ありふれない時の王者と錬成の魔王は世界最強 作:イニシエヲタクモドキ
時王side
声が聞こえる。禍々しいのに、なにか懐かしい感じがする声が。
俺に……ベヒモスとの戦いのときに、力が欲しいかと聞いてきた声だ。
『お前の道は、覇道しか残されてはいないはずだった。だが、何故かはわからないがまだもう一つだけ道が……王道も残されている』
(何を……?覇道とか王道とかって、一体なんの事だよ……?)
『お前の真名の通り生きる道が覇道。もう一つの力……オーマフォームと呼ばれる姿を手に入れる道が王道だ。その二つが、今のお前に残っている選択肢だ』
(俺の……真名?常磐時王……ジオウ?仮面ライダーの話でもしてるのか?)
でもおかしい。仮面ライダーはこの世界に存在しない。
俺の前世にしか存在しなかった筈だ。
『よくわかったな。だが、半分正解と言ったところか。だが、お前の真名は常磐時王じゃない』
(常磐時王じゃ……ない?じゃあ一体なんだって言うんだよ……?)
『お前の真名、それは……』
「……おう、時王!」
「……ハジメ?」
「大丈夫?」
「大丈夫って……」
辺りを見渡すと、そこはアニメ版でも原作版で漫画版でも描かれていた洞窟のような場所だった。
……そうだ、思い出した。
俺は落ちたんだ……檜山の魔法のせいで。
原作と違って、魔法の一斉射撃によるベヒモス討伐じゃない展開だったから、俺とハジメが奈落に落とされる可能性もなくなったと思ったんだが……
いや、ベヒモスが倒されたからと言って檜山の俺たちに対する悪意は無くなるものか?
つまりはそういうことだろう。
「……とにかく、錬成を使えるくらいには魔力は回復したか?」
「え……?うん。どうして?」
「ヒント1、ここはどこでしょう?」
「え?……迷宮の下の方……じゃないかな?階層まではわからないけど……」
「じゃあヒント2、迷宮に出てくるものは?」
「魔物……あっ!」
俺のヒントでようやくわかったのか、急いで近くの壁を錬成し始めたハジメ。
「危なかった……あのまま何もしないでいたら、魔物に襲われるところだったね……」
「そ、しかも魔物は下に行けば行くほど強くなる……どこまで下がってきたのかわからない以上、魔物の強さは未知数。さらに言えば俺達はクラスメイトの中でも最弱。これが意味するものとは?」
「死……」
顔を青褪めさせて肩を震わせるハジメ。
ベヒモスですら恐怖の存在だったのに、それよりも強い奴がいるかも知れないということが堪らなく恐ろしいのだろう。
「取り敢えず魔物に見つからないようにするのが最優先だな。ここでずっと隠れてるわけにもいかないし……少し休んだら、移動しよう」
「そうだね……」
ハジメがその場で寝転がったのを尻目に、先程の夢を思い出す。
俺の……真名。
常磐時王は偽名なのか?
そんな馬鹿な。転生前の名前は確かに全く違うが、もし転生前の名前通り生きるとしたら、田畑を耕すだけで終わりのはずだ。
先程のジカンギレードやサイキョーギレードなんて物が力の一端なはずがない。
出てきても鍬とかだろう。
じゃあ、俺の真名は……?
「時王、なんか……ここ、すっごい濡れてる……」
「おい待て誤解を招くような事は……ん?本当だ。ていうか水が流れてきてるのか……?」
ハジメが意味深なことを言ったと思ったら、本当に床が濡れていた。
というより、水の流れがあった。
「俺達が流された滝とは無関係の流れ……だよな。ハジメ、錬成して、水の流れを追えないか?」
「やってみるよ。“錬成”」
ハジメが水の流れてきているほうに向かって錬成を使うと、先程よりも水の量が増えた。
「……何かあるのか?」
「血……とかじゃないといいけど」
流石に血は無いだろうが、もし人体に害のある水だったら最悪だな。
ハジメが恐る恐る錬成を繰り返すと、広いスペースに出た。
そこには、
「これって……」
「神結晶……?」
原作のハジメ御用達の、神結晶があった。
その周りには水が溢れていた。
「と、取り敢えずハジメ、神結晶の周りに窪みを作ってくれ。もし本当にあれが神結晶なら、あの水は……」
「神水……!“錬成”」
ハジメも神水に覚えがあったのか、すぐに錬成を使って水をためるためのスペースを作った。
「……これさえあれば……」
「しばらくは安泰だね……これで多少の無茶はできるようになったし、錬成を使って水筒でも作って探索しに行こうか?」
「そうだな。一応、二手に別れて探索しよう。今までの迷宮と同じくらいのサイズなら、二人で探索してマッピングをすぐに終えた方がいい」
「それもそうだね」
ハジメが錬成しながら、すごく大きな水筒を二つ作る。
「はい、これ。神水も満タンにしておいたから、怪我しても大丈夫だと思うよ」
「まぁ、もし仮に中身が空になったらここまで補充しにくればいいしな。じゃあ早速探索に行ってくるよ」
「僕もすぐに出るよ。じゃあ、また」
ハジメから水筒を受け取り、
ハジメの作った穴から抜け出し、周囲を今一度見渡す。
あのウサギとか狼とか熊はまだ見当たらないが……用心しておくことに越したことは無い。
気を引き締めて、俺は探索を開始するのだった。
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ハジメside
時王と別れて、どれくらいたっただろうか。
未だに神水を消費するような危機的状況には陥っていないが、油断はできない。
この階層に魔物がいないと限ったわけではないのだから。
ここが迷宮の中だと決まったわけでもないが。
もしかしたら僕達が流された大きな滝は迷宮から迷宮の近くにある大きな洞窟につながっていて、そこには魔物が生息していないとか、そんな可能性もある。
まぁそれは流石に希望的観測過ぎる気もするが。
未知の恐怖に怯えながらもなんとか歩いていたら、ウサギの耳が見えた。
全体は見えないが、アレは確かにウサギの耳だ。
あり得る可能性としては、無害な小動物も僕達と同じくここに流されてきたか、もしくは亜人族のウサミミ系の人が流されてきたか落ちてきたか。その二つに尽きるだろう。
ウサミミの方に近づくと、そこには中型犬サイズの、毒々しい足を持ったウサギがいた。
「──ッ!?」
コイツは絶対魔物だ。
そう確信した僕は、ゆっくりと後ずさるように逃げようとした。
だが、ウサギはその耳を揺らして、何かを探すかのようなそぶりを始めた。
もしかして……バレた……?
一瞬で死を連想したが、それは杞憂に終わった。
ウサギが反応していたのは、もっと別の生き物だった。
僕のいるところと反対側の岩陰から、二つの尾をもった……狼が現れた。
その狼は一匹だけではなく、何匹も現れた。
その中でも一際大きな一匹が、ウサギの方に突撃した。
すでに狼の攻撃は僕の目では負えないくらいの速度なのに、ウサギの方は危機感を覚えて逃げ出そうとするどころか、緩慢な動きでその場に飛び上がり、そのグロテスクな足を風を切るように振り下ろした。
その瞬間、途轍もない爆音とともに地面がめくれ上がり、黄色い血を流す、首から上が無い狼の遺体が現れた。
飛び掛かって来た狼の頭を……踏み抜いた?
余りの現実味のなさに、口元が笑っているかのように引き攣ってしまう。
だが、狼の方も見方がやられて黙っているわけもなく、今度は複数体で攪乱させるように縦横無尽に駆け回り、ウサギに攻撃を仕掛けた。
だがそれでもウサギは全く動じることなく、その場で再び飛び上がり、空中でブレイクダンスを踊るかのように足を回転させ、飛び掛かって来た狼を蹴り殺す。
勝利の決めポーズと言わんばかりに、キュッ!と可愛らしい声を出して耳を逆立てるウサギに、もう涙しか出ない。
とにかく早く逃げなきゃ……
そう思ったのが間違いだった。
あまりにも逃げることに集中してしまったせいで、その場にあった石を蹴っ飛ばしてしまったのだ。
無論先程の超戦闘を繰り広げたウサギが僕の出した音に反応しないわけもなく……
次の瞬間には、先程までウサギがいた方からバゴンッッッ!!という音が響き、僕の体が吹き飛ばされていた。
口元を愉快そうに歪めているウサギに、恐怖から顔を汗と鼻水で汚し、恥も外聞も捨てて叫びながら逃げる。
親友の、時王の名前を呼びながら。
「時王!ジオウ!じおう!!どこにいるの!?助けて!!ウサギがっ!ウサギがぼくを殺そうとしてくるんだぁ!!」
走って逃げたいのに、腰が抜けて走れない。
ウサギはそんな僕の様子を見て、さらに愉快そうな顔をしながら、ゆっくりいたぶるように追い詰めてくる。
そして、僕が壁際まで追い詰められたところで、恐怖を煽るためか、ゆっくりとした動きで片足を持ち上げる。
もはやその行動は快楽殺人鬼のそれと同じだ。
だが、そんなウサギに憤るでも反撃するでもなく、僕は泣いて許しを乞うていた。
「お願いだ!やめてくれ!!僕は君と敵対したいわけじゃない!!やめて、お願いだ、その足を下ろして、ね?お願いだからぁ……うっ、うぅう……時王!!早く来てくれぇ!!怖いよ、辛いよ、嫌だよぉ!死にたくない、死にたくなんてないぃ!!時王、ねぇ、時王!」
支離滅裂だなんてことは、自分でも一番わかっている。
最初は時王を頼ろうとして、その次はウサギに命乞いをして、また時王に頼ろうとする。
でも、そんな僕の悲痛な祈りが通じたのか、ウサギは足をゆっくりと下ろs
次の瞬間、ドパンッ!!という音と共に、僕の左肩が思い切り蹴りつけられた。
「あ……え?……っがぁあああああああああああああああああ!!!???痛い、いたい痛いイタイ痛いいたいいタいイたイぃいいいい!!?じ、じおうぅううう……痛いよぉおおお……」
最初は感覚が麻痺したせいで痛みを感じなかったが、一瞬で感覚が戻り、ダメージが一気に襲い掛かってきた。
ウサギのバカげた脚力のせいで、肩が壁に埋め付けられてしまっているせいで、左手で持っていた神水入りの水筒が取れず、痛みをひかせることができない。
それどころか、ウサギが追い打ちをかけるかのように肩の蹴られた部分を壁に押し込むようにグリグリとしてくるせいで、より一層痛みを感じる。
「な、なんでぇ……?やめてくれるんじゃ……なかったのぉ……?」
僕の言葉を聞くと、やめる気などない、と言っているかのように首を振り、僕の肩を壁に埋め付けていた足をよけ、次はここを狙うと言わんばかりに僕の顎を足でトントンし始めた。
僕の目がどんどん絶望に染まっていくのを嗜虐的な笑みを浮かべて見ると、ウサギは足をもう一度ゆっくり構え、僕の顎めがけて蹴りつけ……
「
ようとしていたが、横から突撃してきた時王に殴り飛ばされ、ウサギは壁に叩きつけられた。
「ハジメ!無事……じゃないな。ってかお前……水筒が……」
「え……あ……壊れてる……?」
気づいていなかったが、どうやら最初に吹き飛ばされたときに、水筒が僕を守って壊れたらしい。
「チッ……俺の神水を使え。ほら、かけてやるから。ウサギが起きる前に動くぞ」
時王が水筒の蓋を開けて、僕の肩に神水をかけようとしてくれた。
だが……
「っ!駄目だ時王!後ろ!!」
「な……アガッ!?」
乱雑に時王の喉を蹴りつけ吹き飛ばし、不機嫌そうに肩をいからせたウサギ。
その真紅の瞳が、僕の方を見た。
「キュイィ!」
雄叫びを上げながら僕を蹴り殺そうとしてきた。
もうだめだ……と思って僕は目を閉じた。
……だが、痛みはいつまでたっても襲ってこない。
恐る恐る目を開けると、そこには上の方を見て、瞳を恐怖の色に染め上げて震えているウサギがいた。
一体何が……と思った瞬間、
「え……?」
目の前でグロテスクな死体を見ているにもかかわらず、僕が持った感情は恐怖ではなく、疑問だった。
先程まで僕をひたすら恐怖させ、苦しめてきたあのウサギが、こんなあっけなく?
「グルルゥウウウウ……」
「グラァアアアア……」
思考の渦に飲み込まれそうになった僕を現実に呼び戻したのは、二匹の化け物の唸り声だった。
それでようやく上を見上げると、そこには
「あ、あぁ……?」
泣き叫びもしなかった。
新たな恐怖に襲われたせいで、防衛本能からか、意識が現実から離れてしまったせいである。
だが……
「ゲホッ、ゴハァッ!……ハジメェ!逃ゲルォ!」
ウサギの強烈な蹴りを受けたせいで変な声になってしまっている時王の絶叫で、ようやく我に返る。
「う、うわぁああああああ!!!」
現実に戻ったことで戻ってきた恐怖心から、絶叫しながら壁から勢いよく引き抜こうとする。
が、抜けない。
「なんでぇ!?抜けないぃいいい!!?」
「チッ!ハジメェ!錬成で壁に穴を開けろ!!ゲハッ、ハァ……ハァ……こいつらは俺が止める!!」
泣き叫ぶ僕に、時王は声の調子が戻っていないまま大声を出し、上にいる熊二匹に石を投げつける。
投石してくる時王の方から殺すことに決めたのか、鬱陶し気な目をしながら時王の方に近づいて行く熊二匹。
その目を見た瞬間、僕は心の中の大事な何かが折れた音を聞いた気がした。
「れ、“錬成”!“錬成”、“錬成”“錬成”“錬成”“錬成”“錬成”“錬成”……“錬成”!!!!“錬成”、“れん……せぇ”……うぅ……時王……時王ぅ……」
泣き叫びながら壁を必死に錬成して、魔力が尽きると同時に全身を弛緩させる。
涙を流しながら、僕のために命を懸けて時間を稼いでくれた親友の名前を呼び、先程僕の心を折った熊の目を思い出す。
アレは……あの目は……僕達に対して、何の感慨も覚えていない、捕食者の目だった。
ウサギみたいに、悪意のある目なら、いくらでも耐えれた。痛みに泣き叫ぶことはあっても、心が折れることは無かったはずだ。
でもあの熊はなんだ?僕達に悪意を向けるとか、敵意を露わにするとかはまるでなくて、ただただ餌を見ているって感じで……僕達なんて、悪意を持つまでもないって感じだった。
「……何なんだよぉ……アイツらぁ……!!」
目をぎゅっと閉じて、ウサギと熊に悪態を吐く。
あまりに泣き叫んで疲れ果てていたのか、僕は直ぐに寝てしまった。
顔にポタポタと落ちてきている水に、気づくことなく。
ハジメが恐怖心を露わにしているシーンが、書いてて一番悩んだ場所。
人は限界まで追い詰められて、その近くのどこかに頼れる人がいたら、どんな反応をするんだろうと考えて書いたつもりです。
爪熊が二匹?
数少ないオリジナル要素ですよ。察しろ。