今日も今日とて椿丘バスケ部は練習に励む。黎たちが入部して3週間ほどがたった。当初46人いた新入部員はこの2週間で25人にまで減った。練習についてこられなくなった者、周りとの差に絶望した者、やめた理由は様々だ。強豪校では例年よくあることであるので、監督の若林も、選手達も気にしてはいられない。辞めていった部員の分も、必死に練習するのだった。
「よし、今日は《あれ》やるぞー」
若林の一言で先輩たちは苦い顔をする。1年生には察しがつかないので、若林が補足説明をする。
「普段の練習ではランメニューやフットワークの練習を最小限にして、お前らに少しでも実践的な練習を多くしてもらってる。でもそれだけでは拮抗した試合の終盤、1番体力を試される時間帯に失速しかねない。実力があるのにスタミナ切れで負けるのはもったいないからな。今日はひたすら走り込む日だ。」
「うちがあれだけランメニューが少ないのに終盤走り負けないのは、いつもの練習の緊張感に加えてこのトレーニングがあるからなんだよ」
若林に続けて吉永が続ける。
「それで、どのくらい走るんですか?」
秀が恐る恐るというように若林に尋ねる。
「うむ、まずはスポーツテストでやるような20mシャトルランだ。普通の満点は125回だが、うちでは170回を目指してもらう。まだメニューは続くので無理はするな、自分のできるところまでいけばやめていい。じゃあ全員並べ」
若林の号令で、選手が全員スタートラインについた。
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「ぜぇ…ぜぇ…」
「はぁ…はぁ…」
さすがは椿丘バスケ部に入った選手達と言うべきか、125回は1人を除いて全員クリアした。間に合わなかったのは斎藤弘樹。1年生で、椿丘バスケ部唯一の初心者、高校からバスケを始めた者だ。しかし、130回、140回と進むごとに少しずつ脱落者が出始める。150回を越えようとしたところで二軍の選手は全員脱落。一軍の選手は流石というべきか多数残っており、25人中15人が最後まで脱落しなかった。1年生の中で残ったのは黎と秀だけであった。
「ふう…なかなかヘビーだな」
つぶやく黎に白石がからかうように言う。
「ははっ、そりゃこないだまで中学生だったんだもんな。」
「よく平気ですね、先輩たち」
「平気ではないさ、まあ、慣れる事だな」
白石の言うとおり、慣れるしかない。普段基礎メニューを最低限しかやっていない分、この練習についていけるような体力を付けなければ、試合終盤に走り負けてしまうだろう。
「よし、休憩後はマラソンな」
若林からさらなるメニューが告げられる。学校周辺の山道などを通る10キロほどの道を2周、計20キロのマラソンだ。特にタイムにノルマはないが、秒単位で記録されており、次回以降それを更新するのが目標となる。ここでもやはり1軍の選手たちが抜きん出る。1番早かったのは川崎だ、チーム1のディフェンダーなだけあり、足腰の強さとスタミナは相当なものだった。ついで吉永や白石といったスタメン達。こちらもさすがの一言だ。
マラソン後はトレーニングルームに移り筋力トレーニング。各々必要な筋力をポジション、役割ごとに若林が分け、自分にあったトレーニングを行う。そして最後に室内プールで水中ウォーキング。足腰に負担がかかりにくく、それでいて疲れるトレーニングで、1日の終わりにはもってこいであった。
「おし、今日はここまで。自主練やってもいいけど無理はしないこと。休むこともトレーニングの一環だからな」
今日ばかりは自主練をするメンバーも少ない。主力メンバーを除くとほとんど疲れきって体力も残っていないという感じだ。
「あ、それと練習試合の申し込みが来たから受けておいたぞ、相手は誠凛高校だ」
続けて若林が練習試合の予定を告げた。
「誠凛…?」
「知ってるのか、来栖?」
「ええ、一応。名門校ではありませんが、知り合いが行ったとこですね」
白石の質問に答える黎に、続けて吉永が尋ねる。
「知り合い?チームメイトだったやつか?」
「いえ、帝光の知り合いです。幻のシックスマンと呼ばれた選手、黒子テツヤ」
黎の言葉に一同驚きを隠せない。
「幻のシックスマン…実在したのか。パス回しに特化したプレイヤーで、全中3連覇の立役者」
「ええ、森田さん。でもやつはその性質上、周りが強くないと真価を発揮できません。どんなチームに入ったのか、楽しみですね」
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そして練習試合の日、誠凛高校のメンバーを椿丘高校に招き、試合の準備を始める。
「よう、あんたが来栖か?」
「ああ、あんたは?」
アップ中の黎のもとに一人の男が歩み寄る。赤い髪の大柄な男だ。190センチほどあるだろうか。
「火神大我だ。よろしくな」
「へえ…お前が黒子の新しい光か」
一目見て察する。こいつは誠凛の中でも飛び抜けていると。体格、表情、そして纏っているオーラがほかの選手とは別格だった。
「キセキの世代に唯一対抗できた男、なんだろ?つまりはキセキの世代には及ばなかったわけだ」
「……何が言いたい?そんな安い挑発をしに来たのか?」
「俺たちは黄瀬に勝った。だからそれより下のお前にも勝つ。俺と、こいつで」
そう言って火神はいつの間にか隣にいた黒子を指さしながら言う。その言葉に黎は驚きを隠せなかった。
「黄瀬に勝っただと?」
「はい、僕達は先日、黄瀬くんのいる海常高校との練習試合に勝ちました」
「ふぅん…じゃあ少しは期待しておくよ、火神クン。俺も全力でお前を倒す」
「「集合!!!」」
若林と、誠凛の監督である相田リコが集合をかける。
「スタートだが……渋谷、小野、海江田、来栖、熊谷でいく」
「ん?……え!?」
秀が5人を代表して驚きの声をあげる。若林はスターティングを一軍入りしている1年生5人で固めると言ったのだ。
「実戦でどれほどやれるのか見てみたい。夏の大会に向けて、1年生の実力もしっかり確かめておきたいんだ、それとも不満か?」
「いえ!そんなことは!」
「じゃあ思いっきりやってこい」
「「「「「はい!!!」」」」」
「ヤバくなったらいつでも代わるからよ」
白石に茶化されながら、5人はコートへと向かった。
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「なんの真似だ?」
誠凛高校主将、日向が椿丘のスターターを見ながら顔をしかめる。
「随分と舐められたものね…!」
ベンチでリコも静かに怒っているようだ。どうやら舐められていると感じているらしい。
「すぐにスタメン引きずり出してやる!」
「まあまあそう邪険にしないで、お手柔らかにお願いしますよ」
熱くなる誠凛サイドとは対照的に、黎たちは初陣にしては落ち着いていた。それもそのはず、5人とも全国等の大きな舞台も経験済み、無名校相手の練習試合であがってしまうようなメンタルではなかった。
「というか、俺たちのこともあまり舐めないでいただきたい。1年でも全国区の強豪の一軍メンバーがであることには変わりない、油断してると吉永さん立ちを引きずり出す前に終わりますよ」
最後に相手への挑発も忘れない、既に戦いは始まっていた。
椿丘高校スターター
PG 渋谷 秀 170cm
SG 小野 陽一 178cm
SF 海江田 遼 185cm
PF 来栖 黎 188cm
C 熊谷 和人 202cm
誠凛高校スターター
PG伊月俊 174cm
SG日向順平 178cm
PF火神大我 190cm
C水戸部凛之助 186cm
??黒子テツヤ 168cm
ジャンパーは熊谷と火神。身長差もあるので熊谷が勝つかと思われたが、制したのは火神だった。
「なに!?」
「へえ…」
熊谷が驚きの声をあげ、黎が感心したように呟く。ボールは伊月の手に渡り、誠凛のオフェンスでスタートだ。直後、伊月が何も無いところにパスを出した。
「え?そこには何も…」
小野が呟いた直後、ボールが突如方向を変え、小野の裏からゴール下へカットインしていた日向の手元へ向かった。
「これがキセキの世代幻のシックスマンのパスか!」
「ナイスパス!」
日向がレイアップの体制に入る。その時だった。
「知ってるよ、黒子。お前のそのパスは」
黎がブロックに飛び、日向のレイアップを叩き落とす。こぼれたボールを秀が拾い、椿丘の速攻になる。
「走れ海江田!」
「もう走ってらあ!」
秀から海江田へ縦パスが通り、そのままレイアップへ向かうが
「させっかよ!」
戻ってきた火神がブロックに飛ぶ。高さもタイミングも申し分ないブロックだ。
「ちっ、先取点は俺が決めようと思ってたのに、よっ!」
海江田はボールを下ろし、コーナーに走り込んでいた黎へパスをさばいた。
「ブロックしたのにもうあそこまで!?」
リコがベンチから驚きの声をあげる。リコの言うとおり、黎は先程ブロックに飛んでいる。しかし速攻の先頭を走っていて海江田のパスに走り込んで間に合わせた。トランジションの速さが伺える。
「ナイス海江田、先取点だ」
黎のスリーポイントがリングの中心を綺麗に射抜き、椿丘が先制した。
椿丘3-0誠凛
「黒子のスタイルはよく知ってる。そうホイホイパス通して決めさせられると思うなよ」
ディフェンスに戻りながら、黎は改めて黒子に告げた。
〜試合開始前〜
「え?俺が火神につくのか?」
「ああ、黒子にはシュートがないからディフェンスはつかなくていい、俺は全員のヘルプに回るから、火神はお前に任すよ海江田。それとも、自信が無いか?」
「言ってくれんじゃねえか、入部してから、毎日のようにお前と1on1やってんだ。止めてやるよ火神の1人や2人」
〜〜〜
黒子のパスを警戒するため、あえて黎は誰のマークにもつかず中を固めていた。だからこそ日向のレイアップをブロックできたのだ。
「さあ、こい誠凛。海常を、黄瀬を破った実力見せてもらおう」
お久しぶりです、書く意志はあったんです。時間がなかっただけで…