jail   作:水原渉

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 最初はやはり、お互いを確かめるように抱きしめ合った。

 華奢な体。ジータと同じようにお風呂には入れてもらえていないのか、汗の嫌な匂いがしたが、それでもルリアの香りに胸が熱くなる。

 ずっとそうしていたいのを我慢して体を離す。ルリアはやはり疲れた顔で俯いていた。

「ひどいことをされたの?」

 もはや自分のことなど忘れて尋ねる。

 ルリアは首を横に振った。

「そんなことないよ」

 嘘だ。

 ルリアが食事を自分たちの前に並べる。パンとシチュー。今日のシチューには、珍しく肉がごろごろと入っていた。

 片方には入っておらず、ルリアは肉の入っている方をジータに差し出す。

「そっちの方が豪華だから、ルリアがそっちを食べて」

 ジータが提案するも、ルリアは無言で首を振る。

「じゃあ、二人で分けよう」

 やはり首を振る。

「食欲の問題じゃないから……」

 ぽつりと呟いて、ルリアは自分の分のパンをシチューに浸した。

 ジータは首を傾げる。ルリアは好き嫌いなくなんでも食べる。食欲の問題ではないのなら、なおさらルリアに栄養をつけてほしい。

 よほどまずいのだろうかと思い、ジータはその肉を口に入れた。食べたことのない味だが、柔らかくてまずくはない。

 その様子を、ルリアが青ざめた顔でじっと見つめている。

「ルリア、どうしたの? どんなに辛いことでも、隠し事はなしにしよう。もうここには、私とルリアしかいないんだから」

 優しく声をかけると、ルリアは目に涙を浮かべ、俯いて大きく首を横に振った。涙の滴が零れ落ちる。

「痛いことをされて。それだけ。前はそんなことなかったのに。それだけ」

「ルリア……」

「全然大丈夫じゃないけど、どうしたらいいかわかんない。ジータもそうでしょ? せめてジータと同じ部屋にしてって頼んだけど、それはダメだって。こうして1日に1回だけでも会わせてくれることに感謝しなくちゃって、そう思って」

 それだけ言って、ルリアは泣き出した。ジータもつられて泣いた。

 孤独の絶望に加えて、ルリアは痛い思いもしていると言う。外傷はないようだが、自分の背中の傷だって一瞬で治した連中のことだ。今の状態など、何の慰めにもならない。

「ジータがいることだけが私の希望なの。ジータもそうでしょ?」

 すがりつくようにルリア。ジータは真剣な目で頷いた。

「うん」

 ルリアの顔に安堵の色が広がる。

 食事を平らげる。改めてシチューを勧めてみたが、ルリアはやはり断った。

「結構美味しいよ? 食事だけは悪くないって思う」

「そう……」

 ルリアは曖昧に笑った。

 食べている時間がもったいないので、なるべく早く平らげると、二人はまた抱きしめ合った。

 状況はわかっているし、心は通じ合っている。温もりを確かめ合う以外に、もう二人には必要なかった。

「きっと誰かが助けに来てくれる。カタリナがルリアを助けたように」

「うん……」

「私も頑張るから、ルリアも頑張って。きっと大丈夫だって」

「うん……」

 小さく頷いて、何度か涙を拭って、ルリアはジータの目を真っ直ぐ見つめて、言った。

「頑張ろう、ジータ。それで、どうしても、どうしてもダメだったら……一緒に死のう」

「ルリ……」

 答えようとした口を、ルリアが柔らかく塞いだ。

 強く強く抱きしめて、キスをしたまま、ジータは心で誓った。

 この少女を、絶対に死なせはしないと。

 


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