阿多曼帝国降臨記   作:SAWA χTERU

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今までと比べ、随分長くなってしまいました。
この小説、主の気分次第の為、これからもかなー
り遅くなることがあるかと思いますが「付き合っ
てやんよ」という方は、今後ともよろしくお願い
します。

追記:サブタイトルが誤っていた為、修正しまし
   た。こんな最初から···(2020/5/2、8:10)


其ノ六 戦車とエジェイと電撃戦

東部諸侯団全滅の翌日 ロウリア王国東方征伐軍

ギム司令部

 

「東部諸侯団とはまだ連絡が取れないか?」

 

パンドール将軍が何度目かの問い掛けを行う。

そしてその返答も又、

 

「魔導師から魔信を送っていますが、依然として

 返事はありません」

 

という何度も聞いたものだった。

先遣隊の一部隊と言えども2万を超える大軍だ。

戦況報告も送れずに全滅するとは考え難かった。

パンドールは上空支援ついでの偵察用に、ワイバ

ーン20騎をエジェイへ向け放っていた。

 

「飛竜偵察隊の方はどうかね」

「間もなく東部諸侯団が消息を絶った付近の上空

 に到着します」

「頼むぞ·····」

 

 

 

ロウリア王国 竜騎士団所属

東方征伐軍飛竜小隊隊員 竜騎士ムーラ

 

「いよいよ·····だな」

 

エジェイ近郊に到着した飛竜偵察隊20騎は、先日

東部諸侯団所属の騎馬偵察隊が消息を絶ったとい

う地点で散開していた。その中でムーラは、東部

諸侯団が最後に野営した付近の担当を割り当てら

れていた。

 

彼に与えられた任務は東部諸侯団の現状確認だ。

もし、彼らが発見出来なかった場合は、そのまま

捜索に移る事になる。

 

「ん···?な···!?な、何だ、これは·····!」

 

彼が真っ先に感じたのは鼻を刺す様な強烈な異臭

だった。又、鳥程ではないものの、竜騎士は人間

の中では非常に目がいい。地表に倒れ伏した人の

様な何かを見た気がしたムーラは、異臭に苦しみ

つつもワイバーンを反転させ、高度を下げた。

 

そこにあったのは、彼の常識からひどくかけ離れ

た異形の惨状であった。

綺麗な状態で横たわっている人馬だったものと思

われる残骸が辺りに散乱している。あちこちの地

表に土を抉った様な傷跡があった。

極僅かではあったが、バラバラになった人馬の一

部が、同様に原型を留めていない鎧兜と共にごち

ゃ混ぜになっていたところもあった。

そして、その死体の多くは酷く焼け焦げており、

ロウリア王国で『悪魔の象徴』と伝わる漆黒の鳥

がそれらの肉を啄んでいた。

 

彼は肉片の転がっていない場所を探して、着陸し

た。何処を見渡しても、動く人間も馬も全く存在

しなかった。落ちていた鎧を幾つか確認したが、

何れも間違いなくロウリア軍が使っているものだ

った。

 

否定したかった。

しかし、忘れ難い現実が期待や妄想を塗り潰し、

彼は理解を余儀なくされた。

 

「全··········滅··········?

 ―――バカな、そんなバカな!!!」

 

何に、どのようにして。その正体がまるで分から

ない恐怖に、ムーラは身震いした。

 

―――グワァッ!グワァッ!

相棒のワイバーンが発した警戒の鳴き声に、ムー

ラは意識を覚醒させる。

 

ワイバーンが視線を送る東の空を注視し、耳を澄

ましたムーラは、やがて僅かに空気を叩く様な音

と芥子粒の様に小さな黒点を認めた。

 

竜···?

いや、竜なら羽ばたいていないとおかしい。

 

「―――!!!」

突如としてその竜が煙を吹き上げ、小さな炎が音

を超える速さで自分に向かって来た。

 

「導力火炎弾か!」

相手は竜騎士の自分が僅かに見える程に遠いが、

弾速は恐らく導力火炎弾のそれより速い。

それに、撃ったということは何らかの儀式でもな

ければ射程圏内なのだろう。ワイバーンの導力火

炎弾よりも遥かに射程が長い様だ。

下手すればパーパルディア皇国が有するワイバー

ンロードをも凌駕しているかもしれない。

 

(しかし·····)

ムーラは慌てる事なく飛び立った。どんなに射程

距離が長く速い攻撃とて、これ程距離があって気

づいていれば十分避けられる。このような攻撃は

不意打ちでこそ真価を発揮するだろうに、敵の目

は悪いのだろうか?

 

そこまで考えたところで、彼は違和感を感じ、そ

の理由を悟った。

 

「·····!? ついて来る!?」

 

避けたと思っていた火炎弾が空中で幾度となく軌

道を変え、自分たちに迫って来るのだ。

乗騎に全力飛翔を指示しながら、ジグザグ飛行で

回避を試みるが、火炎弾はその都度向きを修正し

こちらを追って来る。こんな攻撃、聞いたことが

ない。

 

「導力火炎弾が―――ついて来る!!!」

ムーラは魔信の送話器に向かって、悲鳴の様に叫

んだ。

 

「ち···ちくしょう·····!」

顔に叩きつけられる合成風、死の予感、脳の中を

幾つもの思考と記憶が去来する。

 

―――戦に行く朝の妻の笑顔、笑顔で抱きついて

来る1歳になったばかりの娘、今も腰に着けてい

る軽い金属で出来た何か―――

 

「―――死んでッ···たまるかァァァッ!!!」

その思いは、この戦場に一つの奇跡を起こした。

 

彼が腰に着けていたお守りが全力の急降下中だっ

た彼の元を離れた。

火炎弾の着弾が秒読み段階に入り、ムーラもワイ

バーンも死を覚悟した、その瞬間―――

 

―――グアアアンッッッ!!!

ムーラの後方で、落雷を思い起こさせる轟音と共

に火炎弾が炸裂した。

 

 

 

オスマン帝国空軍がクワ·トイネ公国への支援の

一環としてエジェイ周辺の哨戒任務に就いていた

無人偵察ヘリ「IZM-クタス」は、単騎行動中であ

ったロウリア軍所属のワイバーンを発見。

約2㎞地点まで距離を詰めた後、自衛戦闘用の近

距離空対空誘導弾を発射したが、追尾中に敵騎か

ら剥離した金属片が誘導弾に直撃したため空中爆

発が発生し、爆煙が収まるまでに敵騎は防空空域

を脱出、加えてクタスのレーダーに支障を来した

ためクタスは敵騎の反応を見逃し、ムーラは追撃

の回避に成功した。

 

 

 

一命を取り留めたムーラは、ギムへと進路を取り

飛行した。助かった理由は不明だが、妻からもら

ったお守りが気づかぬ内になくなっていた。

 

「もしかしたら···あれが守ってくれたのかな」

家族にまた会えるかと思うと、今ある生にこの上

ない喜びを感じた。

 

魔信が壊れてしまったため、本隊への連絡も叶わ

ない。一先ず合流地点付近で身を隠そうと低空飛

行を続けていると、いきなり強い悪寒を感じ、見

つけた林の中に緊急着陸を試みる。

だが、それは僅かに遅かった。

 

頭上の雲間から何騎かの竜、いや鉄竜を視認し、

その鉄竜の両翼から短く閃光が発される。

すると、ムーラの乗っていたワイバーンの表皮に

幾つもの大穴が開き、ワイバーンが悲鳴の様な断

末魔を上げて急に失速、墜落した。

 

幸いムーラは被弾する事がなかったが、力無く墜

落したワイバーンから放り出され、体中を強かに

打ちつつ地面を転げ回った。

 

「う、うぅ·····!···!?あれは!?」

ワイバーンの墜落によって土煙が背後で上がる最

中、彼が目にしたのは、黒煙が立ち上ぼり、所々

に火の手が上がるギムの姿だった。

 

クワ·トイネ·オスマン連合軍 ギム近郊

 

ムーラ達の偵察地到着から僅かに遡る頃、クワ·

トイネ公国陸軍及びオスマン帝国陸軍派遣部隊の

連合軍はギムとその先にあるロウリア屈指の工業

都市ビーズルを目指しエジェイを出撃した。

 

既にクイラ·オスマン連合軍は越境しロウリア南

部の攻略を開始しており、少数の国境警備部隊を

蹴散らしつつ、順調に占領地を広げている。

又同じタイミングでオスマン帝国陸軍第一機甲師

団の選抜部隊がビーズル南方から回り込む形で王

都ジン·ハークに攻め掛かる。

 

全ては本命の空挺部隊の任務成功を確固たるもの

にするため。

 

オスマン帝国に与えられた鋼鉄の地竜と共に、連

合軍はギム奪還を誓い進軍した。

 

「モイジ将軍、ギム·ビーズル方面軍、ギムに駐

 屯する敵部隊への攻撃準備が完了しました。い

 つでも問題なしとの事です」

 

「·····よし。全軍、一斉に攻撃開始。ギムをロ

 ウリア軍より奪還する。我々の力を奴等に刻み

 込んでやれ!!!」

 

「了解!全軍、攻撃開始!」

今ここに、第二次ギム攻防戦が始まった。

 

 

 

ロウリア東方征伐軍 先遣隊 ギム司令部

 

「遂に来たか·····」

パンドールは東の方を睨んで呟く。

 

東部諸侯団の通信が途絶えた時点で、既に東部諸

侯団は壊滅しているという予想はしていた。

どうやらその予想は当たっていたらしく、敵はギ

ムを取り戻さんと進撃して来た。

偵察に放っていた騎兵は帰って来る気配がない事

から察するに、全滅してしまった様だ。

 

パンドールだけでなく、部下達の顔色も良いとは

言えない。最後の飛竜偵察隊員が悲鳴を最後に通

信を途絶させたからだ。度重なる前線の兵士の失

踪に、本陣司令部の士気は完全に低迷していた。

『導力火炎弾がついて来る』とは、どういう意味

なのか。

 

「前の攻防戦における大敗の原因、導力火炎弾が

 ついて来るという報告の真相究明、どちらも間

 に合わなかったか」

 

「はい、攻防戦についてはそもそも部隊に残った

 生き残りの兵士自体が少なく、またその生き残

 りも精神に支障を来した者が殆どで具体的な情

 報は皆無に等しく、導力火炎弾の件に関しては

 全くもって不明です」

顔色の優れない作戦参謀が、パンドールの問いか

けに返答する。

 

「本陣の護衛は?」

 

「ワイバーンが90騎、既に直衛に就いています。

 残りは竜舎で休ませていましたが、現在出撃用

 意に入っております」

 

「90か·····多いか?」

 

「いえ、前の攻防戦で90騎のワイバーンが容易く

 全滅させられた事を考えれば、これでも少ない

 かと。無論出撃準備中のワイバーンの内60騎を

 加えますが、敵の攻撃力は未知数です」

 

「そうか···」

作戦参謀の言葉に、拭い去れぬ不安に苛まれてい

たパンドールは、その不安をより強め、周囲の部

下に悟られぬ様に嘆息した。

 

しかし、その不安は、次の瞬間に現実と化し、本

陣司令部はいよいよ混乱を極めた。

 

猛烈な地鳴り。鋼鉄の地竜の唸りがギムに響く。

後のクワ·トイネ公国陸軍にて、竜騎士に代わっ

て精鋭の象徴となる第一機甲旅団の鮮烈なデビュ

ー戦であった。

 

ロウリア軍は瞬く間に壊乱状態に陥った。

ロウリア軍の目には、連合軍が繰り出した数十両

の戦車は、いわゆる攻城兵器の類に見えた。

故にその運用方法に困惑した。

ロウリア軍での主な攻城兵器は破城槌だが、歩兵

の攻撃で無力化されるのを防ぐ為に護衛の兵をつ

けるのが常道だ。護衛の兵が存在しない攻城兵器

など、脅威になる筈がない。

 

先遣隊が持ち込んでいた大型弩弓(バリスタ)が、敵の攻城兵

器の内の一台に狙いを定める。敵の侵入を食い止

める重装歩兵や、その後方で防衛を支援する弓兵

も配置されていた。

 

脅威になる筈がない攻城兵器だったが、それを見

た兵たちは緊張を走らせる。

まず、自分たちが知る攻城兵器より遥かに速い。

加えて見たところ、全面を金属で覆われている様

だった。

 

「全身を金属で覆いながら、ああも速く動けると

 は···」

ギム防衛の最前線を担っていた指揮官は、敵攻城

兵器を竜の一種と判断した。

噂に聞く列強国·パーパルディア皇国陸軍が誇る

地竜、リントヴルムの様な―――

 

「第4から17、発射用意!」

全部で25台の既に矢を装填されている大型弩弓の

内13台が敵に向けられた。

比較的突出していた目標の敵は既に守備陣地から

100m前後まで接近しており、有効射程圏内に入

っていた。

 

「撃てぇ―――――ッ!」

矢羽が起こす風切り音と共に、計13本の大型の矢

が、次々と射出される。

 

金属で覆われているとなれば致命傷は与えられな

いかもしれないが、何かしらの反応は返って来る

だろう―――

 

ロウリア兵の多くはそう予想し、敵の反応に身構

えた。

 

だが、敵の反応は、彼らの予想を遥かに上回るも

のだった。

 

結局13本の内10本の矢は、敵の予想以上の速度に

よって偏差射撃に失敗し、地面に突き刺さるだけ

で終わった。

そして、残った3本は敵攻城兵器の捕捉に成功し

た、が―――

 

―――ガンッガンッガンッ!―――

当たった端から、その全てが鋼鉄の鎧に阻まれ、

跳ね返されてしまう。

 

(3本も矢が当たって悲鳴の一つも上げないとは、

 良く訓練されている)

竜の一種と判断していた指揮官はその練度の高さ

に感心した。

 

しかし、次の瞬間。

 

轟音。それも、複数箇所より。

敵攻城兵器、「戦車」に搭載された、37㎜戦車砲

の咆哮だった。

 

!?

それが何かという誰何の時間すら与えられないま

ま、指揮官の意識は強制的に消滅した。

 

「何だ!?何が起こった!?」

戦車の轟音に取り乱した作戦参謀が半ば恐慌状態

に陥りつつ叫ぶ。

その間、パンドールは「誰か護衛に続け!」とだ

け言うと、我先にと司令部から飛び出した。

 

そこにあったのは、一方的極まりない狩場であっ

た。無論、ロウリア軍が狩られる側の。

 

戦車の砲撃で重装歩兵や弓兵らを叩きのめされた

ロウリア軍の残党に、クワ·トイネ歩兵の銃撃に

よるアウトレンジからの猛追撃が加えられた。

また時折、ロウリア軍の重要な防衛箇所に、何か

が降って来る様な音の直後、原因不明の爆発が襲

い掛かった。オスマン帝国陸軍第十八歩兵師団の

支援砲撃だったが、ロウリア軍に知る由もなかっ

た。何だと思った次の瞬間には死んでしまうのだ

から。

 

そして、これらよりも遥かにロウリア軍の心に決

定的な一撃となったのは―――

 

「おい!あれを見ろ!!!」

ロウリア兵の一人がワイバーンが守る上空を指差

す。

 

すると突然、ギム上空を飛行していたワイバーン

の内29騎が、煙に包まれた直後、バラバラに寸断

される。続けて12騎、23騎、17騎と、ある者は避

ける暇もなく、ある者は避けても追尾され―――

 

「あ·····!あぁ···!!!」

「何で、何で」

「嘘だッ!」

 

次々と四散するワイバーンたちを見た兵たちは絶

望し、恐怖し、戦意を根こそぎ奪われていく。

今まで、ワイバーンの所有数はこの世界において

非常に正確な軍事力の指標の一つであった。

まさしく軍の強さの代名詞だった。

空において並ぶものなき絶対王者であり続けた。

 

そのワイバーンを実にあっさりと蹴散らした()()

は、ワイバーンなど及びも付かぬ程の速度でギム

上空を飛び回る。一瞬で自分たちの上を過ぎ去っ

たかと思うと、少々遅れてギム全体を覆うかの様

な爆音が木霊し、ロウリア兵たちに更なる恐怖を

植え付ける。

 

「は、速え!速すぎる!」

「ワイバーンなんて目じゃねえ!何なんだありゃ

 あ!!!」

ロウリア兵たちには少々気の毒だが、彼らの悪夢

はまだまだ終わらない。

 

飛び去って行った鉄竜は再び旋回して襲撃し、光

弾をワイバーンたちに撃ち込み、また11騎を墜落

させた。

 

最低でも100騎のワイバーンがいれば、炎神竜に

すら勝てると彼らは思っていた。

そして、彼らは出撃時には、400騎を超えるワイ

バーンを従えていた。

 

それが、いや、それなのに―――まるで既に趨勢

が決したテーブルゲームの様に、一方的に彼らの

自信の源は破壊されていた。撃墜された竜騎士と

ワイバーンの血肉が、真っ赤な雨となってギムの

町に降り注ぐ。

 

「そん、な···」

血の雨によって体を朱に染められたパンドールは

絶望し、呆然としていた。

かつての東部諸侯団のジューンフィルアを知る者

がいれば、「彼に瓜二つだ」と言っていた事だろ

う。そしてその最期も、彼にそっくりだった。

 

散々に暴れ回り、遂にワイバーンを全滅させた鉄

竜たちが去ったかと思うと、今度は東の空から新

たな鉄竜たちが襲来した。先ほどの鉄竜たちに比

べれば遥かに遅いが、それでもワイバーンよりも

速い。

そんな感想をおぼろ気に浮かべていると、その鉄

竜の腹が開き、筒の様な何かが多数投下された。

 

誰かが何だと声を上げた

ゆっくりと、生の終わりが、死が迫って来るのを

感じる

うっすらと見えていた先遣隊殲滅の幻視が、はっ

きりと、鮮明に

パンドールは、叫んだ

「間違いない、これは、古の―――」

言い終わらない内に、辺りに光が満ちる。

目を開けられない程の閃光が、人が到底耐えられ

ない灼熱の業火が、爆弾から発せられる鉄片の嵐

が、地上のロウリア兵たちを襲う。

 

第二次ギム攻防戦は、第一次のそれを上回る一方

的な戦闘に終始した。

本戦闘において、クワ·トイネ陸軍が満を持して

投入した最新鋭部隊、第一機甲旅団はオスマン陸

軍の支援砲撃に助けられつつ、戦車に抗する術を

持たないロウリア軍を次々と粉砕。

虎の子と言えたワイバーン全90騎も、オスマン空

軍の支援部隊機に傷一つ付けられぬまま全滅し、

制空権確保直後にロウリア軍本陣司令部をグラン

トペッグの爆撃部隊が襲撃。将軍パンドールはこ

の爆撃に巻き込まれ、この世から去って行った。

この爆撃はロウリア軍の指揮官の生き残りの殆ど

を消滅させてしまい、ロウリア軍は軍隊としての

体を成せなくなった。

爆撃から30分後、ロウリア軍の生き残りは連合軍

への降伏を申し出て、連合軍はこれを受諾。

 

こうして、第二次ギム攻防戦は戦術的·戦略的双

方において、クワ·トイネ公国の完勝で幕を下ろ

した。

 

しかし、連合軍にとっては第二次ギム攻防戦はこ

れからの作戦行動の一部分でしかなく、ギム奪取

から僅か2日後、治安維持目的にクワ·トイネ陸軍

から2個大隊1000を残しつつ、ロウリア有数の工

業都市ビーズルに向け進撃を再開した。

 

 

 

中央暦1639年9月11日 早朝 ロウリア王国

工業都市ビーズル

 

ロウリア軍は混乱の渦中にあった。

つい昨日ギムにいた先遣隊が壊滅したと聞いたと

思ったら、自分たちの間近まで敵軍が迫って来て

いるのだ。

敵軍が操る攻城兵器は、凄まじい速さで進撃して

来る上に、それに付いた筒の様な何かから轟音を

発したと思うと、その先にあった味方の陣地が爆

発を起こし、味方の混乱はより深まっていく。

加えて、敵軍の歩兵が持っている弓よりも長い射

程から自分たちを絶命させてくる武器や時折起き

る原因不明の爆発(恐らく敵の攻撃だろうが)によ

る被害も深刻だ。

 

「も、もう無理だ!俺は敵に降るぞ!」

横で敵の攻撃から身を隠していた味方兵がすぐ横

に降って来た謎の爆発に根を上げ、突然叫んだ。

 

「何を言っている!ここを失えば、我が国の継戦

 能力も失う。第一、敵軍は先遣隊が出した命令

 を知って激怒しているらしいじゃないか。今更

 敵に降っても、生かされるとは思えない」

「そうだ!それに国王陛下は亜人たちの殲滅を望

 まれている。俺たちが亜人相手に降伏するもの

 か!」

「俺だってそう思ったさ!だが、敵は強すぎる!

 もし今ここに王国軍が50万いたとして、勝てる

 と思うか?」

「···それは·····」

 

そうこうしている内に、先ほどからロウリア軍の

ワイバーンたちを蹴散らして我が物顔で空を飛ん

でいた敵軍の鉄竜が本陣司令部を旋回していたと

思うと、本陣司令部が一際大きな爆発に巻き込ま

れた。恐らく、上官たちは生きていないだろう。

 

「ロウリア軍の兵士たちよ、降伏せよ。

 我々は諸君らか抵抗しない限り、諸君らの命を

 保障しよう」

 

敵軍から人のものと思えない大音声で降伏の要求

が響いて来る。

本陣司令部の爆発に呆気を取られたロウリア兵達

に、その大音声はより強く響いた。

 

「·····もう一度言う。俺は降伏するぞ」

先ほど降伏を叫んでいた味方兵が武器を捨て、降

伏の準備を始めた。

既に周囲の味方兵に、彼の行動を罵り、止めよう

とする者はいなかった。

 

9月11日の早朝から始まったビーズル攻防戦は、

10万という先遣隊全体すら超える規模のロウリア

軍を相手に連合軍が終始圧倒。

正午直前に行われた弾着観測砲撃によって第二次

ギム攻防戦同様将官を失ったロウリア軍残党は最

終的に75000が降伏し、ビーズルを失ったロウリ

ア王国は気付けば陸軍全体の3割以上と海軍の半

数以上、ワイバーンに至っては作戦参加数の6割

以上が失われ、これらの再建の為の手段も失うと

いう、文字通り耐え難い損失を与えられていた。

 

 

 

機械化された戦闘部隊の圧倒的速度優位を以て空

陸一体の一撃を与え、敵を殲滅する。

異世界(地球)で生まれ、幾つもの歴史的勝利を造り出し

た電撃戦ドクトリンは、この世界においても、輝

かしい栄光を刻んだのだった。




K-1号戦車「パオット」
全長:5.6m
全幅:1.86m
全高:2.25m
重量:7.8t
速度:30㎞/h(整地)
   13㎞/h(非整地)
行動距離:85㎞
武装:37㎜戦車砲
装甲:最大27㎜
エンジン:55馬力
乗員:3名(車長兼砲手·操縦手·通信手)

クワ·トイネ陸軍が開発した軽戦車。
地球のルノーFT-17軽戦車をモチーフに設計された
が他兵器同様エンジンや魔信の為巨大化·高性能化
している。魔信によって各戦車間で連携を取る事
が可能。

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