ありふれない時の王者と錬成の魔王は世界最強 作:イニシエヲタクモドキ
今回のラストの方で、オリジナルライダーグッズが一つ登場します。
香織side
信じられなかった。
目の前の光景が。
スローモーションのように見える。
常盤くんと、南雲くんが崖の下に落ちていく姿が。
何故か放たれた魔法が、常盤くんと南雲くんを吹き飛ばしたんだ。
一体だれが?
早く常盤くんたちを助けなきゃ。
その二つの気持ちが混ざって、ぐちゃぐちゃになって、心が壊れちゃいそうになったが、私よりも先に心が壊れた人がいた。
「え…何で…何で常盤くんが…時王くんが…?落ちて…何で…?」
「し、雫…ちゃん?」
私の心が限界を迎える前に雫ちゃんがおかしくなった。
眼は焦点が合っていないし、口元が引き攣っているせいで笑っているようにも見える。
そのままおぼつかない足取りで、先程常盤くんと南雲くんが落ちたところまで行って、しゃがみこむ。
橋の下…奈落の方を見て、涙を流し始める。
「…何で?なんで私を置いていったの?昔、約束したわよね?私と一緒に居てくれるって…それなのに…どうして?」
「し、雫?どうしt」
光輝くんが雫ちゃんの方に歩み寄ろうとすると、堰をきったように大声で叫びだした。
「どうしてよ!?まだ思い出してくれてないじゃない!まだ言えてないじゃない!誰よ!一体誰が今の魔法を撃ったの!?」
誰が魔法を撃ったの、と言う言葉が叫ばれたときに、誰かが唾を飲み込んだ音が聞こえた気がした。
「…だったのに。ずっとずっと、ずっっっっっっっと前から…」
そこまで言うと、少しばかり声を詰まらせたと思えば、泣きながら今までで一番大きな声で叫んだ。
「時王の事が…大好きだったのに!!!!!」
そこまで言うと、まるで赤ちゃんのように泣きわめき始めた雫ちゃん。
雫ちゃんは心配だし、常盤くんと南雲くんに魔法を撃った人が誰かも気になる。
けど…雫ちゃんが常盤くんの事が好きだと叫んだ時、なぜか胸の奥がズキッと痛くなったのが一番モヤモヤする。
「…っ」
光輝くんは、自然と隣にいた恵里ちゃんの肩を抱き寄せた。
実際に愛している人がいるからこそ、大事に思っていた人を失った雫ちゃんの痛みがわかるのかもしれない。
恵里ちゃんの方も、光輝くんの気持ちが沈んでいるのを感じてか抱きしめ返している。
しばらくの間、雫ちゃんが泣いているのを誰もどうすることも出来ずにいたが、ある程度時間がたつと、メルド団長が動き始めた。
「お前ら、悲しむのもわかるが、今は迷宮から脱出することを第一に考えるんだ」
「…何ですって?」
メルド団長の一言に、雫ちゃんが過剰に反応する。
「時王が落ちたのはどうでもいいことだって言うんですか?それは時王と南雲くんが、落ちこぼれって呼ばれていたから?団長はやっぱり、力のある人さえ残っていればそれでi」
目に光が無い状態でメルド団長に反抗していた雫ちゃんだったが、メルド団長が手刀を首筋にあてると、一度痙攣してすぐに気絶してしまった。
「なっ、いくら何でもこれは…」
「違うよ光輝くん。…すいません、ありがとうございました」
「いや…あのままだと本当に何をしでかすか分からなかったからな。もしかしたら、魔法を撃った犯人かもしれない、とか言ってお前らを殺したかもしれなかったし」
そこまで言われて、光輝くんもようやくメルド団長が雫ちゃんを気絶させた理由が分かったのか落ち着きを取り戻した。
「皆!今は落ち込んでいる場合じゃない!常盤と南雲の犠牲を無駄にするつもりか!俺達が生きて帰らなきゃ、アイツらも浮かばれない!」
そう言って、光輝くんは一人一人生徒を勇気づけながら、階段の方を目指していった。
トラウムソルジャーの魔法陣はいまだに稼働しているが、先程の南雲くんが使った錬成によって、陣の場所が橋の下に移動させられているため、いくらトラウムソルジャーが湧き出ても落下していくだけになっている。
緩慢な動きで全員が上の階まで歩いた。その道中に魔物と出会わなかったことが幸いして、誰一人として欠けることなく迷宮の入り口までたどり着いた。
ホルアドの町に戻ってきても、もうみんな何かをする元気はなかったのかすぐに自分の部屋に入って行った。
そう言っている私も、すぐに自分の部屋に入って、一人で涙を流したのだが。
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檜山side
「ヒ、ヒヒ…フヒヒ…アイツらが悪い、そうだよ、アイツらが悪いんだよ。俺は悪くねぇ…」
自分自身に言い聞かせるようにしながら、ひたすらアイツが悪いと言い続ける。
先程の魔法、撃ったのは俺だ。
あの時、誰かの声が、俺にこう言ってきたんだ。
『今ならお前にとって邪魔者でしかないあの二人を殺せるぞ?』
と。
悪魔の囁きだった。
昨日白崎がアイツらの部屋に入って行った光景を思い出して、良心の呵責など全くない状態で魔法を使った。
でも俺は悪くない。白崎とあんないい関係になってたアイツらが悪いんだ。
そうだ、そうに決まっている。
白崎の方より、八重樫の方が取り乱していたのが予想外だったが。
『随分やりたいようにできたらしいじゃないか?』
「…?お前はさっきの…一体何者なんだ?どこにいるんだ?」
『直接お前の脳内に声を響かせているんだが…まぁその辺を説明するつもりはない。お前にいい話を持ってきてやっただけだ』
「いい…話?」
先程の悪魔の声が脳内に響く。
いい話、というのが何かはわからないが、悪魔の言う事だ、魅力的なことに変わりはないだろう。
顔すら知らないということを頭の隅からも排除し、俺はただただ悪魔の声に従おうというつもりでいっぱいになっていた。
『そうだ。お前も見ただろう?先程お前が殺した、時王という男が使った剣を』
「あれか…」
現れた剣のオーラ的なものに、ジオウサイキョウなんて書かれていた気がする。
正直かなり趣味が悪いと思ったのは隠すつもりもないことだ。
『あの剣の力は、あの男が持っていた王の素質の中の力の一つでしかない』
「なに…?じゃあもし常盤が死んでなかったら、あれよりもすごい力が目覚めたかもしれなかったってことか…?」
だとするならこれは確かにいい知らせだ。
俺にとっての邪魔者が、より強い力を手に入れる前に排除できたということを伝えられたのだから。
『そうだ。やつには二つほど道が残されていたようだが…まぁそれは関係のない話。ここからが本題だ』
頭の中に響く声に、俺は無意識的に息を呑んだ。
『お前に、時王の力と同類の力…もう一つの王としての力を与えよう。受け取るか?受け取らないか?』
「もう一つの…王?」
『あぁ。時王は本来最高最善の王として君臨する男だった。だが、お前がその道を奪ったおかげで、お前が王になる可能性も生まれた。その力をお前が手に入れたいと願えば、すぐにでもその力を与えよう』
「…欲しい、欲しいに決まっているだろう!?それだけの力があれば…白崎も俺の物に…!」
『いいだろう、ではくれてやる。使い方は…お前が一番わかるはずだ』
その言葉が脳裏に響いた瞬間、俺の目の前に三つの黒い何かが現れた。
見ただけでわかる訳が無い…と思ったが、俺の体は自然と動いていた。
その黒い何かのボタン部分を押し、体に押し付けたのだ。
『ジオウ』
『ジオウⅡ』
『グランドジオウ』
全てが体の中に取り込まれた瞬間、頭に激痛が走った。
「なっ、あぁっ!?ぐ、が、があぁああああああぁっぁあぁああ!!?」
誰かが見ているとか、どういう物は何も気にせずに叫び続けた。
ひたすらに痛い、いたい、イタイ…!!
「っぁあ…ぁぁぁぁぁぁぁ…!!」
痛みがだいぶ引いてきたころ、俺の脳裏に声が響いてきた。
『祝おう!新たなる王の誕生を!アナザージオウの誕生を!!』
アナザージオウ。
俺のこの力は、どうやらアナザージオウと呼ぶらしい。
「いイ…サいこウダ…こノ力さえあレば…コの力さえアれバ…白崎も俺ノモのにィいイいいいイ!!」
何かイントネーションがおかしかった気がするが、力を手に入れた俺に、そんな些細なことはどうでもいいものでしかなかった。
…ここからが、俺の時代だ。
因みにですが、香織はちゃんと部屋に戻った後に雫ちゃん以上の発狂をしています。
それを聞きつけた中村恵里ちゃん(この作品ではオリ主がいろいろしたおかげで光輝と付き合えて、いい子になっています)と谷口鈴ちゃんがやってきたというのは余談です。
檜山side、と書いたのは、檜山が他の連中とは違うという差異を表すための演出ですので、ミスではありません。
べ、べつに檜山が嫌いすぎて下の名前覚えてないわけじゃないんだからねっ!