黒子のバスケ キセキを討つ奇跡   作:のなめん

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少し間が空いてしまいました、言い訳をさせてください。先日、私の大好きなバンド、BUMP OF CHICKENのライブに行きまして、その関係で書く時間がなかったのです。いやー、BUMP最高でした。みなさんも是非聴いてみてください。ちなみに近々またライブに行くので次も少し間が空くかも()


第3Q

春、それは出会いと別れの季節。

黎と秀も、故郷である山梨、そして家族と友人にしばしの別れを告げ、千葉の椿丘高校へと入学を果たす。

 

「よう、黎。同じクラスみたいだな」

 

入学式を終え、自分のクラスに向かうと、既に秀が教室に入っており、黎に声をかける。

 

「お、秀か。こっち(クラス)でもよろしく頼むな」

 

夏に一緒に練習に参加した他の1年生はどうやら違うクラスのようだ。とはいえ黎も秀も明るく社交的なタイプ、2人が友達作りに困るということはない。既に何人か友人を作ったようだ。そこへ

 

「あの、来栖黎くんですか?」

 

1人の女子が声をかける。地毛なのか、染めているのか、薄い茶色の髪の毛をハーフアップで束ねた、顔立ちの整った女の子である。

 

「ん?ああ、そうだよ、君は?」

 

「私は橋本綾菜、よろしくね。来栖くんはバスケットやるんだよね?」

 

「あ、ああ。なんで知ってるんだ?」

 

「私中学バスケ部だったの。それで中学の来栖くんのプレイをみたことがあって。まさか同じ高校になるとは思わなかった。」

 

と、どこか嬉しそうに話す橋本。

 

「そうなのか、高校でもバスケを?」

 

椿丘には女子のバスケ部もあり、男子程ではないが強豪である。

 

「ううん、私そんなに上手じゃないし、マネージャーをやるつもり。だから同じ部活だね、よろしくね」

 

「そうなのか、こちらこそよろしくな」

 

早速バスケ部仲間がクラスにできた瞬間だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

入学式の後のホームルームとはほとんど顔合わせのようなもので、午前中のうちに終わってしまう。よって午後からは1年生は自由時間であり、帰宅する生徒、早速友人と遊びに行く生徒など様々である。黎たちはもちろん部活へと向かった。椿丘バスケ部では入学式後の部活が正式な新入生との顔合わせである。

 

「おお、結構いっぱいいるな」

 

黎と秀、そして橋本が体育館につくと、そこにはもうたくさんの新入部員がいた。ざっと見たところ40人以上はいるだろうか。

 

「さすが強豪って感じだな」

 

秀がニヤリとしながら呟く。

 

「マネージャーもいるみたいだな」

 

黎の指さした方向を見ると、1年生と思しき女子が先輩マネージャーと談笑している。

 

「あ、ほんとだ。じゃあ私はあっちに行ってくるね」

 

「ああ、後でな、橋本さん」

 

「綾菜でいいよ。じゃ、またね〜」

手を振りながらそう告げるとパタパタと女性陣の方へ小走りで向かう。

 

「………なあ黎」

 

橋本との距離が離れてから秀が橋本の方を見ながら言う

 

「あの子、かわいくね?」

 

ニヤつきながら言う秀に、苦笑を漏らしながら答える。

 

「ああ、そうだな。最後のバイバイは不覚にもちょっとドキッとした」

 

やはり年頃の男、かわいい女の子と仲良くできて悪い気がするはずがない。

 

「なんかあの子も黎のこと意識してそうじゃなかったか?」

 

冷やかすように秀が黎に言うが、黎は動じない。

 

「いやいや、まだ会って初日だぜ?ただあの子がみんなに愛想がいいだけだろ」

 

他愛もない話をしていると、去年の夏に聞いた声が体育館に響く。

 

「お待たせ、1年生集まってくれ!」

 

キャプテンである吉永の声だった。その声で、まばらに散らばっていた1年生がすぐに1箇所に整列する。

 

「よし、集合が早くて助かる。えー、まずは椿丘高校バスケ部へようこそ。主将の吉永だ、よろしく。」

 

「副主将の森田だ、みんなよく来てくれた」

 

「3年マネージャーの澤木桃子です、よろしくね」

 

吉永に続いて森田、そしてマネージャーの澤木も1年生に挨拶する。澤木は10人が10人かわいいと認めるような容姿で、1年生たちから小さく歓声があがる。

 

「俺たちの目標は言うまでもなく、日本一、全国の頂点だ。もちろん簡単に成し遂げられるものではない。そのための練習は厳しいし、ベンチに入れるのは力を認められた者だけだ。しかし、逆に言えば1年生でも力を示せばどんどん試合に出られる。君たちが少しでも早くチームに慣れ、共に戦えるようになるのを楽しみに待っているよ、頑張ってくれ。以上だ。」

 

しかし、吉永の言葉にすぐに顔を引き締める。

 

「じゃあそっちの人から、自己紹介をしてくれ。名前と身長、ポジションを言ってくれればいい。」

 

そして、1年生の自己紹介が始まった。

 

「178cm、SG、小野陽一です」

 

「186cm、F、海江田遼です」

 

「202cm、Cの熊谷和人です」

 

夏に顔を合わせた面々ももちろん入学しており、自己紹介を済ませていく。やはり3人とも全国でも名が知られており、自己紹介の後に少し周囲がざわついた。

 

「170cm、PG、渋谷秀です」

 

「188cm、ポジションは…えーっとFをやってる事が多かったですけど、特に決まってはいませんでした、来栖黎です」

 

2人の自己紹介を聞き、周囲のざわつきが増す。絶対無敵の帝光中、そしてキセキの世代に対抗した来栖と、その参謀の渋谷。この名ももちろん全国で有名になっていた。

 

「よし、次はマネージャーか」

 

「「はい」」

 

その声を受け、2人の女子が前に出る。

 

「五十嵐涼子です。中学時代もマネージャーをしていました。よろしくお願いします。」

 

「橋本綾菜です。中学時代はプレイヤーでしたが、ここではマネージャーとしてチームを支えたいと思います、よろしくお願いします。」

 

2人とも容姿はレベルが高いと言って差し支えない。五十嵐は橋本とは少し雰囲気の違う、黒く長い髪とスラッとした体つきが特徴的な、かわいいというよりは美人に近いというタイプだ。

 

新入生は部員が46人、マネージャーが2人であった。3年生が部員18人、マネージャー1人。2年生が部員19人である。このうち、一軍に入れるのは25人。そしてベンチ入りできるのが15人だ。全員が共に戦う仲間であり、凌ぎを削るライバルでもある。入部したその日から、レギュラー争いは始まっているのだ。早速1年生は二軍の練習に参加することとなった。

 

「あ、来栖、渋谷、小野、海江田、熊谷の5人は一軍に混ざってくれ」

 

吉永の指示で、去年椿丘に来た5人は一軍と練習することとなった。

 

ーーーーーーーーーーーー

 

椿丘の設備は充実している。男子バスケ部だけでコートが3面使えるのに加え、ウエイト機材などを揃えたトレーニングルームに、室内プールまでついている。椿丘の選手たちは、この設備を存分に使い、各々のレベルアップを図る。

 

「ハア、ハア…いやー、やっぱりきついね」

 

小野が苦笑しながら呟く。椿丘の練習は効率的であり、昭和のバスケ部のようなひたすら走らされるようなことは無い。しかし、その分練習の密度はとても濃い。限られた時間の中で、選手たちは全力を尽くす。まだランメニューが残っているから体力を温存しよう、ということにならず、一つ一つの練習に全員が全力で取り組む。すべての練習が試合終盤、残り2分であるかのような緊張感で行われる。結果、椿丘の練習はいたずらにランメニューやサーキットトレーニングをこなすよりも疲れる。その分、得られる充実感も一入だ。

 

「おー、やってるな」

 

そこに、一人の男が現れる。椿丘バスケ部の監督であり、若くして椿丘バスケ部の名を全国に轟かせた名将、若林だ。

 

「「「こんちわっす!!!!」」」

 

それを見て全員が挨拶をする。しかし2、3年生はプレーを止めることはなく、若林の方を向いて頭を下げたのは1年生だけであった。

 

「ああ、いいからいいから、練習しな。次集まった時に改めて挨拶させてもらう」

 

なるほど、練習の腰を折るようなことはしないらしい。その後もしばらく練習が続き、ひと段落ついたところで吉永が集合をかける。

 

「よし、まずは自己紹介だな。監督の若林だ、椿丘バスケ部へようこそ。あ、君たちは改めて自己紹介する必要は無いぞ、さっきしてもらった時にデータを写真付きで貰っているからな」

 

「いつのまに…」

 

1年生から驚きが漏れる。見ると、澤木が1年生の方を向いてニコニコと手を振っている。どうやら彼女がデータをまとめ、若林に送ったらしい。若林は手に持ったタブレット端末をスワイプしながら、満足げに頷いた。

 

「うん、今年もイキのよさそうな1年生が多く入ってくれて嬉しい限りだ。一緒に全国の頂点を目指して頑張ろう。以上だ、練習に戻ってくれ」

 

(ずいぶんあっさりしてるんだな)

 

黎がそう思うのも無理のない、実に簡潔な挨拶だった。これも効率を重視する若林の方針なのだろうか。その後も練習は続いた。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

「よし、今日はこれまで、お疲れさん」

 

若林の一言で練習は終了。張り詰めていた空気が緩む。

 

「今日は20時までなー」

 

続けて若林が時間を告げる。1年生には何のことか分からない。

 

「あの、20時までっていうのは…?」

 

秀が吉永に尋ねる。

 

「ああ、今日は20時までは体育館とトレーニングルームを空けておいてもらえるってことだ。」

 

「なるほど、残って練習していっていいってことですね」

 

1年生にもこれで合点が行った。2、3年生は各々の自主練のために散らばっていく。例えば、吉永はコートの隅でボールを2つ使ったハンドリング練習、白石と重松はスリーポイントのシューティング、森田はトレーニングルームで筋トレ、川崎は走り込みで下半身を鍛えている。各自、自分の特性や役割にあった自主トレを行っている。1年生の大半は疲れてあまり動けないようで、厳しい練習の後でもすぐに自主トレに向かう先輩たちを見て驚いている。しかし、やはり5人は動く。

 

「吉永さん、お邪魔していいですか?」

 

秀が吉永と同じハンドリングメニューをこなしに行き

 

「白石さん、重松さん、混ぜていただけませんか?」

 

小野が2人と共にシュートを打ち込み

 

「俺はウエイト行ってくるよ」

 

熊谷が体を鍛えるためトレーニングルームへ向かい

 

「来栖、付き合えよ」

 

「お、やるか海江田」

 

黎と海江田が1on1を始める。

 

「まじかよ…」

 

「よく動けるな…」

 

そんな5人の姿に他の1年生は驚愕を覚える。

一軍の方が人数も少なく、レベルも高いため練習はしんどい。そのはずなのに5人は先輩に混ざって自主トレに励んでいる。その光景に、自分たちと5人との差を実感した。

 

「負けねえ…」

 

しかし、逆に闘志を燃やしている者も少なからずいた。

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

8点先取の1on1、ゆっくりとボールをつくのは黎。左右にボールをつき、時に目線でフェイクをいれて海江田を揺さぶる。隙がなかなかないと見るや、黎はその場から大きく後ろにステップバック、スリーポイントラインより1メートルほど手前からディープスリーを放つ。海江田はドライブに備えていたため反応が遅れる。ブロックは間に合わず、黎のシュートはリングを射抜く。

 

「だーーーくそ!それ入るのずるいだろ!」

 

海江田が文句を言う。事実、188cmの黎のステップバックディープスリーは厄介なことこの上ないだろう。外のシュートを苦手としている海江田にはできない芸当である。

 

「はは、まあどれだけ練習したか分からないからな」

 

「いいぜ、取り返してやるよ」

 

代わって海江田のオフェンス。海江田の武器はスピードだ。最高速度は黎よりも速い。何度かのジャブステップの後、1歩で黎に並び、2つ目のドリブルで抜き去る。

 

「はええなくそ!」

 

黎が悪態をつきながら回り込もうとする。しかしそれを見て海江田は逆方向にステップバック、一気に距離をとる。海江田は外はないが、ミドルレンジのシュートは苦にしない。海江田の上体があがる。打たれると思った黎はブロックに飛ぶ。しかし海江田は飛んでいない。黎も得意とするヘジテーションで黎を今度こそ完全に振り切り、ワンハンドダンクをお見舞いした。

 

「はええな、やっぱ」

黎が対戦した中では、"あの男"の次に速いかもしれない。

 

「まあそれが俺の取り柄だからな、次ももらうぜ」

 

ニヤリと笑う海江田。次は黎のオフェンスだ。

 

海江田からボールを受け取るとすかさずスリーポイントの体勢に入る。海江田が反応したのを見て、そこから一気にダックイン。しかし海江田もついてきており、フリースローラインのあたりで回り込まれる。ここで黎は高速でバックビハインドを複数回入れた。海江田の動きが一瞬止まったところで、ギャロップステップの要領で海江田の横を抜き去り、スタンディングレイアップを決めた。

 

「…シェイク&ベイクか」

 

シェイク&ベイク、NBAで活躍した、ジャマール・クロフォードが得意としていた技だ。独特のリズムと緩急で繰り出されるこの技は、来るとわかっていても止めるのが難しい。

 

「…でかいのに技も多彩なの勘弁してくんねえかな」

 

海江田が悪態をつくのも無理はない。ステップバックディープスリーに、シェイク&ベイク、どちらも単体でも充分恐ろしい技であるのに、両方を、しかも188cmの選手がやってくるとなれば、文句のひとつも言いたくなるであろう。

 

「これが俺のスタイルだからな」

 

相手に合わせて多彩な技の中から有効なものを選択し、高い精度でそれを沈める。これが黎の武器のひとつだ。

 

「厄介なことで」

 

再び海江田のオフェンス。まず右から抜きにかかる。黎がついてきたのを確認し、ロールターンで左へ、これにも黎が反応する。ここで海江田はロールを中断、再び右から仕掛けた。

 

(速いし早いな。単純なスピードに加えて、ディフェンスへの反応やそこからの判断も早い。でも!)

 

それでも黎は追いすがる。しかし構わず海江田はドライブを継続、黎を引き連れるようにペイントエリアに侵入し、そのまま踏み切った。

 

「させねえよ!」

 

黎もほぼ同時に踏み切り、海江田についていく。

 

(そのままダンクやレイアップに行けば間違いなく止められる、なら)

 

海江田は1度ボールを下げ、リングの反対側へ回り込む。ダブルクラッチの体勢だ。

 

「そうくるだろうよ!」

 

しかし黎はこれも読み切っている。海江田の後にぴったりと張り付き、楽にシュートを許さない。これを見て海江田は黎の手を超えるように大きく山なりのループを描くバックシュートを放つ。ボールは黎のブロックを超え、リングへと向かっていく。

 

(マジか、あの体勢から俺を超えるシュートを)

 

しかしこのシュートはリングに弾かれる。海江田のオフェンスは失敗だ。

 

「あーーやっぱ無理かー!」

 

「でもやられたと思ったぜ。よくあそこからあのシュートが打てたな」

 

「とっさにやったからもう1回できるかと言われたらわかんねえけどな」

 

次は黎のオフェンス。現在5-2で黎がリードしており、スリーポイントを決めれば黎の勝ちだ。海江田はスリーポイントを1番に警戒する。数瞬の沈黙の後、黎は再びステップバック、スリーポイントの体勢だ。しかし警戒していた海江田がこれを許さない。ステップバックで開いた距離をすぐにつめ、シュートチェックに向かう。しかしこれが黎の罠だ。1番警戒していたことを目の前でやられそうになると、ディフェンスはフェイクにつられやすくなる。上体の浮いた海江田の横を抜き去り、再びスリーポイントの体勢。

 

「させっか!!」

 

しかし海江田の武器はスピードだ。体勢を立て直し、斜め後ろにいる黎のチェックに向かう。しかし黎は今日何度も海江田の速さを目の当たりにしている。黎ほどの選手が、そのスピードに備えていないわけがなかった。

 

「!?」

 

黎はもう一度ステップバック、海江田は体勢を崩され、反応できない。完全にフリーの状態でスリーポイントを放つ。これを確実に決め、この1on1は黎の勝利となった。

 

「負けたか、いやつええわお前、参った」

 

「お前もな、俺が対戦した中で2番目に速かったよ」

 

2人の勝負を見ていた上級生は

 

「すげえのが入ってきたな」

 

「こりゃ俺らもうかうかしてると一軍外されちまうぞ」

 

さらに練習に熱が入り、1年生は

 

「同学年にあいつらがいるんだ、勉強させてもらおうぜ」

 

「俺らの代、期待できるんじゃね?」

 

「いつか追いついて、いや、追い抜いてやる」

 

期待に胸を脹らます者、対抗心を燃やす者様々だった。




シェイク&ベイクかっこいいですよね、私の一番好きなドリブルムーブです。見たことない人はYouTubeで見てみてください、惚れますあれは。
では、ここまで見てくださりありがとうございました。

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