ありふれない時の王者と錬成の魔王は世界最強 作:イニシエヲタクモドキ
最近ヤンデレが読者の皆さんに許容して貰えてうれしかったです。
思いのほか好評で…この調子で正妻戦争まで持って行けそうですね。
時王side
「なぁユエ」
「なぁに?」
「別に俺に背負われる必要はないんじゃないのか?」
「なんで…?」
「なんでって…」
ユエ救出からしばらくたって、俺達は下の階を目指して歩いていた。
正確には、俺がユエを背負って歩いていた、だ。
言い淀む俺に、ユエは何を勘違いしてか急にブツブツと呟き始めた。
「……………」
「え?どうしたユエ?」
「なんで…?どうして?時王は私の事嫌いになったの?嘘でしょ?背負うのも嫌なくらい、もう近くに居たくないくらい嫌いになっちゃったの?ねぇ時王!私の何がいけなかったの!?教えてよ!直すから!時王好みの女になるから!だからお願い、捨てないで!捨てないd」
「あーあーわかったわかった!俺が悪かったから許せ!負ぶっててやるから!!」
「ほんと…?ぐすっ…私の事、嫌いになってない…?」
「なってないなってない。ならないから安心しろ」
「本当?」
「あぁ」
「じゃあ愛してるって言って?」
「ヴェッ!?」
いきなりダークサイドに堕ちたユエが、ねぇ時王のくだりで俺の首を力強く締め上げてきたので、ユエの細腕をパンパンとタップして降参の意を示しながら、背負うのをやめないことを伝えた。
すると、今度は愛してると言え、だなんて言ってきた。
別に言うこと自体に問題は無いのだが、何か俺の危機探知センサー的な第六感にビンビン来ているのだ。
恐怖が。
「言えないの…?」
「い、言える言える!愛してるぞー!ユエ!可愛いな!ずっと一緒だからな!」
「…えへへ…ずっと一緒、ずっと一緒…」
原作のユエよりも何かがおかしい気がするこの世界のユエさんに、俺は苦笑いするしかなかった。
まぁ可愛いからいいか。
ただこんなことになった理由のハジメ。アイツは一発殴ろう。
そんなことを考えながら歩いていると、ある階層に到着した。
「…なんだここ、焼け野原じゃねぇか」
「肉の焼けた匂い…草木も少し残ってる…これって」
「十中八九俺の親友…ハジメの仕業だな。くそっ、ここのアルラウネは食っておきたかったんだが…まぁ俺はハジメよりステータスの上昇率高いしいいか」
「?よくわからないけど、いいの?」
「あぁ、というかハジメが無事にたどり着いてきてることをしれて良かった…ってとこかな?」
頬を掻きながらこの階層から降りる階段を探す。
思いのほかすぐに見つかった階段から、下に降りる。
次の階層もハジメに荒らされていた。
その次の階層も、そのまた次の階層も。
ハジメに蹂躙されつくしていた階層をただ悠然と歩いていると、ついにとうとうハジメの魔の手に侵されていない階層に到着した。
「…さて、ここには一体何が…」
ドパンッ!
俺が草むら(この階層も草が生い茂っている場所だった)を歩き回っていると、いきなり銃声が聞こえてきた。
「お前がここの主か!殺して食って…なっ…時、王?」
草陰から現れたのは、白髪に片腕の香ばしい姿をした少年…俺の親友、南雲ハジメその人だった。
「…ハジメ…ここにいたのか…」
「おいおいおいおいおいおい!まじかほんと久しぶりだなぁ!」
嬉しそうに駆け寄ってきたハジメに片手をあげる。
ハイタッチだ。
それを見て、ハジメも意図を理解したのか、手を叩き合わせてきた。
パンッと乾いたいい音が響き、俺たちの再会を祝福した。
「まさかこんな先に進んでいるとはなぁ…」
「それはこっちのセリフだっつーの。俺よりも後に来たくせに、もう追いついてきてんじゃねぇか…」
「まぁお前が魔物をほとんど狩りつくしたからだろうな。楽だったぜ」
「あー、夢中になり過ぎててお前の分残してなかったなー、失敗失敗」
笑い合う俺達の方を見て、小刻みに震えていたユエ。
それを見つけた俺は、何があったのか質問する。
「どうした?顔色悪いぞ?」
「…こ、この人…」
「あ?…コイツ確か五十階層にいた…なんだよ、助けたのか?」
「まぁな」
どうやらハジメに怯えていたらしい。
ユエを見ると、急に不機嫌そうに俺の方を向いて質問してきたハジメ。
どうかしたのだろうか?
「…こいつは俺達と違って、自力じゃなくて他力本願で助かったことになるんだぞ?それでいいのかよ」
「??」
「だーかーらー…なんで俺達は苦労して、コイツは碌に苦労せずに俺達と同じ結果を得られてるんだよ」
「…あー、そゆこと」
どうやら、これが原作との違いその2の様子。
その1はユエの態度ね。
ハジメは原作と違ってユエの助けてコールに怒りを覚えたらしい。
それでユエがあんな初対面の俺にごめんなさいとか言い出すようになるくらいの何かをして放置して先に下の階層に向かったと。
なんだかなぁ…
「で?結局どういう事なんだよ」
どうやって説明しろと?原作通りにしたかっただけなんですが…
だって、いくら下心を持とうと、助ける前の俺は、ユエ=ハジメヒロインという公式が離れなかったわけだから、助けてもハジメにしかいいことなくね?って思ってたし…
「まぁ、強いて言うなら…」
「?」
「俺は王だからな。民が助けを求めているなら、助けてやらなくちゃ」
「…なんだそりゃ?力を手に入れた弊害か?」
「弊害て…まぁいいけどよ。お、そうだ、俺の力見せてやるから、ここの魔物は俺に殺らせろよ?」
「オイオイ…俺もコイツの紹介をしたかったんだが…」
そう言いながら右太腿のホルダーにしまってある大型リボルバー式拳銃を撫でるハジメ。
「悪い悪い。でもよ、俺も見てほしいんだよ…な?」
「はぁー…ったく、しょうがねぇなぁ!」
口ではそう言いつつも、とても嬉しそうに笑ったハジメ。
「じゃあユエ、ちょっと降りてくれるか?」
「…ん」
渋々とだが、俺の背中から降りたユエ。
「じゃ、早速ボス探しからだな…」
両目に逢魔の力を宿し、ボスに遭遇する未来を見る。
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俺がハジメたちが小さく見えるくらいのところを不用心に歩いていたら、いきなり右の草むらから巨大な蛇が現れ、俺を食いちぎろうとしてきた。
咄嗟に防御するも、牙がかなり鋭く、脇腹に穴が開いてしまった。
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ハジメside
「なるほど、そこか」
親友が何かに納得したような声を出したかと思えば、悠然と歩きだし、右腕を趣味の悪い金色の腕に変えた。
「な、なんじゃありゃ…」
自分の親友の力に絶句する。
もしかして、さっき言ってた王がなんとかってやつも、あの力に関わってるのか?
「10…9…8…7…」
何かをカウントし始めた時王。
「い、一体何を?」
まるで何かを待っているかのように、急に立ち止まった時王。
「3…2…1…!!!!」
数え終わった瞬間、時王は拳を思い切り振り抜いた。
すると、
「…い、今のは…」
「終わったぜ。ハジメ」
ボタボタと地面に落下していく蛇の肉を無造作につかみ、噛みちぎりながらこちらに笑顔を向けた時王に、俺は復讐完遂の成功率がかなり上昇したことを感じ、笑みをこぼした。
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時王side
「ほら、蛇肉だ。まずいぞ」
「まずいのかよ…まぁいいや」
俺の手渡した蛇肉を纏雷で焼き、大きな塊のまま口に突っ込んだハジメ。
わ、ワイルドだなぁ…
「あ、ユエ。お前腹減ったか?」
「…ん。飲む」
俺の質問に、血を飲むという答えで肯定してきた。
「んっ…ちゅっ…チュバッ…んくっ、んく…」
「…まさかとは思うが…ここに来るまでずっとそれやってたのか?」
「そのまさかだ」
やけに淫猥な血の飲み方をしているユエを見て、若干引き気味に質問してくるハジメ。
「…ごちそーさまでした」
「おう、お粗末様っと…」
「顔色悪いぞ時王」
余裕ぶって返事をした俺に、ハジメは半眼で言ってきた。
「…あのさ、俺数えてなかったんだけど…ここって俺たちが落ちたところから数えて何階層目?」
「…九十九階層だ」
ハジメに質問すると、次で最後の階層だということを告げられた。
「なぁハジメ、ここから出たらどうする?」
「アイツらを殺す…ッ!」
…ん?
原作通り、俺は帰りたい的なセリフが来るかと思ったら、なんかいきなり殺気をまき散らし始めたハジメ。
アイツらって?
「アイツら?」
「檜山、近藤、中野、齋藤、天之河、坂上、白崎、八重樫、谷口、中村、清水、園部、菅原、宮崎、相川、仁村、玉井…あぁ、他にもいる、俺達を無能と罵ったやつが、俺達を嘲笑ったやつが、孤立させた奴が!!畑山、アイツは良い教師になるとか言いながら、俺たちのいじめを見なかったことにしてやがった!!イシュタル!!あのクソジジイ絶対殺す!!露骨に無能とか言いやがってあのクソ狸が!リリアーナ、アイツは訓練に顔を出して、他のクラスメイトには親し気にしてやがったくせに、俺達は無視しやがった!!俺たちが無能だったから!!ほかにもいる、いるとも!何も俺達にしてくれなかった奴らが!俺達を害してくれた奴らが!!何よりもエヒトだ!俺達がこんな目に遭ってきたのも、全部エヒトが俺達を召喚したからだろうが!!だから殺す!クラスメイトも!教師も!王国の奴等も!何よりこの世界の神も!!!それを邪魔するやつも殺す!生きていようが死んでいようが唾吐いてやる!!これは復讐だ!これは俺の聖戦だ!!それを完遂させて、俺は帰るんだ…お前と!故郷に!日本に!家に!」
殺意をばら撒きながら早口でまくし立てたハジメに怯えているユエをそっと抱きしめ撫でながら、ハジメの方をよく見る。
眼に光は無く、どす黒く濁っていた。
原作ではクラスの奴等には無関心で行くつもりのはずだったハジメが、なんかいろいろダークになっている…
は、話をそらさねば。
「あ、あぁ…そ、そういやハジメ、左腕どうした?ウサギに蹴られただけだったはずだが…」
「…あぁ、これか?これは…自分で切った」
「…なに?」
淀んだ瞳のまま、俺の方を見て、すぐに左腕に視線を移し、自嘲気味に笑ったハジメ。
「肩の骨が粉々になって欠損したせいで、治らなかったんだよ、神水でも。それに腹も減ってたから…」
「…ま、まさかお前…」
恐る恐る聞くと、ハジメは再び殺気を溢れさせた。
「そうだよ…この腕は俺が自分で食ったんだよ!!その時の屈辱も!痛みも!苦しみも!全部アイツらへの復讐心を忘れないようにするための感覚だ!!アイツらどうせ、俺が空腹で苦しんで、肩の痛みに耐えきれなくなって腕を切って自分で食ってる時に、王宮で豪華な料理を食って、俺達無能の事は忘れて楽しんでやがったんだろうよ!!!そう思ったらもう耐え切れねぇ、アイツらを殺すだけじゃ済まさねぇ!アイツらの大事な物も、大事な者も全部奪って絶望させてから殺してやる!!」
話を逸らせませんでした。
ドンナーがミシミシ言うくらい力強く握りしめられているのを見て、ユエはさらに恐怖心を煽られたのか、肩が小刻みに震えだした。
それをより強く抱きしめ、落ち着かせようとする。
「…お前はどうしても復讐したいのか?」
「当たり前だ!!今まで俺達をいじめてきたんだぞ!?檜山は俺達を落としたんだぞ!?許せるかよ、許せるわけねぇだろ!!無能って罵られて、はいそうですかで許せる訳ないだろうが!!俺は聖人君主じゃねぇんだよ!!いじめてきた奴等を、俺をここまで苦しめたやつを…何もおとがめなしで許すわけねぇだろうが!!!!」
「…」
ハジメの悲痛な叫びに、俺は…
「…それもそうだな」
笑顔で答えた。
「…否定…しないのか?」
「しねぇよ。お前の怒りも当たり前だし。何よりそれがお前の選んだ道だ。否定はしねぇよ。…さすがにやばすぎたら止めるが」
「…そう、か…ははっ、時王はやっぱりそう言うやつだもんな…」
俺の答えに、急に笑い出したハジメ。
そんなにかな?
というか俺もあまりハジメの事言えないんだよな。
俺が力を手に入れようとした理由、下に見られたくない、この世の全てを見下してやる…だもんな。
目指すのが最高最善の王でも、思考は最低最悪だから…
「なぁハジメ」
「ん?」
「もし日本に帰るならさ。ユエも…コイツも連れてっていいかな?」
「あ?」
「え?」
俺がハジメに、現在進行形で抱きしめているユエの処遇について訊くと、ハジメとユエから同時に聞き返された。
「いや、さ?こいつはもうここに居場所が無いわけだし…だから、俺達が連れてってもいいかなぁって」
「…いいの?」
「…はぁ…好きにしろよ」
ハジメは、俺とユエの頼みに対して、曖昧に肯定した。
「…ていうか、ユエの考え聞いてなかったな…ユエ、お前はどうしたい?」
「…私の居場所は時王の隣。時王の居場所は私の隣。依然、変わりなく」
どっかの帝王みたいな言葉で、俺達と一緒に故郷に帰ることを肯定したユエに、自然と笑ってしまう。
「…さて、次で多分最後の階層だろうから…ハジメ、錬成で安全地帯作れるか?」
「ん?あぁ、わかった…“錬成”」
壁に触れることなく錬成を発動し、壁に大きなスペースを作ったハジメ。
さて、迫る第一の最終決戦に備えるとするか。
ハジメに恐怖しているせいで、ユエはセリフが少なくなってしまっています。
それも仕方ないと思いますよ。
孤独で辛い状況で現れた、自分を助けてくれるかもしれない男に、いきなり怒鳴りつけられながら飛び道具(銃)で攻撃されて、そのまま放置されたんですから。
俺なら舌を噛み切るでしょうね。