羊が一匹   作:充椎十四

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 少年探偵団のピュアな方のメンバーからベルツリー急行に乗らないかと誘われた。そんなあからさまに事件が起きそうな名前の列車に乗るのはごめん被る――ベルツリー急行殺人事件とか名前が付きそうだ。

 私が乗るとなれば前後の車両が顔見知りの覆面警察で占領されそうだし、何より事件に巻き込まれたくないし……ということで断った。

 

「じゃあ先に車で名古屋へ行って駅前でお友達を出迎える、なんてどうだ?」

「する! それする! したい!」

 

 子供が生まれてから育休を取っていた伊達さんとは久しぶりに会った。最近何かあったか聞かれたからベルツリー急行のことを話せばそんな面白そうな提案。

 事件に巻き込まれることなく名古屋に行き、味噌カツやあんかけスパを安穏と食べることができる。素晴らしい提案だ。流石モテる男は違うぜ。

 

「パパ! 次の土曜日名古屋いきたい! それで少年探偵団を先回りしてお迎えするの!」

「もちろんいいとも」

 

 甘いパパは二つ返事で許可を出してくれた。当日は伊達さんの頼みを受けてくれた松田夫婦(まだ結婚してない)が名古屋まで連れていってくれることになり、いつもは白バイ乗り回してる茂登山巡査が別行動で護衛してくれるらしい。

 こんな警察を顎で使ってしまって良いのか時々心配になるけど、本人たちが「いいよいいよ」と言ってくれるから甘えている。うーむ私ったらお姫様。そういう扱い心得てよね。

 

「あ」

 

 名古屋駅でつけてみそを買ったりあんかけスパの有名な店に行ったりしながら時間を潰し、そろそろ着くはずだと駅に向かう。駅に入ってすぐの私の視界に、ちらりとしゃくれ顎と骨太な体格のブラックスーツが紛れた。顔を向ければ見覚えのある人、いや、五年前まで「お父さん」だった人。銀髪ロン毛のムキムキのっぽと二人連れで、チラチラとスマホを気にしている。待ち合わせでもしているのだろうか。

 

「お父さんだ」

「ん? 花ちゃんなんか言ったか?」

「……ううん。なんでもないよ」

 

 手を引いてくれてる松田さんを見上げて首を横に振った。二度と会わないと思っていた――後ろ暗いところがあるなんて見れば分かる。警察と縁を作れる仕事じゃなかったから、きっと、私を切り捨てたんだろう。

 

「私ねー、松田さんも伊達さんもパパもみんな好きだよ」

「おお、ありがとよ」

「うん!」

 

 先に切り捨てられたのは私だ。だからもう、私も切り捨ててしまっていいはずだ。

 ――お父さんはどんな人だったんだろう。知ることはないだろうけど、知りたいと思っていた。知れれば良かったけど、もう知るつもりはない。

 

 入場券を買っている松田さんの横でスマホにポチポチ文字を打ち込んだ。

 

 

 

大爆炎H∀○ @haoh_burningfire

生みの親見つけちまったけどアチラさん俺に気づかなかったバロスww血が繋がってても親子の縁って儚いもんなんだな……

みんな家族大事にしろよ、大事にする価値があると思ってるならな

あと誰か名古屋の良い土産教えて

 

 

 

 離れた場所から、「は?」という呆然としたような声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 名古屋で待っていた二人――ジンは口から魂を吐き出し、ウォッカはハンカチで隠しているが鼻を赤くしていた。

 さっきの更新が原因だろう。

 

「心中お察し申し上げます」

「バーボンてめぇ、あの子が名古屋に来てるとなんで伝えなかった」

「何故と言われても……僕も知りませんでしたから。前々から計画していたのなら僕の耳にも届いたでしょうが、突発的な行動までは流石の僕も把握しきれませんよ」

「くっ……」

 

 ウォッカは憎らしげに歯がみしてきた。

 この二人、今なら簡単に逮捕できそうだ。松田にメールしたら駆けつけるだろうし、銃刀法違反で引っ張ってから余罪を探るのも悪くない。

 隣の邪魔者さえいなければメールでも電話でもしたろうに。

 

「面白そうな話してるのね。誰が来てるの?」

「てめーには関係ねぇ」

「いやだ、つれないこと」

 

 同行のベルモットが楽しげにくすくすと笑う。

 

「まあ良いわ。ねえ。シェリーは列車と共に消えたことだし……もう帰って良いかしら」

 

 そう言いつつきょろきょろと周囲に目を走らせる様子が気になり、つい引き留める声をかけてしまう。

 

「おや、急ぎのご用事ですか」

「急ぎと言えば急ぎね。ずっと会いたいと思ってた人がいま名古屋にいるらしいの」

 

 ベルモットが会いたいと思っている相手……映画関係者だろうか。世界的な女優の顔を持つ彼女だ、彼女に会いたがる者は数多いるが、彼女から会いたいと望まれる者など滅多にないことだろう――誰だ?

 

「ホォー、気になりますね。なんという方ですか?」

「ふふ、気になる? 機嫌が良いから教えてあげるわ。バーボンなら知ってるでしょうけど、大爆炎覇王っていう自称ベータのツイッ○ラー。謎めいていて興味深い人よ……探してみようと思って」

 

 花ちゃんか!――いいや大丈夫だ。いくらこの女の勘が鋭いとしても、ネットで読み取れる大爆炎覇王のイメージは「性根はともかく口が悪いベータ男」。同年代の子供と一緒に土産屋の試食を食べ尽くさんばかりな幼女がまさか大爆炎覇王だとは思うまい。思わないよな?

 大きな不安と僅かな希望に揺れる俺の斜め後ろで、危険人物が甦った。

 

「大爆炎覇王と会う……だと?」

「あら、珍しい、貴方も知ってたの?」

 

 ジンは鋭い視線でベルモットの頭から爪先までジロジロと見ると、ハッと鼻で嗤う。

 

「蠍に薔薇を彩ることはできねぇ。できるのはただ切り落とすことだけだろうよ……」

 

 敵意に満ち満ちたジンの後ろ、ウォッカがハンカチで目元を拭いながら何度も頷いている。

 花ちゃんがベルモットと知り合うのは俺も反対だが、この男は何故こうもロマンチックな物言いが好きなんだろう。とっさの会話をこれほど装飾過多にできるのだ、組織など辞めて詩人としてデビューすればある程度はファンが付くはずだ。

 

「あの子に近寄ることは俺が許さん」

「貴方ッ……まさか、イバラなの!?」

「なんでこの反応だけで分かるんです?」

 

 どうして分かったんだベルモット、何故こんなにすぐ分かったんだ。見ろ、ウォッカも驚いて目を剥いてるじゃないか。

 

「まさか貴方が大爆炎覇王のフォロワーだったなんて……ローエングリンをもじった名前だと思っていたのに、まさか薔薇のジンという意味だったとはね」

「そこまで知っているとは、てめえ……あの子のストーカーか!」

「親しげに彼をあの子なんて呼ばないでくれる? 彼は貴方の息子なんかじゃないし、私はストーカーじゃないわ」

 

 確かに息子ではない。娘だからな。

 

「彼こそ主の訪れを人々に伝え奇跡を授け歩く伝導の人よ。私はただその後ろをついて歩くだけの小さな存在なの」

「はっ、嗤わせるんじゃねぇ。『あの子に偶像を押し付け虚構を強いる一人』である現実を理解することすら放棄した気狂いが、よくもまあ手前勝手なことを抜かしやがる」

 

 ジンの言い分は分かる。

 前に、その絶大な影響力を頼って、いくつもの人権団体が大爆炎覇王に助力を求めたことがあった。

 

 

 

だいばくえんはおー(5ちゃい) @haoh_burningfire

最近いろんな人からこっちも手伝ってくれと声をかけられる。だが断る。すまんな

人を頼ることは悪いことじゃないし気持ちも分かるが、俺の腕は長くないし俺の視力は1.5

RTくらいはするけどアレコレと力を貸す余力はない

 だいばくえんはおー(5ちゃい)

 学校の教師に、お前教える仕事してるんだから塾講師も家庭教師も兼業できるだろ。しろよ。って言うか?言わないだろ

 俺ができるのは学校の教師までで、塾講師や家庭教師との兼業は無理。そゆこと

 

 

 

 批判もあったが、納得も同じだけあった。一つのことで偉業を成したとしても、それはなんでも救える人だということを意味しはしない。

 花ちゃんの目の前にあったのが二性差別で、花ちゃんはそれについては湖面を乱すことができた。でも、他でも同じことができる確実性なんてない。

 

 あれもこれも救おうとして自滅しては元も子もなく、抱えきれない荷物や取れない責任は最初から背負うべきではない。

 だが一度救われた人々は――奇跡を目にした人々は二度目三度目の奇跡を求めてしまう。それが可能だと信じてしまう。

 

「あの子はただのベータだ。てめぇのメシアにすんじゃねぇ」

 

 いつか彼女に伝えられる日は来るだろうか。

 君は素敵な父親を二人も持っているんだよ、と。

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