ありふれない時の王者と錬成の魔王は世界最強 作:イニシエヲタクモドキ
なんか見にくいかもしれませんが、そこはご了承ください。
時王side
目の前の熊二匹を見据えながら、未だ痛む喉を触る。
ハジメは錬成を繰り返して、もうすでにかなり奥の方まで逃げてくれているはずだ。
後は俺がここを何とかすれば…
そう考えた瞬間、黒い方の熊が突進してきた。
「危ねぇな!」
ギリギリ回避できたが、喉を手ひどくやられているせいで呼吸がうまくできず、派手に運動すればすぐに酸欠に陥ってしまいそうだ。
俺に回避されたせいで、慣性のせいもあり、かなり遠くまで吹っ飛んでいく黒い熊。
それを見て呆れたように鼻で笑って、俺の方に向かってその爪を振るってきた白い熊。
そちらの方も何とか回避し、何とか逃げ出す為の隙を探る。
だが、そこでいきなり背中に激痛が走る。
「ッ!!ガハッ!?」
一気に肺から空気が出ていったせいで、意識がなくなりそうになる。
だが、そこで舌を思い切り噛み、何とか持ち直す。
「あ”あ”…イライラするんだよ…さっきからよぉ…」
先程からズキズキと鈍い痛みをひたすら放っている首をゴキッと音を鳴らし、どこぞの王蛇みたいな事を言う。
実際はそんな余裕はまるでなく、むしろそんなことをする暇があるならすぐにでもこの場から抜け出したいくらいだ。
「くそっ…あの時みたいに…ベヒモスの時みたいに…ジカンギレードとサイキョーギレードさえあれば…」
無い物ねだりをするように、熊を警戒しながら零す。
すると、俺の脳裏に、またあの声が響く。
『また力を欲するか。その力は、一体なんのために求められている?』
「決まってんだろうが!ここの敵を皆殺しにできて、ハジメを救うことができる…あの時お前の言ってた、理不尽に抗う力ってのが必要なんだよ!!御託はいいからさっさとよこせ!!」
あまりに緊迫した状況だったせいで、無駄に声を張り上げてしまった。
『ほぉ…お前の歩むべき道は、やはり覇道のようだ。…だが…素質にあふれていても、器が足りなすぎる』
「あぁ!?力を貸してくれるんじゃねぇのかよ!?」
とても愉快そうにしていた謎の声が、遠回しにいきなり、俺に力を貸せないなどと言い始めた。
『いやいや、完全に力を与えられないというだけだ…権限を二つほど貸し出そう。制限時間は五分。それを超えれば、お前の体が限界を迎える。だから五分以内にこの状況を打破しろ!奴等を殺すのは後にして逃げることを優先するといい!』
脳内で声が響いたかと思えば、いきなり俺の右目と右腕が痛み始めた。
「あ、あぁ…?あアああアアアアアああああアアアアアああああ”あ”あ”あ”ア”ア”ア”あ”ぁ”ぁ”っあ”っぁ”あ”あ”ぁ”ア”ア”ア”ア”ア”!!!!!????」
俺が急に絶叫し始めたのを訝しんでか攻撃を仕掛けてこなかった熊二匹。
だがそんなことを気にすることも出来ずに、俺は叫び続けた。
少しして、痛みが治まったから、痛みを放っていた右腕を見てみると、そこには
「なっ!?これって…!」
『あまりモタモタしていると時間切れになるぞ?今は逃げることに集中しろ』
謎の声のおかげで我に返った。
もう一度熊の方を見ると、二匹とも俺の腕を見て警戒していた。
「…もしこの腕が…オーマジオウと同じくらいの力を持ってるならっ!!」
そう言うと、俺はその場に右腕を叩きつけた。
叩きつけられた瞬間、地面が爆音をあげて砂埃を上げ、熊と俺を分断させた。
今のうちに、逃げる!
自分でも信じられないくらいの速度で走っていると、いきなり軽い頭痛と共に、脳裏に何かの映像が映った。
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砂埃の煙幕をものすごい速度で黒い熊が通過し、走っていた俺の背中に直撃。
そのダメージで限界を迎えた俺は、壁に叩きつけられると同時に死亡する。
その死体を熊二匹はむさぼるように食い散らかし、オーマジオウの右腕だけが吐き捨てられる。
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その映像の意味を理解する前に、俺は走っているのをやめ、振り向くことなく横に飛ぶ。
次の瞬間、俺がさっきまで走っていた場所に黒い熊が突進してきた。
「今のって…見えたって事か…?未来が…?」
若干呆然としながらも、すぐに走り出す。
走りながらも、先程の未来を思い出す。
「もし未来が見えてなかったら…死んでた…」
最も脳裏にこびりついて離れないのは、俺の死体が食い散らかされる姿。
グロテスクなものに耐久があってよかったと非常に思う。
脇目もふらずに走り続け、必死の思いで活動拠点(ハジメと俺で神結晶を見つけた場所)に到着し、その場にへたりこむ。
とっくのとうに右腕は元の姿に戻っていて、先程のように未来が見えるような事もなくなっている。
水筒の中の神水を一気に飲み干し、倒れこむ。
「…はぁ…はぁ…何なんだよぉ…アイツ等ァ…!」
思い出すだけで辛くなる。
現実は、小説の中なんかとは比べ物にならないくらいに残酷だった。
あのウサギの蹴りの痛みを、あの熊の突進の痛みを…何より、あの熊二匹の餌を見るような、なんの感慨のない目を直に感じて、俺の心は折れそうになっていた。
「何で俺がこんな目に…?別に俺は望んでこの世界に来たわけじゃないんだぞ…?」
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ハジメside
「う、うぅ…あぐっ!?」
目を覚まして、意識が朦朧としている状態で勢いよく起き上がったせいで、低い天井に頭をぶつけてしまう。
「あ…そうだ。僕は確か…」
思い出すのは、あのウサギや熊。
そして…
「時王…大丈夫…だよね…?ちゃんと…逃げたよね…?」
僕を生かす為に、囮になった時王。
「…ぐっ!?あぁ、肩…」
あの性悪なウサギにやられた肩が、未だに熱を持って痛みを脳に伝えてくる。
「…でも、痛みは大分ひいてる…かな?」
ウサギに蹴られたばかりの頃の痛みに比べれば、今の痛みはなんてこと無かった。
「…?あれ?切り傷とかが…治ってる…?」
肩の骨は治っていないが、何故か他の傷が治っていることに気づく。
「…もしかしてこの水…神水…?」
意識が朦朧としているまま、使い物にならなくなったままの左腕をプラプラさせながら錬成を使い、水の流れを追う。
「…あった。神結晶だ…」
最初に時王と見つけたものよりは一回り二回り小さい気がするが、神結晶があった。
「神水が溜まってる…ングッ…ングッ…っはぁ…!」
神結晶の周りの溝に神水の水たまりができていたので、犬のように這いつくばりながら溜まっていた水を飲む。
飲み終わったころには思考もクリアになっていた。
「…時王が心配だ…でも、今出ていくわけにも…」
チラリ、と自分の左腕を見る。
肩の骨は神水を飲んでも治ることは無く、すでに修復不可能な状態になってしまっていることがはっきりとわかった。
「…くそっ、何で僕が…僕と時王がこんな目に?」
ここに落ちてくる前の最後の光景を思い出す。
呆気に取られて行動することができなかったクラスメイト達。
届かない距離だとわかっているだろうに、必死に手を伸ばしていた白崎さんと八重樫さん。
もう無理だ、と諦めていたのか目を閉じていた人もいた。
ただ、そんな有象無象はもうどうでも良くて、僕の頭の中にはある一人の表情しか残っていなかった。
「…檜山…」
檜山大介。僕達の方を見て、吐き気を催すような笑顔を浮かべていた人だ。
恐らく…いや、確実に、僕たちに魔法を撃ったのは檜山だろう。
くん、はもう付けない。つけてやる義理なんてないから。
「…檜山のせいで…アイツのせいで…こんな目に…?」
いや違う。それだけじゃない。
僕の中のナニカが、まるでこの世の全てが自分の敵だと思っているような声で語りかけてくる。
お前をこんな目に遭わせたのは、別に檜山だけじゃない。檜山に攻撃させるような嫉妬心を持たせる理由になった、白崎もだろう?
白崎…さんが…?確かに僕がクラスで嫌われ者になっていたのは、白崎さんが話かけてきていたからだけど…
だろう?ならもっと視野を広げよう。クラスの人気者、天之河はどうだ?アイツはみんな仲良くなんて言っておきながら、お前には無駄に空回りした説教ばかり。そのせいで、お前を碌に知らない奴等には悪感情を持たれた状態で関わられることになった。別にお前が誰かに何かをしたわけじゃないのに。
天之河くん…言われてみれば、天之河くんは悪い人なんていないなんて言う子供みたいなふざけきったことをモットーに生きていた。その癖僕の悪人扱いを変えることは無く、いつもいつも白崎さんからのお節介に対する態度についてとか、僕が自分からそれでいいと思ってやっていたことも頭ごなしに否定してきた。何も知らないくせに。
そうだそうだ。じゃあクラスメイト達について考えてみよう。アイツらはお前を悪い奴と決めつけて、外野から露骨に嫌な態度をとり続け、お前をいじめ続けていた。
クラスメイト達…?そうだ。みんなも僕を排斥しようとしてきた。僕はただ自由にに生きたかっただけなのに。望んでもいないお節介を、ただ時王の近くにいたからという理由だけで受けてきて、そのお節介を無下にしていると勝手に憤慨されて、嫌われていた。
そうだそうだそうだ!よくわかってきたじゃないか!次はこの状況を生み出すに至った、この世界に召喚した神の事と行こうじゃないか!エヒトとか言う駄神は、自分に物事を解決する力があるくせに、人類の終焉が近づいてきたことを嘆くだけ嘆いて、無関係なお前と、その親友の時王すらも巻き込んで召喚するだけで、あとは頑張れというだけで終わりじゃないか。どうせろくな力もない愚図何だろう!なぁ?
あぁ…そうだ。そうだった。別にクラスメイト達から嫌われていたとしても、社会人になって関わりがなくなれば、僕は時王と一緒に、趣味の合間に人生を謳歌出来たのに。親友と一緒に、自分の好きな事のために生きることができたのに。それをこの世界の神は邪魔した。自分の勝手な都合で。自分で解決できることを、態々違う世界で平和に生きることのできたはずの僕たちを召喚して。挙句周りの貴族たちは僕達を英雄かといったかと思えば、ステータスが低いというだけで落ちこぼれ、無能、屑だとか罵り放題して。この世界なんか、放っておいたってかまわないのに。
ははははは!流石は俺だ!すぐに理解してくれるじゃないか!なら簡単だろう?お前がやることは、もうわかっているはずだ!
…復讐。僕を、僕と時王を苦しめた全てに対する…報復。
そうだ、それが正しい道だ!さぁ、怒りに身を委ねろ!弱い心をすて、過去と決別し、親友と自分の為に生きるんだ!!
「…復讐…報復…」
熱に浮かされたように呟く。
それこそが正しい道だと、自分に刷り込むように。
そうだ、復讐しなきゃ。僕と時王を苦しめた全てに。
そこまで考えたとき、僕の脳裏にある言葉が響いた。
『ハジメ。辛いときは泣けばいい。苦しいときは叫べばいい。でも…自分を捨てることだけは駄目だ。周りからは弱いって言われても、お前にしかない強さがある。その強さを捨てて全てを諦めても、それに意味なんてない。それだけは覚えておいてくれ』
――――ッ!
この言葉は、この世界に召喚されていじめが過激になった時に、あまりに辛くて自殺しようと考えた僕を止めたときの時王の言葉だ。
泣きじゃくって愚痴を吐いて、時王と関わっていたからいじめられたんだ、なんて事まで言っちゃったのに、時王はあくまで僕を立ち直らせるための厳しい言葉をかけてくれた。
優しい目で、俺のせいで辛い思いをしてるなら、その鬱憤を晴らしたいなら、殴っても罵っても構わない。なんて言ってきたのだ。
もう僕に時王を責めるつもりなんて残っていないし、これからもないだろう。
だからこそ、時王の願いは叶えたいのだ。
故に僕は、本来の自分を見失って復讐に走るなんてことは、するわけには行かないのだ。
「…ごめん、君も多分僕なんだろう。ならわかってくれるはずだ。もう僕にとって、時王と自分以外はどうでもいい。だけど、だからこそ時王の言葉は、守りたいんだ」
…そうかよ。でも、お前が言った通り、俺はお前だ。だからこそわかる。絶対にお前は復讐という道しか歩けない。だって、その道の先にこそ、お前の還るべき場所があるのだから。
「そうかもね。それは僕だからわかるよ。色々違うところはあるみたいだけど、同じところも多いみたいだね」
ははっ、そうだな…お前が時王の言葉をどうしても守りたいなら気をつけろよ?檜山のバカみたいに、感情を支配できていると思い込んで、復讐心に飲み込まれないようにな?
「あぁ。頑張るよ。いつまで持つかは…わからないけどね」
僕の言葉が終わっても、僕の脳裏に声は響かなくなった。
言葉に返してくれる人がいないのはかなり孤独感を与えてきたが、今は孤独が心地よい。
いつまで僕が耐えられるかはわからない。だから、僕が時王の言葉を守って生きることのできる間に、この場を切り抜ける方法を身に付けなくてはいけないのだ。
「…よしっ!やるぞ!僕は僕の強さってやつを信じるんだ!」
痛む左肩はそのままに、右腕を力強く突き上げ、宣言する。
二度目です。
読みにくくてスイマセン…