ありふれない時の王者と錬成の魔王は世界最強   作:イニシエヲタクモドキ

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なんか納得のいかない出来ですが、修正点が思い浮かばないので投稿します。
なにかあったら教えてください。
違和感の正体に気づけるかもしれないので。



王とは/暗闇の中で

時王side

「あれから…どれくらいたった…?」

涙の跡がついているだろう頬を拭って起き上がる。

ウサギや熊、自分を襲う痛み。そして…孤独。

それらに襲われ、単なる気の弱い一般人でしかない俺は、限界を迎えそうになっていた。

つい最近、ハジメに自分を捨てるなとか言っておきながら、俺はこのザマだ。

「…理不尽…か」

目をもう一度閉じ、思い返す。

ハジメをいたぶり、愉快そうに口元を歪めたウサギ。

俺とハジメを、そこら辺を転がっている石にすらもう少し温かい感情のこもった目を向けるだろうと思ったほどの、捕食者の目を向けてきた熊。

「…怖かった…でも、それ以上に…ッ」

ギンッ、と目を見開いて、慟哭する。

自信を縛る全てを断ち切り、粉々にするように。

「ムカつくんだよッ!俺を見下してきたアイツらがッッッ!!」

それは、身勝手な怒りだっただろう。

それは、とても傲慢な怒りだっただろう。

だが、これが俺の本質なんだ、と気づけた。

そうだ。俺は…

「下に見られることが、何かの下にいることが、たまらなく嫌なんだ…」

それがわかると、何故だか心がふっと軽くなった。

「なるほど、王の素質…ハハッ、これじゃ暴君の素質だろうに…」

自虐的な笑みを浮かべながら、自分の持っているらしい才能を否定する。

俺なんかに、王の器はなかった。だからオーマジオウの力を使った時に、すぐに体がボロボロになったんだ。

いつもなら、ボドボドとかいってふざけることができるんだが…もうそんな余裕はない。

「なぁ、聞こえてるんだろ?早く出てこいよ」

『どうかしたのか?まさかこの何もないところで、自分の身を削るような力を欲するわけでもあるまい?』

俺が虚空に呼びかけるように声を出すと、あの禍々しい声がすぐに反応してきた。

「…器が足りないって言ってたな?それはつまり、俺が王になれる心を持っていないってことなのか?」

『は…?何を言っているんだ?お前に足りない器は、文字通り体の話だ。それ以外に足りないところなどない。お前の魂の本質は、限りなく逢魔の力を持つに適している。お前は正真正銘、覇道を歩むべくして生まれた者だ。誇るといい』

「…器って…体の話だったのかよ…」

自分の中で納得していたが、それはどうやら見当違いだったらしい。

「なぁ、この世界のステータスで例えるなら、一体どれくらい数字が必要なんだ?」

『必要な器の大きさを聞きたいのか。…ふむ、お前ほどの素質なら、本来の逢魔の力を超えるだけの力を振るう事すらも可能だろう…お前に貸し出した、あの右手と右目の力をノーリスクかつ時間無制限で使えるのが、大体オール四百といったところだから…全体の力を無制限に使いこなすとなれば、やはりオール一万は確実に必要だろう』

随分必要だな…と愚痴りたくなったが、流石にそんなことを言う気にはならなかったので、納得したように装う。

「ほかに器として求められる力は?」

『魔力操作だな。逢魔の力の主なものは、やはりその時間支配能力。時間を統べるためには、自在に魔力を操る力が不足していてはならない』

「…なるほどなぁ…」

この二つの条件を聞いて、すぐに魔物を喰うことを決定する。

原作ハジメ並みのチートステータスに加えて魔力操作まで必要とされたら、魔物を喰うしかない。

なら、さっさと殺して喰えばいい。

腕くらい、例え傷ついたとしても、逢魔の力で時を戻せばすぐに傷も治る。

だから力を借りて、全ての魔物を殺せ。

そして、喰え。

「…ふぅ…殺るか」

右腕の痛みも、右目の視界も全て戻ってきている。

後は、器を手に入れるだけ。

俺は…王になる。

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ハジメside

痛い。辛い。暗い。

でも、自分で誓ったことを守るために、ひたすら耐え続ける。

どこかにある隙間から、何かの断末魔が聞こえてくる。

カランコロンと、何かが近くを歩く時に、石を蹴飛ばした音が聞こえてきた。

でも泣かない。叫ばない。

泣いたら、全てを諦めてしまいそうだから。

叫んだら、そのまま心の支えになっている小さな記憶も、声と一緒に出て行ってしまいそうな気がしたから。

いくらポジティブになろうとしたって、あの恐怖が完全に消え失せるはずがない。

消え失せて良いはずがない。

だってそれだけ傷つけられたから。それだけ心の中の大事なものが壊されたから。

だから耐える。

神水を飲む。水を飲むという行動が、恐怖を直に感じることが無いようになる、クッションのような役割を果たしてくれている気がしたから。

だから、限られた物だって気づいているのに飲み続ける。

時々大きく息を吸う。息を吸えば、失ってしまった大事なものが、空気と一緒に体の中に戻ってくる気がしたから。

それでも、やっぱり辛いことに変わりはなくて、怖いことに変わりはなくて、僕は何も大きく行動することができないままその場で動きを止める。

もうこんなことを何度も繰り返しているせいか、飢餓感が強くなってきた。

「なんで僕がこんな目に…?」

わかりきっている、もう随分前に解決している疑問を、ひたすら自分に与える。

こんな疑問が、この飢餓感を紛らわせられるわけではないのに。

こんな疑問があったら、時王の言葉を守る事が出来なくなってしまいそうになるのに。

何度か、目を覚ますたびに思ってしまう。

この自分への誓い(絡みついて離れない呪縛)が無ければ、もっと気楽になれるんじゃないかと。

そう思うたびに思い出す。

泣きじゃくる僕を慰めてくれた、親友の優し気な顔を。

それで何とか踏みとどまる。自分を捨てるなと。

「辛い…辛いよ…助けて…時王…」

泣いてもいい。そう言ってくれた親友に、すがるように涙を流す。

その涙は拭わない。

だって、涙を拭うために手を動かすことで、今感じている飢餓感が増えてしまうような気がしたから。

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ハジメside

…僕は一体何者で、何を望んでいるのだろう。

そんなことを考えるようになってきた。

僕は僕だ。僕でいないといけない。だって、それが時王の願いだから。それが僕の、僕に対する誓いだから。

だからこそ、僕は望みについて考えない。だって、僕の望みは…

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ハジメside

僕が時王の言葉を守ろうと思ってから、もう四日たった。

空腹感が僕を満たして、体を鎖のように縛って離さない。

「…あぁ…どうすれば…何か…食べるもの…」

うわごとのように呟きながら、寝返りをうつ。

その時、すでに自分の意思では動かせなくなってしまっている左腕が、寝返りを阻害した。

「…この腕…邪魔だなぁ…」

もう自分の体にすら、なんの感慨も得られなくなってしまっている。

「人間の体には…必要な栄養素が…あるん…だっけ…?」

ダメだ、いけない。それだけは駄目だ。

自分が自分じゃなくなってしまう。

頭の中で響いている声が、朦朧としている意識を戻そうと躍起になっている。

でも…もう…無理だ…

「“錬成”…」

近くの地面を錬成し、刃物を作り出す。

「…ごめん…僕…ごめん…時王…」

刃物を作り出したら、自分の服を破く。

破きながら、自分や時王に謝罪する。

僕は…これから僕を捨てる。

空腹には勝てなかった。それだけだ。

破いた服の一部を口に含み、舌を噛み切らないようにする。

右手で刃物を持ち、左肩に向ける。

そのまま、刃物を振り下ろし、左腕を肩から切断する。

「ッ~~~!!…ッぁああああああ!!?」

先程まで左肩があった所から、血がボタボタと零れ落ちる。

神水を飲むために這いずり、神水のためてあるところに顔を突っ込み、ゴクゴクと飲む。

「ぷはっ!…はぁ…はぁ…」

血の流れを感じなくなったら、神水の水たまりから顔を出し、切り取った左腕を右手で掴み、目の前まで持ってくる。

「…ガブッ!グチュ…グチャッ…ゲホッゴフッ…ムシャッ、ジュルッ…グチャッ、グチャッ…うっ…うぅうう…」

涙を流しながら、自分の左腕を貪る。

しばらくの間何も食べていなかったせいで、自分の左腕がどうしても美味に感じてしまうのが悔しいやら情けないやらで涙が止まらない。

「グチョッ…ジュルジュル…ネチャ、ネッチャ…ゴクン…はぁ…はぁ…」

こうやって自分で腕を切り落として、自分で食べなければならないくらい辛い思いをしている間に、他のクラスメイト達はもっといい食事を、笑顔で食べているんだろう。

うらやましい。でも…それ以上に…

「ムカつくんだよォ…はっ、もういい。悪いな時王。僕は…いや、俺は」

口調すら変え、一人称も意識的に変える。

変わるなら、捨てるなら、徹底的にしたかった。

「この屈辱を与える理由を作った、それ以前にも屈辱を与えてきた、全てに復讐する。俺はもう、自分とお前しか信じらんねぇんだ。時王」

檜山、齋藤、近藤、中野、天之河、白崎、八重樫、坂上、谷口、中村、畑山、その他クラスの奴等…

メルド、イシュタル、リリアーナ、ランデル…何よりエヒト。

他にもたくさんいる。元居た世界にも、この世界にも。

「上等だ…俺をこんな目に遭わせてくれた借り…返させてもらおうか。利息のサービス付きでな」

口元を歪めながら、自分の敵を意識する。

顔を思い出すだけでも吐き気がする。顔を思い出すだけで視界が殺意で真っ黒に染まる。

「まずは強くならねぇと…それに、当面の食料も欲しい」

ウサギから殺すか…?いや、ウサギにやられてた、比較的雑魚だろう狼から殺そう。

勝てない敵に突っ込んでいくつもりはねぇ。復讐を完了させるまで、俺は死ねねぇ。

「時王がもしどこかで隠れて生きてるなら、一緒に行動したいが…まぁ、無理か。熊二匹相手にして生きて居られるなんて、奇跡的過ぎるもんな」

儚い幻想に身を委ねたくなった自分を、心の中で叱咤する。

そして、もう一度瞳に憎悪を込めて、隠れていた空洞から、外に出る…

のではなく、錬成を上達させるために特訓を開始する。

ここには幸いなことに、魔力を全回復させる神水がある。

それを使えば、俺は魔力を気にせず錬成の練度を上げることに専念できる。

「さぁ…復讐のための第一歩だ」




時系列がこの話の中でぐちゃぐちゃになってしまっているので解説させていただきますと、
時王sideは、ハジメが覚醒してしばらくたった後の話です。
まぁ、それだけ長い間寝てたと言う事ですな。時王は。
ハジメsideは、時間の経過を表現するために何個かに区切りましたが、読みにくくしてしまっただけな気がします…
ただ、ハジメsideの方は、原作の時間進行と同じ設定でいるつもりです。
なので、変だな、と思ったらすぐに感想ください。
追記:時王sideの時系列を書き換えました。

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