リリカルなのはStrikers Blood   作:那由多20

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プロローグ

時はアラガミ世代。地球上の制圧権が人間から荒ぶる神――アラガミと呼ばれる神に移行され、反対に人間がアラガミに抗戦する立場になった頃の事。

 その世界的な組織として有名であるのが『フェンリル』。アラガミに唯一対抗できる部隊を有し、それを束ねている組織であり、神話上でもフェンリルは神を喰らう魔犬として伝えられている。

 そのフェンリルの中でもアジア――極東に拠点を持つ極東支部で、一組の男女が団欒していた。

 

「ユノ、今度は何時頃にサテライト拠点に慰問する予定なの?」

 

 そう言ったのはフェンリルでも【ブラッド】と称する特殊部隊を束ねる隊長である夜瀬レイジ。

 

「そうね。サツキ、講演予定決まってる?」

「はいはい、もう決まってるわよ。明後日の昼方にいくことになってるわ」

「そう。じゃあそれまでは貴方とゆっくり出来るね」

 

 そう言って手を重ね合わせて嬉しそうに微笑むのは世界で歌姫と称され、その歌をもって人々に安らぎを与え元気づけている葦原ユノ本人である。

 この二人は今では世界公認と言われるほどの仲睦まじい恋仲となっている。

 

「そうだね。でもその前に………」

「……うん、分かってる」

 

 そう……あそこだけは寄らなくてはならない。自分やユノだけでなく、我がブラッドのメンバーに極東支部の皆の絆を繋ぎ止めているあの場所――ロミオの墓とジュリウスがいる螺旋の樹には、必ず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 広大かつ巨大な建築物を上に携えた動く要塞。元々は特殊部隊ブラッドが拠点とし、アラガミ討伐の為に建てられた移動要塞――それが『フライア』。

 そこはレイジ達が定期的に必ず訪れる場所だ。

 

 ――最も現在は故障のためメンテナンス中であり只の要塞と成り果ててはいるが、それでもそこにロミオの墓があり、その付近に螺旋の樹があることに変わりはないのだから。

 

 

「聞いてロミオ……。ジュリウスが頑張ってくれてるお陰で、あれから赤い雨も降らなくなったし、アラガミに対する討伐依頼もすごく減ったんだ」

 

 フライアの内部にある庭園。そこにロミオの墓があり、ギルバード、シエル、ナナのブラッドを始め、極東支部の第一部隊隊長コウタに、同じく極東支部のクレイドル所属のアリサが皆そこを囲む中、レイジは

瞳を瞑って語りかける。

 

「少し複雑だけど、こうしてジュリウスが世界の為に……いや、皆が笑っていられるようにと終末捕喰と戦い続けていられるのも、マルドゥークが現れたあの赤い雨の時に、ロミオがジュリウスを助けてくれたからなんだ」

「私達の事は心配しなくていいよ。貴方が命を掛けて守ったお爺さん達は元気に暮らしてる。……ふふ。あのお二人、今でも貴方の事を孫のように思ってくれてるよ」

 

 サテライトの二人のご老人の笑顔を思いだしたのか、ユノはその事を嬉しそうに語りかけた。

 それを優しげに見つめるレイジは、庭園の外に見える螺旋の樹を仰いだ。

 それはジュリウスが今なお人々の為に戦い続けている証の樹。彼があの樹の中でアラガミの因子と戦い続けている限り、世界に終末捕喰が訪れる事はないからだ。

 

「――いつか……絶対助け出して見せるから。ジュリウスが戦いをやめても終末捕喰が起こらない方法を探しだして、絶対に――っっ!?」

 

 突然フライアが揺れを起こしたことにレイジだけでなく、その場にいたゴッドイーター全員が何事かと顔を見合わせるが、次にフライア全域に鳴り響いた警報共に発せられるアナウンスによって原因が分かった。

 

《聴こえる貴方達――!》

「(この声はレア博士!)何が起きたのですかレア博士?」

《アラガミよ!アラガミがフライアに侵入したの。それも上位に君臨するほどの接触禁忌種――生命反応からするに『スサノオ』。これ以上フライアを破壊させる訳にはいかないわ。至急討伐に向かってちょうだい!》

「分かりました!すぐに向かいます!」

 

 素早く応答するとレイジは皆に振り返る。

 

「皆も聴こえたね。各員戦闘用意して」

「「「了解!」」」

 

 彼の言葉にブラッドは力強く頷く。それを見てレイジも頷くと、後ろにいるコウタやアリサの方に向いた。

 

「コウタにアリサ。極東支部の君達としては複雑かもしれないけど…フライアに、いや僕達に力を貸してほしい」

 

 そう言ってレイジは深く、そして力強く頭を下げた。

 そんな彼を見て二人は苦笑しながらため息をつく。

 

「頭下げる必要なんかないって。――俺達がお前の頼みを断る理由なんてあるか?」

「その通りですよ。貴方には色々と助けてもらいました。それにあの時言いましたよね? 今度は私が貴方を支えていきたいと」

 

 そう言ってアリサは挑戦するようにユノを見た。ユノはその意味を察したのかムッとレイジを睨むが、諦めたかのように深く息をつくとアリサと二人で可笑しそうに笑いあった。

 

《……こんな言い方でごめんなさいね。これも仕事だから…》

「気にしないでください。僕も、それとここにいる皆もレア博士という優しい人の事を理解してますから」

 

 微笑みながら後ろを振り返る。見れば皆も同じように微笑みながら頷いていた。

 

《――ありがとう》

 

 スピーカー越しな為、レイジ達の事は見えないが、彼らが今どういった表情をしているのか――レアにとってそれを理解するには十分すぎた。

 今一度頷くと今度こそ顔を引き締める。

 

「ヒバリさんにフランさん。お願いします」

《任せてくださいっ》

《こちらも大丈夫です。現在スサノオはフライア第一ゲートを突破すべく破壊活動を続けています。目標到達への最短ルートを送ります》

 

 携行しているパネルに座標とルートが表示されたのを確認すると、総員が戦闘形態に移り駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ハァ…ハァ……ッ!」

 

 予想はしていた。今までのどのアラガミよりも強大な強さを持っていることは予想はしていたのだ。

 ――だがスサノオの力はその予想をも遥か上をいっていた。

 

「常識を逸脱してる。……なんて力だ。――今の僕達では相手にすら…ぐっ!?」

「「「隊長(レイジ)!!??」」」

 

 ブラッドも極東支部も既に息が上がっていて、立っているのがやっと。

 こんなことは彼らは気にしてはいない。

 問題はブラッドの隊長である――そしてたった今呻き声をあげ地に膝をついたレイジの事だ。

 彼の身体は満身創痍。至るところから血が流れ、黒漆色である筈のブラッド制服は今や紅く染まりはじめている。

 彼にはあまりにも自分の大切さというものがなかった。…いや、そもそも当然である自己存在がどういった意義を為すのか理解が出来ていないのかもしれない。

 レイジは仲間の為にリスクを考えずに常にスサノオの懐に張りついて、誰かが窮地に陥ったとには迷わず庇いに走っていた。

 ――それこそ自分の身を犠牲にしてでも。 

 

 これに焦りを感じていたのは全員がそうではあるが、特にギルバード、コウタ、アリサは郡を抜いていた。

 ギルバードはレイジに似通った自分の前隊長を失い、コウタにアリサもレイジと凄く雰囲気が似ている親友が……今も生きているかそうではないのか分からない現状だからだ。

 このままではまた大切な人を失ってしまう――彼らはそれがどうしても許せなかった。

 

 足掻いた。

 息絶え絶えに震える膝に力を込め足掻いた。

 だが現実は厳しかった。

 酸素を必要としている身体は……どれだけ鞭打とうとも動いてはくれなかった。

 

 そして、そんな彼らを笑うかのようにスサノオの爪が、地に膝をつき尚己を睨み付けるレイジに向けて振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

(――――あ)

 

 薄れいく意識の中、レイジはぼんやりと自分に迫り来る爪を眺めていた。

 

(――死ぬ前の人って……皆こんな感じなのかな?)

 

 不思議な感覚だった。

 だって…あれほど疾かったスサノオが、今ではスローモーションのようにゆっくり見える。

 そんな不確かな意識の中、本能だけがレイジに死を理解させていた。

 ――だってこんな現状で、悲しそうな顔をした皆の事が走馬灯のように頭を過っていくのだ。

 そのなかでも涙を流し叫ぶアリサには心が痛かった。

 

「どうしてこう――女の子の涙には弱いんだろうね……」

 

 そう呟いたその時だった。

 レイジの視界が暗転した。まだ意識を失ったわけではない。だから今、瞳から世界を失うのはおかしい。

 ――なのに何故?

 

 

 

 それはすぐに分かった。

 

「……ユノ…?」

 

 ――そう。

 レイジを失いたくはない。その気持ちが彼女を突き動かした。

 迫り来るスサノオの爪を背に、庇うようにレイジを抱きしめる。

 

「……どうして…来たんだ」

「――きて」

「……え?」

 

 ここに来てはいけないといった表情で問いかけるレイジに返ってきた言葉が聞き取れず、彼は首を傾げる。

 

「生きて――――っっ!!」

 

 今度こそ聴こえたユノの鮮明な叫びに、意識が急激に覚醒し、その震える背に腕を回ししっかりと抱きしめる。

 

「そうだ!僕はまだ死ぬわけにはいかないっ!!」

 

 死ぬ事へ対しての激しい未練。それはユノに悲しい想いをさせたくない、その一点張りだった。

 だがそれが、それだけが彼の中に宿る力をを再び覚醒させたのだ。

 彼から血色の奔流が回り狂い、それは彼とユノだけでなく、二人を中心に仲間を囲むように猛り続けている。

 するとその力に呼応するかのように、突然ユノの首に掛けられているネックレスの紅い宝石が輝きだした。

 

(あの宝石は……確か――)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはジュリウスが螺旋の樹の中に留まった時からまだそう日にちが過ぎていない頃、任務を終え極東支部に帰還したレイジが、ユノが首に掛けているネックレスを見つけた時だった。

 

「……その宝石、どうしたの?」

「昨日、サテライトを慰問してる時に落ちてるのを見つけたものなの。それを拾ってこういうふうに身に付けてみたんだけど……どうかな?」

「うん。凄く似合ってる。……でも何だろう。その宝石からは、上手く言い表せないんだけど……無色の、不思議な波動を感じる」

「貴方もそう思う?私もそう思ったからこそ拾ったの。これは私達を守ってくれる……そんな予感がして――」

「そうだといいね」

「ええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(そうだ。あれはあの会話の時の宝石だ)

 

 やがて紅い宝石は血色の奔流に混ざり合うかのように辺りを白く染め始める。

 それは二人や皆だけでなく、スサノオまでをも巻き込みながら。

 

「これがユノの予感通り吉と出るか、それとも最悪の展開となるか――」

 

 願わくは前方であってほしい。

 白色の閃光が完全に視界を埋め尽くしたその時、切に願いながら、今度こそレイジは意識を落とした。

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