ありふれない時の王者と錬成の魔王は世界最強 作:イニシエヲタクモドキ
三人称視点
時王が真の力に目覚め、ユエと一線を越えている間、光輝たち一行は迷宮攻略を中断し、王国まで戻っていた。
疲労がたまった、というわけではない。
もしそうだとしたら、ただ宿で休めばいいだけの事だ。
ならばなぜ?
それはヘルシャー帝国から勇者一行に会いに使者が来るからだ。
この中途半端なタイミングにも理由がある。
まぁ端的に言えば、召喚されたことがヘルシャー帝国に伝わるのに時間がかかったという事なのだが。
伝わって、それに対しての返事が来るよりも先に迷宮攻略に乗り出してしまったのがこの意味不明なタイミングになってしまったことの一員になっている。
馬車の中で帝国について伝えられた光輝たちだったが、実際話をちゃんと聞いていたのは鈴と龍太郎だけだ。
なぜなら…
「ねぇ光輝くん♡」
「ん?どうした恵里?」
「えへへ…なんでもなーい」
「…可愛い奴っ」
あるバカップルは、最近彼女側に対して、いい加減に名前で呼んでくれと彼氏側から要望があったことで名前呼びが始まったことにより、名前を呼んでは何でもないといい、それに彼氏側がひたすら喜びを表に出すというループが続いていた。
「スンスン…ど、どうしよう…時王くんの匂いが薄くなってきちゃった…」
香織は、時王のワイシャツの匂いをひたすら嗅ぎ続けていたものの、匂いが薄くなってきたと涙を流していた。
因みにだが、このワイシャツを時王が最後に来たのは、この異世界に来る前である。
さらに言えば洗濯もされていたため…本来なら洗剤の匂いしかしないはずなのだが…
香織はそれをこの三日間、時王の匂いがすると言ってエクスタシーしていた。
…恐ろしい。
「…」
雫の方は、ひたすら無言で本を書いていた。
内容は、時王と雫のひたすらディープな官能小説だ。
どのプレイも、雫が受けだった。
となりの鈴がチラリと覗いて、顔を真っ赤にしてすぐに目をそらし、再び覗き見るという現象がずっと続いていた。
余談だが、この本は雫が地球にいる頃から書かれており、雫の夜のお供でもあった。
偶に時王のあられもない姿を描いた(幼馴染と言う事で、昔よく一緒に入った風呂の時の姿を回想し、それを今の時王の姿に脳内で成長させて書いている)挿絵があるのが雫のこの本に対する情熱を体現している。
「…お前ら聞いているのか?」
粗方説明し終えたところで半眼で光輝たちを睥睨したメルド団長。
それに対し、心外だと言わんばかりに全員が答える。
「もちろんですよ、俺の恵里の可愛さについて教えていてくれたんですね?残念ですが、恵里の事は俺の方がよく知ってますよ」
「こ、光輝くん…僕も光輝くんの事、誰よりも知ってるよ」
「いや違う」
一瞬桃色空間を消滅させてメルド団長の方に向くも、すぐに桃色空間を再構築した光輝たちに、龍太郎がジーザスと言って頭を抱える。
「聞いてましたよ…私の時王くんを寝取ろうとする女がいるってことでしょう?わかってます、わかってますよ…大丈夫…時王くんは私が大好きで、私も時王くんが大好き…そして相思相愛の二人はめでたく再開し、愛を語り合って夜を共に過ごし、時王くんの方からおもむろに婚約指輪を私に向けてこういうんですよね?『香織…お前を愛してる…一生じゃない、永遠に…一緒に居よう』…って!!きゃー!時王くーん!!」
「…どこをどう聞いたらそう言うことになるんだ?」
最初は背後から般若のスタ●ドを出し、ハイライトをオフにしていた香織だが、次第に頬を染め、しまいには意味不明なことを言って手に持っている時王のワイシャツに頬擦りし始めた。
「わかっています。時王と私の将来設計に関しての懸念事項についてですよね?大丈夫ですよ。時王と私なら…永遠の愛を誓い合った私たちなら、どんな困難でも乗り越えられます。お互いがお互いを支え、求め…二人は魂まで濃密に融け合い、絡め合い…」
なんか艶めかしいことを言い始めた雫からメルド団長は目をそらし、オウキュウ二ツイタゾー…と死んだ目でいって、馬車から降りた。
王宮内に向かおうとすると、奥から一人の少年が駆け寄ってきた。
ランデル王子である。
犬の尻尾を幻視してしまうような勢いで光輝たちの方まで駆け寄ると、瞳を輝かせながら香織に声をかけた。
「香織! よく帰った! 待ちわびたぞ!」
香織以外にも人がいるというにも関わらず、ランデル王子は香織にしか目を向けなかった。
大体察することができるだろうが、ランデル王子は香織が好きだ。
だが…
「時王くん…子供は何人がいい?…え?しばらくは二人きりで生活したい?もぉ…私も♡」
虚空に向けて話かけている香織。
メルド団長の言葉がトリガーとなって、いつもの(!?)妄想モードに入ってしまったのだ。
いくら話かけても、ひたすら何もない右隣の空間にしか意識を向けない香織に、若干涙目になるランデル王子。
そこに遅れてリリアーナ王女がやってきた。
「ランデル…その…か、香織が困っているでしょう?いい加減にやめなさい」
トリップしている香織を複雑そうな目で見ながら、ランデルの叶わぬ恋を諦めるように言うリリアーナ。
まぁこんなヤンデレが時王以外を好きになるなんてないだろうし。
「香織、その…弟が申し訳ありませんでしたわ」
「…え?なに?どうしたの?ねぇ時王くん、何かあった?」
一瞬リリアーナに意識を向けるも、すぐに虚空に見えているのだろう時王に話かける香織。
すると、今度は「私しか見てなかったなんて…もぉ~、好きっ」なんていいながら虚空に腕を組むようなポーズを取り始めた。
もはや末期である。
因みに雫は「何言ってるのかしら…時王はここにいるのに」なんていいながら、自分の左隣の虚空に話かけていた。
そんな二人にかなりドン引いている龍太郎と鈴。
病的なまでに愛している人がいるから気持ちがわかるのか、強く生きろ、という風な視線を向ける恵里と光輝。
今日の晩飯なにかなぁと現実逃避し始めたメルド団長。
カオスとはこのようなことを言うのだろうか。
「と、とにかく今日はもう休んでください。帝国の人が来るにはまだまだ日数がかかりますから…」
笑顔を崩さないようにしながら、光輝たちを王宮に入るように促すリリアーナ。
それに対して素直に王宮に入るも、雫と香織は早く迷宮に行って時王と会いたいと思うのだった。
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三人称視点
三日後、ついに使者が現れた。
「使者殿、よく参られた。勇者方の至上の武勇、存分に確かめられるがよかろう」
「陛下、この度は急な訪問の願い、聞き入れて下さり誠に感謝いたします。して、どなたが勇者様なのでしょう?」
「うむ、まずは紹介させて頂こうか。光輝殿、前へ出てくれるか?」
「はい」
国王に言われて前に出る光輝。
「ほぅ、貴方が勇者様ですか。随分とお若いですな。失礼ですが、本当に六十五層を突破したので? 確か、あそこにはベヒモスという化物が出ると記憶しておりますが…」
光輝に若干訝し気な視線を向け、品定めするように睥睨する使者。
それに若干たじろぐも、別に後ろめたいことがあるわけでもないのですぐに堂々と背筋を伸ばした光輝。
「えっと、ではお話しましょうか? どのように倒したかとか、あっ、六十六層のマップを見せるとかどうでしょう?」
「いえいえ。それよりももっといい確かめる方法がありますので…」
「そ、それは一体…?」
薄気味悪さを感じながら光輝が質問すると、その使者はニヤニヤしながらこういった。
「私の護衛の一人と戦ってもらえればそれで充分…なに、模擬戦闘ならば勇者様の実力もすぐに把握できます」
「俺は構いませんが…」
アイコンタクトで後ろにいるイシュタルに確認をとる。
すると、イシュタルは無言でうなずき、目に物を見せてやれと言わんばかりの反応を見せた。
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三人称視点
対戦相手は、実に平凡な男だった。
もしこの男を雑多の中から探し出せと言われたら、不可能だ、と言って投げ出してしまうくらいに没個性な顔立ちをしている男だった。
その男は、刃引きしている大型の剣を構えることなくだらりと脱力しながら光輝の方に視線だけを向けていた。
光輝はその姿になめられていると感じ激昂した。
一度度肝を抜いてやれば真面目になるだろうと思い、縮地で距離を詰めて聖剣を全力で振るう。
だが、次の瞬間に吹き飛ばされていたのは光輝の方だった。
「…い、今のは…?」
「なんだ?今のが分からなかったのか…これでベヒモスを倒したってのか?」
とても見た目には似つかわしくない乱暴な言葉に驚愕する光輝。
そして、すぐになめていたのは自分の方だと反省し、頭を下げる。
「すいませんでした。もう一度お願いします」
「チッ…戦場に次なんてないんだがな…」
不機嫌そうに言いながらも、大剣を自然体に構える。
光輝が再び縮地で踏み込み、常人ならば目で追う事が出来ない速度で剣を振るう。
だが、男はひたすら最小限の動きだけで回避し、時々光輝の動きを阻害するように剣を叩きつけるだけで、疲れた様子も驚いた様子も見せない。
「…お前、戦いに身を置いてからどれくらいたつんだ?」
「え…大体二か月ちょっとですけど…」
「その前は一体何をしてたんだ?」
「学生ですけど…」
「…それが今や神の使徒、ねぇ…」
イシュタル達教会の人間を不機嫌そうに見やると、光輝の方に向き直り、大剣を思い切り振るって壁際まで吹き飛ばした。
「構えろ
それだけ言うと、言葉に反応できていない光輝の眼前まで迫り、男は大剣を振るった。
そこまでされてようやく反応できたのか、聖剣で受け止めようとするも力負けし、壁に叩きつけられる光輝。
「がふっ…」
「どうした?その力は、その聖剣は、勇者の名は…飾りか?」
スパンッと、空を斬る音が聞こえたと同時、再び光輝は大剣に叩かれていた。
もしこれに刃がついていれば真っ二つだっただろう。
そのことに冷や汗を流しながらも、自分に殺気を向けてくる男に対して、ようやく殺す気で剣を構えた光輝。
「なんだよ、そう言う顔もできるんじゃねぇか…もっと早く来いよ」
「何を…」
「ま、わかんねぇならいい…さて、俺はマジで殺す気で行くからな…せいぜい、死ぬなよ?」
今度は大剣で攻撃するでもなく、純粋に光輝の鳩尾に膝蹴りをいれた。
意識を飛ばしそうになり、その場に崩れ落ちた光輝に、大剣を振り上げる。
だが、次の瞬間男の方が吹き飛んだ。
「“限界突破”…はぁ…はぁ…死んでも恨まないでくださいね…?」
純白のオーラを放ちながら闘争心剥き出しで告げた光輝に、狂気的なまでの笑みを浮かべる男。
「おいおい、まだ手数あるんじゃねぇか…もっと早く出せよ!」
それだけ言うと、再び光輝の眼前に迫った。
だが、今度は光輝の方が素早く聖剣を振るい、男の方をノックバックする。
「行きます!“天翔…」
「そこらへんにしておきなさい光輝」
迷宮でもめったに使わないレベルの一撃を、聖剣に打ちあったせいで手が痺れて動けない状態になっている男にくらわせようとした光輝の眼前に迫り、縮地を発動した光輝以上の速度で剣を振るった雫。
先程までずっと時王の手袋(指ぬきグローブ。攻撃力に補正がかかるもので、王宮から支給されたのだが、結局何度か装備しただけで使われることは無かった)の匂いを嗅いでいた雫だが、光輝が壁に叩きつけられた時の石礫のせいで手袋が破れてしまい、ただいまストレスマックスである。
「護衛の人も…まったく、私の時王の手袋がビリビリじゃない…」
悩まし気に溜息をつきながら剣を肩でトントンする姿は、もはや刀を持った死神を幻視させた。
「…何者だ?そっちの勇者よりも何倍も強いだろ」
「私は…八重樫雫です。今はいませんが…常盤時王の嫁です」
雫の醸し出している強者の雰囲気を感じ、冷や汗を流しながら何者か尋ねた男に、さらりと嘘をついた雫。
その言葉を聞いて平常でいられるはずのない奴が一人いた。
「え?何言ってるの雫ちゃん、時王くんは私の旦那さまだよ?」
般若の面をつけた阿修羅像を背後に幻視させながらゆっくりと歩いてきたのは香織。
その香織の言葉に、背後に赤いメンポに『♦
心なしか後ろのニンジャが『Wasshoi!』と言っているようにも聞こえる。
「お、落ち着いてくだされ…それと、お戯れが過ぎたのでは?ガハルド殿」
「…チッ、やっぱりバレてたか」
誰にも聞こえないように悪態をつくと、右耳に付けていたイヤリングを外した。
すると、先程までの異常なほど平凡な姿から、四十代くらいの野性味あふれる男の姿に変わった。
それに、周りの人間はみんな一斉に驚愕…
しなかった。
もう少し反応があるだろうと思っていたガハルドは、どうしたのだろうかと閉じていた目を開いた。
否、開いてしまった。
「雫ちゃんはいい加減にした方がいいんじゃないかなぁ、かなぁ?」
「それはこっちのセリフよ、彼女面して私の時王を汚さないでくれる?」
先程よりも濃密な殺気を放ちながらお互いの得物を強く握りしめ合っている二人。
ガハルドは、目を見開いたまま、周りの人間と同じように硬直してしまった。
「…私、雫ちゃんの事、親友だと思ってる」
「えぇ、私もよ香織」
「「…だけど」」
ニッコリと笑いあい、数瞬間を開けて再び殺気をたぎらせる。
「「ここは流石に譲れない」」
次の瞬間、雫の剣と香織の杖が交差し…
「ストップ、ストーップ!!落ち着いてよ二人共!!」
ようとしたところに、鈴が乱入した。
「どいて鈴ちゃん!アイツ殺せない!」
もはや親友をアイツ呼ばわりしている香織。
「どきなさいよ、じゃないとアナタも一緒に斬るわよ?」
居合斬りの構えに入り、冷たく鈴を睨みつける雫。
結局、何とか鈴が二人を和解させてこの第一次正妻戦争を冷戦状態にさせたのだが…
しばらく後、お互いだけが敵というわけではないということを知り、先程以上の争いが始まるのだが…それはまだ先の話…
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三人称視点
結局、ガハルド達は直ぐに帰っていった。
その時に、光輝たちを勇者として認めるとの言葉ももらったので(ガハルドは実は、ヘルシャー帝国の帝王だったのだ)、王国側としては上々の結果だった。
帰る時に、雫と香織の事をチラッと見てから、光輝の方に、あることを質問していた。
「…なぁ、時王って何者だ?」
「時王…ですか?」
「あぁ…あの二人があれだけ言うもんだからな…気になっちまってよ」
「…常盤…あぁ、時王の事です。で、常盤ですけど…南雲、という男と一緒に、ベヒモスから俺達を守って落ちていきました。…恐らくもう…」
悔しそうに拳を握る光輝。
因みに、彼の中では、時王とハジメはクラスメイトのために死んでいったのであって、誰かの魔法のせいで死んだというわけではないことになっている。
「なるほど…好きなやつが死んでってことか…」
神妙な面持ちで顎に手を当てるガハルド。
彼の目には、今の香織と雫は、自ら精神を病ませることによって限界を回避しようとしているように見えている。
小声で、最も危ういのはアイツらかもしれないな…と正しいことを若干ずれた思いで言っていた。
第一次正妻戦争と作中で言いましたが、これはまだ戦争というにはほど遠いいです。
もし仮に本気の争いを始めたら…ウッ、アタマガ