ラッキーパンチを狙えクズ!   作:なっち様

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第3話

 

 2日後、大学の講義が終わって帰る、底辺大学で留年をしかかっているというのだから笑えない。

 全部自分の責任だ、誰も助けてはくれない。

 相澤は自分が大学を卒業して就職するという未来がどうしても見えなかった。

 自分の人生を人に語れる形にするには、いや、せめて見苦しくしないようにするにはもうこのまま不慮の事故や病で倒れて死ぬしかないのではないかという考えがここ最近は浮かんでは消える。

 いっそ隕石でも衝突して地球がなくなってしまえばいいのに。

 

 帰り道、大体の学生は2、3人で集まって帰るなか相澤は一人だった。

 別に友達がいないわけではないけど、多くはいないしその大体が一年生の頃に知り合った奴だ。

 大学からアパートは近い、そして安い。

 相澤としては値段のことについて思うことはあまりない、せいぜいが家賃を負担してくれている親はありがたいだろうな、というくらいだ。

 だからせめてもの義理で卒業はしなくてはいけないと思うと胸に鉛が詰め込まれたような気分になった。

 

 自然とうなだれていた頭をあげると見知らぬ女が相澤の部屋の前で立っていた。

 

 同年代だろうか?同じ大学生が集まったアパートだが相澤はその女を初めて見た。

 ボブカットで茶色いTシャツにジーパンのその女は相澤の部屋の前で腕を組んで待っていた。

 ――どうしよ、なんて声かけたらいいんだろ。

 ここは無難に「こんにちは」だろうか、と考えているうちに女の方から相澤が返ってきたことに気が付いた。

 

「相澤孝人あいざわたかとさんですよね?」

 

「はい、そうですが……」

 

「姉がお世話になりました、それでお話を少し伺いたくて待たせていただいたんですけど」

 

「はい?姉ですか?」

 

 ただでさえ友人の少ない相澤に女の友人はいない、相澤は心当たりが全くなかった。

 その様子にその女は歯とした顔になった。

 

「申し遅れました、長瀬麻衣の妹の長瀬佳央梨ながせかおりです」

 

「ああ、あいつの」

 

 どうやら麻衣の妹らしい、いわれてみれば顔が似てるような気がする、その麻衣の妹が一体何の用だろうか。

 

「それで聞きたいこととは?」

 

「はい、それなんですが……」

 

長瀬佳央梨はあたりをきょろきょろと見回し

 

「ちょっと中でお話しさせていただいてもいいですか?」

 

 と言った。

 いきなりの来客で人に見せれる部屋の状態の自分は相当ラッキーなのではないだろうかと相澤は思った。

 だが、悲しいことに人に聞かれたくない話をするには相澤の部屋の壁は薄すぎるのだが、佳央梨がそのことを知ってるはずは無かった。

 かといって聞き耳を立ててくるような相手は相澤にはいないが。

 

「そこに座ってください」

 

 相澤は手でこの部屋に二個だけあるクッションを指し示した。

 相澤の部屋は流行りのゲーム機と親に買ってもらったテレビ、冷蔵庫の他にパソコンなどを置く勉強デスクがおいてあるくらいで、床にはクッションしかなくお茶を出しておくようなテーブルもない。

 ベッドは壁を繰り上げて作ったような壁と一体化したものだ。

 

「はい、あ、お邪魔します」

 

 佳央梨は少し部屋を見回した後、玄関を通り言われたクッションにおとなしく座った。

 

「それでお話というのは?」

 

「は、はい、まずは姉が亡くなったことをお知らせしなくてはいけません」

 

「あぁ、その話ですか」

 

「知っていたんですか……?」

 

 正確には知らない、けど死ぬのを想像で補えるくらいには知ってるが正しい。

 

「麻衣さんが救急車で運ばれてくのを見まして」

 

 本当はそこも見ていない。

 

「……そうですか」

 

「はい、この度はご愁傷さまです。

麻衣さんには俺もよくしてもらっていて……」

 

 よくしてもらってなんだろうか?悲しいのか?悔しいのか?

 こういうとき『普通』はどう思ってどういうべきなのか相澤は分からなかった。

 

「こちらこそ姉がお世話になったみたいで」

 

 建前が相澤は大嫌いだ、相澤は常に本音に触れて生きてきたからだ。

 

「それで本題なんですが」

 

「はい」

 

「最近姉が何かお渡ししませんでした?」

 

「いえ、特には」

 

「……そうですか?では変わった様子とかあったりしませんでした?」

 

「変わった様子ですか?」

 

「はい、どんな些細なことでも構わないので教えてください」

 

 何かを受け取った覚えは無かったが、それなら何か思い当たるかもしれないと考え相澤は自分の記憶を探ってみる。

 女性店員ということもあり飲み屋ではよく話しかけられていて、相澤よりも客に知り合いが多かったこと、学校から直接バイトに来ていること。

 順々に思い浮かべていき、変わったことと言えるものを一つだけ思い当たった。

 

「そういえば、最近アルバイトを休みがちでしたね?」

 

「アルバイトですか?」

 

「はい、シフトを入れないのではなく当日になって急に来れなくなることが多かったです」

 

 付け加えるなら麻衣のシフトはそんなに多い方でもなかった。

 

「理由は知ってます?」

 

「風邪や体調不良ですかね、失礼な話、僕はサボりだと思っています」

 

 ――もし本当に体調不良で死んだとしてその兆候に気づかなかった俺にも責任があるのだろうか、面倒だぞ、死ぬなら一人で死ね、死んでまで人の足を引っ張るな。

サボったくせに偶然それらしい症状で死んだとかいうオチはやめてくれよ?

 

「バイトを休んだ日に何をしていたかは知らないですよね?」

 

「はい、そこまでは。

あっ、でも麻衣さんが倒れた日、本当は麻衣さんシフト入れてたんですけど風邪で来れなくなったという連絡が着ました」

 

「そうなんですか」

 

 あの日だけは確実に麻衣がサボったと言える日だった。

 一体何をしていたのか佳央梨が知りたいのはそこだろうがそこまでは相澤も知らなかった。

 逆にここにきて相澤は1つ知りたいことができた。

 能力が使えれば勝手に心の中を覗き込めたが、今はわざわざ聞かなくてはならないのが不便に思える。

 人に質問をするってこんなに怖いことだったかと相澤は思い出した。

 

「あの」

 

「はい?」

 

「どうしてこのようなことを聞きに来たんですか?」

 

 これが相澤の聞きたかったことだ、もしかして本当に責任をとらせに来たのだろうか。

 

「……それは」

 

 佳央梨は明らかに言いよどんだ。

 どうやら責任というのは相澤の杞憂らしい、ここまで話を聞いて今そのことを言わない理由は無いだろう。

 では、一体話を聞いてどうするつもりだったのだろうか。

 

「実は、姉は殺害されたかもしれないんです」

 

「……それは、その許せないことですが、なぜあなたが聞き込みを?

そういうのは警察の方に任せた方がいいのではないでしょうか」

 

 麻衣が殺されたというのはこの際置いておくとして。

素人がいたずらに聞きまわるのは良くないだろう、もし相澤が麻衣を殺害した犯人だったらどうしていたのだろうか。

 

「もちろん犯人の捜索などは警察に任せてます。

私が探しているのは姉の遺産なんです」

 

「遺産?何ですかそれ」

 

「三千万」

 

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