モブ厳な世界で時の王者やってます。   作:あんこパンパンチマン

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誤字修正や沢山のお気に入り登録に評価と感想いつも感謝です!

地味に週に二回投稿を目指してるんですけど難しいですね、そしてぼくは最近シンフォギアロスに襲われてるジオ……。

ジオウロスは冬映画の存在とゼロワンのお陰でなんとかしていたがシンフォギアロスが……。

それと展開的にも色々あってデュランダル移送回は飛ばしてしまいました。万全な状態のシンフォギア装者が3人もいたらジオウいらなくね?ってなったのとフィーネの力を行使した瞬間を目撃したらあっこいつ普通じゃねえ(察し)ってなっちゃうので。

そんなこんなで強引な日常回を挟みました。
デュランダル移送はカット、よってデュランダル移送後ですね。すいません。




モブ厳な世界で小さな日常を。

 

「──それでですね響ったら酷いんですよっ! いつも夜遅くに帰ってくるからこっちは心配なのに何も話してくれないんですっ!」

 

「そ、そうだね……」

 

「今日だって一緒に帰る約束してたのに急に予定が入ったとかで私から逃げるみたいに一人でどこか行っちゃうし……この間の流れ星の約束だってドタキャンされたんですよ! ドタキャン!……って聞いてますかソウゴさんっ!」

 

「う、うん。聞いてる、ちゃんと聞いてるからあんまり大きな声出さないで。というかちょっと落ち着いて」

 

隣の椅子に腰を下ろしている未来がグラスに入ったウーロン茶をぐびぐびと飲みほしながらグラスをカウンターに叩きつけ、普段とは全く違う様子でグイッと顔を近づけて迫ってくる。

 

どうも、常磐ソウゴです。先日行きそびれた近所のお好み焼き屋さんに未来と二人で来ています。

 

数時間後に来客の予定があったので時計店の掃除しながら準備をしていると何やら様子のおかしい未来が時計店に遊びに来た。

 

俺を視界に入れるや否やズンズンと近づいてきてご飯食べに行きましょうと言ってきた。

 

来客の予定があるので当然断ったのだが壊れたレコーダーのようにご飯行きましょうと何度も笑顔で繰り返し誘ってくる未来の有無を言わさぬ迫力に押し切られこのお好み焼き屋さん“ふらわー”に連れて来られた。

 

カウンター席でお好み焼きの追加注文をしてからストレスの溜まったサラリーマンのように愚痴をこぼす未来の相手をする。

 

「この前なんて学校も休んで特訓、特訓って言って早くから出かけちゃうし。学校の先生を誤魔化すのだって私も大変なんですよっ!」

 

「わかった、わかったから落ち着こう。というか未来まさかとは思うけど酔ってる?」

 

「酔ってません! 未成年だからお酒は飲めませんしこれはウーロン茶ですっ!」

 

いやそうだけど。場の雰囲気酔いというかなんというか、今の未来と話してると酔っ払いの相手をしてる気分になる。

 

「ソウゴさんはどう思いますか! 何か聞いてもはぐらかされちゃいますし、心配くらいさせてくれてもいいと思いませんか!」

 

「わかったから落ち着いて……というか顔近いって未来」

 

息がかかるくらいグイグイ近づいてくる未来を宥めているとふらわーのおばちゃんが鉄板で熱々に焼き上がったお好み焼きをお皿に乗せて差し出してくる。

 

「ふふふっ。今日の未来ちゃんは人の三倍の量は食べる響ちゃんに負けないくらい沢山食べるじゃないか。はいこれ、おかわりだよ」

 

「ありがとうございますっ! はぐっ、はむっ……」

 

「朝から何も食べてないとは言ってたけど食べ過ぎじゃない? 太るぞ……痛い、痛いから無言で俺の足を蹴らないで。ごめんってば」

 

カウンター席の下で行われる容赦のない暴行、女の子に体重の話は禁句でしたね。

 

というかマジで痛い、遠慮なくガシガシ蹴ってくるじゃん未来さん。

 

俺も運ばれてきたお好み焼きを頂く。

響がほっぺが落ちる程の美味しさと俺の前で食レポしてたのも納得できる美味しさだ、これなら何枚でもいけそうな気がする。

 

……未来がこんな状態になっている理由はなんとなく察せるし理解できる。

 

響は二課関連の仕事で忙しいみたいだし話を聞く限り特訓も続けているそうだ。

 

響からしたら未来の事も大切だが二課の仕事も大切な事で必要な事なんだろう、ノイズが関わり未来との約束が疎かになってしまっても仕方のない事だ。

 

けど未来からしたら不満ありありだ、事情を知らない未来から見てみれば響の行動は怪しい事この上ないだろう。突然運動を始めては日常生活に支障をきたすようなスケジュール、朝早くから急に居なくなって夜にも姿を消し疲れた様子で帰宅する。

 

何か聞いてもはぐらかされて教えてくれず、翼や奏はその行動の理由を知っているのに親友の自分だけが知らされていないような状況。不満をあらわにするのも無理はない。

 

「……ソウゴさんは、隠し事をするってどう思いますか?」

 

「え、そうだなぁ……俺は隠し事をするって事で人の事をとやかく言うことは出来ないかな。俺だって響や未来に隠してる事はあるし」

 

「そ、ソウゴさんがですか?」

 

「もちろん、俺も未来が知らないような隠し事の一つや二つあるよ。それに未来だって俺に教えられない恥ずかしい秘密ぐらいあったりするでしょ? それと同じだよ」

 

実は俺も響の事情を知っていたり変身してノイズと戦っていたりなんかは教える事のできない隠し事だ。

 

「けど、響が自分から話してくれるまで信じて待つしかないんじゃないかな。響は自分から隠し事をするような性格じゃないし」

 

「……わかってます、響にだって何か理由があるのかも知れないのに。けど、どんどん嫌な考えばっかり浮かんじゃって」

 

そう言って箸を止めて俯く未来。響に未来に翼と奏、なにかとこの4人は一緒にいる事の多いグループだ。

 

その中で自分は何も知らないで1人だけ仲間外れのような状況に不安を感じている、3人がそんな事をするような人じゃないと理解していてもやっぱり不安なのだろう。

 

「はいよ未来ちゃん。これもお食べ」

 

手前の調理場でお好み焼きを焼いていたおばちゃんがサラダやドリンク、他にもお好み焼きを次々と並べて来る。差し出された品々全てが注文していないものだった。

 

「サービスだよ。お腹が空いてる時に考え事をしてもね、ロクな答えも見つけられずに嫌な考えばっかり浮かんでくるもんなんだよ。だから今はお腹いっぱい食べて難しい事は後でゆっくり考えればいいのさ」

 

「おばちゃん……ありがとうっ!」

 

箸を伸ばして美味しそうにパクパクと食べ進めて行く未来。よくそんなに食べられるな、この子の胃袋はブラックホールか?

 

次々と空になっていき積み上がっていくお皿の山を呆然と眺めているとそれに気がついた未来がジト目で睨むようにこちらを見てくる。

 

「……なんですか」

 

「いや……ただ美味しそうに食べるなーって思っただけ」

 

「……さ、最近は響と一緒にランニングを始めたから別に大丈夫です」

 

「俺は何も言ってないよ未来」

 

顔を赤くして視線を逸らしながらも箸を止める事はない未来、しかし先程と比べてそのスピードを若干遅くなってる。その様子に俺もおばちゃんも思わず苦笑い。

 

俺も自分のお好み焼きを完食して追加分を食べ進めていた時におばちゃんが何の前触れもなく爆弾をぶち込んできた。

 

「しかし未来ちゃんの彼氏さんがまさか時計店のソウゴくんとはねぇ。おばちゃんビックリしたよ」

 

「……んんん! んぶっげほっ、こほぉっ!」

 

「ちょ、大丈夫か未来。ほらウーロン茶飲んで」

 

おばちゃんの爆弾発言に反応した未来はお好み焼きが変な所に入ったのか大きく咳き込んでいる。未来が飲んでいたウーロン茶を手渡すとそれを受け取ると大きく傾けて飲み干していく。

 

「きゅ、急に何言ってるんですかおばちゃん! ソウゴさんは別にか、彼氏とかそんなんじゃないです!」

 

「……そんな、俺とは遊びだったの?」

 

「ほら、ソウゴくんもこう言ってるし。恥ずかしがらなくてもいいのよ未来ちゃん」

 

「お願いですから話をややこしくしないでくださいソウゴさん!」

 

「ごめんごめん……別に俺も未来も全然そういった関係じゃないよ、ただのお友達。あんまり揶揄うと未来がかわいそうだし変に誤解しないでよおばちゃん」

 

おばちゃんの発言に悪ノリした後、耳まで真っ赤に染めてぷんぷんしている未来を落ち着かせながらおばちゃんの発言を否定する。年頃の女の子はそういう話題に敏感だろうから誤解は解いておかないと。

 

「あらそうなの? じゃあ響ちゃん?」

 

「いや響とも単純にただ仲がいいってだけでそんなんじゃないですよ」

 

なぜかこの恋話じみた話に食いつきのいいおばちゃん。この話をここで終わらせる為に追加注文をして話題を強引に変えると横から視線を感じた。

 

そこには目が据わり不機嫌そうな様子の未来がいる。

 

「……どうしたの?」

 

「いえ別に、ただ……私一人だけが慌てて、そこまで冷静にハッキリと言われると女性としてなんかこう、イラッときました」

 

「えぇ……じゃあ俺にどうしろと?」

 

「ソウゴさんは乙女心というものを勉強してください。あと代金はソウゴさんの奢りで」

 

何でやねん、乙女心? なにそれ食えんの?

 

俺のよく知ってる女の子たちは時間止めたり怪人相手に普通に銃撃したり手からエネルギーソード出したりする子だったし。そんなの学ぶ暇なかったよ。

 

この後意外と高くついた代金をサービスで安くしてくれたおばちゃんに感謝しながら支払いを済ませて、ぷりぷりしてる未来を宥めながら途中まで送っていき時計店に戻った。

 

 

 

 

 

 

時計店に戻ってみると長い髪を上で纏めて眼鏡に白衣姿の女性が玄関の前でインターホンをポチポチと押している姿があった。まさかと思い話しかけてみる。

 

「あら〜、おかしいわねえ」

 

「あのー、もしかして櫻井了子さん……であってます?」

 

「ん? 確かに私ができる女と評判の櫻井了子だけれど、もしかして貴方が弦十郎くんの言っていた常磐ソウゴくんなのかしら?」

 

「はい、そうです。すみません戻って来るのが遅れて待たせちゃったみたいで」

 

やっぱりそうだ、この人が弦十郎さんの言ってた代わりの人だ。

 

弦十郎さんから預かっていた腕時計はだいぶ前に修理し終えていたのだが弦十郎さんが何かと忙しいようで時間を作れないで受け取りに来れずにいたのだ。

 

それから先日弦十郎さんからメールが届き自分の代わりに受け取りに行ける人を向かわせると連絡を受けた。その人が櫻井了子さんだ。

 

「あら〜。鶴さんが営んでた頃と比べるとだいぶお店の雰囲気が変わったわねえ」

 

「そうですね、家具の位置や内装なんかは好きに弄っていいって言われてたんで。お言葉に甘えて少しだけ弄らせてもらいましたから」

 

この時計店を譲り受けた時に好きなようにしていいと言われたので家具の位置なんかを自分の思うように変えてみた結果どことなくクジゴジ堂に近い内装と雰囲気になった。

 

来客用のソファに腰を下ろしている櫻井さんに店の前で待たせてしまったお詫びとしてアイスコーヒーを差し出してから奥の部屋に保管している腕時計を取りに行く。

 

修理依頼の代金は既に依頼を受けた次の日に弦十郎さんから受け取っている、重い封筒を開けてみたら代金分以上にお金が入っていて困惑した。

 

もちろんそんな大金を受け取るわけにはいかないのですぐに代金分以外は返そうとしたのだが弦十郎さんが感謝の気持ちだと言って無理やり手渡してきた。

 

継げるものもおらず取り壊される予定だったこの時計店になにか特別な思い入れがあるようで店を継いで守ってくれた事への感謝らしい。

 

何かを後悔するような表情でそう告げる弦十郎さんを見て何も言えなかった。

 

「すいません、お待たせしました」

 

「別にそんなに気にしなくてもいいのよ。そういえば代金の方は弦十郎くんがもう払ってるんだったわよねえ?」

 

「そうですね、もう十分過ぎるほど受取りましたからこのまま持って帰ってくれるだけで大丈夫です」

 

修理し終えた腕時計を専用の収納ケースへと入れて紙袋に包んで手渡す、それを受け取る櫻井さんと僅かに手が触れた時。

 

「ッ!」

 

ゾクリと言いようのない奇妙な感覚が全身へ駆け巡った。

 

思わず櫻井さんの顔を凝視した、彼女は俺の様子に怪訝な表情を浮かべている。

 

「……俺と櫻井さんってどこかで会ったことありましたっけ?」

 

「えっ? 今日が初めましての筈だけれど……あらやだ、もしかしてナンパかしら。ソウゴくん意外と大胆ねえ。でもごめんなさいね、貴方の気持ちには応えられないわ」

 

「え、あ、いや、そういうんじゃなくて……」

 

なんだこの感覚。櫻井さんとは初対面だ、初対面の筈だそれは俺もわかってる。けど雰囲気というか気配というか、なんだか初めてじゃないような気がする。

 

何でだ、と頭を回転させていると。そこで櫻井さんが荷物を受け取るために差し出した“腕の状態”に気がついた。

 

「その腕、火傷(・・)してるんですか?」

 

手の甲の辺りから肘の辺りまで皮膚が赤くなっており火傷の痕が存在していた。かなり大きな火傷の痕だ。

 

「……ああ、この火傷の痕ね。ちょっと前にコーヒーを飲もうと思ったらお湯を溢しちゃったのよ」

 

「大丈夫なんですか?」

 

「平気平気、心配しなくても大丈夫よこれくらい。それとあんまり女性の手をジロジロ見たりしちゃあダメよん」

 

「あ、すいません」

 

捲り上げていた白衣の袖を下ろして火傷の痕が隠される。

 

お湯を溢したと言っていたが本当なのだろうか? 見た感じお湯を溢して出来た火傷というよりは強烈な炎であぶられて出来たような火傷痕だったが……まあいいか、俺がそんなに深く考えることじゃない。

 

腕時計の入った紙袋を手渡して受付デスクの上に散らばったペンや紙を纏めて片付けていると櫻井さんがジッとこちらを見つめていた。

 

「あのー、どうかしましたか?」

 

「えっ、ああ、ごめんなさい。弦十郎くんが貴方の事を真っ直ぐないい目をした子と言っていたから気になって」

 

グッとこちらに近づいて顔を覗き込んでくる櫻井さん。紫紺の瞳と視線が重なる、その瞳は俺を見るというよりは俺を通して他の誰かを見ているような気がした。

 

「本当に曇りのない真っ直ぐな綺麗な瞳……なんだか弦十郎くんや“あの人”に似ているわ」

 

「……あの人?」

 

「あーらら、なんでもないのよ。乙女の独り言は気にしちゃあダメよ。それじゃあ弦十郎くんに頼まれたものは確かに受け取ったから私はもう行くとするわ、またねソウゴくん」

 

踵を返し了子さんが手をヒラヒラと振りながら時計店を出て行く。そしてその背中を茫然と見つめる俺。

 

それにしてもまた乙女がどうこうか……未来の言うとおりやっぱり勉強とかしたほうがいいのか?

 

「いや、そういうのは俺には関係ないか……」

 

窓から空を見上げれば夕焼けが目に映った。

 

とりあえず夕食の準備でもするか、その後に修理を頼まれたラジカセの修理作業を始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……の筈だったのにどうしてこうなったんだか」

 

「どうかしたのソウゴお兄ちゃん?」

 

「うん、なんでもないから気にしないでいいよー」

 

手を繋ぎこちらを見上げて来る小さな女の子にそういって独り言を誤魔化す。

 

あの後、夕食の準備をしている途中にノイズの気配を感じたのだが発生しては消滅し発生して消滅が繰り返し続いた、多分響たちシンフォギア装者が消滅させたのだろう。

 

しばらくしてからオーロラカーテンを開いて現場を覗いてみたんだが既に日は暮れてノイズや人影はなく、戦闘の被害でめちゃくちゃになった現場だけが残っていた。

 

そして恐らくだが足跡や被害状況からノイズだけではなく人間との戦闘、鎧の少女もあそこにいた。シンフォギア装者が対応しているなら問題ないだろうなんて思っていたが現場に乗り込めばよかった。

 

それから家に戻り夕食の準備を再開しようとした時に食材が足りない事に気がつき慌てて近所のデパートに食材の買い出しに行った。そしてその帰り道に問題が発生した。

 

「……おい、あんたなにしてんだ。置いてっちまうぞ」

 

「……ああ、ごめん。今行くよ雪音(・・)さん」

 

俺の隣にはあの鎧の少女──雪音クリスと名乗った女の子がいる。

 

買い出しを済ませた帰り道、公園の近くで時計店の近くに住む仲のいい兄妹に出会った。そこまでは良かったんだがその二人を連れている人物が鎧の少女だったのだ。

 

鎧姿の時はバイザーのようなもので顔をよく確認できなかったが身長や声音、気配なんかで本人だと確信した。

 

当然彼女を前にして固まってしまう俺、まさかこんなとこでいきなり会うなんて思わないし。

 

そこで元々交流のあった仲良し兄妹たちが俺に気がつくと鎧の少女、雪音さんの手を引っ張って近づいてきた。変身したジオウの姿では何度かあっているが一応初対面なので自己紹介するとぶっきらぼうな感じだが名乗り返してくれた。

 

話を聞くとお父さんと逸れて迷子になってしまったらしく困っているとそこに雪音さんが現れて父親を探すのを手伝ってくれていたとのこと……なんだか俺の知っている彼女じゃない気がする……いや、俺が彼女を知らなかっただけなのか。

 

お父さん探しを手伝ってくれた事を嬉しそうに話す兄妹たちに恥ずかしそうにしながら口ごもる雪音さんの姿を見てそう思った。

 

「最後にお父さんと一緒にいた場所はどこ?」

 

「うーんと、商店街のほうかな。そこで買い物してたんだけど妹が走り出しちゃったのを追いかけてたら逸れちゃって……」

 

「よし、じゃあまずは商店街のほうから探そうか。雪音さんもそれでいいかな?」

 

「あ、ああ。別に、アタシは構わねえけど」

 

なら決まりだな、商店街はここからそう遠くはないからこの子たちのお父さんもまだそこら辺にいるかもしれない。

 

俺が女の子の手を引き、女の子がお兄ちゃんの手を引いて、お兄ちゃんが雪音さんの手を引く。4人で手を繋ぎながら並んで商店街を目指し歩き始める。

 

横をチラッと見るとそこには兄妹たちと会話をする雪音さんの姿がある、2人からの質問に恥ずかしそうにぶっきらぼうに答えて楽しそうに話をしている彼女を見るとやっぱり自分に敵意と憎悪を向けてきた少女とは別人なんじゃないかなんて思ってしまう。

 

──ふざけるなっ! なんなんだお前は! お前みたいなデタラメな力を持つ奴がいるから争いがなくならないんだ……だから、アタシはッ!

 

あの時の彼女の発言はまるで争いを無くしたいと唄う者の言葉だった、もしそうだとしたらこの子はなんでノイズなんか……。

 

俺の視線に気がついた雪音さんがこちらを見る。

 

「……な、なんだよ」

 

「いや、別に。ただ……優しいんだなぁって、子供が好きなの?」

 

「別に、優しいとか子供が好きとかそんなんじゃねえ。成り行きだよ、成り行き……そういうアンタこそなんで手伝ってるんだ?」

 

「元々この子たちとは顔見知りだったからね、困ってるなら放ってはおけないし。それにこんな暗い時間に小さい子供と女の子一人じゃ危ないでしょ」

 

「……そうかい、アンタもあのバカのようにお人好しって訳かよ」

 

あのバカというのは誰かはわからないが、まあいいか。それに理由はそれだけじゃない、彼女を監視……とまではいかないが少しだけ彼女の事を知ってみたくなった。

 

もしかするとこれ以上彼女と争わずに済むかもしれないし、分かり合うことが出来るのならそれが一番だろう。

 

しばらく商店街を歩きまわっていると綺麗な歌が聞こえてきた。最初はどこかで路上ライブかなにかをやっているのかと思ったがそうではなかった。

 

無意識なのかはわからないが雪音さんが鼻歌を口ずさんでいた。

 

「な、なんだよ。お前らこっち見て」

 

「お姉ちゃんは歌が好きなの?」

 

「……歌なんて大嫌いだ、特に壊すことしかできない私の歌がな」

 

「……そうかな、今の歌は綺麗だったと思うよ俺は」

 

「ちゃ、茶化すなっての」

 

歌というものに対してそこまで知識のない俺でも綺麗だと思えるものだった。それに歌が大嫌いだと言ってたがそうは思えなかった、無意識に歌を口ずさむ彼女の横顔はとても楽しそうだった。

 

「パパいないね……」

 

女の子の不安そうな声が聞こえる。商店街を一通り歩いて探してみたが、この子たちのお父さんの姿は確認できなかった。もう商店街にはいないのか?

 

この子たちを置いて帰るような人ではないし、向こうも子供たちを探していてこっちと入れ違いになったとかか?

 

「あ! パパだ!」

 

お兄ちゃんが叫ぶと近くの交番からちょうど兄妹のお父さんが出てきたところだった。お父さんも2人に気がつくと安堵の表情を浮かべてこちらに向かって走って来た。

 

「無事でよかった。一体どこに行ってたんだお前たち……いや、とにかく本当に無事でよかった」

 

「ごめんなさい、迷子になっちゃって……」

 

「そしたらソウゴお兄ちゃんとクリスお姉ちゃんが一緒に迷子になってくれたの!」

 

「違うだろ、父ちゃんを探すのを手伝ってくれたんだろ」

 

お兄ちゃんと女の子を抱きしめていたお父さんがこちらに向き直ると頭を下げて来る。

 

「すみません御迷惑をおかけして、それと本当にありがとうございました、自分が目を離した隙に2人が姿を消していて何か事件に巻き込まれたんじゃないかと」

 

「いや成り行きだからそんな……」

 

頭を下げるお父さんに続くようにお兄ちゃんと女の子が頭を下げてありがとうとお礼を言ってくれる。仲のいい兄妹に雪音さんが何かを聞いて、それからお父さんとお兄ちゃんと女の子が手を振りながら帰っていった。

 

雪音さんはその家族の後ろ姿を眩しいものを見るかのような瞳で眺めていた。

 

「よしっと、俺はこれから帰るけど雪音さんはどうするの? なんだったら送って行くけど」

 

「……別にアンタには関係ないだろ。そこまでしてもらわなくても結構だ、じゃあな」

 

そう言って踵を返して離れて行く雪音さん、その後ろ姿はなぜか先ほどの迷子の子供たちと重なって見えた。

 

こっそり後をつけて彼女の拠点を発見しようかと考えていると突然響き渡るような腹の音が鳴った。周りには他に誰もおらずここには俺と彼女しかいない、まさか。

 

「……雪音さん?」

 

「ち、違う! 別に今のはアタシじゃねえ! 人のせいにすんな、どう考えたってお前の」

 

再び鳴り響く腹の音。ジッと雪音さんを見つめれば彼女は下を向き視線を逸らす。その顔はリンゴのように真っ赤に染まり目には若干涙が溜まっていた。

 

「あー、えっと、俺これから夕食なんだけどよかったら食べに来る? 雪音さんが夕食を済ませてなかったらだけど……」

 

「………へ?」

 

彼女のポカンとした顔が印象的だった、そんな表情もできるんだな。

 

 

 




 
シンフォギアロスが……シンフォギアロスがぼくを蝕んでいくジオ……。

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