Mystery of Nameless   作:hilite989

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Fifth Mystery Report side EXILE

 地球歴186年。大破壊による環境汚染から数百年が経過し、人類は地下都市レイヤードに囚われていた。

 

 レイヤードを統括していたAI「管理者」が秘匿していた地上環境の回復、それに伴う反体制組織「ユニオン」との衝突。

 

 結果、管理者は打ち倒され、人類は地上へ進出する。

 

 それが、今から十七年前の出来事――『レイヤード紛争』である。

 

 そして以下のレイヴンは、そんな騒乱の時代に活動していたとされていた。

 

 レイヴンネーム:エグザイル

 ACネーム:アフターペイン

 

 幾多の戦場に出没し、数多くのレイヴンを葬ってきた。

 倒したACのコアに大きな風穴をあけていくらしい。

 その実力はランク1のエースをも凌ぐという。

 

 備考:補填ランカー。

 

 

 状況説明。

 

 日時:地球歴187年4月1日。午後15時34分(レイヤード紛争終結から一ヶ月が経過)

 場所:レイヤード第三層産業区内封鎖セクション「114」。

 戦力:AC、一機。MT「スクターム」、六機。

 補足説明:レイヤード紛争終結後、企業の部隊や管轄セクションが所属不明のAC/MT部隊に襲撃をされる事件が多発していた。

 特に地下セクション業務に注力していたクレスト社はこの事態を重く受け止め、セクション544を襲撃した敵部隊を追跡。その結果、レイヤード第三層産業区内封鎖セクションで活動しているのを突き止めた。

 クレスト社は自社の戦力に加えて、アリーナランカーである「アップルボーイ」に部隊の壊滅を依頼する。

 

 レイヴンネーム:アップルボーイ(B-4ランカー)

 

 ACネーム:エスペランザ

 

「未熟な新人レイヴンだったが、今ではその素質が開花し、飛躍的な成長を遂げつつある。機体はシンプルなものだが、操縦技術の向上と持ち前のセンスの良さによって、性能以上の結果を発揮している」

 

 ここから先の映像コンテンツは、ACのシミュレーターソフトで再現したものである。

 

 

 

「エコーよりHQ(ヘッドクォーター)。現在、二部隊に分けて物流カーゴに搭乗中。セクション114には三分後に到着予定」

 

「HQ、了解」

 

 データリンクされたスクターム部隊及びクレスト社のオペレーターとのやり取りが、HMDに内蔵された骨伝導スピーカーから聞こえてくる。

 

 アップルボーイはそれを聞きながら、モニターに映し出される光景――前方に三機のスクタームが隊列を組んで待機しているの、背後から眺めていた。

 

「オペレーターよりレイヴンへ。クレスト社からセクション114のマップデータを受信。転送させます」

 

「了解」

 

 女性オペレーターから作戦領域であるセクション114のデータが転送されたことを、コクピットシート手前のコンソールが通知音と共に知らせる。

 アップルボーイは人差し指でタッチパネル式のコンソールを操作し、転送されたデータをダウンロードする。

 

 メインモニターの右上にサブウィンドウが表示されると、3DCGで描写されたセクション114が映し出された。

 

「セクション114はCランクの地下都市です。北部は鉱物資源の採掘場を兼ねているため、約3キロに及ぶトンネルが設けられています」

 

 データリンクしているオペレーターからの補足説明をアップルボーイは聞きながら、セクション114の構造を確認する。

 ありきたりな正方形の構造をした地下都市だが、その北部は凸型を彷彿させるような、巨大なトンネルが区画を繰り抜いていた。

 

「敵部隊はトンネル内に拠点を敷いているあるいは待ち伏せをしている、と見ていますが」

 

 都市部に拠点を置くよりかは、待ち伏せにうってつけなトンネル内に潜伏しているとアップルボーイはオペレーターに意見を求めた。

 

「その通りです。トンネル内には、いくつかの資材保管庫や工業用MTの格納スペースが設けられています。また、トンネルの規模は複数のACが戦闘を行っても支障がありません」

 

「市街地での戦闘は不利と見越して、閉所での待ち伏せ戦法――トンネルには近隣のセクションに続く通路やカーゴなどは配置されていますか」

 

 敵の増援、あるいは退路の可能性――アップルボーイはトンネル内での戦闘に備えて、想定外の可能性をオペレーターに確認する。

 

「いいえ。少なくとも、一年前に廃棄された時点でそのような設備等はクレスト社から提供されたデータには確認していません。この短期間で近隣セクションのルートを形成することは不可能です」

 

 オペレーターは淡々とクレスト社から提供されたデータを分析し、アップルボーイに報告した。先の紛争を辛くも生き残ったのも、このオペレーターの冷静な分析や報告に他ならない。

 増援や撤退する敵部隊の追撃などの可能性はない、という彼女の言葉を聞いて、懸念事項の一つが消えた。

 

「敵部隊の詳細について、何か更新はありますか」

 

「情報の更新はされておりません。敵戦力、重量二脚型AC及びフィーンド-NB、ギボンの報告のみ」

 

 ごくありきたりな、AC/MT混成部隊。しかし、その目的は不明瞭だった。クレストだけではなく、ミラージュ、キサラギの三大企業のセクションを襲撃している。

「管理者崇拝主義」、あるいはそれの皮を被った「ユニオン」の残党――その目的を探るのは、アップルボーイの仕事ではない。

 

「エコーよりレイヴンへ。まもなくセクション114に到着する。我々の部隊は二手に分かれて、まずは市街地を探索する」

 

「了解です。こちらは自由行動を取らせてもらいます」

 

 アップルボーイはエコーに返事をすると、上下に揺さぶる衝撃が襲い掛かる。それは敵襲ではなく、カーゴがセクション114に到着したことを知らせる音だった。

 ゲートが開く動作音と共に、文字通り廃れている光景がモニターに映し出される。

 

 ボロボロになったビルの外壁、乗り捨てられた車両の数々、アスファルトの道路は穴が穿っていたり、亀裂が生じている。

 セクション114はレイヤード紛争以前から資源採掘――主にレアメタル――を巡る企業間紛争に巻き込まれていた。

 

「資源を巡る戦いは、悲惨ですね」

 

 朽ち果てたビルをモニターで確認しながら、アップルボーイは呟く。

 セクション114はクレスト社による自社部隊やレイヴンを雇っての防衛部隊を配置していたものの、他企業による襲撃によって、補修すらままならない状況になっていた。

 

 レイヤード紛争時にはレアメタルの採掘も目途がつき、情勢不安も相まってクレスト社はセクション114の廃棄を決定――以後、一年余り放置されている。

 

「エコー1は市街中央に向けて移動中。異常なし」

 

「デルタより各ユニットへ。こちらは西方面から採掘トンネルに向けて進行中。特に目立った形跡は見られず」

 

 中央、西方面と進行しているスクターム部隊からの報告をアップルボーイは聞きながら、エスペランザの左背部に搭載された索敵レーダー「MRL-RE/111」から収集される熱源反応を確認する。

 

 レーダーの索敵範囲は市街中央部の熱源反応まで感知しているが、エスペランザよりも前方に進んでいる六機のスクタームしか反応していない。つまり、索敵範囲内には友軍機しか居ないということだった。

 

 市街中央部に到達すれば、レーダーの索敵範囲が採掘トンネルを感知できる。

 通常の歩行では、約三分後には中央部に到達。ブースト移動をすれば、一分もかからずに到達できるが――あくまで、スクターム部隊を先頭にするのに変わりはない。

 

 敵部隊がAC/MTである以上、先陣を切って交戦するにはリスクが高い。物は言いようだが、スクターム部隊は斥候――アップルボーイにとって囮だった。

 

「エコーは市街中央部に到達。周辺に熱源反応は見当たらない」

 

 先行していたエコーチームのスクターム部隊が、市街中央部に到達。しかし、敵の反応が無いことを告げる。

 アップルボーイは傭兵という立場の都合上、依頼元の部隊からの戦術データリンクは提供されていない。そのため、先導しているスクタームから収集された索敵情報をアップルボーイは精査できなかった。

 

「こちらデルタ。大破直後だと思われるMTの残骸を確認。機体の損壊が激しいが――恐らくギボンだ。画像を転送。精査を求める」

 

 西方面に進行しているスクターム部隊、デルタチームからの報告を聞いてアップルボーイはエスペランザを停止させた。

 

「こちらオペレーター。データを受信した。画像照会を開始――ギボンで間違いない。デルタは周囲を索敵し安全が確認次第、エコーと合流しろ」

 

「了解。これよりデルタ1-1は一帯の偵察に移る」

 

 クレスト社のオペレーターとデルタのやり取りを聞いたアップルボーイは、意図的にエスペランザの移動速度を遅くした。

 

「オペレーター、ここ直近でセクション114にて発生した戦闘はありますか?」

 

 デルタの報告が正しければ、破壊されたギボンがアップルボーイが追っている武装集団である可能性があった。

 

「先客」がいるのか、それとも過去の紛争の名残なのか、彼はオペレーターに情報を求める。

 

「ネガティヴ。直近でセクション114及び近辺で発生した交戦データ無し」

 

「了解。大破したMTに向かいます。周辺の索敵をお願いします」

 

 オペレーターからの報告を聞いたアップルボーイは操縦桿を慌ただしく操作し、エスペランザのブースターを駆動。

 推力によって押し出された機体は放棄された車両を足底で踏みつぶし、ブースターの噴射で建築物の破片を吹き飛ばしながら前進する。

 

 セクション114の地形データはあらかじめインプットされており、AIによる補助動作を受けたアップルボーイはエスペランザを器用に進ませていた。

 時速三〇〇キロの速度でなおかつ、入り組んだ市街地の道路を左右に切り返し。一歩間違えば衝突し、機体が大破してしまうかもしれない移動。

 

 一分もしないうちにエスペランザは盾とバズーカを腕部に装備した、ACよりも一回り小さい二脚型MT「スクターム」が集団で辺りを偵察している地点に到達。

 しかしアップルボーイはスクタームを気にもかけずに通り過ぎ、オペレーターがビーコンを置いた――大破したギボンの残骸の手前に到着した。

 

「大破したMTを確認。これよりスキャンします」

 

 エスペランザのカメラアイに映っている、ほぼ鉄くず同様の無残な正方形の残骸になったギボンの映像からオペレーターが情報を収集することを報告。

 

「スキャン完了しました。ギボンで間違いありません。装甲のダメージを分析するに、恐らく大破から数時間が経過している模様」

 

「厄介なミッションになりそうですね。エスペランザは市街中央のスクターム部隊と合流して、情報収集を行う」

 

 アップルボーイは本来交戦するべき相手だったギボンの残骸を一瞥し、市内中央に到達しているスクターム部隊、エコーと合流しようと操縦桿を動かした瞬間だった。

 モニター上部に表示されているレーダーサイトから北の方角――採掘トンネル付近に「赤い点」が浮かび上がった。

 

「採掘エリアにて敵熱源反応を確認。パターン分析――完了。ACのようです」

 

「生き残り、それとも先客ですか」

 

 オペレーターが感知された熱源反応の詳細をACと特定し、それを聞いたアップルボーイは考察めいた独り言をつぶやいた。

 もしこれが本来の目標である敵勢力の重量二脚ACであれば、なんらかの理由で随伴機であるギボンが故障、大破したのか。

 

 もしこれが第三者のACとしたら――敵か味方か――恐らく、敵だろう。

 アップルボーイはこちらとは敵対する関係だと思っていた。

 

「HQより全部隊へ。トンネル内に熱源反応を感知した。このまま前進し、採掘トンネルに向かえ」

 

 クレスト社のオペレーターも敵ACの反応をキャッチし、スクターム部隊に前進を命じる。

 一方のアップルボーイは脇道に逸れるようにエスペランザを移動させ、スクターム部隊に先行させた。

 

「敵ACは採掘トンネル内一〇〇〇メートル地点で停止」

 

「了解しました。向こうの詳細は掴めますか?」

 

「ネガティヴ。画像照会が必要です」

 

 そこまで聞いてアップルボーイはため息をつきながら、先行するスクターム部隊の後を追う。

 感知されたACがはたして本来の目標である武装勢力の重量二脚ACなのか、それとも「同業者」なのか見当がつかない。

 

 前進するスクターム部隊に追従する形でアップルボーイはエスペランザを操縦し、数分後には採掘トンネルの入り口に到達した。

 

「デルタはエコーと合流した。これより採掘トンネルに進入する」

 

 合流した計六機のスクターム部隊が採掘トンネルの手前で集結しているが、アップルボーイはレーダーサイトに微動だにしない熱源反応を凝視していた。

 

「こちらはクレスト社だ。敵機に告ぐ。投降する意志があるのなら、応答しろ」

 

 外部出力で投降を促すスクタームのパイロットが声がトンネル内に響く。しかし、応答は返ってこない。

 

「敵機より応答なし。デルタが先導してトンネル内を偵察する。エコーは後に続け」

 

「了解。追従する」

 

 それが罠である可能性も考えずにスクターム部隊は前進し、トンネルへと進入。返ってそちらの方が好都合だと言わんばかりに、アップルボーイのエスペランザは後続のスクターム部隊の後に続いた。

 

「AI、色調補正を」

 

「了解。モニターに色調補正開始――設定完了」

 

 採掘トンネル内は照明が落とされており、暗闇状態だった。アップルボーイはAIに命令して、色調補正――メインカメラを通して表示されるトンネル内の明るさを調整した。

 

 そのおかげで五〇〇メートル内は日中と変わらない明度でモニターに表示される。

 雑多に積まれたコンテナの中に砲撃の跡が壁や床を穿っており、それが過去のものなのか直近のものなのかは断定ができない。

 

「五〇〇メートルが限界ですね。敵AC視認まで残り十数秒。先行しているスクターム部隊がまもなく到着します」 

 

「破壊されたACを確認。作戦目標である重量二脚ACと断定」

 

 状況を説明するオペレーターの後に、先導するスクターム部隊からの報告が入った。それを聞いたアップルボーイはすぐさま操縦桿を動かし、エスペランザはブースト移動を開始した。

 あっという間に五〇〇メートル先で「それ」を囲んでいるスクターム部隊に追いつく。

 

「なんとまぁ、酷いやり方だ」

 

 アップルボーイは「それ」を見るなり、眉間に皺を寄せて嫌悪感を露わにした。

 片膝を突いて起動停止状態となった重量二脚ACのコアブロックに、大きな「穴」が穿っていた。それは誰が見ても操縦者の生死は分かってしまう。

 

「目標の敵ACで間違いはないです。それにしてもこの損傷、見たことがありません」

 

 オペレーターは珍しく感情的な言葉を出しながら、「それ」が作戦目標である重量二脚ACだと判断する。

 

「ギボンと同じく大破からの時間差が――先程の熱源反応の特定を急ぎます」

 

 オペレーターはレーダーサイトに感知された熱源反応がつまり――残骸となった重量二脚ACではないことを察した。アップルボーイが指摘するよりも早くオペレーターは動く。

 

 悪い予感がする。

 アップルボーイは「ざわめき」を感じてしまい、直感的にエスペランザを後退させようとした。

 

「距離約八〇〇、熱源反応を感知。ACです」

 

 ほぼ同時のタイミングでレーダーサイトに熱源反応が感知され、オペレーターが切羽詰まった声色でそれを伝える。

 

 刹那、けたたましい砲声が鳴り響き、エスペランザの前方に居たスクタームに襲い掛かった。

 対弾シールドを前面に突き出していたが、一瞬にしてそれが意味をなさない程に破壊され――スクタームは機体の各所から黒煙をくすぶらせながら起動停止する。

 

「砲撃、マシンガン」

 

 アップルボーイは先程の砲撃がAC用のマシンガンだと断定するとすぐさまエスペランザのブースターを起動し、機体を前に向いたまま後退。

 その間にFCS(火器管制装置)がメインモニターに感知された熱源反応を捕捉し、エスペランザの右手に装備された対ACライフル「MWG-RF/220」のロックオンマーカーを映し出された。

 

 アップルボーイは右手で握っている操縦桿の人差し指にあたるトリガーボタンを引いて、応戦射撃を行うとするが――レーダーサイトから熱源反応が消失し、FCSもそれにならってマーカーが非表示となる。

 

「FCS、レーダーサイトにも映らない。ステルスと見ていいですか」

 

 突然の事態にアップルボーイは慌てることなく、オペレーターに是非を問いかけた。

 レーダーやFCSに感知された自機の反応を妨害電波やノイズで「塗りつぶす」ことで、特定を防ぐECM攻撃。しかし、今の状況はECMによる妨害攻撃は感知されていなかった。

 

 残り二機となったスクタームは浮足立つが、その隙を逃がさずにマシンガンの砲撃が襲い掛かり、あっという間に壊滅する。

 

「ミラージュ社製のアクティヴステルスパーツだと思われます。駆動間隔を計算――五秒後に感知予定」

 

 オペレーターからの報告が終わると同時に大破されたスクタームから黒煙が立ち込め、トンネルに充満する。

 たださえ暗闇という視界不良の空間に追い打ちをかける環境の変化。

 このまま採掘トンネル内で戦うのは不利だと判断したアップルボーイはエスペランザを後退させつつ、アクティヴステルスが解除されるタイミングを見計らった。

 

「レーダーサイトに敵機感知。距離七〇〇」

 

 オペレーターの通信とほぼ同じタイミングでFCSが七〇〇メートル先の敵機を捕捉し、自動照準が完了したことをアラームで知らせる。

 アップルボーイは間髪を入れずに右トリガーを引いた。

「MWG-RF/220」から発射された四十五ミリメートル砲弾が飛来するも、遥か遠くの場所で着弾した爆発音が木霊する。

 

 FCSのロックオンマーカーは回避行動を取る熱源反応と連動し、左右に慌ただしく揺れ動く。つまり、回避されたということだった。

 するとお返しとばかりにマシンガンの砲弾がエスペランザに向かってくるが、アップルボーイは点在する機体の全長とほぼ同じ大きさのコンテナブロックの陰に隠れ、やり過ごす。

 

「敵AC、フロートタイプです」

 

 擬似重力装置を埋め込み、海上や荒地といった地形の影響を受けずに移動可能なホバリング型脚部「フロート」タイプの敵ACであるとオペレーターが報告した。

 滑り込むような機動で移動するフロートタイプは擬似重力装置を搭載している観点から、装甲や積載に弱点があった。

 

「フロートタイプですか。閉所にしろ市街戦にしろ、こちらの火力次第か」

 

 アップルボーイは冷静にフロートタイプの対処法――閉所やビルが乱立した市街戦ではフロートの機動力が潰されるため、こちらは火力を叩きこめばいいと考える。

 

「その認識で問題ないと思います。アクティヴステルスとの兼ね合いもありますが、ミサイル攻撃を推奨」

 

 オペレーターもアップルボーイの見方に忖度なく賛同した。

 彼の機体、エスペランザは背部兵装には垂直落下式のミサイルランチャーを搭載していた。しかし密閉型であるセクション114の地形を考慮し、ミラージュ社製小型ミサイルランチャー「MWM-S42/6」とエクステンションも同社の「MWEM-R/24」に換装。最大八基の小型ミサイルを射出可能だった。

 

 アクティヴステルスも使用回数に限りがあり、少なくとも敵ACは二回起動――最低でも残り三回ほどしか使用できない。

 

「デルタが全滅した。エコーはこれより敵と交戦する」

 

 冷静に状況を分析するアップルボーイの後ろから、残っているスクターム部隊が追撃を開始。それを尻目にエスペランザは武装を背部兵装のミサイルランチャーに切り替え、コンテナ越しに熱源反応を索敵した。

 

 モニター上に映し出されたロックオンマーカーが慌ただしく動きながら、連動してアラームがコクピット内に響く。

 熱源反応を示す逆三角形のマーカーが映し出されると、ロックオンマーカーが重なり合う。

 

 距離八〇〇。射出数三基。

 

「敵ACを視認。これより攻撃開始」

 

 同時にこちらの火力支援を受けずに突貫したスクターム部隊が敵ACと交戦する。

 

 距離二〇〇。射出数五基――熱源、ロスト。

 

「何かを切り裂くような鈍い音」と爆発音が同時に発生。爆風でコンテナが煽られ、その振動がモニターを揺さぶる。

さらに三基居たスクタームの反応がレーダサイトから消失。少なくとも、敵ACの大破ではないことは確実だった。

 

「スクターム部隊、全滅」

 

 アクティヴステルスの使用と同時に三機のスクタームが破壊されたことをオペレーターが報告。戦術も何もない戦法を取ったとはいえ、一瞬で三機も破壊できるのはアップルボーイにとって予想外だった。

 

 悪寒が走り、汗が垂れる。しかしアップルボーイはすぐさま生理的反応を抑えるために大きく息を吸いながら、エスペランザを後退させた。

 

「敵ACの照合、終わりました――Eランクレイヴン、エグザイル。ACネーム、アフターペインです」

 

 オペレーターが敵ACとレイヴンの詳細を口頭で伝え、手前のコンソールモニターにアフターペインのアセンブルを簡易表示させた。

 フロートタイプ、マシンガンと高出力のレーザーブレード「MLB-MOONLIGHT」とアクティヴステルスを装備した、機動力を活かしたアセンブル。

 

「Eランクですか。明らかに下位ランカーの動きではありません」

 

 見たことも聞いたことがないレイヴンとAC、それに目の当たりにした実力に対してランクが低すぎる。アップルボーイは思わず感情的になった。

 

「オペレーター、後方のコンテナにスポットを。市街戦に持ち込みます」

 

 全滅したスクタームから燻る黒煙がトンネル内に充満する前に、アップルボーイは見通しのよいセクション内での交戦を考えた。

 コンテナをカバーポジションにしながら後退し、エグザイルと名乗るレイヴンの攻撃を凌ごうとする。

 

 エスペランザはミサイルランチャーをアクティブにさせたまま、オペレーターがマークしたコンテナに姿を隠そうとブースト移動する。するとFCSが熱源反応を感知し、ロックオンマーカーが敵の位置と距離を表示させた。

 

 正面、距離七〇〇。射出数二基。

 

 色調補正したモニターの範囲外であり、その姿を視認することはできない。

 アクティヴステルスを使用する気配は見えない。恐らく、使用回数に達したか否か。

 相手の思惑――つまり火力でエスペランザに押し負けることを悟って距離を取った、という見方を浮かべた。

 

 もしアクティヴステルスがまだ残っているのなら、そのまま追撃をしてこちらを追い詰めるべきだった。

 そうでなければ、エスペランザのキルゾーンである中遠距離戦で否応にも戦わざるを得ないこの状況はどうみても悪手。

 

 こちらは後退しながらじっくりとミサイルを発射し、火力を叩きこむ。もし相手がミサイルの有効射程距離外に退避するのであれば、見通しが効く市街地で有利なポジションで交戦ができる。トンネル内に籠城するのであれば、部隊全滅を知ったクレスト社の増援が来るだろう。

 

(買い被りすぎましたか。対AC戦の戦術がまるでなってない)

 

 アップルボーイはエグザイルの戦い方が、やはりランクに相応しい実力だと再認識した瞬間だった。

 

 距離八〇〇、射出数四基――FCSがエグザイルのAC、アフターペインの熱源反応を消失したことをアラームで知らせた。

 

「アクティヴステルスの発動を確認。タイマーセット、残り六秒」

 

 オペレーターが即座にエグザイルがアクティヴステルスを作動させたことを報告し、解除までの残り時間をカウントダウンする。

 アップルボーイはエグザイルが距離を詰めて白兵戦を仕掛けてくるのだと想定していた。つまり、「MLB-MOONLIGHT」による一撃必殺の攻撃。

 

(可能性が高いのは、OBによる急速接近――仕掛けてきた)

 

 ブースターの速度を上げながら後退するアップルボーイだったが、外部スピーカーがOBの駆動音を拾ったのかそれが骨伝導イヤホンに伝わってくる。

 

「アクティヴステルス、解除されました。距離二〇〇」

 

 OBによる巡航機動を行うアフターペインの姿はモニターには表示されず、代わりに熱源反応を示すマーカーがなぜか右方向――トンネルの壁に映し出されている。

 独特なOBの駆動音がトンネル内に木霊する中、蒼い閃光を背にダークカラーの塗装を施したフロートタイプのAC――アフターペインの姿をAIがハイライトで強調させつつ捉えた。

 

 頭部「MHD-MM/003」の特徴的な四ツ目のモノアイが不気味な残光を描きつつ、アフターペインはトンネルの壁を「走っていた」

 

「まるで――『彼』を見ているかのようだ」

 

 丸みを帯びた壁を、鋼鉄の塊であるACが重力を無視して滑空。常識離れしたその操作を見て、アップルボーイはかつて共に戦った「あのレイヴン」のことが脳裏に浮かび、口に出す。

 アフターペインはOBによる推力とフロートタイプの疑似重力装置を利用して、渦を巻くように壁から天井を横断。

 

 アップルボーイは変則的すぎる機動力に思考が追い付かず、反応が遅れる。その間にアフターペインは左側、反対方向の壁に到達した。

 

 アフターペインは右手に装備されたマシンガンを前に突き出し、射撃を開始。さらにOBを駆動したまま、そのまま一直線にエスペランザに向かった。

 

「そんなバカな」

 

 アップルボーイは悪態を突きながら、マシンガンの弾幕を盾に接近するアフターペインとの距離を引き離すことはできないと考えた。

 エグザイルから放たれるマシンガンの砲弾は、立ち昇る黒煙を切り裂きながらエスペランザに襲い掛かる。

 

 エスペランザはそれらを回避しつつ、左手首に搭載されたレーザーブレード「MLB-LS/003」を起動させた。

 桃色の細長い刀身が形成され、あらかじめ登録された動き――袈裟斬りをエスペランザは行う。だがそれよりも早くアフターペインは左手首の「MLB-MOONLIGHT」をまるで「穴を穿つ」ように突き出した。

 

 その動作を見てアップルボーイは直感的に――大破されたACの姿がフラッシュバックする。

 直後、プリセット動作で袈裟斬りを放ったエスペランザの動きはアフターペインの突きに対して防御するような形となった。

 

「MLB-MOONLIGHT」の蒼白の刀身によってエスペランザの腕部と、「MLB-LS/003」の発振器が融解。そのまま刀身はエスペランザのコアを突き刺そうとしたが、現在進行形でジェネレーターの供給を受けていた「MLB-LS/003」の発振器が誘爆を引き起こす。

 

 アフターペインとエグザイルの間を割って入るかのように爆発が発生し、アップルボーイはシートベルトをしていたのにも関わらず上半身が引きちぎれるかと思うぐらいの衝撃を受けた。

 

「衝撃を感知。自動操縦による機体制御を実施――制御不可」

 

 AIがエスペランザが転倒しないように自動で機体制御を行っているのをアナウンスするが、無慈悲にもそれが出来なかったと伝えた。

 

「しまった――」

 

 平衡感覚が失ってしまうほどの衝撃が襲い掛かり、重力の流れが下から右に移ったことを伝えるかのように右半身を計器類に打ち付けた。

 アップルボーイは痛みで歪んでしまった視界を開けつつ、メインモニターを注視した。

 十メートルほどの高さから見下ろしていたモニターの光景は、燃え盛るエスペランザの左腕部の残骸を地面と同じ高さで映し出している。

 そしてその炎を遮るかのように、アフターペインの機影が現れた。

 

 豪炎に照らされながら、四ツ目のモノアイでこちらを見降ろす。そして、あの重量二脚ACと同じようにするためか、左腕部から「MLB-MOONLIGHT」の刀身が形成された。

 

「ここまで、ですか」

 

 アップルボーイは意を決心して、眼を閉じようとした瞬間だった。

 アフターペインは急にエスペランザから離れるように前進。同時に花火が打ちあがるかのような軽快な音が鳴り響き、周囲に爆発音や衝撃が木霊する。

 

「な、何が」

 

 アップルボーイは諦めかけていた意識を覚醒させ、すぐさまレーダーサイトを確認した。

 エグザイルを示す赤い点は採掘トンネルを抜けて、なぜか市街地に向かう。それもそのはず、市街地には所属不明の熱源反応が感知されていた。

 

「こちらカイザー。これより作戦開始」

 

 聞き覚えのある男性の声と単語が通信として入っていき、所属不明の熱源反応は味方を示す緑色に切り替わった。

 

「――レイヴン、聞こえますか? クレスト社より援護のレイヴン、ランカーAC『カイザー』を確認しました」

 

「トップランカーのロイヤルミスト、ですか」

 

 切羽詰まった声色で状況を報告するオペレーターの声を聞いて、アップルボーイはそれがトップランカーであり、レイヤード紛争で共に戦った「憧れの存在」であるロイヤルミストだということに気づいた。

 

「ルーキー、詳しい話は後だ。カイザー、敵ACと交戦する」

 

 ロイヤルミストはアップルボーイを窘めつつ、エグザイルを交戦することを報告した。

 砲声と爆発音が聞こえてくる中、アップルボーイはその間に転倒したエスペランザを起き上がらせようと機体制御を行う。

 

 手負いの状態とはいえ、あのエグザイルの実力を思い知ったアップルボーイはすぐにロイヤルミストの援護に入りたいと思う。

 しかしその逸る気持ちとは対照的に、エスペランザの機体制御が上手くいかず、横着してしまう。

 

 その間にもロイヤルミストとエグザイルが交戦する音が聞こえてくるが、エスペランザは一向に立ち上がる気配を見せない。

 やがて砲声や爆発音が聞こえなくなり、しばらくして静寂が訪れた。

 レーダーサイトにはエグザイルを示す熱源反応が物流カーゴに乗ったのか、赤い点から高度が上がったこと示す青い点となり――やがて索敵範囲外に離脱したのか消失する。

 

「逃げられたか。おいルーキー、命拾いしたな」

 

 舌打ち交じりにロイヤルミストからの通信が入ると、アップルボーイは乱雑に動かしていた操縦桿から手を離し、大きく深呼吸をした。

 助かった、と思わず声に出して呟き、汗で濡れたHMDヘルメットを脱ぐ。

 

 これでロイヤルミストに助けられるのは、三回目だった。幼少期の頃の思い出と、レイヤード紛争末期の出来事が走馬灯のように脳内を駆け巡りながら、アップルボーイは額にこびりついた脂汗を拭う。

 

「『あいつ』より先にエグザイルを倒すと決めている。お前も気をつけろよ」

 ロイヤルミストは意味深な言葉を言いながら、エグザイルを知っているかのような素振りを見せた。

 

 

 

 状況説明。

 

 日時:地球歴205年11月3日9時50分。

 場所:オンライン通話。

 人物:アップルボーイ氏(元レイヴン)

 

「ロイヤルミストさんが居なければ、僕は死んでいたでしょう。それほどまでにエグザイルの実力は本物だった」

 

 アップルボーイ氏は語り終えると、深いため息を突いた。

 キサラギ社グループのカカシ総研に勤めていたタナカ氏(仮名)から提供された、エグザイルと名乗るレイヴンについて筆者ベインは調べていた。

 

 経歴から実力に至るまで、あのネームレスと類似点がありすぎるそのレイヴンの情報はほぼ都市伝説あるいはゴシップ程の信憑性しかなかった。

 

 レイヤード紛争を経験し、表立って活動している元レイヴンは少ないものの――その中で著名人物であるアップルボーイ氏とコンタクトを取ることによってようやくエグザイルの情報を得ることができた。

 

「エグザイルのその後ですか? 少なくともアリーナでトップランカーであった彼――そう、レイヤード紛争を終結に導いたイレギュラーレイヴンと対戦し敗北。その後の消息を絶ったみたいです」

 

「なるほど。それで、何かロイヤルミストはエグザイルと因縁があったようですが、それについて何か知っていますか?」

 

 ネームレスとまったく同じ経歴を辿るエグザイルの情報に私は悪寒を感じながらも、次なる手掛かりを求めるべく、かつてトップランカーであったロイヤルミスト氏の詳細を尋ねた。

 

「ロイヤルミストさんはあの後、ひっそりとレイヴンを引退。今でも連絡を取り合っていますが、本人の意向もありますので教えることはできません」

 

 それだけは譲れないと言いたげなアップルボーイ氏の言葉を聞いて、私はこれ以上の言及は良くないと悟った。

 

「お互いにもう『傭兵業はこりごりだ』だと連絡を取る度に言い合っていますよ」

 

 アップルボーイ氏は笑みを浮かべながら、過去の戦闘で負傷し切断することになった義足を右手でコツンと叩いたのか軽快な音が聞こえた。

 

 

 アップルボーイ氏は現在も民間系列のMT運送会社の経営者として活動している。

 

 

 






「そのネームレスと名乗っているレイヴンですが、エグザイルとの共通がもう二つありますね」

「ええ、そうです。『管理者』です。どちらも管理者が倒されたことによって活動し、なおかつ紛争を終結させたレイヴン――」

「つまり、イレギュラーが関わっていることを」



 取材協力:グローバルコーテックス社、クレスト社、アップルボーイ氏。



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