転生した仮面の者   作:きつつき

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オシュトルって文武両道で清廉潔白なので、女の子にモテモテなのは間違いないですね!

オシュトルはこの世界の文字を読める設定にしています。
ハクオロさんも最初から読めていたようですがウィツ補正ってことなんですかね?


陽だまりの中で

「う……」

 

 妖魔の襲撃から翌々日――

 オシュトル様が部屋にて目を覚ます。前にも思いましたが、本当に回復の早い人です。普通の人ならまだ眠っているままでしょう。

 オシュトル様は私に気付くと申し訳なさそうな顔をしながら言いました。

 

「すまぬ……また、雪泉殿に世話を焼かれてしまったな」

 

「いえ、気にしないでください。あの日……オシュトル様の助けがなければ、どうなっていたか……」

 

 あの日のことを思い出す。

 彼が助けに来てくれなければ、妖魔に全員殺されていたかもしれなかった。間一髪のところでオシュトル様が来たから良かったものの、もう少し遅ければ確実に私は殺されていました……。

 

「とにかく、雪泉殿が無事で何よりである。某の命の恩人なのでな」

 

 そう言って、オシュトル様はにこやかに笑う。自分の事より私の事を心配してくれるなんて……。

 

(何故でしょう……彼を見ているとドキドキします……)

 

 顔も熱くなり、今まで抱いた事の無かった感情に少し戸惑う。

 私はオシュトル様に悟られないよう普段通りの口調で言った。

 

「オシュトル様も私の命の恩人ですよ。傷まで治してくださいましたし」

 

「お互い様というわけか……それは何とも、可笑しなものであるな」

 

「ふふっ、そうですね」

 

 二人で思わず苦笑する。

 そういえばまだ彼にお礼を言ってませんでしたね。そう思い、オシュトル様と向き合う。

 

「あの……私達を助けてくださり、本当にありがとうございました」

 

 改めてオシュトル様にお礼の言葉を述べ、座ったままお辞儀をする。

 

「気にせずともよい。某は其方達を死なせたくなかっただけなのだ。故に、礼を言われるようなことはしておらぬよ」

 

「……オシュトル様は謙虚なのですね」

 

「某の性分なのでな。気に障ったのであれば謝罪しよう」

 

 なんとお堅い殿方なんでしょう……それだけでなく謝罪までされてしまいました。私も頑固だの、融通が利かないだの、よく皆さんに言われるのですが、オシュトル様はそれを上回っています。

 

「では、オシュトル様。私に何かできることがあれば、遠慮なくおっしゃってくださいね。なんでも(・・・・)致しますから」

 

 殿方は『なんでも』という言葉に弱い。それを知ったのは花嫁修行をしている際、小百合様に教えてもらいました。なので、私はあえて『なんでも』の部分を強調して言った。

 清廉潔白とはいえ、オシュトル様も男の人です。少しはなびくと……思いたいです。

 

「ふむ……では雪泉殿に頼みがある」

 

「は、はい! なんなりとお申し付けくださいっ」

 

 

 

 

「この街の案内をして頂けるか?」

 

「………………はい?」

 

 私が期待していた反応とは全然違いました。

 

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 翌日。

 私とオシュトル様は町に出掛けることになりました。昨夜のことを月閃の皆さんに話し、皆さんもどうですかと誘ったのですが、逆に『二人で行っておいで』と見送ってくれました。美野里さんだけは、一緒に行くと最後まで言っていましたが、夜桜さん達の必死の説得をへて事なきを得る。

 そして今、私達は浅草寺の通りを歩いていた。

 

「オシュトル様、随分と目立っていますね……」

 

「おそらく、この仮面(アクルカ)が原因であろうな」

 

 道行く人の殆どがオシュトル様に注目していました。しかし、その視線は好奇な目で見ているのではなく、どちらかと言うと羨望の眼差しと言った方がいいでしょう。

 

「……多分、仮面のせいだけではないと思います。オシュトル様は、この辺りで有名になってますから」

 

「む……そうなのか?」

 

 そう。オシュトル様は、この前の妖魔事件ですっかり有名になってしまっていたのです。たった一人で大群の妖魔を殲滅する……それは誰にでもできることではありません。つまり、若い忍や子ども達にとってオシュトル様は憧れの存在になっています。

 

「あ! 雪泉ちゃん!」

 

 後ろを振り返ると、そこには私のライバルであり友達でもある半蔵学院のリーダー……飛鳥さんが立っていました。

 

「飛鳥さんではないですか。今日はどうなされたのですか?」

 

「ばっちゃんに大福買ってきてって頼まれちゃったんだ〜、ん? 雪泉ちゃんの隣にいる人って……」

 

 飛鳥さんは私の隣に立っているオシュトル様に目を向けた。すると、オシュトル様は飛鳥さんに自己紹介をした。

 

「飛鳥殿と言ったか、お初にお目にかかる。某はオシュトルと申す」

 

「やっぱりオシュトルさんだったんだ……ばっちゃんから聞いた通りだったよ」

 

「ばっちゃん?」

 

「オシュトル様、飛鳥さんは小百合様のお孫さんなんですよ」

 

「なんと、そうであったか」

 

 すると、オシュトル様は飛鳥さんの顔を見る。小百合様のお孫さんと知って興味が出ているんでしょうか。

 

(……ちょっと見過ぎじゃないですか? あと、どうして飛鳥さんも満更では無さそうなんですか?)

 

 そんなことを考えていると、飛鳥さんが意地の悪そうな顔をしてこちらを見ていた。

 

「ところで、雪泉ちゃんとオシュトルさんって付き合ってるの? なんだか、仲良さそうに見えるけど」

 

「わ、私とオシュトル様が……ですか?」

 

 チラりとオシュトル様を見る。しかし、彼は動揺しておらず、むしろ和かな表情で返した。

 

「確かに、雪泉殿は魅力的な女性である。故に、某のような無骨者では釣り合わぬよ」

 

「え…? 魅力的な……女性……///」

 

 オシュトル様にそう言われ、体が熱くなる。

 

「ふふ、雪泉ちゃんってば顔真っ赤だよ? 可愛い!」

 

「あ、飛鳥さん……からかうのはやめていただませんか?」

 

 流石に恥ずかしくなり、飛鳥さんにやめるよう懇願する。ですが、私の反応が面白くなってきたのか、飛鳥さんはやめてくれません。

 それを見兼ねたのか、オシュトル様は助け舟を出してくれました。

 

「時に飛鳥殿、其方は掲示板のある所を知っているか?」

 

「掲示板? それならあそこの門を右に曲がったらあるけど……」

 

「感謝致す。では雪泉殿、行くとしよう」

 

「は、はい……では飛鳥さん、また」

 

「う、うん……なんだろう、この敗北感」

 

 

 

 

 飛鳥さんの言った通りの道順で行くと、本当に掲示板がありました。

 掲示板には、様々な募集があった。溝浚いや屋根の修理、荷運びに妖魔退治なんてものもあり、報酬金はかなり弾んでいる方です。

 オシュトル様が私に案内を頼んだ目的は、職を探すためのようでした。

 

「もしかしてオシュトル様、働くのですか?」

 

「ああ、いつまでもぐうたらとしているわけにはいかぬからな」

 

「……別に、ぐうたらしていたわけではないと思いますが」

 

 思わずツッコみを入れる。オシュトル様は怪我を治すことに専念していただけなのに、それをぐうたらと言うのです。ぐうたらではなく、療養と言った方が正しいと思います。

 

「一つ申し上げてもよろしいでしょうか?」

 

「構わぬ。申してみよ」

 

「オシュトル様は、この町の有名人なのですよ? 皆さん、萎縮してしまうのではないでしょうか?」

 

 オシュトル様は有名になっているため、働こうにも働けない可能性があります。ひょっとすると町中で勝負を挑みに来る輩もいるかもしれません……そうなって来ると、オシュトル様はもちろん町や住人に危害が出てしまわないか心配です。

 ですが、オシュトル様には考えがあるようでした。

 

「そのことについてだが、某に考えがある。心配はいらぬよ」

 

「考え……ですか?」

 

 そう言いながら首を傾げる。

 

「うむ、実際に見てもらった方が早いか。暫しの間、そこの長椅子(ベンチ)で座って待っていてくれまいか? すぐに戻って来る故」

 

「は、はい……わかりました」

 

 オシュトル様の考えとは何でしょうか。私は言われた通り、ベンチに腰をかける。

 

 

 

*********

 

「いよう! 待たせたな」

 

 暫く待っていると知らない男の人がやって来た。

 

「あ、あの……貴方は?」

 

 目の前にやって来たのは、顎髭をたくわえ、ボサボサの髪をした男の人でした。なんだか態度も垢抜けて、サバサバとしている。

 

「俺かい? 俺は、しがない風来坊のウコンってモンだ。よろしくな」

 

「は、はぁ……」

 

 これが俗に言うナンパでしょうか?

 人生で初めてナンパをされたのでどうすればいいのか判りません……。

 

「そんじゃ、腹も空いたし、どっか食いにでも行くとしようぜ。俺が奢ってやっからよ!」

 

「す、すみません……人を待っているので……」

 

「なんでぇ、まだわからねぇのかい? 意外と薄情な娘だねぇ」

 

「え?」

 

 男はニヤリと笑うと人が見ていないのを見計らい、付け髭を取り、髪を整える。するとそこには、見た事のある男の姿がありました。

 そう、目の前にいた男はオシュトル様だったのです。

 

「雪泉殿、某だ」

 

「オ、オシュトル様?!」

 

「雪泉殿にもバレなかったということは、某の変装も捨てたものではないな」

 

 口が塞がらないとはこの事です。あのお堅いオシュトル様が、サバサバとした言動をとり、雰囲気も全然違っていたので、まったく判りませんでした……。

 すると、私の表情があまりにも面白かったのか、オシュトル様は再びウコンに変装する。

 

「どうでぇ、驚いただろ?」

 

「えっと……何からおっしゃっていいのか……」

 

「おっと、この姿の時はウコンって呼んでくれよ?オシュトルってバレると変装の意味がねぇからよ」

 

 ウコン様……元い、オシュトル様はニッと笑い、こめかみを掻く。その仕草がオシュトル様の時とあまりにもギャップがあったため、思わずドキッとしてしまっていた。

 

「……」

 

「ん? もしかして、幻滅しちまったか?」

 

「い、いえ……そんなことはありません。オシュ――ウコン様……」

 

「そうか。んじゃ、何か食べて帰るとしようぜ……と思ったが、夜桜のネェちゃんが作ってくれるんだったな。真っ直ぐ帰るとすっか」

 

「はい、そうですね」

 

 オシュトル様の変装に驚きましたが、話しをしていくうちに慣れていった。

 このあと私達は寄り道せずに、色々と話しながら帰宅したのですが、オシュトル様はウコン様の姿のままで帰ってしまい、夜桜さん達に不審者扱いをされて追い出されそうになったのはまた別の話です。

 

 

 

♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢

 

 三週間後。

 某は色々な仕事をこなしていた。もちろん、オシュトルとしてではなくウコンの姿でだ。溝浚いや屋根の修理、賊を捕まえたり、妖魔討伐等をしていたのでお金は直ぐに貯まった。

 彼女らに恩を返すため、半分は雪泉殿達に給付した。雪泉殿達は、某が稼いだのだから要らないと遠慮していたのだが、『某をここに住まわせてくれているせめてものの礼だ』と、半ば無理矢理渡した。少なくとも、美野里殿や四季殿は喜んでくれていた。

 そして、今日は休日である。

 

「オシュトルちーん、あたしとどっか出掛けなーい?」

 

 外で剣の稽古をしていると四季殿がやって来た。雪泉殿達も今日の修行はお休みで自由行動らしい。一旦稽古を中断し、四季殿に目を向ける。

 

「出掛けるのであれば、某ではなく雪泉殿や美野里殿らを誘えばよいではないか。なぜ某なのだ?」

 

「相変わらず堅いなぁ、オシュトルちんは。あたしとデートしたいとか思わないの?」

 

(デートとは……確か異性と出かけることであったな)

 

「四季殿、某のようなつまらぬ男を相手にしても楽しくはならぬよ。デートをするなら、某よりも良い男としてはどうだ?」

 

「いやいや! オシュトルちんは強くてイケメンで、あたし達のことを想ってくれてるしで……まさにあたしの理想の男の人なんだけど……///」

 

 何故か四季殿は顔を赤くし、段々と声が小さくなる。よく聞こえなかったため、『何か言ったか?』と言おうとしたが、後ろから聞こえてくる元気な声に遮られた。

 

「オシュトルさーん!」

 

 声の主は美野里殿であった。美野里殿は勢いよく某の背中にギュ〜ッと抱きつき、その身を擦り寄せる。

 

「おっと……どうしたのだ、美野里殿?」

 

「えっとね! みのりと一緒にお菓子作らない? オシュトルさんの分は多めにするから!」

 

「ちょっと美野里ちん? あたしが先に声掛けたんだケド?」

 

 見ると明らかに不機嫌そうな表情をしていた。すると、四季殿は某の腕を引いた。

 

「どっちが先とか関係ないもん! オシュトルさんは、みのりとお菓子作りするんだから!」

 

 その時、もう片方の腕を美野里殿がより強くギュッと掴んでいた。言うなれば、綱引き状態である。

 

「あたしとデートするの〜!」

 

「みのりとお菓子作りするの〜!」

 

「ぬ……」

 

 ギチギチ……と軋むような音が聞こえた。それは服が引っ張られて上げる悲鳴だった。もはや服が破けてしまうのは時間の問題かもしれない。そう思っていると……。

 

「オシュトルさん、わしの料理の味見をして――なんじゃこの状況は!?」

 

「オシュトル殿、我の描く漫画の参考に――これは……」

 

 そこへタイミングが良いのか悪いのか、夜桜殿と叢殿がやって来た。困ったことに、どうやらこの二人も某に用があるらしい。

 

「む? 夜桜殿と叢殿か」

 

「こ、これは一体?」

 

「どういう状況だ?」

 

 

 今起こっている状況について話す。四季殿と美野里殿も夜桜殿らが来たことに気付き、引っ張っていた手をピタッと止めて事情を話す。そこで、黙って聞いていた叢殿が口を開いた。

 

「なるほど……二人でオシュトル殿の取り合いをしていたわけか」

 

「でもでも、あたしが先に声掛けたんだよ? 美野里ちんは引くべきだって思わない?」

 

「そんなのずるいよ! みのりだって、オシュトルさんと一緒に過ごしたいのに!」

 

「はいはい、やめやめ」

 

 再び喧嘩が始まりそうになり、夜桜殿が二人の間に割って入る。

 

「ふむ……しかし困った。我もオシュトル殿の動きを参考に、漫画を描きたかったのだが……」

 

「わ、わしだって料理の味見を頼みたくて……その……」

 

 四人はそれぞれ、顔を合わせる。

 気のせいか空気が重くなったような気がした。そこで四季殿は某に目を向け、口を開く。嫌な予感しかしないのだが……。

 

「こうなったら……オシュトルちんに決めてもらうしかないね!」

 

「は?」

 

 いきなり起こった急展開に、思わず素の声が出てしまっていた。見れば他の三人もハッ!と気づいたようにこちらに目を向けている。

 

「そうじゃな! 四季の言う通り、ここはオシュトルさんに決めてもらいましょう!」

 

「我も依存はない」

 

「みのりもそれでいいよ!」

 

「さあ、オシュトルちん! 誰と過ごすの?」

 

 四人は同時にこちらに詰め寄る。この状況を回避するため、某は素早くウコンの姿に変装する。

 

「おいおい、俺はオシュトルじゃなくてただのしがない風来坊のウコンだぜ? あのような男前と一緒にされるのは光栄だねえ」

 

「「「「………」」」」

 

 わざとらしく時計を見るフリをしながら、誤魔化すことにした。

 

「おっと、もうこんな時間か。じゃあ娘さん達! また会おうぜ!」

 

 考えが甘かった。四人は即座にこちらの両手両足をガシッと掴んでいたのだ。なんという早業……その表情は絶対に逃がさないという獲物を狙う目だった。

 

「うおッ!?」

 

「ウコンちんに変装しようが関係ないよー? もちろん、あたしとデートするよね?」

 

「逃さぬぞ……我の漫画のためにも」

 

「一体誰と過ごすんですか? 早く決めてください」

 

「当然、みのりだよね? 一緒にお菓子作ろ!」

 

 彼女達は逃してくれるなんてことはなかった。

 某は既視感を感じつつも、おそるおそる彼女達に問いかける。

 

「な、なぁ? 俺に拒否権は……」

 

「「「「ない(です)!!!!」」」」

 

 どうしてこうなった……この既視感にようやく気付いた。この状況はハクと全く同じだ。

 

(アンちゃんの気持ちが判った気がするぜ……)

 

 

 

 結局、四人全員と過ごすことになった。

 四季殿に服を買うのに付き合わされ、美野里殿には甘い菓子をたくさん食わせられ、さらに夜桜殿の料理を二十品も食べさせられた。その後、腹がいっぱいだったところを叢殿に剣技を披露してくれと言われ、某にとって散々な休日だった。

 この後、雪泉殿に胃薬を貰ったので次の日の仕事には支障がなかった。

 




早めにウコン登場させました!その方が都合が良いので笑
そろそろ他のキャラも出していきたいのですが、どの子を出そうか悩みますね……。

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