ラッキーパンチを狙えクズ!   作:なっち様

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生き苦しい1

 ご利用は計画的に、というのはよく金融会社のCMなどで聞くが、そんなの全部に言えるだろう。

 酔っぱらったおやじに何度もしつこく言われなくたって分かってる。

 そのうえ言った側はさもいいことを教えてやったとしたり顔になるのだから辟易する。

 お前はそんなに偉大な人間か? 俺はそんなに馬鹿に見えるか?

 という言葉を呑み込んだのは前者と後者どちらが正しいのか分かっているからだ。

 

 そういうイライラがたまってくるとつい能力を使いたくなってしまう。

 青年、相澤孝人(あいざわたかと)は能力禁止処分を受けている。

 能力禁止処分とは過去に能力を用いて悪事を働いたものに一定の期間超能力の使用禁止を科す、いうなれば車の免停のようなものだ。

 相澤の場合は喧嘩した相手を洗脳して裸にして躍らせたことで科せられた。

 

 相澤としては喧嘩両成敗だと思うのだが一方的に相手に被害を与えたとしてこちらだけが処分を受けることになってしまった。

 相澤の能力でお互い殴り合うような状況になる筈もないのだが……。

 

 『精神感応』それが相澤が生まれ持った能力だった。

 テレパシー、洗脳、読心術といった精神に関することなら大抵できる能力だ、どんなに相手が強い能力を持っていても関係なしに洗脳して操り人形同然にしてしまえる能力でどうして一方的以外の状況になりえようか。

 そもそも喧嘩になった原因は相手にあったのだ、なのに相手が弱かったから俺が悪いことにされた、と相澤は思っている。

 

そうは言ってもここで能力を酔っぱらったおやじ相手に使うわけにもいかなかった、能力禁止処分されてからやっと見つけたバイトだ早々にクビになるわけにはいかない、というのもあるが理由はそれだけではない。

相澤は隠すように腕のタイマーを抑えた。

このタイマーについて時計の機能だけでなくいろいろと高性能だと禁止処分を受けたときに支給され機能について説明されたが相澤は少しも覚えていない。

彼が知っているのは能力を使ったら通知が保護観察所に送られるということぐらいだ。

保護観察が解かれる期間は三か月先だと言われてから二か月がたった、ここで使ったら二か月の努力が無駄になってしまうと考えたらとても使う気にはならなかった。

 

 

「相澤君、ちょっといい?」

 

 上がりの時間が近づき、酔った客の相手が嫌になってきた相澤が時間が過ぎるのが早送りになることを祈っていたころに店長に呼ばれた。

 相澤は嫌な予感がした。

 

「なんすか?」

 

「それがねぇ、麻衣ちゃん風邪で来れなくなっちゃってもう少し居てもらっていいかな?」

 

「……ダイジョブです」

 

「悪いねぇ、しばらくしたら遼くんが来るからそれまでお願いね」

 

 両手を合わせて断わられないと分かっている‘おねがい‘をされる。

 雇われの身の相澤には頷く以外の選択肢はない。

 

「ういっす」

 

 麻衣ちゃん最近風邪多くないですか?

 というか店長も絶対サボりだってわかってるだろ、とそんなことを言う勇気はないから口が裂けても言えないが、相澤は口が裂けても言えないことを言わせるのは好きだった。

 一か月後の楽しみが出来たと自らを慰めて厨房からホールに戻った。

 

 相澤孝人は決して性格のいい人間ではない。

 能力の悪用はするし、それに関して良心の呵責を無視できる人間だ、もっとも一度無視した良心からの警告はどんどんと弱くなっていったが。

 別段それを悪いことだとは考えていなかった。

 小さなころから『精神感応』の能力を持っていた相澤は人の心の内をよく見て育った。

 はじめはじゃんけんで、つぎはババ抜き、つぎは喧嘩、最後には日常で、人の心を覗くことに抵抗がなくなった時には人の心の『普通』が分かるようになっていた。

 

 醜い。

 

 ただこの一言に尽きるのだ。

 醜いことこそが普通であり、正常な状態なのだと相澤は幼くして知った。

 そして成長した彼も他の人間と同じように普通になった。

 

「お疲れ!悪かったね」

 

 バイト上がり、結局暫くというのは二時間後だった。

 たった二時間も希望の後にやってくるととても長く疲れる時間だった。

 

 明日の講義が昼からでよかったと思いながら相澤は飲み屋を後にした。

 八時間ぶりのスマホには通知が三個しか来てなかった、それもカラオケ店のクーポンとパチ屋の新台入れ替えのお知らせというのだった。

 内容を表示することもなく鞄にそのまま放り投げる。

 

「つまんね」

 

 家に帰っても飯の用意をしてあるわけでもないし、どこかで食べてくか、それなら賄い貰えばよかったな、なんて考えながら相澤は駅前を歩き出した。

 こんな時間でもどこかやってるだろ、とあたりを見回しても飲み屋ばかりのなかにラーメン店を見つけた。

 そこでバス停のあたりに人が集まっているのに気が付いた。

 

 相澤がその中に以前お世話になった服装の人が混じり込んでいるのを見つけた。

 ――警察だ。

 何事だろうかと相澤の中で興味がわいた、ということは周りの人間は野次馬かと自信と同じ感情に動かされた人の群れを見る。

 相澤もその中に加わった、こういう時自分が高身長なのは幸いだ。

 ――ってなんてつまらない幸いだよ。

 まず警察の人が見えた、何かにずっと呼びかけを行っている、少し背伸びをしてみる。

 警察の人が呼びかけていたのは女だった、しかも横たわっている。

 

「えっ!?」

 

 思わず口から驚きの言葉が出てしまった。

 かなり大きな声だったが隣の人間が視線をよこしたくらいでほかの周囲の人間は興奮しているせいかはあまり気にしていないようだった。

 だが、相澤は隣がこちらに視線をよこしたことすら気づかなかった。

 倒れていた女を相澤は知っていた、話したこともある。

 

「麻衣……?」

 

 倒れていたのは今日バイトをサボったであろう麻衣だった。

 

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