黒子のバスケ キセキを討つ奇跡   作:のなめん

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8話目です、どうぞ。椿丘の新しい選手が何人か出てくるのであとがきで軽く紹介します。


第8Q

スキール音が椿丘バスケ部の体育館に響く。誠凛高校に勝利し、夏のインターハイ予選に向けて勢いをつけた椿丘メンバーは今日も厳しい練習で己を鍛えていた。

 

「ストップ!吉永、来栖、ちょっとこい」

 

誠凛との試合以降、若林は頻繁に練習を止め、吉永と黎を呼んで話をするようになっていた。それまでゲームメイクを担当してこなかった黎に吉永と組んでカードをやらせようという構想がある程度形になりそうであることを誠凛戦で確認できたことで、ガードとしての考え方、ゲームのコントロールの仕方を黎に伝授していた。その甲斐あってか、黎もガードとしての役回りをどんどん覚えていき、吉永とのコンビガードは全国でも通用するだろうという確信が若林に芽生えつつあった。

 

「よし、じゃあゲームやるぞ。チームはこっちで決めさせてもらった」

 

若林が決めたチームは以下の通り

 

チームA

PG 吉永優斗 3年

SG 加藤慎也 2年

SF 江角鷹也 2年

PF 川崎圭一 3年

C 熊谷和人 1年

 

チームB

PG 来栖黎 1年

SG 重松恭弥 3年

SF 白石雅史 3年

PF 三宅太一 2年

C 森田康平 3年

 

若林の狙いは黎と吉永をぶつけること。全国トップレベルのガードがチームにいることをフルに活かし、身をもって経験を積ませようという狙いだった。ジャンプボールはなく、チームAのボールでスタート。1Q10分の2Q制で始まった。

ゆっくりとボールをつく吉永。黎がプレッシャーをかけ、スティールの隙を伺うが、吉永にその隙はない。プレッシャーに動じず、落ち着いてパスコースを探す。吉永は一度加藤にパスをさばいた。加藤はSGではあるが、中に切り込んでの得点が得意なスラッシャータイプだ。スリーポイントも打てるが、重松や小野ほどの精度はない。吉永はパスをさばいたあと中にカットイン。黎がバンプでそれを阻むが、それを受けてもう一度外にでてボールをもらい直す。Vカットと呼ばれるボールのもらい方だ。連動するように川崎が黎にスクリーンをかける。それを受けて吉永は川崎の方とギリギリ接触しない位置をドリブルで通る。これはブラッシングと呼ばれる動きで、自分とスクリーナーの間をディフェンスがファイトオーバーでついてくるのを防ぐための動きだ。黎は川崎の後ろを通るしかない。それを見て吉永は黎が川崎の後ろに回った瞬間にステップバック、スリーポイントの体制に入る。川崎のマークであった三宅が慌ててチェックに行くが、吉永のスリーポイントはフェイクだった。三宅を抜くと同時に彼を背中に背負う、所謂ジェイルで封殺し、吉永と川崎対黎という2対1ができあがる。スピードに乗った吉永はそのままリングへアタック、黎が付いていくが、それを受けて吉永は川崎にビハインドパスを出した。フリーの川崎が確実にジャンプショットを沈める。先制点はチームAだ。

 

「うめえ…、簡単に2対1を作る技術と、プレッシャーの中でも適切な判断をする冷静さ、このプレーだけで吉永さんの凄さを再認識させられるぜ」

 

コートの外で見ていた秀がつぶやく。同じガードとして盗めるものは盗もうと、秀は吉永の一挙手一投足を見逃すまいとしていた。

次は黎の番である。吉永はこのゲームでもバックコートからプレッシャーをかけてきた。黎はそれに動じることなく、吉永に背を向け、ボールと吉永の間に常に自分の体を置きながらジリジリと前進していく。これなら簡単にはボールを失わないし、無理にスティールを狙ってくれば逆をついて抜くことができる。吉永もここで無理をすることはなく、黎はそのままフロントコートへ侵入した。その後、黎はトップから右サイドにいた重松にハンドサインでスクリーンを要求。それを受けて重松がスクリーンへ向かい、それを察した吉永が重松の位置を確認しようと目線を黎から逸らした瞬間、逆をついて急加速、ドライブに打って出る。一瞬反応が遅れた吉永だが、簡単には抜かせてくれない。黎はそのまま後ろ手にスクリーンに来ていた重松にボールを預け、ゴール下へとカットイン。追いかける吉永だが、ここで森田のスクリーンがかけられる。フリーになった黎はそのまま右コーナーへ走り込み、そこへ重松からパスが通る。スイッチした熊谷が追いかけてくるが、黎は落ち着いてシュートフェイクで熊谷をかわす。それを見越してか、江角がヘルプに来て黎のドライブを阻むが、それはつまり白石がフリーになるということだ。アウトサイドで待つ白石へのパスを考えた黎だが、さすがというべきか、川崎が既に白石のマークに付いていた。ディフェンスローテーションが非常に早い。川崎は対人ディフェンスもチームディフェンスも一流だった。ここで黎は迷わずシュートを選択。クイックリリースで放たれたボールは2、3度リングをはね、その内側を通った。

 

「なるほど、悪くない」

 

試合を見ていた若林が満足げに頷く。若林と吉永、そして秀は黎の意図にすぐに気づいた。直前に熊谷をかわし、川崎が外の白石のマークについたということは、インサイドで森田の高さに対抗できる選手がいなくなったということだ。打ったシュートが入ればそれでいい。そして外れてもリバウンド勝負で森田が九分九厘勝つ。いわば保険付きのミドルジャンパーだった。

 

「短期間でさらにバスケIQをあげたな」

 

スイッチしたことでその森田をマークしていた吉永も、自分が同じ状況になったらそうすると考えていた。自分と同じ判断ができるようになった黎を見て吉永はニヤリと笑った。

その後も吉永と黎のガード対決は白熱した。単純な1on1なら黎に分があるが、試合の組み立て方、味方の活かし方はやはり吉永が数段上。元々スコアラーである黎は基本的にフィニッシュは自分でというオフェンスパターンが多く、チームBの得点の多くは黎のものであるが、対してチームAは全員が満遍なく点をとっていた。

 

第1Q終了

チームA 26

チームB 22

 

僅かにチームAがリードしていた。これが吉永と黎との司令塔としての力の差から来るものであることは明らかだった。黎は水分補給をしながら、これからの試合運びに思いを巡らせる。

 

「はい、来栖くん、タオルどうぞ」

 

そこへマネージャーである橋本がタオルを持ってやってきた。

 

「ああ、ありがとな」

 

「来栖くんすごいよね、慣れないガードのポジションであの吉永さんと互角に渡り合うなんて」

 

「いや、互角なんてもんじゃないさ。点差は4点でも、ガードとして、司令塔としての力の差は明白だよ。俺は自分が点を取りやすくするために味方を動かしているのに対し、吉永は味方を活かすために味方を動かしてるんだ。内容では完敗さ」

 

橋本の賞賛にそう返した黎。実際これは黎の本音だ。

 

「いや、そうでもないぞ」

 

そこに若林が歩いてきて黎の言葉を否定する。

 

「司令塔にとって一番大事なことはなにか。味方にまんべんなく点を取らすこと?自分を殺して黒子役に徹すること?そうじゃない、チームを勝たせる方向にゲームを持っていくことだ。その為に自分が何点取ろうが味方が何点取ろうが関係ない。最終的にチームを勝たせることが出来ていればそれでいいんだ。その観点から見ればその差はたった4点。悲観することでもないさ」

 

若林の言葉に納得する黎。そしてその言葉で黎の肩の荷も軽くなった。

 

「お前に吉永と同じことをしろと言ってるんじゃない。お前はお前のやり方で試合を動かしていけばいい。強いてアドバイスするとすれば、ガードの仕事はボールを持っていない時にもできる、とだけ言っておこう」

 

そう言って離れていく若林。あとは自分で答えを見つけろということだろう。

 

「……なるほどな、ちょっと試してみるか」

 

黎の中でひとつ答えが見つかった。あとは通用するか実践で試してみればいい。

 

「後半も頑張ってね、来栖くん」

 

「ああ、ありがとう、やるだけやってみるよ」

 

ニコッと笑う橋本にタオルを預け、シューズを裏を手のひらで擦りながらコートに向かった。

 

第2Q開始、ボールはチームBからだ。黎はトップからすぐに白石にボールをさばいた。その足でそのまま白石のマークをしている江角にスクリーンをかけにいく。しかしスクリーンをセットすることはなく、セットするふりをして中にカットイン。ゴーストスクリーンだ。1度中に入り、再度外でボールをもらい直す。次は何をしてくるかとチームAが警戒を強める。その瞬間、白石がディフェンスの裏を抜ける動き、バックドアで江角を振り切った。黎はそこに向けてパスをさばく。ボールを受け取った白石はそのままミドルジャンパーを沈める。

 

「ナイッシュ、白石さん!」

 

「いいパスだったぜ!」

 

黎と白石が互いを労う。続くチームAのオフェンスは江角のスリーポイントが外れ、2点差でチームBのオフェンスだ。黎は今度は重松にボールをあずけ、そのままハイポストへポストアップ。吉永とのサイズの差を活かす。ボールを受けた黎はシュートフェイクの後、ローポストの森田へパスし、ゴール下へカットイン。ハイローと呼ばれるインサイドでの連携プレーである。それを受けて森田は黎へパスをするふりをした。完全に黎にボールが渡ると思っていた熊谷を振り切り、森田がターンアラウンドジャンパーを決めた。

 

「引力の活かし方が分かってきたか」

 

「引力…?」

 

コートの外で試合を見ていた若林の言葉に橋本が反応する。

 

「優れたスコアラーやシューターは、いるだけでディフェンスの警戒の対象だ。その選手がボールを持てば、いや持とうとするだけで注目が集まり、他の選手は動きやすくなる。パスをさばかずとも味方を活かすことができるだけの引力をあいつは持ってるんだよ」

 

「なるほど…」

 

その後も黎はコートを動き回り、味方が動きやすい状況を作り出した。それを嫌って黎のマークが緩くなれば、即座に点を取りに行く。両方を止め切るのは不可能だった。

 

試合終了

チームA 42

チームB 42

 

結局同点で決着つかずとなった。しかし、黎にとってはこの上なく収穫の大きいゲームとなったことは間違いない。司令塔としてのレベルを上げることが出来た。

 

「よし、今日はここまで。夏の予選はすぐそこだからな、時間を無駄にしないように心がけて、万全の状態で予選を迎えよう」

 

「「「ありがとうございました!!!」」」

 

その日の練習はこれで終了。そして各々日常となっている自主練習へ向かった。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

「出たぞ、県大会の組み合わせ。」

 

昨年インターハイに出場した椿丘は地区大会は免除、県大会への出場は確定している。その組み合わせが発表された。若林が全員分用意された組み合わせのプリントを配る。椿丘はAブロックの第一シード、昨年の県大会優勝校のポジションであり、2回戦からのスタートだ。

 

「初戦は川田高校と倉安高校の勝った方だな」

 

組み合わせを確認して吉永が言う。どちらもインターハイに出場したことはなく、大型新人が入ったというニュースも聞かない。十中八九問題ない相手だ。

 

「今年の要注意校は、相葉学院、豊明大付属、三和の3校。相葉学院は言うまでもなくうちのライバル校、豊明大付属は全体的にサイズがあり、腰の座ったバスケをする古豪、三和は2年生エース佐久間を中心に最近力をつけてきた高校だな」

 

白石が今年の注目校を整理する。

 

「相葉は当たるとしたら決勝、豊明は準決勝、三和はベスト8ですか」

 

組み合わせを確認し、黎が配られたプリントにチェックをつける。

 

「決勝準決勝のこともいいが、まずは目の前の一勝を確実に取りに行くぞ、どっちが勝ち上がってきても全力でかかる。俺たちに負けは許されないんだからな」

 

吉永がチームを締める。波乱万丈の夏の予選が、始まろうとしていた。

 

 




SG 加藤慎也 2年生 177cm
スリーポイントの精度は小野や重松に劣るものの、中に切り込んでのシュートやそこからのパスを得意としている2年生の正SG。ディフェンスも苦手とはしていない。

SF 江角鷹也 2年生 183cm
椿丘の2年生の中でのエース。中外両方で点を取ることができ、スピードも申し分ない。ディフェンスは得意としていないが、オフェンス力だけならスタメン陣にも匹敵する。

PF 三宅太一 2年生 187cm
パワープレイよりもミドルジャンパーやステップシュートといったテクニカルなオフェンスを得意としている。ディフェンスも申し分ない。
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