先制したのは椿丘。それも黒子ののパスを封じてからの得点だ。誠凛に与えるダメージはただのワンゴールというだけではない。
「黒子のパスを一発で攻略されるなんて…」
日向を中心に、誠凛サイドに動揺が走る。
「ボールくれ、いや、ください」
その空気を振り払うように火神がボールを要求。伊月からボールを受け取り攻め上がる。
「悪いが俺がやりたいのはお前じゃねえ、とっとと倒してあいつと勝負だ」
マークにつく海江田とヘルプポジションにいる黎を交互に見ながら火神が言う。
「まあまあそう言わずに、案外いい運動になるかもしれねえぜ?」
海江田がニヤリとしながら返す。
「けっ、止めてから言ってみろよ」
ゆっくりとボールをつく火神。直後いきなり加速し、右から海江田を抜きにかかる。
(はええ、が、俺や来栖のが断然速いね!)
普段黎と1on1をしている海江田にとって、火神のスピードはそこまで脅威ではなかった。…スピードは。
(チッ!こいつ俺がコースに入ろうとお構い無しかよ!)
火神は海江田にコースを塞がれてもそれをものともせずフィジカルで抜きにかかった。
「行かすかよ!」
海江田がさらに深く回り込んで火神を止めようとした時、火神は急停止して左にロールターン。そのままワンハンドダンクを決めた。
「こんなもんかよ、準備運動にもならねえぜ」
そう挑発し、火神は自陣へと戻っていった。
「ドンマイ海江田、取り返していこうぜ」
秀が火神に声をかける。
「へへ、そうでなくちゃ面白くねえ」
海江田はニヤリと笑い、オフェンスへと向かった。
秀がボールを運んで上がっていく。ハーフラインを超えたところで黎にパスをさばいた。マークにつくのは火神。
「こいよ、来栖!」
「あいにくだが勝負はまだお預けだ火神」
そう言うと、リング付近にボールを放り投げる。
(何やってんだ?シュートにしちゃ軌道がおかしい…まさか!?)
「っしゃあ!」
ボールは走り込んだ海江田に渡り、そのままアリウープダンクをお見舞いした。
「神出鬼没の黒子が出ている以上、低いパスはいきなりカットされる恐れがあるからな、高い位置で回してればそのリスクも回避できる。実質常に誰かがノーマークなのと同じだ」
高さのある黎が秀に変わってパスを出し、同時に火神がマークにつくことで火神を外へ誘う。残された海江田の高さに対抗できるのは水戸部だが、その水戸部を熊谷が抑えてブロックに行かせない動き、クリアアウトで封じる。そうすればあとは高い位置にボールを放って海江田がそれを決めるだけ、高さの利をいかし、黒子のスティールも封じる一石二鳥のオフェンスパターンだ。
椿丘5-2誠凛
「くそ、こんな形で黒子対策をしてくるとは」
「来栖くんは相手に合わせて最適な攻め方、守り方を考えて実践してきます。やっかいですね」
伊月が毒づき、黒子が同調する。基本スペックは全て並以下である黒子の、唯一にして最大の武器であるミスディレクションを封殺する攻めは、黎の考えたものだった。
「オフェンスにおける黒子の弱点は、自分で点を取れないからあけておいても怖くないところ。ディフェンスはそのサイズとフィジカル。これをつかない手はないでしょ」
相手の弱点をせめるのは勝負の基本だ。続く誠凛のオフェンスは日向のスリーポイントが外れ、点差はそのまま椿丘のオフェンスになる。再び黎がボールを持ち、先程のように海江田へ合わせようとする。
「くそ!」
あわてて日向が外から海江田のカットインについていく。しかし、ここでフリーになった小野を黎は見逃さない。
「ナイスパス!」
「しまった!」
日向が気づいた頃にはボールは小野の手に収まっていた。フリーの小野が確実に3ポイントを沈める。
椿丘8-2誠凛
「ドンマイ、1本取り返そう!」
伊月が味方を鼓舞し、ボールを運んでくる。
「くれ!」
ボールを受けたのは火神。一度海江田から点を奪っていることもあり、リズムを取り戻すためにもエースに託した形だ。
「下がっただと…?」
海江田のディフェンスを見た日向が怪訝な声をあげる。
(こいつに外があるか確かめる、ないならいくらでもやりようはあるんだ)
火神に外のシュートはないと読んだ海江田は距離をとって守っていた。外があるならあるで、序盤にそれを知れるならそれでいいと思っていた。
(あと、こいつさっき強引に右から来たよな…試してみるか)
加えて海江田は火神の右側に立ち、右からのドライブを封じる構えだ。
「チッ!」
仕方なく左からのドライブを試みる火神。しかし海江田を抜き去るには至らない。
(こいつ、右と左でドライブのキレが全然違う。これなら止められる!)
火神の止め方が分かった海江田。引き続き右ドライブを防ぐディフェンスをする。
(くそっ!こいつ、俺が左のドリブルが得意じゃねえことを見抜いて!)
「あれ、大口叩いてこんなもんか?準備運動が足りねんじゃねえのか?」
「っせえ!そこをどきやがれ!」
火神は挑発に乗ってしまい、フィジカルで強引に右から抜きにかかる。しかし海江田は右を封じていたため、完璧にドライブのコースに入っている。
「オフェンスチャージング!」
結果、海江田がうまくテイクチャージをし、またしても誠凛のオフェンスは失敗に終わる。
「俺が毎日1on1やってんのは来栖だぜ?あんま舐めてかかると来栖とやるより先に俺が潰すぞお前のこと」
立ち上がりながらニヤリと海江田が告げる。火神は何も言い返せなかった。
続く椿丘のオフェンス。ボールを運ぶのは黎だ。
(流れはうちにきてる。ここで火神から点を取れば、一気に優位に立てるな…)
味方に指示を出し、アイソレーションの形をとる。
「ついにやる気になりやがったか」
「ああ、一気にこのクオーターはいただくぜ」
ゆっくりとボールをつき、隙を伺う。
(なるほど、確かにいいディフェンスをする。加えてこいつを抜いても黒子がスティール狙ってくんだもんな…なら)
黎は一瞬動きを止め、ゴールの方を見る。外のある黎なら、フェイクには十分だ。反応した火神の横をクロスオーバーで通り過ぎる。
「なにっ!?」
侮っていた訳では無い。しかし火神は完璧に抜かれてしまった。
(黒子が絶対ヘルプに来るはず、スティールされたら流れを取り切れない。それなら…)
黎は後ろ手にボールをつきながら急停止、その後目の前に黒子の手が現れた。
「…どうも」
「相変わらず突然現れるな、黒子!」
スティールを狙ってくるタイミングを読み切り、そのタイミングで停止することでスティールされるのを防いだ。奇襲を封じてしまえば、黒子のディフェンスに苦戦する黎ではない。ロールターンで黒子を一瞬で抜き去った。そのままゴールへ迫るが、ここで火神が追いついてくる。
「行かせっかよ!!」
(黒子をかわすために止まった一瞬で追いついてきたか、まあでも)
「予想はしてたけどな!」
黎は再び急停止し、高速でバックビハインドを繰り返す。その動きに惑わされ、火神の動きが止まってしまう。そのままギャロップステップで火神もかわし、スタンディングレイアップの体制に入る。得意のシェイク&ベイクだ。
「……!!」
しかしここで水戸部がヘルプに間に合い、ブロックに飛んできた。うまく黎とリングの間に入り、コースを塞いでいる。
「無駄だ!」
だが、黎もただブロックされるのを待つ訳もなく、ゴールに背を向けて背中を水戸部にぶつける。ここで審判の笛がなった。しかし黎はこれでは止まらない。ゴールを背負ったまま、水戸部の手の上を行くループのバックシュートを放ち、決めてみせた。
「ディフェンスプッシング!バスケットカウント、ワンスロー!」
「「おおおおおおお!!!」」
「3人かわしてバスカンで決めやがった」
「見せつけてくれるな」
椿丘ベンチが盛り上がり、白石と森田が感心した声を上げる。対照的に、誠凛側は言葉が出なかった。
「黒子くんのスティールをかわして火神くんを2回もあっさり抜いた。水戸部くんのブロックもものともしてない…」
このゴールは誠凛に相当なダメージを与えた。エースである火神が抜かれ、黒子のスティールもかわされてしまい、インサイドの要である水戸部もとめられなかった事実は、誠凛に重くのしかかる。
黎はフリースローも落ち着いて沈めた。
椿丘11-2誠凛
一気に9点もの差をつけられ、流れも椿丘に傾いている。次のオフェンスを落とし、差が2桁になるようなら、もうこのクオーターは完全に椿丘のものとなる。
「悔しいけど、今の俺じゃお前も抜けねえか…」
ボールを受けた火神は何も無い空間にパス。それを黒子が弾き、海江田を抜いた火神へリターンパスを出す。
「連携で抜きに来たか!」
海江田は完全に虚をつかれてついていけていない。火神は好機と見てダンクの体制に入った。
「あめえよ!!」
しかし黎がこれを許さない。ヘルプに備えていたためタイミングも完璧であり、火神のダンクをたたき落とした。
「アウトオブバウンズ、誠凛ボール」
ボールはラインを割り、再び誠凛ボールでスタート。しかしここでリコはタイムアウトを要求した。
「火神くん、聞いてください」
リコにタイムアウトを取るよう求めたのは黒子だった。
「海江田くんと来栖くんのディフェンスを、僕と火神くんだけで突破するのは相当厳しいです。なぜなら…」
「フィニッシャーが火神だと分かっているら、単純な2対2ではない。火神をダブルチーム気味にマークしていればいい」
黒子がベンチで説明している時、同様の説明が椿丘ベンチでも行われていた。黒子にシュートがない以上、どんなにボールを回しても最後は火神が決めに来るのが分かっている。分かっていれば止めやすくなるということだ。
「だから火神くん、ここからは…」
ーーーーーーーーーー
タイムアウト明け、誠凛のオフェンス。ボールをつくのは火神だ。海江田を左右に揺さぶり、少しズレができたところで黒子にボールを託しカットイン。リターンを受け取ってシュート体制に入る。
「何度やっても同じだ!」
すかさず黎がヘルプに来て火神を止める。
「いや、同じじゃねえよ」
しかしここからは先程とは違った。火神はもう一度黒子にリターン。そして黒子は逆サイドにボールをさばいた。
「スイッチ!」
逆サイドでは伊月が日向にスクリーンをかけている。スイッチし、秀が日向の、小野が伊月のマークにつく。ボールを受けたのは日向だった。
「うて、日向!!」
秀と日向では8センチの身長差がある。秀のブロックは間に合わず、日向がスリーポイントを決めた。
椿丘11-5誠凛
〜〜タイムアウト中〜〜
「ここからは…僕と火神くんでボールを回して、先輩たちに点をとってもらいましょう」
火神と黒子で黎を引き付け、ヘルプのいない状況から伊月たちに点を取らせる。これが黒子と火神の作戦だった。火神としては悔しい決断だが、このまま海江田と黎のディフェンスに無策で突っ込んでも勝つことは出来ないと察したからこそこの作戦に乗った。
「おもしれえ、こっからが本番か」
「来栖くん、僕達は来栖くんに勝てなくても、誠凛は負けません」
黒子が改めて黎に、椿丘に宣戦布告した。
しかし誠凛にはもうひとつ問題がある。
「ナイス熊谷!」
黒子対策の上を通すパスが黎から海江田に通り、ヘルプに来た水戸部に合わせて熊谷にパス。熊谷のダンクが決まった。そう、誠凛には点をとることより、椿丘を止めることの方が難しいのだ。
第1Q残り3分
椿丘26-誠凛15
点は取れても、やはり椿丘のオフェンスを止められない誠凛。差はまた徐々に開き始めていた。このタイミングで黒子が一時離脱。土田が代わりに投入された。
「そろそろ俺も目立っとかないと、な!」
(低い、めちゃくちゃ止めづらいぞこれ…!)
伊月の真横を、重心を極限まで落として高速でダックイン。170cmの秀がさらに沈みこんでドライブしてくる。秀が自分より大きな相手を抜くために習得したドライブだ。伊月は反応しても追いつけない。あっさり抜き去ってしまった。
「くそ!」
土田がヘルプに向かうが、スピードに乗った秀は簡単には止められない。左右に振り、再び低姿勢からのダックインで抜き去りそのままリングへ向かう。水戸部がさらにヘルプに出てこようとした。
「よっと!」
ここで秀はビハインドパスフェイクをした。水戸部が来るタイミングで熊谷へパスを出す素振りを見せると、水戸部はそれを警戒してヘルプに出られなかった。そのままフリーでレイアップを決める。
「ただのチビだと侮ってると、足元すくっちゃいますよ」
そう言って得意げにディフェンスに戻る秀。
続く誠凛のオフェンス。
「高い!」
ローポストで面をとった水戸部が伊月からボールをもらい、熊谷をかわすためにフックシュートを放つが、熊谷はこれをブロックした。
「俺をかわすためにフックやステップシュートをしてこられたのは、何も初めてじゃない。むしろ俺に高さで劣る相手は大抵やってくるんだ、予想外じゃない」
「速攻!」
こぼれたボールを秀が拾い、椿丘の速攻になる。海江田と黎が先頭を走っており、火神以外は追いつけない。完全に2対1の形だ。
「止めてやる!!」
「1人じゃ無理だ」
黎がエルボーあたりでジャンプショットの体制に入る。火神はブロックに飛ぶしかない。そうなると海江田があく。黎は落ち着いて海江田にパスをさばき、海江田が難なくレイアップを決める。
椿丘30-15誠凛
既に15点の差がついていた。オフェンスでは黒子抜きで点をとるには日向のスリーくらいしか方法がなく、ディフェンスでは椿丘を止められない。残り2分、誠凛は日向が連続でスリーを決めて追いすがるが、やはり椿丘も同じように得点を重ねた。
第1Q終了
椿丘36-21誠凛
1年生しかいないメンバーに15点のリードをつけられた誠凛の空気は暗かった。
「日向くんでいくしかないわ」
誠凛ベンチが第2Qに向けて決めた方針は、日向で点をとること。現在の椿丘相手に1番勝率が高いのは日向だ。小野は優秀なシューターでり、現にこの試合でもスリーを3/3で決めているが、ディフェンスやスピードは得意としていない。ここで攻めるしかないと結論づけた。
「水戸部くん、土田くん、日向くんのサポートをお願い。伊月くんはいいとこでパス回してあげて。火神くん、あなたにも隙があれば点をとってもらうから、しっかり準備しててね」
第2Q開始、誠凛は意地を見せたいところだ。
正直あの時の誠凛が海常に勝つのだいぶ無理があると思うんですよね…w
椿丘の1年たち強いんだぞ〜ってことでこういう展開にさせてもらいました。
1年の力的には
黎>海江田=秀>熊谷>小野ってイメージで書いてます
では、またいつか