気が付くと、硬い簡素なベッドの上にいた。視界には灰色の石の天井。首を傾けて見ると、小さなテーブルの向こうに鉄格子が見えた。どうやら牢屋のようである。
恐る恐る体を起こすと、背中の傷は完治していた。魔法かアイテムかはわからない。とにかく自分は無事であり、つまりルリアも無事であることに安堵の息をついた。
ルリアを殺す気がないことは会話の内容からわかっていたが、命のリンクを知らずに自分を殺すようなことがあったらと心配していた。
鉄格子の向こうには素掘りの通路が続いていて、奥で右に折れている。人の気配はない。
牢屋の中に窓はなく、地下であることが知れた。空気が淀んでいて息苦しい。
ジータはベッドの上に座って考える。
ルリアを殺す気がないなら、自分を殺す気もないだろう。しかし、ここに連れてきたということは、解放する気もない。ルリアが大事であればあるほど、ジータのことも守らなくてはいけない。
しばらく所在なく座っていたが、誰も来る気配がなかったので、ジータは一度ルリアの名前を呼んでみた。
「ルリア」
声が反響して、消えていく。答える声はなかった。
もう少し大きな声で呼んでみたが、結果は同じだった。
このまま誰も来なかったらどうしよう。ふとそんなことを考えて、薄ら寒くなる。
もちろん、ジータを餓死させることは許されないので、いつかは誰かが来るだろうが、それにしても孤独だ。これが囚人の境地だろうか。
じっと座っていると、胸の奥が熱くなって、涙が溢れてきた。慌てて拭ってベッドに横たわる。
涙が止まらない。ルリアに会いたい。
どれくらいそうしていたのかわからない。ジータはいつの間にか眠っていて、小さな足音で目を覚ました。
飛び起きて見ると、帝国の甲冑を来た若い兵士が一人、食事の乗ったトレイを持って歩いてくる。
ジータは駆け寄って格子を掴んだ。
「ねえ、ここはどこ!? ルリアは!?」
文字通り血相を変えて叫んだが、若い兵士はまるでジータなど目に入っていないかのように、小さな窓からトレイだけ中に入れて背中を向けた。
「ま、待って! ルリアはどこ!? 私をどうする気なの!?」
食事になど目もくれず、格子の隙間に顔を押し付けて呼び止める。
それでも兵士は、そう命令されているのか、来た時と同じ静かな足取りで行ってしまった。
「そんな……」
ジータは崩れ落ちるように座り込む。
ひとまず、自分以外の誰かの存在が確認できただけで、わずかの安堵はあったが、これから先毎日、毎月、毎年、ずっとこんな日々が続いたらどうしよう。
置かれた食事に手をつける。丸いパンが二つと、たっぷりのクリームチュー。牢屋の中で食べるには、想像したよりは多い量だ。
食欲はなかったが、無理やり胃の中に押し込んで、再びベッドに座った。
何も起こらず、誰も来ない。朝か夜かもわからない、孤独な時間が過ぎていく。気が狂いそうだ。
ルリアは一体どれくらいの期間、帝国に幽閉されていたのだろう。その間、どんな生活をしていたのだろう。
想像したら、ルリアが感情の乏しい女の子だったというのも頷けた。こんな場所に永遠に閉じ込められていたら、死んだ方がいいとさえ思う。
目を覚ましてから数時間にして、ジータは早くも絶望していた。
いつか仲間が助けに来てくれるだろうか。いや、帝国を相手に、小さな騎空団に何ができる。いくつかの騎空団が団結したとしても無理だ。それに、自分のいた騎空団の団長は自分だ。誰が指揮して、自分とルリアを助けに来てくれる?
何も起こらず、誰も来ない。
「誰か、誰か来て……。助けて……」
ジータは泣いた。しばらく泣いて、泣き疲れて眠った。再び起きても誰もいなかった。同じ場所にいて、同じ景色だった。
「誰か! 助けて! 助けて!」
大声で叫ぶ。それでも答える声はなく、残響も消えてジータは崩れ落ちた。
もうダメだ。もうダメだ。もうダメだ。もうダメだ。もうダメだ。
抱えた頭を大きく左右に振る。叫んでも、喚いても、寝ても起きても、何も変わらない。もうダメだ。
「もうダメ……。助けて……助けてよ……」
何時間過ぎたのか、何日過ぎたのかもわからない。いや、ひょっとしたら、数分しか過ぎていないのかもしれない。
涙も涸れ、ベッドの端に座って、虚ろな瞳で地面を見つめていると、奥から足音が聞こえてきた。
ああ、次の食事かと思い、ゆっくりと顔を上げる。
鉄格子の向こうに、ルリアが立っていた。