれなかっただけ」

「ふーん。やっぱ理想高いんだなお前」

「……え?」

 

 友の言葉に思わず声が出る。理想? なんでそうなった? 

 

「まあでもしょうがないのかもな。前あったお前の幼馴染や歌姫二人と買い物行くぐらいに仲が良いんだろ? 身近にそんな人達がいたら俺もぜってーそこらの女なんて目に入らなくなるよ」

 

 ……ああっなるほど。

 友の言葉でようやく納得がいった。先程まで俺を悩ませていた疑問が解決した気がした。

 

 そうか。俺は理想が高かったのか。

 幼い頃よりずっといる響や未来はもちろんとして翼先輩にクリス、マリアさんに切歌ちゃんと調ちゃん。誰をとっても魅力的な少女達。

 確かに無意識にあいつらを基準に考えてしまっていたらしい。

 

 どうしよう、自分ではまったく気にしたことがなかったが確かにそうである気がしてならない。

 

「……そう、かも」

「だろ? これでもし付き合えたりしたらまだ変わるかもしれないけど、このまま脈なしで終わると一生恋とかできないんじゃねぇのか?」

 

 友の何気なく放った言葉は俺を深く傷つけた。

 なんせ今の状況はまさに脈なしそのもの。このままだと理想を追ったまま一生を終えそうなのが容易に目に浮かぶ。

 

「◯◯は将来風俗とか行きそうにないから一生童貞かもな」

「どう、てい?」

「そう、童貞」

 

 童貞。

 それはあれか。ひょっとして三十まで持っていると賢者だか魔法使いへの資格を手にするという女縁がない証拠であるあれか。

 

「最近では異世界に行けるとかも増えてるらしーな。やったな、夢がいっぱいだな」

 

 随分と人ごとのように言ってくる友。

 最近別れた彼女としたことあるからって随分と良い気になっているのが非常に悔しい。

 

「……どうすれば良いと思う?」

「お、おう。急にえらく真剣になったな」

 

 自分でも声が低くなったのがよくわかる。

 当たり前だ。なにせこのままでは将来に関わるのだ。

 

 一生独り身なんてごめんだ。

 母みたいに燃え上がるような恋ができずとも、せめて綺麗な娘と付き合いの一つはしてみたいのが男というもの。

 できるなら高望みしたいところだが、俺のスペックを鑑みるに一人でも一緒にいてくれる娘を探した方が良い気がしてきた。

 

「あー、やっぱ積極的に行くしかないんじゃね? こんなやけくそなナンパまでとは行かなくてもさ」

「……そういうもんか?」

「知らんけどな。何事にも積極性が大事だと姉貴が言ってた気がするし。……まあ姉貴も今はフリーらしいからあんま信憑性はないけど」

 

 届いた料理を食べながらぐだぐだと話す俺達。

 頼んだのはハンバーグ。食べているとつい最近、クリスが作ってくれたのを思い出す。

 あのハンバーグも少し形が崩れていたけど味は美味しかった。母以外の手料理はあまり食べる機会が無いのでまた食べたいものだ。

 

「この後どうする?」

「そうだなー。どうすっかなー」

 

 料理も食べ終わり、窓から見える人影も減りだした頃この後について考える。

 

「……俺はナンパ続けっかね。◯◯はどうする?」

 

 少し悩んだ後、友は続行を決めたようでこっちにもどうかと誘ってくる。

 

 別に付き合ってもいいとは思っている。母は一ヶ月ほど出張で家にはいないので親という問題は無い。

 もしかしたら家に鍵を持ってる誰かがいるかもしれないが、流石にそうであったなら連絡が入っているだろうしここ最近ずっと人が泊まっていたため、さすがに今日はいないと思う。

 

 ──だが問題はある。とても単純且つ面倒くさい問題が。

 

「でも俺達制服だぞ? 補導されそうじゃね?」

 

 そうなのだ。俺達は制服、つまり自分たちが学生であると告白しながら夜の街を歩かなければいけないのである。

 最近は見回りもちゃんとしていると聞く。時々やる夜のゲーセンとは違い、決行すれば高確率で見つかるだろう。そんなリスクを負ってまで分の悪い賭けをするのはどうなのだろうか。

 

「……わかってるよ、そんなことはわかってる。けどさぁ◯◯。俺はそれでもやってみたい」

「……」

「俺は夢が見たい、夢を追いたいんだ」

 

 友は静かに語り出す。

 それは恐らくほとんどの人が馬鹿馬鹿しいと切り捨てる愚言。そんなことを言ってるなら自分を磨いた方がまだ可能性があると哀れまれること間違いなしのくだらない妄言。

 

 ──けど、俺にはなんだか輝いて見えた。この夜に浮かぶ月より眩しく見えてしまった。

 

 思えば俺はずっと諦めていたのかもしれない。折れてしまっていたのかもしれない。

 ずっと隣にいた、そして次第に増えていった周囲の星に己を焼かれてしまっていたのかもしれない。

 

 そうだ。俺は凡人だ。吐き気のするほど何もないただの人だ。

 頭は良くない、運動はできない、周りに誇れるものはどこにもない情けないちっぽけな生き物でしかない。

 それでいてもしかしたら、あわよくば誰かが、響や未来がずっと一緒にいてくれると妙な勘違いをしていたのかもしれない。

 

 ──本当に久しぶりに体に、心に熱が灯る。

 今なら人類の天敵であるノイズすら殴り倒せる熱をこの胸から感じる。

 

「──日が変わるまでな」

「!! それじゃあ──」

「行こうぜ。夢を追いに」

 

 友の目をはっきりと見ながら頷く。

 それを見た友は先程の──この無謀な企画が始まった時と同じくらいの笑顔を見せる。

 

「行こうぜ! 相棒!」

「ああっ!」

 

 勢いよく握手をし、そして意気揚々とファミレスを出る俺達。

 もう迷いはない。やることは一つ、頭の中も一つ、目的も一つ──。

 

「成功させようぜ!」

「応とも!」

 

 より魅力的な女を口説く。

 初めての脱却を。──より輝いた運命の出会いを。

 




 裝者の出番がほとんどないのにシンフォギアの小説と言って良いのか本気で悩んでいます。
 タグのヤンデレ要素は本編終わった後の裝者視点の方が強く出ると思うので気長に待っていただければなと思います。




 
 

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