リハビリも兼ねて短いかもですが…
中嶋がボールをついて上がっていく。
エースの佐久間、大黒柱の木元が止められ、椿丘に連続得点を許している展開は三和にとって芳しくない。3ポゼッション以上のリードを許さないためにも、このオフェンスは確実に成功させなければならない。
「悪いが簡単にはゲームメイクさせない」
そこに吉永が強気でプレッシャーをかける。
ボールは失わないが、自分たちのリズムでオフェンスを組み立てられない中嶋。
「ください!」
そこに声をかけたのはツインタワーの一角で2年生の長田。ハイポストにシールし、パスを要求する。
「よし、頼む!」
中嶋は吉永の上を通す山なりのパスで長田にボールを通した。ボールを受け取った長田が森田に対峙する。
「通さん」
「ええ、わかってますよ」
森田が抜かせまいとプレッシャーをかけるが、長田はうまくピボットでかわしている。パスコースができたところでアウトサイドの吉野へキックアウト。中に収縮しかけたディフェンスを一度外へ散らす。そしてすぐさま吉野のマークである重松へスクリーンをかけ、重松のマークを吉野から引き剥がす。森田と重松はスイッチによるミスマッチを嫌い、森田がドロップすることで対応するが、それを見て長田がポップアウト、吉野がそれに合わせ長田がスリーポイントラインでボールを受け取る。
「ピックアンドポップ!?」
重松が驚いた声を上げながらチェックに行くが、196cmの長田をブロックするには至らない。長田のスリーポイントが決まった。
椿丘 12
三和 10
「ナイス長田!」
「はい!」
中嶋が長田を労い、長田が応える。ピックアンドポップ、通常スクリーンをかけたビッグマンはそのままロールしてインサイドを狙う。だからこそ森田はドロップディフェンスでインサイドへの侵攻を防ごうとした。しかしそこでロールマンが外へ出ることでマークを外す。ドロップディフェンスには有効な手段だが、これはビッグマンが外でボールを受けることを意味する。スリーポイントがあるか、ドライブやパスを捌く技術がないと成り立たないプレーだ。
「うちのツインタワーはただでかいだけじゃねえぞ」
佐久間が黎に告げる。現代バスケにおいて、ビッグマンはただのインサイド要因ではない。ポジションレスバスケと呼ばれるほど、どの選手にもスリーポイントやパスを捌く技術が求められる。三和高校の2枚のセンターはどちらもその技術を高めてきた万能型のセンターだった。
「面白い」
インサイドでは圧倒的支配力を誇る森田。木元や長田と比べてもそれは例外ではなく、事実2人は森田にインサイドでは敵わない。だがバスケの戦場はインサイドだけではない。森田のシュートレンジはそこまで広くない。ミッドレンジは不得意では無いが、スリーポイントを打てるほどではなかった。その分守備でもインサイドが中心となりがちであり、長田はそこを突いてきた。続く椿丘のオフェンス、吉永は森田へボールを入れる。森田はパワードリブルで木元をジリジリと押し込んでいく。やはりインサイド勝負は森田に分があった。押し込んだ木元をドロップステップでかわし、ゴール下でシュート体勢に入る。
「させない!」
そこに長田がヘルプに来た。早いタイミングのヘルプで、森田を封じにかかる。
「甘い!」
森田はここでバックボードにボールを当てた。ボールはリングを通ることなく跳ね返っていくが、そこに1人の選手が飛びつく。
「熊谷か!!」
木元が気づきブロックに向かう。森田はバックボードを利用し熊谷へのアリウープパスを出していた。
「蹴散らせ熊谷!」
吉永の檄とともに、熊谷はブロックに来た木元を吹き飛ばしてアリウープダンクを決めた。
「デイフェンス!プッシング!バスケットカウントワンスロー!」
「「おおおおおおおおおお!!!!」」
椿丘ベンチが一気に盛り上がる。1年生である熊谷が相手チームのキャプテンで大黒柱の木元を吹き飛ばしたのだ。チームは一気に勢いづく。しかし熊谷はフリースローを苦手としている。ワンスローは決められず、3点プレイ完成とはならなかったが、椿丘インサイドの強力さを存分に示すプレーであった。
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「おお、木元を吹っ飛ばした」
観戦中の相葉学院の3年生センター、横野が感心したように呟く。
「やっぱパワーは相当なものだな、3年にも当たり負けしてない」
「木元や長田がやってるようにいかにゴール下から引きずり出すかだな、森田も含めて」
島村、東の両ガードも対策について話をする中、1人試合を退屈そうに見ている者がいた。
「…………」
「今のプレーもモリスのお眼鏡にはかなわねえか」
エース能登が苦笑している。事実、モリス・ブラウンは熊谷の豪快なアリウープも覚めたような目で眺めていた。なにか、もっと目当てのものがあるかのような表情で。
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その後、お互いのインサイド陣が奮闘。椿丘側はインサイドでの支配力を発揮し、三和側はシュートレンジの広さとパスワークでそれに追い縋っている。
第1Q残り1:30
椿丘 28
三和 23
何とか2ポゼッション以内で食らいついている三和。やはりインサイドを椿丘が支配している分、リバウンド等は三和が不利であり、その分椿丘が安定して得点を伸ばしていた。
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「やはりハイペースゲームになるか…」
若林は試合を見守りながら、当初の予測通りの展開になっていると呟く。高校生の試合で120点ペースは相当なハイスコアであった。三和が望んだ展開を受けてたった形であるが、思ったより点差が開いてないのが懸念点だ。
「2Qから仕掛けるか…」
第1Q中は細かい指示は出さず吉永に任せていた若林だが、第2Qより動くことにした。
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「吉永さん、第1Q中にもう一度佐久間さんとやらせてください」
黎が吉永に進言する。これまで黎は序盤の応酬以外で佐久間との直接対決をしていない。意図的に避けていた訳ではなく、主戦場がインサイドに偏っていたためであるが、黎はこのQ中にもう一度佐久間に勝っておこうと考えていた。
「ああ、そのつもりだ。残りの時間お前にやろう、任せるぞ」
「ありがとうございます」
司令塔の吉永も同じ考えだった。インサイドでは多少の有利を取れている今、エース対決でも今一度椿丘の有利を強調しておくことで、第2Q以降の流れを掴んでおくのが狙いだった。
「来たか来栖、待ちくたびれたぞ」
「お待たせしました、行きますよ」
黎のオフェンス、左サイドでゆっくり左右にボールをついて隙を伺っている。まずは恒例のステップバック。基本的に黎はステップバック自体をスティールされる等して封じられない限り、まずはステップバックを行う(キセキの世代クラスの強敵が相手の場合は別だが)。相手がステップバックについて来ないのであればそのままスリーポイントでオフェンスを終わらせられるからだ。そしてディフェンスがついてくればそこに前後の動きができ、左右の揺さぶりがかけやすくなるため、黎が先に動きディフェンスが追随するという構図が簡単に出来上がる。そこに黎の駆け引きの技術が加わり、止めるのが難しくなる。
「撃たせねえよ!」
「分かってますよ!」
シュートチェックに来た佐久間の左を通ると見せかけて、シャムゴッドで右へ、と見せかけてさらに左手でのインサイドアウトで今度こそ佐久間の左を抜き去った。長田と木元のヘルプを考慮し、そのままペネトレイトはせずにミドルレンジでシュートを放ち、沈めた。
「くそっ、後手後手に回される!!」
黎のオフェンスの厄介なところは、この後手後手に回されるというところだ。豊富な技の中から何を選択されるか、通常読みや嗅覚で相手の動きに先回りしようとするのがディフェンスであるが、黎は初手の不意のステップバックでディフェンスに強制的に読み合いで後攻を強いる。そして技を見せられる度に相手は考慮することが増える。ステップバックスリーも、シャムゴッドも、シェイクアンドベイクも、全て次のオフェンスではフェイクになり得る。かと言って警戒しなければ同じ手を何度も食らってしまう。佐久間の顔に悔しさが滲む。
「ボールください!」
続く三和のオフェンス。佐久間は中嶋にボールを要求。吉永は佐久間へのパスコースを意図的に開けていた。両者示し合わせたエース対決である。
(インサイドが押され気味の今、俺まで負ける訳にはいかねぇ!)
まず右へ、黎が着いてきたのを確認して左、を囮にインサイドアウト。これでも黎は振り切れない。ならばと次は佐久間得意の身体をぶつけてのオフェンス、そこからズレを作ってのミッドレンジやペネトレイトであるが
「そう来ると思いましたよ」
黎は佐久間が身体をぶつけに来る瞬間、シリンダーを完全に佐久間に向け、接触の瞬間脱力し後ろに倒れた。
「オフェンスチャージング!」
「しまった!」
完全にコースに入っての接触で佐久間のオフェンスファールとなる。三和のオフェンスは失敗だ。
「昨年1年生エースとして佐久間さんは痛烈なデビューを飾った。だがパワーのなかった去年はうちの川崎さんや豊明大付属のようなスピードもパワーもあるディフェンダーに抑え込まれることが多かった。だからこそ今年フィジカルを鍛え、上手く身体をぶつけるオフェンスを身につけ得意としてきたあなたが行き詰まった時に使うのはそのパターンだ。読んでますよ」
黎が起き上がりながら佐久間に告げる。黎はマッチアップ相手の佐久間の試合ビデオを、去年のものから研究していた。そして去年と今年の佐久間のオフェンスの違いを発見していたのだ。
「…そりゃどうも、随分熱心に研究してくれて相当俺のファンなんだな」
「ええ、千葉No.1ルーキーの座を貰いに来ましたから」
「抜かせ」
平静を装う佐久間だが、黎には佐久間が多少なりとも動揺しているのが分かった。続く椿丘のオフェンスも黎にボールが渡る。
(最初のステップバックに遅れればそこからはヤツのペースだ、ステップを見てからじゃ間に合わねえ、後ろ重心になる瞬間を見逃すな…!!)
佐久間は黎のオフェンスの始まりであるステップバックを捕まえようと神経を集中させる。
(来た……!!)
黎の重心が後ろに偏る瞬間を佐久間は見逃さなかった。その瞬間、ステップバックに追いつこうと一気に前に躍り出る。だが
「なっ!?」
「狙いがバレバレですよ!」
黎は佐久間が最初のステップバックを狙っていたことを読み切っていた。自分のオフェンスがうまくいかず、黎にのみ決められている状況が佐久間の焦りを呼び、その焦りによって黎に思考を読まれてしまった。黎は散々みせたステップバックをフェイクに使い、後ろ向きの重心をみせ、佐久間が反応した瞬間急加速し佐久間を抜きさった。木元が早めのヘルプに出るが、フリースローライン手前で踏み切った黎は木元を超えるループのフローターを沈めた。
第1Q終了
椿丘 32
三和 23
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9点差、大量リードとは言えないが自力の差を少しづつ示し始めた結果であった。
「よし、第1Qはまずまずの出来だ。大きな問題は無い。ただ相手の得意なフィールドでずっと戦ってやることもないだろう。次で完全に主導権もらいに行くぞ。まずメンバーだが、重松に替えて渋谷、熊谷に変えて川崎だ、いけるな?」
「「はい!」」
「重松も熊谷も状況次第ではすぐ出てもらうからな、気持ち切らすなよ」
「「はい!」」
「そしてディフェンスを変える。点が入った、もしくは時計が止まってのスローインになったら、フルコートでゾーンプレスをかけるそれが突破されたらハーフコートからはマンツーマンをやめてゾーンに変更だ。陣形は1-3-1で、トップに渋谷、ウィングに吉永と来栖、真ん中川崎、後ろが森田だ」
「「「「「はい!」」」」」
1-3-1のゾーンへの変更。三和のツインタワーが椿丘のインサイド陣を外へ外へと誘導してきているのを受け、マークの対象を人からスペースへ変更、ビッグマンの釣り出しを防ぐ狙いだ。
「ゾーンだからといって相手にずっと楽にボールを持たせるつもりは無い、トップの渋谷には常にボールをチェイスしてプレッシャーをかけてもらう。ウイングの吉永と来栖でアウトサイドをケア、インサイドは川崎と熊谷でしっかり固めろ」
「「「「「はい!!」」」」」
「オフェンスもガード3枚とも言える布陣だ、しっかり活かして攻めろよ」
第2Q、椿丘は若林の指示で一気に試合の流れをつかみに行く。
モチベの波とは分からないものです(遠い目)