ありふれない時の王者と錬成の魔王は世界最強 作:イニシエヲタクモドキ
三人称視点
畑山愛子、という女性がいる。
元々は時王やハジメのクラスの教師であったが、異世界召喚などというファンタスティックな事件に巻き込まれ、なんやかんやである種のご神体みたいな扱いを受けている。
本人はこの現状にはかなりの不満を抱いているそうで、頼まれていることは全部こなしてはいるが、いつかは生徒全員をこの現状から何とか救い出し、元の世界へ帰ろうと考えているらしい。
そんな彼女は今。
「どうしたんだ愛子?そんな遠い目をして。その表情も素敵だが、やっぱり愛子には笑顔が一番だ」
「えぇっ!?で、デイビッドさん何言ってるんですか!?」
「そうですよ。愛ちゃんに変に言い寄らないでください。こう見えてチョロいんですから」
「チョロ!?園部さんその言い方はお説教案件ですよ!?」
彼女に好意を寄せる護衛騎士の全員(ただし愛子本人は気づいていない模様)と、彼女をその騎士たちの魔の手から守ろうと立ち上がった親衛隊のメンバーたち(本人は限りなく不服に思っている。主に愛ちゃんという呼び方)に囲まれ、さらに自分を挟んで冷戦状態になっていた。
「うぅ……周りはみんな敵です……救いは何処へ…」
「はは、違うぞ愛子。君が救いなんだ」
「あの、そういうの本当に困るのでやめてください…」
「そうですよー。だって愛ちゃん先生の本命は常盤く」
「菅原さん、それ以上はいけません」
菅原、と呼ばれた少女の言葉からわかるだろう。
彼女―――畑山愛子もまた、時王に恋心を抱いていた。
詳しい話は省略させていただくが、時王は『どうせハジメヒロインだしどうにでもなるでしょ』的思考で特に何も気にすることなく愛子と関わってきたせいで、激しく愛子の乙女心を刺激してしまったのだ。
結果、愛子にとっての時王は『少し気になる男子生徒』から『私の好きな人』になってしまったわけである。
…それがなぜ知られてしまったのか、というのも結構ボリュームのある話になってしまうため割愛。
「常盤?…あぁ、あの…」
愛子の制止もむなしく、護衛騎士たちに想い人の名が聞かれてしまった。
しかし、反応が思っていた物と若干異なっていて愛子は首をかしげる。
……忘れてしまっているだろうが、時王は今の彼を知らない人からすれば『南雲ハジメと同レベルの雑魚』だったのである。
香織の貴族の後頭部殴打事件のおかげで誰も口にしないが、トータス民の人達からすれば雑魚でしかない時王のどこを好きになったのかが分からない。
自分たちの方が、全てにおいて優れているのに……と、言葉にはしないが思っているのだ。
そんなことは露ほども知らない愛子は、どうしたのだろうと疑問符を脳裏に浮かべ続けるだけなのだが。
「……常盤くんと言えば、白崎さん達すごいよね」
「あー……アレはすっごいビビった」
「アレ?」
「愛ちゃん先生は知らないですよね……ちょうどいいタイミングで居合わせなかったんですから」
女子生徒も男子生徒も、遠い目をして顔を青ざめさせる。
彼らは知っているのだ。狂気にまみれた彼女たちを。
それはさながら、天之河と付き合い始めたばかりの恵里のようだったとある男子生徒は語った。
…余談だが、時王の策略で天之河との交際という念願が叶ったばかりの頃の恵里は、誰かに奪われるわけにはいかないと周囲に殺気をばら撒き続けていたらしい。
その姿をフラッシュバックしたクラスメイト達は、震えて眠ったとか。
「???」
そんなことも露ほども知らない愛子は、またまた首をかしげるのだった。
……数日以内に、まさか再会することになるなんて、微塵も知らずに。
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ドキドキ☆吸血クッキング(時王視点)
「今日は、時王から採ったこの血を使って料理をしていきます」
「え、何このノリ」
「…では、まずは材料から」
無視だった。
驚くほどのスルースキルだった。
ユエが裸にエプロンという煽情的な格好でいることや、何故か突然キッチンに連れて来られた事、ついでに日本の料理番組のようなノリに混乱している俺を放置して、ユエは目の前の容器に入ったものを紹介する。
「こちらが、採れたて新鮮、時王の血」
「いきなりアウトだろ」
「…二つ目、飲めば不死身?神水を少々」
「何故疑問文」
「三つ目、甘い果物」
「もはや名前すらわからねぇのか」
「四つ目、服用したらハイになる粉……になる石」
「ハジメが見つけたヤツか」
「……以上四つの材料を使って、クッキングしていきます」
それは本当に料理になるのだろうか。
というかいつの間に採取されてたんだ、俺の血。
そんなツッコミは敢えて声にせず、ユエの料理を静観することにした。
「まずは、吸うとハイになる粉を作るため、石をくだきます」
「…」
「…時王、合いの手」
「えぇ……こ、この時ハンマーを使うと良いでしょう…」
「ん、愛してる………出来上がった粉は、冷蔵庫に保存して冷やすと良い感じになります。実はすでに冷やしてあるものがありますが、まだ冷蔵庫からは出しません」
なんだろう、もうすでに既視感。
いや最初っからだけど。
ていうか合いの手必要だったのかよ。
「続いて、甘い果物をすりつぶして、果汁を抽出します」
「…この時使うのもハンマーがお勧めです」
「ん。後で、シよ?………果汁を別容器に移し、ラップをかけて放置します。常温を維持しましょう」
なんでそんな妖艶な流し目でベッドに誘い込む必要があったんだ。
するけど。喜んで抱かせてもらうけど。
「最後に、神水と時王の血をレッツ・ラ・まぜまぜ」
「古くないそれ」
「……はい、後はこの混ぜた物の中に果汁と冷やしておいたハイになる粉を入れて、さらにカキマゼール」
「これはタイヤじゃないだろ」
なんだろう、教えていないはずの知識をユエが持っていることに疑問を隠せない。
いや、ハジメとやっている戦闘訓練中にタイヤカキマゼール使ってたことあるから、そっちは知っててもおかしくはないけど。
なんでレッツ・ラ・まぜまぜが出て来るんだよ。
何があったのこの子。
「程よく混ざったら、熱します。熱すると固まるので、それを待ちましょう」
そう言って、ユエは指先から青色の炎を出し、謎の液体Xを加熱し始めた。
僅か数秒で固体になったらしく、炎を消して、今度は冷気を当て始めた。
「固体化した後は、速やかに冷やしましょう。程よい温度になったら、砕いて粉末状にします」
再びハンマーを使って、固体化した謎の液体Xを粉末状にしたユエは、何処からかストローを取り出した。
「これで完成です。さっそくいただきましょう」
「いや、これ粉だけど」
「摂取するときは鼻からをお勧めします。では、いただきます」
ズズズーッとストローを使って粉末を吸引していくユエに、結構本気で引く。
それでもユエは吸い込みをやめない。
絵面も何もかも最悪である。
「ん”あ”あ”あ”ッ!!い”い”ッ!これぎもぢぃいいいいい!!」
「うわぁ………あ、本日はここまでです。ありがとうございました」
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時王の優雅な一日(三人称視点)
『アサダヨー、オキテー』
「う、むぅ…」
朝。比較的早い時間に、時王は起床する。
目覚まし時計代わりに、時王が好きな声優がボイスを担当しているキャラクターの目覚ましボイスを利用して、起き上がる。
そのまま無理矢理体を動かして、カーテンを開く。
そこでようやく意識が覚醒するのだ。
「……キョウモイイテンキダナー」
…今日はどうやら、余り調子が良くないらしい。
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「おはよう時王、今日は元気ないね」
「…ハジメか、おはよう」
おやおやおやおや、いつもなら嬉々として昨晩に見たアニメの感想を話し合うはずの時王が、まさかの挨拶だけで済ませるという暴挙に。
これは一体どうしたことか、親友のハジメも心配そうに時王を見つめる。
「どうしたの?何かあった?」
「……家の中で、見たんだ」
「何を?」
「……女だった……ひたすら何かを呟いていてな。幽霊とかは怖くないと思っていたんだが、いざ目の当たりにすると恐ろしいものだな…」
「う、うわぁ…女の霊かぁ……時王の家は曰く付きってわけじゃないでしょ?」
「あぁ……だって新築だし」
「そっかぁ……どうしてだろうね……で、でも実害はなかったんでしょ?」
「まぁ、な」
……察しのいい諸君ならわかるだろう。時王が見た『幽霊』の正体。
そう、その女こそ……八重樫雫、その人である。
高校が同じで、少しばかり乙女心(意味深)がハイになってしまった彼女は、それはもう毎日のように時王の私物を漁りに時王家に侵入するのだ。
因みに、両親公認である。
なぜそうなったかを端的に説明するために、この会話を聞いていただきたい。
『どうも、お久しぶりです。お義父様、お義母様』
『君は…八重樫さんの娘さんかい!ご丁寧にどうも……しかし、少し呼び方が変ではなかったかな』
『ええ、そりゃあ変わりますよ……時王くんを、ありがとうございました』
『え、えっと……どういうこと?おばさんよくわからないんだけど…』
『……彼と、晴れて
『『ええ!?』』
『事実、私はもう彼無しでは生きていけない体に…』
『そ、そうか……まぁ、時王だもんな』
『そうね、それに…雫ちゃんなら、安心してあの子を任せられそうだし』
『これからは私たちも親だと思って気安く接してくれて構わないからね』
『はい…ありがとうございます……ところで、彼と生活がすれ違ってしまっているせいで彼に会う機会がめっきり減ってしまったので……もしよろしければ、合鍵をもらえたりしませんか?誰もいない時でも、彼を待っていられるので』
『あぁ、構わないよ。君の為人はよく知っているからね。ついでに時王の部屋の鍵も持っていきなさい』
『これからは私たちの家も貴方の家だと思って使っていいからね』
『はい…!ありがとうございます!』
…そういう事である。
嘘の情報を使って時王の両親に既成事実を遠回しに伝え、ついでに家の合鍵までもらった雫が、夜な夜な時王の部屋に忍び込み、私物を盗み自慰を行い時王と添い寝していたりするのだ。
…今回は時王に見つかったと気づいたため、盗んだだけで帰ったが。
「……あ、もう学校だ……まぁ、その…元気出そうよ。もしあれなら、今日は僕の家泊まっていいから」
「……ありがとな、ハジメ……今日は泊めてもらおうかな」
「うん。そう言えば僕、新しく格ゲー買ったんだ。一緒にやろうよ」
「なるほど、徹夜コースか」
ハジメの労いの言葉で、時王は復帰できたようだ。
しかし時王が居ないとしった雫は、果たして何をしでかすだろうか。
……明後日の時王が、部屋の違和感に首をかしげるのは言うまでもあるまい。
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「あー、疲れたー」
「ようやく給食だね……じゃ、僕は購買行ってくる」
「は?いつも持ち歩いてるゼリー飲料どうしたんだよ」
「いやぁ、ストックがなくなってるのに気づいて無くってさ。行ってくるね」
「置いてくなぁ………チッ、薄情者め」
昼休み。食事の時間である。
まさかの親友の裏切りに、時王は少し不貞腐れていた。
…別に時王は一人で食事を取ることに抵抗がある人間ではない。
ただ、ことこの教室において一人取り残されるというのはとても危険なのだ。
「あ、常盤くん一人?だったら一緒にお弁当食べようよ!」
「うわぁ…」
まるで魂が抜けるかのような深いため息をつき、自らに声をかけてきた少女の方へ振り替える。
声の主は白崎香織。クラスのアイドル的存在である。
さて、ここで時王がクラスメイトからどういう風に思われているのかを解説しよう。
時王はさほど悪くない見た目とそこそこ高い知能とまぁまぁあるスポーツ神経からモテている。
一部女子は、時王が登校してきたときにキャーキャー言ってたりする。
しかし、もう一部の女子と、多数の男子は違う。
時王のあまり真面目と言えない生活態度や、クラスのアイドル的存在である香織に気遣われているという事、トップカースト集団天之河組と何故か仲がいい事等々…それらが男子と一部女子からのヘイトを集める要因となったのだ。
因みに女子にキャーキャー言われるようなことの無いハジメの方がもう少しばかり不憫である。
…話を戻そう。
2:8の割合で嫌われている時王が一人でいるところに、トップカースト集団天之河組を差し置いてクラスのアイドル香織が話しかけに行った。
それを快く思う人がいるだろうか?いや、居ない。
結果、時王がすごく嫌そうな顔をして振り返ると同時、時王の居る位置に向かって視線と殺気が集って行ったのだった。
「…やぁ、白崎さん。お元気ですか」
「んもう、他人行儀過ぎるよ………常盤くんはまだご飯食べないの?時間なくなっちゃうよ?」
「………問題ない。けどな白崎、その質問と俺のすぐ隣に座るのに一体何の関係があるんだ?」
「え?一緒に食べようって言ったよ?」
「まだ許可も何もしてませんよねぇ!?」
「時っ王~ジュース買ってき、た…よ?」
「は、ハジメ!助け」
「ははは、僕はちょっと便所飯と洒落込むことにするよ」
再びハジメに裏切られた時王。
しかし、ハジメからすれば、教室に戻ってきたらクラスのアイドルとほぼ密着するような形で弁当を並べている親友が居たのである。
そりゃあ現実逃避して逃げたくもなる。
完全にとは言わないが十割方時王が悪かった。
……因みに時王と香織の攻防は、我慢が限界を迎えた雫が
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「……うっし、強攻撃信者の実力思い知れッ!」
「ふふふ、アイテムを取らなかったうぬが不覚よ!」
夜。学校などという悪夢はとうに二人の脳内から消し去られており、時王もハジメも過去の遺恨(昼の出来事)は忘れ、格ゲーにいそしんでいた。
「止めだ喰らえ空中強攻撃ィイイ!!」
「甘いッ、カウンターだッ!!」
男二人がコントローラーを手に熱狂している様を、部屋の入口で眺める女性が一人。
その正体はハジメ母。数少ない常識人である。
一目で時王の女難を当てて見せた慧眼の持ち主でもある。
「そろそろ晩御飯よ、準備してね」
「あ、はい」
「よっし、終わりだぁ!」
礼儀正しく返事をした時王の隙をつき、ハジメが時王の操作しているキャラに止めの一撃を喰らわせた。
だがそれが逆にハジメの父親の妻の逆鱗に触れた!
「アンタも返事くらいしなさい!」
「痛っ!?」
縮地を思わせるかのような高速移動でハジメの背後に迫り、痛みは凄まじいが傷は残らないような攻撃(要するにビンタ)を喰らわせたハジメ母に時王はドン引き。
ついでに中々一階に降りてこない三人を不思議に思ってきていたハジメ父もドン引き。
ハジメは苦痛にのた打ち回っていた。
「…晩御飯、なんです?」
「麻婆豆腐よ」
「…先、下行ってますね」
時王曰く、『飯はすごく美味かった』との事。
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「ねぇ時王」
「なんだ?」
「…好きな人とかいる?」
「居ない」
「…どういうタイプが好きなの?」
「あー……なんだろうな。どれか一つってのはわからん」
「じゃあどれだけあってもいいからさ」
「えー?……そうだな、金髪ロリかケモミミか和服美人かポニテ女子か大人しいけど実はアグレッシブって感じな子か未亡人かな。咄嗟に出てくんのは」
「す、すごいね……僕はなんというか…すっごい美人とかじゃなくて、野に咲く名もない花みたいな素朴な娘がいいな」
「お前もお前で凄い事要求してるって事忘れんなよ」
……彼らのこの発言が、後にあのような結果になるとは、まだどちらもわかっていないのだった。
…八重樫さん、あれでもまだ病んでないんですぜ?
ロッカーに穴開けたくせに。
外堀まで埋めてるくせに。