羊が一匹   作:充椎十四

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 始めは遠巻きだった子供たちもだんだんと打ち解け……私はモテモテになった。私にはさっぱり区別がつかないけど、私以外の人達はみんな第二性の区別がつくらしい。見れば分かると言われても全然さっぱりこれっぽっちも私には分からないし、威圧感がどうのと言われても「君ちょっと体ごついね」程度の判断しかできない。

 

 だけどまあ、私の人気なんて一時的なものだろう。「校庭に現れた野良犬」とか「クラスの一人が飼い始めたハリネズミ」のような、珍しさ目新しさによる第一次モテ期。きっと半年も保たない。――そう思っていた。

 

「なんで私がモテてんの。げせぬ!」

 

 入学から半年がとうに過ぎたある日の放課後、私は警視庁に来ていた。二性を見分ける本能が欠けている点がマッドな研究者たちの研究対象にされかねないらしく、放課後は寄り道なくここに来る決まりだ。

 インドア派なので漫画とアニメがあるなら外出なんてなくても良い私に文句があるわけもない。

 

 で、一年生は授業が少ないし水曜は半ドン――迎えの車での移動時間もあるのにまだ二時だ。パパの仕事が終わるのは早くて七時遅ければ徹夜。五時間待ってパパが帰れないようなら花ちゃん係と一緒に夕飯を食べてから車で帰ることになっている。

 今日の花ちゃん係の降谷さんは荒ぶる私にどうどうと言い手のひらを向けてきた。

 

「花ちゃん、ハムスターがたくさん住んでる籠を思い浮かべてほしい」

「……うん。可愛い」

「どの子でも良いから撫でたいと思って籠に手を入れたら、みんなに噛みつかれて痛い思いをした。だがその中でたった一匹だけ撫でさせてくれて、持ち上げて手の上に置いても大人しくしてるハムスターがいる」

「私は花ちゃんであってハムちゃんじゃないよ」

「そうだね」

 

 言いたいことは分かる。そしてその理由は分からなくもない。分からなくもないけど凄く虚しくなった。二性はこんな幼い頃から異性(ベータ)との接触に飢えているのか、と。

 前に一部のお巡りさんが私の頬をつついて「これが、ベータの感触!」とか騒いでいたのを思い出す。理性的な人たちに「しねロリコン!」と頬を殴られていたことも。

 

「二性って大変」

「ああ、大変だよ」

 

 家族からは愛されても、町の人からは嫌悪される。逃げられる。犯罪者や犯罪者予備軍と言われる。大人からそんな態度を取られればもちろん傷つくけど、同い年あたりの子供から逃げられ怯えられるのはそれよりいっそう辛いだろう。

 友達になりたいと差し出した手を払い除けられ続けるのは苦しいだろう。

 

 二性は「ただ世の中で生きる」ことすら大変だ。4%いるけど、4%しかいない。

 

「世知辛い世の中よね」

「残念なことにね」

 

 降谷さんは悲しげな顔で頷いた。この人は良くも悪くも私を子供扱いしないから、気付くとこういう話題で雑談が続く。全く陰気臭いが餓鬼臭い会話よりは良い。

 

「はやく大人になりたーい」

「妖怪人間かな」

 

 どうして私にそのネタが通じると思ったんだ。

 通じるけど。

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