機動戦士ガンダム外伝 オペレーション・スカイダイバー 作:抜殻
宇宙世紀0079.05.20
欧州戦線 旧フランス自治州
地球連邦欧州方面軍第76空挺師団 ブーリック・リズガット二等特技兵
太陽は厚い雲に隠れていて、正午を回ったばかりだというのに空はどんよりと暗かった。それに倣うかのように、同乗する兵士たちの顔も暗い。助手席に座る若い士官だけが、ラコタの開いた車体から流れ込む風に負けじと地図を睨んでいる。
後部座席に座る二人は、煤けた戦闘服に身を包んだ古参兵のようだった。二人とも疲れた顔で疑似タバコを吹かしている。隣に座る一人が煙を吐き出すが、先日嗅いだ純正品とは比べ物にならないほど匂いが薄かった。
「衛生兵、タバコ持ってるか?」
隣に座っていた兵士が突然口を開いた。
「いや……悪いが持ってない。吸わないんだ」
「だよな。真面目そうな顔してるし。いやなに、お前から純正タバコの香りがした気がするんだが、気のせいだったか」
確かにあの軍医と話したのは一日前だが、匂いが服に染み込むほど長く話した記憶はない。本当に香りに気づいたんだとしたらこの兵士の嗅覚は猟犬なみだ。もう一人の兵士にも鼻がおかしくなったんじゃないかと茶化されている。
「にしても不味いなぁ、軍のタバコは。こちとら面倒な申請用紙に金まで出してんのに。早く家に帰って、本物を吹かしてぇ」
兵士は無精ひげをさすりながら、何かを思い出しているのか遠い目をして煙を吐いた。それからこちらの顔を覗き込んでくる。
「やけに若いな。学校帰りに攫われて、目隠し外したら兵隊か?」
「学生なのはあってるけど、志願兵だ」
事実を言っただけなのだが、兵士たちは吹き出した。気づいた士官が振り返って睨むと兵士たちは体を震わせながら笑いをかみ殺した。やがておかしさがひと段落するとようやく元の調子に戻って話しかけてくる。
「望んでこんな場所に来るとはとんだアホだな。親でも殺されたか?」
「その親には反対されたよ。両親は医者だが、戦争で生まれる負傷者には関与しないなんて言い出した。人命よりも自分の安全だと。嫌気が差して家を飛び出した」
「まるで救世主だな。水の上も歩けそうだ。で、快適な我が家を飛び出した夢の感想は?」
「甘かったよ。
助けようがない、か。都合のいい言い訳だと、自分の発言を馬鹿らしく思った。あの時の私は、初めてザクと会った時の私は、始めから助ける気など無くなっていたというのに。
「俺たちの専門は
兵士は空を仰いだ。向かいに座る兵士も口を開く。
「専門っつっても先週
「貴様ら、到着するからいい加減口を閉じろ」
若い士官は振り返ると、不機嫌な口調でこちらを睨みつけながら車体を叩いた。道路の伸びる先には、小さな市街地が見える。
「すいませんね少尉殿。棺桶に入ったら話相手がいないもんで、つい」
向かいに座っていた兵士は、今も睨み続けている士官のことなど意に介さずタバコの火を揉み消すと道路へ投げ捨てた。
「俺たちは代打さ。後ろには補欠もいるし補充もきく。けど
隣の兵士にも肩を叩かれながら死ぬなよと忠告された。そんな彼らは、二人とも死人のような遠い目をしたままだった。
検問所に到着して、警衛にラコタを止められて絶句した。その兵士は明らかに私よりも若く、少年といっていいほどだったからだ。
「マジかよ……」
先ほどまでタバコを吹かしていた兵士たちも思わず声を漏らしていた。士官と警衛がお互いぎこちなく話していたが、士官が所属を名乗るとすんなりと通された。
街は爆撃にでもあったのだろうか、所々が崩落し瓦礫が積まれている。ラコタを降りて、同乗していた兵士たちと別れた。彼らは若い少尉に命令されて対MS兵装を荷台から降ろし始めていた。
私は新たに配属された歩兵中隊の中隊長であるロナルド・セトル大尉を探した。すれ違う兵士たちに居場所を聞いて、広場で指示を出していたやや小柄な士官の元に辿り着く。
「お前が新しい衛生兵か。よろしく頼む」
辞令と簡単な挨拶を済ませると、セトル大尉はアルバートという若い兵士を呼び出した。軍用ブーツに慣れていないのだろうか、モタモタという擬音が似合いそうなおぼつかない足取りで駆けてくる。
「担架を担いでブーリック特技兵にくっつけ、分かったな」
アルバート二等兵は精一杯の口を開けてイエスサーと返す。まるで映画のようなコテコテの兵隊ごっこだ。
「というわけで、第二小隊に合流しろ。前の戦闘で衛生兵がやられて欠員中だったんだ。後のことは第二小隊で聞いてくれ」
そう言い残して、セトル大尉はまた指示を出しに兵隊の群れへと戻った。アルバート二等兵はぼんやりとこちらを見つめながら突っ立っている。
実戦経験はなさそうな、警衛をしていた兵士と同じくらい若い兵士だ。実戦で役に立つか分からないから、比較的戦闘の少ない衛生兵のお手伝いにしたのは明白だった。くりくりとした目でこちらを見つめてくる。自信なさげな幼い顔を見て、お手伝いの役に立つかも怪しいと感じた。が、邪険にするのもはばかられる。見かけには寄らないかも知れない。とりあえずは彼に、街に設置された応急救護所へと案内してもらった。