◯◯ですか?   作:炉心

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 自由に書きました。

 頭を空っぽにしてお読みくださると幸いです。





突然ですか?

 

 

「童貞ですか?」

 

 ………………………………。

 

 ……………………。

 

 …………。

 

 ……。

 

 

「…………――ケ・コザ?」

 

 衝撃【センセーショナル】とは、このことだ。

 

 いつもの放課後の部室。いつもの数少ない部活メンバー。いつものヤル気のあまり感じられない部活動内容。つまりは、いつもの通りのダラダラとした部活動中。

 

 そんな平穏で自堕落コースまっしぐらと言っても過言ではない時間を本日の下校予定時刻まで過ごしていたはずだった。そう、過ごしていたはずだったのに、唐突に投げ掛けられた台詞はシャイニングウィザード直撃並みの衝撃で俺の思考回路を完全に機能停止状態へと追い込んだ。

 

「ですから。先輩は『童貞ですか?』と、質問しているんです。あと、なんで聞き返しの言葉を無駄にイタリア語にしたんですか? まあ、特に理由のないノリでなんでしょうから、そのこと自体はこの際別にどうでもいいことではあるんですけど」

 

 その問い掛けが至極単純で純粋で明瞭且つ答え易い疑問であるかのように口にしているのは、人当たりの好い活動的な顔立ちにスポーティな印象を受ける短めに切られた明るい発色の髪の女子。その名も五十鈴 菜緒【いすず なお】。三ヵ月前からの俺の高校生活での後輩であり何の因果か部活動での後輩でもある。……もう一度確認の為に俺との関係を言及しておこう。“後輩”である。

 

 そうだ。良くも悪くも俺と五十鈴の関係は学校の、そして部活動におけるただの先輩と後輩であるはずだ。だが、そのただの後輩であるはずの五十鈴の今の様子――普段から彼女が見せる明朗な表情こそ何ひとつ変わることはないが、シャギーに切り揃えられた短い髪を僅かに揺らすようにして小首を傾げている仕草。まるで疑問符を頭上に浮べるかのようなそのお決まり過ぎるような仕草に、穿った性格をしている俺としては芝居臭さすら感じてしまう。

 

 実際のところ、人によっては時にあざといとすら受け取られかねないようなその仕草を五十鈴本人が計算でしているのかはたまた純粋に自然体でしているのか、答えはきっと真実と言う名の永遠の闇の中。そして、残念ながらその真実を問い掛ける勇気などと言ったものを俺という人間は持ち合わせていない。と言うより、それ以前の問題として冷静で客観的な思考でもって今を対応する余裕などがそもそもなかったりする。

 

「い、五十鈴さん? あんまり認めたく事実ではあるが、俺はどちらかと言うと頭の回転や察しが良い方じゃない。でも、個人的にはそこまで無茶苦茶に鈍感でも理解力が乏しいってつもりもない。だけど、そんな俺でも流石に今の貴女様の台詞に関してはいろいろと理解が追い付かなさ過ぎると言うか、むしろどう反応すべきなのかがわからなさ過ぎて困るんだが……」

 

 思わず後輩に対して“さん”付けやら“貴女様”なんて変な尊称をつけて応答してしまうこの体たらく。正直、「動揺し過ぎだろ、俺」っと思う。更に付け加えるならば、「慌てるな!」「落ち着け!!」と先程から頭の片隅の方で冷静な部分が囁いてはいるが、実際に効果を発揮することがない状況なのだ。

 

 だってそうだろう?

 

 深く考えなくても分かる。なんでこんな突拍子もないような質問を俺はいきなり受けているんだ?

 

 それも、野郎同士が家に集まって秘蔵のグラビアとかその手の動画とかを見ている流れでならまだ多少は分かる。でも、今のこの場所は学校だ。放課後で人は少ないとは言えまだ人の普通にいる時間帯で、窓の外のグランド方向からは運動部の連中の元気な掛け声だって聞こえてきている。

 

「今さっきまで先週に公開された映画の話をしてなかったか? あれ? そうだったよな? 映画の内容が微妙でしたよって流れの話をしていたよな? そのはずだよな?」

 

 そう、一瞬前まで今話題の新作青春映画を見て来たって話をしていたはずだ。そして俺は今週末に行く予定の映画館で見る映画候補からは外そうかと悩んでいたところだったんだ。俺自身が見て来たわけではないとはいえ、実際に映画を見た人間から内容が微妙だったらしいとの意見を聞いてしまっているのだ、事前情報を敢えて無視した下手な冒険心を出してわざわざ見るのは微妙なところだろう。敢えて全てを織り込み済みで見た結果として盛大な文句を言われるのも癪だし。学割で幾分か安いとは言え、それでも限りのある財布の中身を無駄にしたくはないのだから。

 

「映画の話のはずが、それがまた何がどう方向転換したらその……あ~……つまり……あれだ」

 

 うん。言えないっス。俺自身の口からは“あの単語”は言えない。少なくとも、目の前に後輩と同輩の女子が二人だけしか居ないこの状況では。

 

 何コレ? 新手の拷問かイジメ? それとも、どっかにカメラでも隠されていて、『男子高校生のキモい動画を全世界に配信中!!』なドッキリとか? もしも本当にそうだとしたら超コワいんだけど。

 

「え~と。五十鈴、知ってるか? 最近だと男に対してもセクハラとかが発生するらしいんだ。いくら学生の立場であんまりその手のことに実感が湧かないとはいえ、それでも人様をおちょくるようなことはあまり言わない方がいいと思うんだが。それにほら、プライバシーの問題とかもあるし」

 

 我ながらなんとも言い訳がましい感じでの返しになっているが、これはもういた仕方ないと思う。俺にだってプライドがあるわけで、でも下手に知ったぶったことを言って後から墓穴を掘るわけにもいかない以上はもう仕方ないだろ。相手が女子でなければ幾らでも大仰なことを言えるんだろうけどな。

 

「とにかく。俺としては五十鈴の軽口を――」

 

「部長は知ってます? 先輩が童貞かどうか?」

 

 無視か!?

 

 我が後輩は先輩(つまり俺)を見事に無視ですか!!

 

 穏やかな態度ながら内に真摯なるものを秘めて語りかける俺。だが、清々しいまでのスルースキルを敢行しながらもう一人のこの部室の住人へと視線と言葉を向ける五十鈴に、知恵とプライドを絞り出しての一連の俺の言葉とか想いの一切合切が馬耳東風と化している事実に胸とかその奥の形の無いいろんなモノとかが凄く痛む気がする。込み上げる感情に思わず眼頭にも熱いものを感じる。あ、ヤバい。今すぐ盗む……のは犯罪で駄目だから、借りたバイクで走り出したい。原付の免許は持ってるからな。

 

「そう、そうね」

 

 響いた呟きは、何故か部室の空気を少しだけ変えた気がした。

 

 こんな表現が正しいかは分からないが、それはまるで『見定められているような』と表現できるような視線を感じる。その正体を知っている俺は視線を一足先に五十鈴が向けていた方へ動かすと、視界に入るのは俺の顔を観察するようかのように眺めている女子生徒の姿。

 

 引っ繰り返したオイル式砂時計の最初の一滴がポタリと落ちるくらいの時間の経過の後、視線の先にある目元と口元がほんの少しだけ歪む。

 

 そして、

 

「知らないわね」

 

 羽倉 栞【はねくら しおり】――この部の部長にして俺のクラスメイト。要するに、浅くもなければ特に深くもない関係。そんな彼女の口が再び開かれると、静かな呟きがまた響いた。

 

「あれ? そうなんですか? 意外です」

 

「ええ、残念だけどね」

 

 耳通りの良いハッキリとした声の五十鈴と比較するのもあれだが、羽倉はあまり大きな声では喋らない。それこそ、気にしなければ確実に聞き流されるくらいの微妙な音量がほとんどだ。それにもかかわらず、声質にどこか凛とした雰囲気を含んでいるせいか、実際の会話の中では何故か聞き逃されることが殆どないという稀有な存在だったりする。

 

 そんな羽倉だが、その独特な喋り方に誂えたかのように、基本的に普段の表情を殆ど無表情に近いような状態で通している。と言うか、むしろ無感情な人形染みた感じの奴と言ったところか。いや、別に貶めているわけじゃない。何せ色素の薄い長い髪や透くような乳白色の肌に線の細くも極めて整った顔立ちは比喩無しで美人の部類に入るので、その存在は学校の男子連中や一部の女子達の間からも常に熱を帯びた視線を注がれるものとなっている。更にダメ押しの如く標準装備となっている眼鏡を掛けたその知的然とした姿と相俟って、所謂『無口クール系美少女』として校内では概ね受け入れられているのだから。

 

 しかしながらだ。ここで俺は声を大にして言いたい。いや、言っておかねばならないことがある。周囲の人間の大半が抱く羽倉への認識、それは大いなる誤りを含んだ認識なのだと。

 

 部活動を共にする仲として一年以上の友人関係……と言うかは正直微妙な気もする部分が多々あるが、少なくとも一定以上の交友関係は結ぶに及んだ今ならばハッキリと断言できる。こいつは決して皆が思うような“無口”でも“クール系”でもない。実際には一々相手事に外面を取り繕うのが面倒で、それならもう特に興味の無い相手には無駄に表情を見せずとも別にいいやって考えたりするタイプなのだ。事実、俺や五十鈴といった羽倉の本性を知った相手の前だと結構饒舌になるし、しかも割と毒舌で辛辣な言葉選び率も高い。表情はあんまり変えないけど。

 

「先輩は殊更イケメンってわけではないですし、性格も明るくて楽しくてその場にいると盛り上がるようなタイプってわけでもない。普通にモテる方かって聞かれたら、確実に疑問符がつく方ですよね?」

 

「確かにそうね。ボッチとは言わないけれど、クラスの中で交友関係が広い方かと言われたら確実に『No』と答えが返ってくるタイプに属しているわね。一緒に行動する相手もほとんどが男子ばかりで、女の子相手に積極的に絡んでいるところはあまり見たことがない気がするし」

 

「先輩ってやっぱりクラスでもそうなんですか? でも、基本的に御人好し型の誰にでも優しいタイプですから、逆に言えばニッチな感じでの需要はありそうなんですけどね~。それに、妙に律儀な性格はしてますからね。必要とあらば普段は関わりのない女の子相手でも案外上手く対応しそうではあるんですけど」

 

「言わんとしていることは理解できるわ。つまり、草食系の人畜無害で誠実な人を装って異性との交遊経験の浅そうな子に近付いていって、警戒心を抱かせずに淡々と着実に落としていそうなイメージかしら?」

 

「あははっ。いますよね、その手の一番タチの悪いタイプ」

 

 ……なあ、気のせいか? さっきからなんか俺に対するイメージが酷くないか?

 

 確かにモテないけど。今まで一度も彼女と呼べる相手がいなかったのも事実だけど。それにしたって、たとえモテたとしても女の子の経験の浅さに付け込んで手籠めにするようなことはしねえよ。

 

 まあ、羽倉にしろ五十鈴にしろ会話のネタ程度で言っているだけで、本気で俺のことをそんな野郎だなんて思ってはないのだろうけど。……多分。だよな?

 

「ただひとつだけ確実に言えることがあるとすれば……」

 

 ああ、駄目だ。羽倉の顔。いつも通りの淡々とした表情過ぎてまったく真意が掴めない。お願いだからもう少しくらい表情筋に仕事をさせてくれよって思う。

 

 これほんと。どういうことなの?

 

 羽倉が何かを言う度に俺が戦々恐々とするとか――

 

 「私はまだ手を出されていない」

 

 ………………………………………………………………………………。

 

「コザ・ディーレ!? ……あ~、新手のイタリアンジョークってやつですか? 一年以上も一緒に部活していて、その大半を二人っきりで過ごしていたのに?」

 

 ちょっとまて。いやいやいや、確実にまて!! ステイ! いや、違う!? ジャストモーメント!! なんだ? なんなんだ!? 今の長いようでありながら一瞬のような気もする沈黙と空気と間は。

 

 そして五十鈴。何故にお前は然も何事もなかったかのような調子でエグい切り込みの聞き返しをしているんだ?

 

 それと、最初のイタリア語は俺への当てつけか? それはイタリアンジョークのつもりか? いや、イタリアンジョークがどんなものかを俺は知らんが。つーか、五十鈴はイタリア語が解るのか?

 

「最初の頃は遠慮や緊張もあるし、制服の方もまだ冬服だったから仕方ないと思っていたわ。ブレザーだって着ていたわけだし。でも、それは違った。大いなる序章に過ぎなかった。私の推算では夏服に切り替わりでもすれば徐々に理性が崩壊していって、果てしない妄想と欲望の誘惑に晒され続け、そしてついには耐えきれずに屈した挙句に青春の情動に任せて襲い掛かってくるものとばかり思っていたのだけれど、実際にはずっと視線を逸らされ続けて終わったわね。……いろいろと対策や準備もしていたのだけれど」

 

「ええっ!? それ……本当ですか? 夏の放課後の部室ですよね? それもクーラーなんて気の利いた文明の利器の恩恵のまるでない、せいぜいが中古同然の扇風機からの風だけが頼りの常に汗ばむ状態でいるような中でですよね? しかも基本的には先輩と部長、春も花も盛りな常時欲求不満で健全な身体を持て余しているはずの高校生の男女が二人だけの状況で」

 

「事実」

 

「うわっ。ヘタレか~」

 

 何故だ。解せぬ。大仰な溜息の後、俺に向けてくる五十鈴の視線に込められた感情の系統がおかしい。何でそんな、「そこは男をみせましょうよ」的な視線なんだ?

 

 普通に考えて在り得ないだろ。俺と羽倉の関係はただの同級生兼部活仲間なんだ。告白したりされたりしたわけでもなければ恋人として付き合っているわけでもない。好意があること自体は否定しないが、それも限りなく友人関係の延長線上にいるんだから。

 

 あと、羽倉よ。さっきから疑問なんだが。どうしてお前は答える時に時折やけに神妙な表情を作って頷いているんだ。珍し過ぎるだろ。ついでに言えばだが、五十鈴の口からポンポン飛び出る常時欲求不満だとか身体を持て余しているだとかの暴言に関して同じ女性兼先輩の立場から何かしらの抗議の声を上げてくれよ。

 

「それにしても、そんな先輩のヘタレ具合満載な話を聞くとアレですね。どうにも増々疑惑が深まっていくって感じですね」

 

「因みにだけど、夏の間中は私の胸とかに視線なんて一切向けていませんよ、意識なんてしていませんアピールを暗にしつつも結構な頻度でチラ見はしていた。本人は私に気取られないようにしようと結構必死だったみたいだけど」

 

「ああ、それはなんかもうホント。分かり易いと言うか、残念な感じと言うか。涙ぐましいようで、心底愚かですよね。本気でバレないと思ってるんですかね? 男子からの視線なんて、幾ら隠そうとしても隠し通せるわけがないくらい露骨な意識を感じるのに」

 

 うえっ!? やっぱりそうなの? 女性ってその手の視線には敏感って聞くけど、マジでバレてんの?

 

 てか、去年の俺は羽倉にそんな風に見られてたってことなのか? 何、この衝撃の事実。……どうしよう、今すぐ部屋に帰って引き籠りたい。それかもし過去に戻れるならば、去年の俺に全てを伝えて行動の全てをやり直したい。

 

「後学のために教えてあげるけど、彼は着けている下着の色によって見せる反応がハッキリと違うから。それはもう、面白いくらいに」

 

 …………はぁ!?

 

「ほうほうほう、それは興味深いですね。……参考までに聞きますけど、一番反応があった色は?」

 

「それは……――秘密」

 

「え~、教えてくださいよ。少しだけ! 全部じゃなくていいんで。先輩のこんな面白そうなネタを部長だけで独り占めしないでくださいよぅ」

 

「困ったわね。可愛い後輩の頼みといえどもこれは……どうしようかしら?」

 

「今度、部活中にジュースを奢らせていただきますから。――先輩が」

 

 はい、ストップ。別に何かを奢ること自体に異論はないが、何故そこで奢る人間が俺になるんだ? 俺は関係なくない? つーか、人の財布を交渉材料に使わないで欲しいって言うか、男の俺が口を挿み辛い内容の会話で防衛線を張るのは卑怯じゃないかと思うんだが。

 

「仕方ないわね。特別に一週間分で手を打ってあげましょう。ただし、校内の自販機で販売しているパックのジュースとかは駄目。私、あれは奢りの対象とは認めないから」

 

 しかも期間が長い。条件も微妙にがめつくてエグい。

 

「それじゃあ……そうね、次点のふたつを教えましょうか。ワインレッドとバイオレット系。両方ともレース柄でシャツ越しにでもラインが浮き易いタイプだった。その手の好みの傾向としては分かり易いと言えば分かり易いかも。あと、重要なのはタイミングかしら。夏用ベストを着用して見えない意識していない状態の中、不意を突いてベストを脱ぐのがコツね」

 

「部長……実はなかなか攻めるタイプなんですか?」

 

 羽倉のどこか遠くを見詰めるかのような表情での呟きに、何か恐ろしいモノの片鱗を見たかのような視線を向けている五十鈴。だが、俺に言わせれば思春期男子の琴線に触れまくる会話を野郎の目の前で堂々としているこの二人が普通に恐ろしいよ。俺を嗜好とかを平然とネタ扱いしている点も含めてだけどな!!

 

「菜緒。あなたは私にとってもこの部にとっても数少ない後輩。だから、私は先輩として部長としてタメになることを教えてあげることにするわ」

 

「な、なんですか?」

 

「夏は女を変えるのよ」

 

「んなッ……!? ぶ、部長。ちょっと勘弁してくださいよ。今の台詞……むちゃくちゃかっこいいんですけど!!」

 

 知的で清廉とした顔立ちを一層際立たせるかのように優美に澄ました表情。それは紛れもなく羽倉成分120%なドヤ顔。珍し過ぎる表情の羽倉に向けた五十鈴の視線には驚愕の中に慄きと羨望の入り混じったような感じで、上気した頬を赤く染めてすらいる。それはもう、傍から見ている身としては「何してんのこの先輩と後輩は?」って要素が満載な様子だ。

 

 ……ああ、分かってるさ。盛大な現実逃避だよ。でも、他にこの俺にどうしろと? 俺の持ち得る程度の会話スキルのレベルだと、どんな鋭いツッコミを入れたとしてもその先の結末は地獄な展開しか待っていないと言うのに。一体どうしろと!?

 

「これは……今年の夏はちょっと気合を入れないといけませんかね? わたしはあんまり下着にはこだわらない方というか、服とかもそうなんですけど、気に入ったデザインばかりで似通ったタイプのものを選ぶ傾向にあるんですよね」

 

「あら、そうなの? それなら……今度一緒に見に行ってみる?」

 

「デートのお誘いですか? 部長の方から誘われるなんてちょっと予想外です」

 

「これでも後輩の面倒を見るくらいの甲斐性はあるつもりだけど? 誰かさんよりはね。そうねぇ……近くだと今週の日曜は時間ありそう? 午前中は映画を見に行く予定が先にあるのだけれど、その後は空いているから。あなたの予定が合いそうなら、どこか適当な場所で落ち合えるかしら?」

 

「日曜ですか? 多分大丈夫だったと思いますけど……ちょっと待って下さい。一応予定を確認してみますね」

 

 なんだかいつの間にか部の女子二人で週末に買い物に行く予定の確認をし始めていて、男である俺は完全に蚊帳の外状態なのだが。でも、不思議だ。全然まったくこれっぽっちも疎外感を感じない。むしろこのまま二人の話題が逸れまくっているうちに下校時間がやってきて、本日の部活終了ともなれば俺としては御の字だ。

 

 何にせよ、今さっきまでの一連のやり取りを見ていた中で決めたことがひとつある。

 

 今週末に見る予定の映画だが、とりあえず恋愛モノだけは絶対に避けようと思う。鑑賞後に映画の内容を俺への口撃のネタ絡めることも十分に考えられるが、それに加えてその手のジャンルを選んだ事実が後々にまでネタにされつづける可能性があるとか……。ダメだ。想像するだけで恐ろしい! 恐ろし過ぎる!!

 

 触らぬ神に祟りなし。答えぬ質問に墓穴もなし。

 

 今日はこの諺を教訓として胸に刻み、俺は平穏無事に帰宅の途に就くこととしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――で? さっきから我関せずって感じで沈黙を保っている先輩。わたしはまだ先輩にさっきの質問の答えを聞いてませんけど? まさか、わたしと部長の会話だけでなし崩し的に質問を無かったことにして終わりしようとか考えてませんよね?」

 

「クラスメイト兼部活仲間として忠告してあげるけど、モノローグでのフェードアウトで終了なんて。そんなオチは現実には在り得ないわよ?」

 

 あれ? これは…………

 

と、ゆーわけで」

 

「と、いうわけだから」

 

「「質問です」」

 

 ああ、そうか。これは――

 

「「童貞ですか?」」

 

 

 ………………………………。

 

 ……………………。

 

 …………。

 

 ……。

 

 

「……今すぐ実家に帰らせていただきます!!」

 

 どうやら俺に下校時間を待つ余裕はないようだ。

 

 

 






 単純にこの手の特に意味のない会話系の日常話が好きです。


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