「起きて。いつまで寝ているの?」
その声でいつも
彼女にとって読書とは昼寝と同じである。
何もすることがないから本を読むのであり、別に本が好きと言うわけではない。読むジャンルは沢山あるし、どれも統一性のない雑多なものばかりだ。この前なんて表紙に露出度の高い服を着て主人公らしい男子に顔を赤らめながら抱きついた美少女が描かれてた本を読んでた。その時のエスの顔はいつにも増して無表情だったけど。
……あの本って『壁男』の趣味なのかな?
「どうかしたの、あなた?随分と気持ち良さそうに寝ていたけど?」
「エスの顔を起きてすぐに見れたからかな?」
ぼくがこの世界に来てどれほどの月日が流れたか分からない。ここにたどり着いた当初は本がいっぱいの部屋で果てのない廊下を歩き続けていると頭の中でいろんな言葉が直接語りかけてくるなど散々な思いをしたけど、今ではぼくも完全に彼女に影響されて本の虫である。と言ってもまだまだ蛹にも慣れていない幼虫レベルだが。彼女はもう完全に本の虫である。
いや、これは彼女を表すには些か魅力度に欠ける。彼女は『本の蝶』と言った方がしっくりくる。読む姿は花の蜜を吸うアゲハの様に綺麗であり、本棚から自分の探している本を探す姿は花畑で蜜を吸う為に飛び回るシロチョウの様に美しい。時折見せる寂しげなうつむいた表情は蜘蛛の巣に引っかかってしまったセセリチョウの様に儚く、危なげな雰囲気を醸し出していた。
これだけの多様な部分を露わにするのは、彼女が本を読むからだ。だからぼくも本を読む様になったし、本に関わることで見えてくる彼女の新しい一面を見るのが好きだ。まぁ、それ抜きで彼女も好きだが。
そんなことを考えながら彼女をじっと見つめていると、彼女も
「どうしたって言うの、あなた?今日は一段と変ね?」
「いんや。ただ、今までこんな狭い場所なのにいろんなことを経験したなって感慨深くなっただけ」
「そう。確かに言われてみればそうね。この場所はあなたが居なければとてもつまらないわ。それでもあなたが来てからはつまらないとも感じなくなった。そう考えると、貴方はとても魅力的な人間なのね。改めてすごいわね」
「あれ?なんか唐突な惚気。まさかの展開でぼく付いて行けてないんだけど?」
「気にしなくてもいいわ。私一人の中で結論づいたことだから」
「それ聞いて無視をしろって?おいおいおい酷が過ぎるぜエスちゃん。話し相手ぼくしかいないんだから無視はできないよ」
「『無視しなさい』という命令じゃないわ。『無視してほしい』ってお願いよ。言わせないで、恥ずかしい」
「唐突なデレ!エスさん上級者向けが過ぎると思うんだけど?!」
エスとの会話は本当に楽しい。この時間は彼女の魅力を見つけることが出来るから。新しく見つけた魅力なら益々彼女が愛しくなるし、既に見つけた魅力なら彼女の一面をまた再確認できる。
全く持って楽しい事だ……本当に
自分を殺した彼女も美しかった。
自分を縛る彼女も可憐だった。
僕がいなくなることに怯える彼女も儚かった。
ぼくに依存していく彼女は加護欲をそそった。
ぼくを愛してくれる彼女は
全部全部……
キ レ イ ダ