ありふれない時の王者と錬成の魔王は世界最強 作:イニシエヲタクモドキ
時王side
「あの、ジオウさん」
「あん?」
寝転がりながら、俺の腹の上でひたすら深呼吸を繰り返しているユエの頭を撫でていると、シアが俺に話かけてきた。
さっきまでずっと黙ってたのに…一体何だって言うんだい?
「今更なんですけど…この…椅子?ベッド?は一体…それにユエさんもジオウさんも…あの人も魔法を使ってましたよね?ここでは使えないはずなのに」
「あー、いいか説明しても」
誰に確認するというわけでもないが口に出してから、起き上がってシアの方に目を合わせながら教える。
自分たちの特異性や、この峡谷の性質について。
「…えっと…じゃあ三人とも魔力の直接操作ができるという事…ですか?」
「ま、そう言う事だな…固有魔法も使えるが…」
自分のではないからなぁ…と心の中で付け足す。
オーマジオウは俺の力だが、纏雷とかは俺固有の力じゃない。
「…そう、なんですか…ぐすっ」
「どうしたよ、また泣き出したりなんかして」
頬擦りしてくるユエを優しく抱きしめながら質問する。
ていうかシアに魔法使ってから一度も喋ってねぇなコイツ。
「いえ…なんというか…一人じゃないってわかったら…嬉しくって…」
…なるほど、コイツは今まで魔力の直接操作とか固有魔法とかのせいで苦しんできて、孤独感を感じてきたから…
同じ力を持つ俺達がいることを知って、ようやくこの疎外感から解放されたってことか。
ユエの方を見ると、複雑そうな顔をしていた。
まぁユエも同じ力を持った奴がいなかったわけだし、仕方ないか。
二人の違いはやっぱり、愛してくれた家族がいたかどうかだろうな。
まぁ一応ユエにも愛してくれた家族はいたんだが(原作知識)…まぁ今は俺が愛してるし、俺も愛されてるし…いいか。
若干自己中心的思想が固定されつつあることを危惧しつつ、ユエの頭を撫でる。
それに小さく反応すると、先程よりも強く俺を抱きしめてきたユエ。
「…仲いいですね、お二人は…」
「どうしてそれでお前が不機嫌になるんだ?」
「…知りません!」
何やら不機嫌そうに俺達の方を半眼で睨みつけてきていたシアに話かけると、逆ギレして顔を背けられてしまった。
「…そういやハジメ、気配探知に集団の反応はあったか?」
「あ?ねぇけど…どうした?」
「いや…ハウリア族って、同じ族の奴を家族って思ってるんだろ?ましてや族長の娘だ、ただの家族なんて考えだけじゃ言い表せねぇくらいだろう」
「…それで?」
「いや、きっと集団でシアを探して徘徊してるだろうから…気配探知に反応があれば、それがハウリアってことで良しだと」
「なるほど…ちょっと待ってろ、気配探知に魔力操作を合わせて、効果範囲を増やしてみる」
そう言うと、目をゆっくりと閉じて、一ミリも動かなくなったハジメ。
「………いた」
「お、どの辺だ?」
「このまま真っすぐだが…もし仮にこのウサギの家族まで助けるんだとしたら…急いだほうがいいぞ」
「あ?どういうこったよ」
「…魔物数匹に襲われてる。アイツら戦えないタイプの種族だろ?このままじゃ全滅だな」
「先に言えよそういうの!!」
それだけ叫ぶと、あるライダーのライドウォッチを作り出し、絵柄をあわせてボタンを押す。
俺の能力、ライドウォッチ生成で作ったライドウォッチは、上のボタンを押すことでそのライダーの力を使えるようになる性質を持っている。
まぁオーマジオウに変身していたらライドウォッチは必要ないのだが。
『カブト』
「クロックアップ」
カブトライドウォッチを使い、クロックアップを発動する。
加速するのは俺ではなく、俺達の乗っている玉座だ。
次の瞬間、先程とは比べ物にならないくらいの速度で移動を始めた玉座。
余りの風圧に耐え切れず、後ろに倒れそうになってしまったシアを腕で受け止め、そのまま走らせる。
ここでもしハウリア族を全滅させようものなら、この後のイベントがほとんど消滅してしまう。
善意ではなく打算で行動している俺を、シアが潤んだ瞳で熱っぽく見ていたことに、その時は気づけなかった。
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時王side
しばらく(数秒程度)たったところで、ある魔物が俺達の視界に入ってきた。
「…何だアレ?」
「ハ、ハイベリア…」
ワイバーンのような魔物を見て、シアが戦慄した。
強い魔物なのだろうか。
じゃあちょっと俺の実験台になってもらおう。
「ハジメ、後ろから援護…まぁ一応だから、そんな気を張らなくていい」
「了解」
「ユエは…」
そこまで言いかけて少し逡巡する。
ハジメがドンナーで援護してくれるなら、別にユエに何かしてもらう必要はないなと。
それで固まってしまった俺に、瞳を潤わせ始めたユエ。
心なしかぐすんと言っているのも聞こえる。
まぁ迷宮から出てずっと戦闘に参加していないから、いい加減に自分が役立たずなのではと思い始めているのだろう。
な、なんか適当な役職…
「ゆ、ユエは終わったあと俺を癒してほしいなぁ~、なんて…」
「ん!わかった!」
苦し紛れに言うと、笑顔で了承してきたユエ。
い、一件落着…だろうか。
「さ、行こうか」
それだけ言うと、玉座を飛び降り、空中に魔力で足場を作りながらハイベリアと呼ばれた魔物を殴りつけていく。
あまり力を入れると何も残らないので、力を程よく抜きながら殴りつけていく。
途中俺が対応しきれなくなりそうになるたびに、ハジメがピンポイントで射撃してくれるから非常に力量調節の練習がはかどる。
何も考えなければ援護なんていらないのだが、流石に力を振り回すだけではスマートではないということで考えながら戦うことにしている。
うまい具合に調節しながら戦う事数秒。
完全に魔物を掃討し終えたので、悠然と着地する。
「あ、貴方は…?」
「あー、それについては…」
「みんな~!!」
「「「「「「「「「「シア!?」」」」」」」」」」
頬を掻きながらどうやって説明しようかと考えていると、玉座から身を乗り出して、俺の近くにいる兎人族たちに手を振っているシアが現れた。
お、見なくても玉座の操作できたな。
この調子で自由度上げていこう。
そんなことを考えていたら、玉座が停止して(止めたのは俺だ。しっかり停止も触れずとも操作できた)シアが玉座から飛び降りて兎人の方まで駆け寄っていった。
その後ろを走って、ユエが俺に抱き着いてきた。
「おー、ユエ。ありがとな」
「ん…お疲れ様」
耳元で甘くささやかれて、ほんの少しイケナイ気持ちになってしまうが、何とか俺の脆弱な理性で耐える。
「さて、と…ハジメ」
「ん?どうかしたか?」
玉座から降りて、ゆっくりとこちら側に歩み寄っていたハジメに声をかける。
案の定俺が何で話かけたのかはわかっていない様子。
「いや、さっきの俺の戦闘…どうだった?無駄な動きとか…なんかこう、改善するべきところはあったか?」
「あー…なかったとは思うが…やっぱり力を抜きすぎると、集団相手なら囲まれることもあるからな…今回は力を抜かずに、一撃で全員吹っ飛ばした方が一番合理的だった気がするぞ」
「やっぱりか…力の調整実験は、もっといい相手を見つけてからの方がよさそうだな」
ハジメの感想を聞き、自分でも反省してみる。
ただなぁ…うまく調節して戦うのにあった相手…いるか?
「えっと…ジオウ殿でよろしかったかな?」
話が終わったのか、俺の方に声をかけてきた兎人。
原作ではカムと呼ばれていたが…この世界では一体どうなんだろうか。
「あぁ、えーっと…」
「おっと、申し遅れましたな…私は、カムと申します。ハウリア族の族長を務めさせてもらっております」
どうやら原作通りでよかったらしい。
「なるほど、カムか。…敬語じゃなくて構わない。むしろ、敬語は苦手だからやめてもらいたいんだが…」
「いえいえそう言うわけには…この度はシアのみならず、我々までも窮地を救っていただいたのですから…しかも脱出まで手助けしていただけると…もうなんとお礼を言うべきか…」
「あー…まぁそこは気にしなくていい。ただ…そうだな、ある場所に案内してもらいたい」
頭を下げるカムに、若干ペースが崩されそうになるも、ある要求をつきつける。
元々原作でもするべきだったことなので、この依頼イベントは回収しておきたい。
…べ、別に忘れていたとかじゃない。断じて。
「ある場所、ですか?」
「あぁ…俺達は今、大迷宮の攻略を目的としている」
「ならば樹海まで案内すればよい…と?」
「いや違う。俺達が案内してほしいところは、樹海の奥地にある大樹までだ」
「は、はぁ…?」
よくわかっていないようなので、軽くカムに説明してやると、完全に理解したわけではないが取り敢えずわかったという反応をされた。
まぁ別にカムが理解していないと困るわけでもないので全然問題はない。
とにかく今は樹海に向かおうということで、その場を離脱し、樹海に向けて歩き始めた。
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時王side
ある程度歩くと、シアが俺に不安そうに質問してきた。
「あの、ジオウさん…」
「ん?どうした?」
「…帝国兵と戦うことになったら…その、ジオウさんは…大丈夫、なんですか?」
「何が?」
本当にシアが何を言っているのか大体もわからなかったのでさらに質問する。
帝国兵より俺の方が弱いと言いたいのだろうか。
「その…今までと違って、相手は人間なんですよ?同じ種族なのに…殺せるんですか?」
「…お前は俺がビビって、約束破って願えるとでも思っているのか?」
「い、いえ…そう言うわけではなくて…」
「ならいいじゃねぇか。別に俺がどう思うとしても、お前に害さえなかったらそれはお前が考慮する問題じゃない」
「ですが…」
「いいんだよ、別に。それに…」
あの正体不明の何かから色んな記憶や力を与えられた時に、まともな感性なんて無くなっちまったよ。
そう言おうと思ったが、言わずに抑えておいた。
言って何があるというわけでもないし、何よりこれはコイツに関係のない話だから。
階段状の崖を上ると、複数の人影があった。
「おいおい…まさか本当に生き残りが来るなんて思わなかったぜ…隊長さまさまだなオイ」
帝国兵。
カーキ色の軍服のような物に身を包み、歴戦という雰囲気を醸し出している彼らは、相当の手誰なのだろうことが見て取れた。
「お、あれって隊長が欲しがってた白い髪の兎人じゃねぇっすか?」
「本当だな…アイツを隊長に渡したら、昇格間違いなし…中々俺もツキがまわってきたじゃねぇか」
「それに他の女も上玉ぞろいじゃないですか…ねぇ小隊長、少し蔵俺達にも味見させてくだせぇよ!」
「…ったく…俺の分も取っておけよ?」
「ひゃっほぅ!流石小隊長、話が分かる人だ!!」
現れたのが、戦闘能力を持たない兎人族と言う事もあってか、戦闘態勢を取らずに下卑た瞳で女兎人を品定めしているだけだった。
しばらくの間、思い思いの事を言いながら捕らぬ狸の皮算用で馬鹿笑いしていた帝国兵たちだったが、ようやく俺とハジメの存在に気づいたのか、怪訝そうになる。
先程小隊長と呼ばれていた男が前に出て、俺に話かけてきた。
「お前、人間か?」
「あぁ、そうだが」
「何で峡谷から…?いや、その裕福そうな身なりと言い…奴隷商か。なるほど…一体どこで情報掴んできたんだ?商魂逞しいのは感心するが、あまり張り切りすぎると命を落とすぞ。…ってなわけでそいつら置いてとっとと帰れ。身の程知らずのボンボn」
言い切る前に、そいつは死んだ。
俺の拳が、小隊長と呼ばれた男の頭を消し飛ばしたのだ。
先程まで頭のあった所から血を流している小隊長の死体を見て、帝国兵たちは一瞬硬直するも、すぐさま殺気を俺に向けてきた。
「どうかしたのか?俺は俺を見下し、馬鹿にしてきた奴を軽く叩いただけだが?」
「テメェッ…ん?」
俺の言葉に顔を真っ赤にした帝国兵だったが、俺の隣に視線を移すと、すぐさま下卑た顔に戻る。
因みに、俺の隣にいるのはユエだ。
「中々別嬪な嬢ちゃん連れてんじゃねぇか…いいだろう、そいつを目の前で犯して他の奴隷商にうっぱらってからお前を殺してやるよ」
「おいおい、俺達にもヤらせてくれるんだろぉ?」
「そうだよなぁ、あんな上玉目の前でヤッてるところ見せられるだけじゃ満足できねぇって」
好き勝手言っている帝国兵に、俺は流石に我慢の限界が来た。
ハジメがなら敵だな、殺そうという風にドンナーに手をかけたのを見ながら、俺は小隊長のしたいを踏みつけながら前にでて、ファックサインを作る。
「調子乗り過ぎだぞクソ野郎共」
ゴォン…と、荘厳な鐘の音が響く。
俺の腹部に、金色のベルトが出現する。
「…変身」
『祝福の時!最高!最善!最大!最強王!オーマジオウゥ!!!』
変身を終えた瞬間、オーラが帝国兵だけでなく、背後にいた兎人族すらも苛んだが、そこは気にしないようにしよう。
『覚悟はいいな蛆虫共。王を愚弄した罪…その身で贖え』
『オーズ』
いきなり姿が変わった俺に驚愕している帝国兵を無視して、オーズのライダーズクレストからメダジャリバーとオースキャナー、そして三枚のセルメダルを召喚する。
メダルをメダジャリバーに挿入し、レバーを倒す。
そして、オースキャナーでメダルを読み込む。
『トリプル…スキャニングチャージ!!』
音声がなったと同時に、メダジャリバーを横薙ぎに振るう、
すると、帝国兵たちの体が、景色と一緒にズレた。
それも束の間、すぐに景色が戻り、帝国兵たちは爆散した。
周囲には帝国兵の肉片が散らばり、異臭を放っていた。
変身解除して、ユエの方に戻る。
「…やっぱり、人間相手にはオーバーキルだったな…」
「お疲れ様」
先程の戦闘…というより蹂躙か。それを思い出しながら、ライダーの力がどういった時に必要かを考える。
恐らく俺の知るこの世界の人間相手に、オーマジオウの力を出す必要はなさそうだ。
あまりこの力について知られたくもないし…基本徒手空拳だけで終わらせることにしよう。
俺を労ってくれたユエの頭を撫でながら、ハウリアたちに案内を続けるように視線で促す。
だが、ハウリア族の奴等は固まっているばかりで、俺の視線にすら気づいていない様子だった。
「…?どうした?早く案内して欲しいんだが…」
「…あ、あぁ…申し訳ありません、少し圧倒されていまして…」
「…まぁ、しょうがないだろうな」
少なくとも空間が斬れるところなんて見たことないだろう。これから先見ることもないだろう。
その後、しばらくの間硬直していた兎人たちを待ってから移動することになった。
あまりに復帰が遅くて、ハジメがドンナーで威嚇射撃したのは言うまでもあるまい。
この作品のユエは、時々幼児退行します。
ご了承ください。
…え?作者の趣味だろ?
べ、別に大人びてる系のキャラが自分にだけ甘々な一面を見せてくる系にすごく興奮するタイプだなんてこと、ないんだからねっ!
そして皆さん、気づいたでしょうか。
シアがもうすでに堕ちt…おっと、誰かが来たようだ。