二年生になり、学校の……いや、学園アイドル花ちゃんはデビュー一周年を迎えた。学園アイドルと言って思い浮かぶのが美少女じゃなくて顎の尖ったキャラなのは「学園アイドル」と「学園ハ○サム」の語感が似てるからに違いない。
私の顎はまあまあ丸いのだ。
「なんで私が入学式に誘われてるの?」
「君というディープインパクトを新入生の親にも経験させたいから……かな」
「中央競馬で三冠達成できそうね」
「花ちゃん君いくつ?」
「いま七つ……かな」
――出席すれば紅白まんじゅうを貰えると言われてホイホイ参加を決めた。式のあと警視庁に行ったらパパとお茶休憩に食べよう。
迎賓の休憩スペースになっている職員室で健全なパパ活(アルファのおじさんたちを「パパ♡」と呼ぶことでお菓子を貰うとても健全な活動)しながら過ごし、貰った野口や樋口はポケットに、貰ったお菓子はとりあえず机の上に置いて入学式場に入場する。私が列の先頭なのは何故だろう。
そして私の入場と共にどよめく式場、パイプ椅子がガチャガチャ鳴る音が体育館に響き渡る。
着席してしばらくすると今年も瞳を輝かせた校長の長い話が始まったけど、きっと保護者の誰も校長の話を聞いてないし壇上すら見ていない。参加者席を向いて小首を傾げてニコッとやったら何人か倒れた。私の魅了魔法にやられたようだな……くくく……!
計画通り顔してたら撮影に来ていた花ちゃん係に怒られた。げせぬ。
しかしだ。最近二性差別もましになってきてベータとの接触も増えたろうに、私の魅了魔法はまだまだ効くらしい。幼女パワーだろうか? ならば幼女であるうちに将来有望そうな奴に唾つけておいた方がいいかもしれない。
大爆炎覇王 @haoh_burningfire 2×××年 4月1日 13:22
今日分かった。まだまだこの世にはベータの魅了魔法にかかる二性が多いようだ。
つまり俺も二性相手ならワンチャンある。婚活始めるわ
棘 @roseng_i_n
@haoh_burningfire お父さんは許しません
大爆炎覇王 @haoh_burningfire
@roseng_i_n 許してパパ!俺は結婚したいんだ!
ま×10 @mama_u36
@roseng_i_n @haoh_burningfire やめて!棘さんのライフはもうゼロよ!
棘の返事がない。ただの屍のようだ。
棘以外にも自称パパや自称保護者が何人も現れ「まだ早い」とか「相手を殺す」とかレスしていた。私のフォロワーは頭がおかしい奴等ばかりだ。仕事しろ。
他には幾人かが「我こそは大爆炎覇王を玉の輿に乗せられる者なり」と声をあげてくれたけどすまないね、私はまだ幼女なんだ。十年後まで待てるなら結婚してくれ。
三時、執務室のローテーブルで煎茶を淹れ、紅白まんじゅうを皿にとって白い方をパパにあげた。
「花ちゃん、入学式はどうだった?」
「そうね……未来は明るいな、って感じ」
「とても高尚な感想だね」
見たところ私の未来は明るい。今のこのモテ期が続くうちに投げ網漁をしておけばウハウハは間違いない。
ドヤ顔で胸を張ればパパはにっこり微笑み、しかしすぐに心配そうな表情を浮かべた。
「格好いいと思う子はいたかな?」
「全然」
「そうか……なら良いんだ。もし好きな相手ができたらパパに教えてくれるかい、花ちゃん」
「いいよ。でもパパそれ聞いてどうするの?」
その子の親に脅迫でもするつもりだろうか。
「うちの可愛い娘につくコバエは叩き潰さないとね」
「ん?」
「悪い虫は追い出さないといけないだろう?」
絶対に教えないと今決めた。
そう決めたんだけど、これは別の話だ。四月の半ば、警視庁の入り口で私を迎えてくれた降谷さんにニコニコと話す。
「あのね降谷さん、一年生にすごくサッカーが上手い子がいるんだよ。江戸川コナンくんっていってね」
蹴ったサッカーボールでゴールを破壊したんだって。すごいよね。
――私は普段、特に名前をあげて誰かを褒めるということをしない。そんなことをしたらその子の親のへそくり額まで我が国の誇る警察の皆さんが調べあげてしまうからだ。
今回私が名前をあげて褒めたことで警察はすぐさま江戸川コナンについて調べあげるだろう。そして工藤新一に辿り着くことだろう。
しかし公安あたりが保護や隔離を強いたとしても主人公は絶対に諦めないのが鉄則、最終的には警察と共同で組織を追うことになるに違いない。頑張れ主人公、頑張れコナンくん。始めから警察と一緒に組織を追う方が良いと思うよ、私は。子供一人で犯罪組織の謎を解こうだなんて命がいくつあっても足りないよ。
真顔で「江戸川コナンくん、ね」と手帳にコナンくんの名前をメモった降谷さんへ私は更に言葉を重ねる。
「それにね、コナンくんすっごく格好いいんだ」
許せ、コナン。でもこれが君のためなんだ。
帝丹小学校にはベータがいる。警視総監の娘で現在小学二年生、一昨年までは大型犬しかいなかった校舎に舞い降りし一匹の小型犬、鋭い眼光と丸い顎を持った彼女の名前は白馬花という。
「ここにベータの子がいるのか!?」
「そうだよ! すごいでしょ、白馬さん全然逃げないんだよ!」
二年生の教室でアルファと談笑するベータ・白馬花との距離は約七メートル。彼女を見に一年生が廊下に群がっているのを気にする様子なく、自然体に過ごしているベータの子供にコナンはごくりと唾を飲み込んだ。
警視総監の娘だから、アルファやオメガを怖がることがないよう訓練させられたのだろうか。何故なら彼女が自然体であることが逆に不自然だからだ――普通、二性を前にしたベータの子供は泣き叫ぶか逃げるものなのだから。
ありえなさすぎる情景に汗が一筋コナンの背中を伝った。どれだけ泣いて、泣かされて育ってきたのか。考えるだけで恐ろしい。
歩美の他意ない言葉もまた恐ろしく、バッタを捕まえて「(後ろ足をもいだから)逃げないんだよ」と笑うような――おぞましい無邪気さを感じさせる。逃げるための手段を潰したくせに「逃げなくて偉い」と褒める気色の悪さ。
むろん歩美がバッタの後ろ足をもいだわけではない。親や兄弟がバッタの足をもいで、さあご覧と差し出したものを受け取っただけだ。大人から渡されたものを喜んでいるだけなのだ。それは分かっている。
……だが、そうだとしても。そう分かっていても。コナンには今このとき、廊下で歓声をあげる子供たちが怪物に見えてどうしようもなかった。
「外道の所業だろ、一人の子供の心を犠牲にして二性とベータと関われる世界を作るなんて……」
あまりにも惨い。人としての道を外れている。コナンは唇を噛み締めた。
あの憐れなベータは救われるのか。救えるのか。親が警視総監と言うからには彼女がここにいるのは親の方針だろうし、警察は頼れない。
「そうだ、おっちゃん! おっちゃんならなんとかできるんじゃねぇか?」
しかし、コナンの希望は打ち砕かれる。
「花ちゃんか? ああ、同じ学校だったな……ま、仲良くしてもらえ」
コナンは決意した。いつか、自分が彼女を救ってみせると。