今年も程々に頑張ります。
光源の少ない鉄張りの大きな通路。
そこで巨躯なISと小柄な人影が何度目かの閃光を散らし、激しくぶつかりあっていた。
侵入者は『アンネイムド』と呼ばれる名無しの組織その隊長。
機体は夜間迷彩と特殊武装でカスタムされた米国の第三世代『ファング・クエイク
それと剣を交えるのは真っ黒なバトルスーツに身を包んだ元『
身軽に跳躍しながらワイヤーアンカーも駆使し、巨大なISを嘲笑うように翻弄していた。
既に腰の鞘にストックされていた刀は殆ど消費され、今は手に持っている二振りのみが残るばかりだった。
それすら片方は殆ど刃こぼれしてしまっており、もはやただの棒切れとなっている。
『隊長』は疑問だった。
いくらあの『世界最強』だとしても、生身の人間がISに勝てるはずが無いと思ってるからである。実際、機体には殆どダメージは無く、武装を消耗しているのは千冬の方だからだ。
だが足止めを食らっているのは事実であり、それが狙いであれば早期にルートを切り替えるべきだろうか、通路の前後を行ったり来たりする千冬に後退も許されず、自分は奥へ奥へと進行している。
何度目かのぶつかり合い、遂に千冬の持つ最後の一振りが弾き飛ばされ、弧を描いて廊下に転がった。
「終わりだな」
「それはどうかな?」
千冬の言葉に違和感を覚え、その理由はすぐにわかった。
今し方刀を殴り飛ばした左手にベッタリとへばり着いた「火薬」、それが何を意味するのか、辺りに散らばった刀を見回し、『隊長』は肝が潰れる。
(最初から……!)
気づいたときにはもう遅い。
「『木端微塵』」
その一言がトリガーとなり、辺りの刀が一斉に爆発する。『隊長』は眩い爆風に圧迫されながらもなんとかその場を耐え凌ぐ。
「おのれ…!!」
「ほう、まだ耐えるか」
爆炎の中から飛び出した『隊長』が千冬目掛けて拳を振るう。だが千冬はそれを難なく飛び退いて回避し、闇に消えるように逃げ出した。
その背中を追いかけて『隊長』も背部スラスターを目一杯噴かし、千冬を追いかける。しかし、機体性能の差があるはずなのに一向に千冬との距離が縮まらない。背中へ目掛けて振るう拳はまるで背中に目でも付いているのかと思うほど簡単に避けられ、時には自分を踏み台にされながら、千冬は軽快に逃げ進んでいた。
そして小さな扉を蹴破りながら入り込むのを確認した『隊長』は不敵にほくそ笑む。
あの部屋は反響センサーで袋小路になっている、これなら……!
部屋の壁をぶち抜き、いよいよ追い詰めたと仁王立ちで迫る『隊長』の前に、物怖じしない態度で見上げる千冬がそこにいた。
「出番だ真耶」
「了解です!」
通路の奥、袋小路の部屋で千冬は透過迷彩のステルスマントを引き剥がす。
中から出てきたのは超大型ガトリングガンを四基装備したラファール・リヴァイヴだった。
「く、クアッド・ファランクス!?」
超重量と反動制御故に一歩も動けない代わりに、最強の攻撃力を手に入れた『砲台』がそこにいた。
マズい───!
そんな事を思う暇も無く、四基の砲身は回転を始め、間もなく弾丸の横雨が降り注ぐ。
圧倒的な大轟音の一斉射撃が通路を埋め尽くす勢いで発射され、『隊長』は単機からの飽和攻撃に逃げる暇も無く弾丸の嵐に身を撃たれる。
その後ろでシャックボックスのように薬莢が溢れる様を傍観しながら、千冬はテーブルに備えてあったコーヒーを一口呷る。
「山田先生のコーヒーは格別だな」
「インスタントですよ、それ」
「…………」
千冬が乱れた呼吸を整えている間にけたたましい子守唄は止み、無力化された『隊長』は千冬と真耶によって無力化された。
◆
「さて、こんなものかしら」
特殊ファイバーロープで特殊部隊の男達をまとめて拘束した楯無はようやくと息を吐く。
(国籍はアメリカ、無人機の情報に飛びついてきたってところね)
流石は四六時中学園を見張っているだけはある。秘密の花園を無闇矢鱈と踏み荒らすのはいただけないが。
しかし不可思議なのは未だに学園の設備が復旧しない事だ。普通ならば五分と待たずに予備電源にでも切り替わるのだが、今はそれすら無く、不気味な静寂が島内に広がっていた。
(必要なら通気口でも開けなきゃね。生徒会長としては校舎破壊とか気が引けるけど)
楯無はエネルギー節約のため、部分展開していた機体の一部を格納した。
そして踵を返して学園に戻ろうとしたその時。
パス、と空気の抜けるような音が鳴り、楯無の腹から鮮血が散る。
「えっ?」
それを認識するより早く楯無は前のめりに倒れた。
「ようやく隙を見せたな……」
「しまっ……!」
土が付くのも気にせずなんとか後ろを見れば、何処かに隠し持っていたらしいプラズマカッターで拘束を抜け出した男が消音器の付いた拳銃を片手に立っていた。
「どうしますか?」
「こいつはロシア代表登録の操縦者だ。もっとも、
リーダー格の男が心底軽蔑したような言い方をしながら楯無を見下ろしている。
「止血と応急処置をしておけ。搭乗者ごと機体は回収する」
男は他の部下に支持を出しながら索敵と警戒をしている。
押さえつけられたままの楯無はせめて何か一矢報いようとして、腹を蹴り抜かれて失敗した。
「自殺されんよう猿轡を噛ませておけ」
「はい」
失血と腹部の衝撃で意識が危うくなっていく。未だ完治には程遠い体での無理が祟ったようで、当分味わう事のなかった命の消える感覚が目前まで迫ってきているのを楯無は靄のかかる頭で感じた。
暗転していく視界の中、楯無は少女のようなか弱い思考へと知らず知らずのうちに移り変わっていた。
一夏君、早く戻ってきて……みんなを、助けて……。
◆◆◆
「おや」
学園に侵入した不審者、クロエ・クロニクルは違和感を覚えた。
光と闇、上下左右も存在しないような空に漂う電脳世界で彼女は追手に仕掛けた精神攻撃の効き目に違和感を覚えたのだ。
篠ノ之 箒へのワールドパージの効果が薄い……いや、切り離しは成功しているが……何かが変。
外界との切り離し自体は成功している。しかし幽閉と言うより誘導して入っているような、『
……まぁ邪魔にならないのなら良いでしょう。
本来の目的さえ達成出来ればそれでいい。
クロエは電脳世界を漂いながら、中枢部分を目指し奥深くへと歩みを進める。上も下も、右も左もないような暗闇の中、彼女は遂にそれを見つけた。
氷漬けにされた少女像、『暮桜』のコアを。
主である束からの命により、回収が言い渡された物の一つ。
「織斑千冬専用機『暮桜』……」
それは、ISコアとして最も完成に近付いたモノであり、起源にして頂点に君臨するファーストIS『白騎士』に限りなく近付いた存在だ。
コアとは人の写し鏡。
搭乗者とのシンクロ率が高まるほど機体の能力は飛躍的に開放される。
束の設計によれば、本来はコア・ネットワークを経由して数多の人間とのシンクロ率を集積し、情報の蓄積と最適化を狙った設計をしていたのだが、それは織斑千冬という不確定要素によって、全く別の結果になってしまった。
彼女は完璧に機体を乗りこなしてしまい、コア達はネットワークを通じて彼女の憧憬をその魂に焼き付けてしまったのだ。
まさに完璧で究極の理想像、それが織斑千冬という女だったのだ。
そのフィードバックから、ISはより織斑千冬に近い存在を『適合者』として認めるようになり、結果としてISは女しか扱えないという認識が生まれた。
だが誤りだ。
現に彼は【白式】を駆り、更にはセカンドシフトまで行ったのだ。白騎士のアーキタイプコアを搭載している白式に乗っている事を考慮しても、目覚ましい進歩を遂げている。
ともすれば彼女を超えるような。
そしてもう一つ、束様からのお使いが……。
『よぉ、土足で入って来るとは面が厚いじゃねぇか』
「貴方は……」
◆◆◆◆◆
そこそこ広い部屋のあちこちに物々しい設備や機材が所狭しと置かれ、それらは太いケーブルや配線で繋がり研究員が見るためのモニターと一夏が乗ったままの【雪羅】に繋がれている。
「英雄とは何か?」
「はい?」
突然一夏の前で作業をしていたヒカルノがそんな事を呟いた。
部屋には無機質な電子音やキーボードなど入力装置を叩く音、冷却ファンの回転音などが不規則に鳴り響いていて騒がしい。
そんな事も気にせずヒカルノは言葉を紡ぐ。
「いやなに。研究者だが兵器開発もしている身分だ。こう言う仕事をしているとね、ふと考えるんだよ」
百年戦争でフランスを勝利に導いた聖女も他国からすれば魔女と罵られ、ソ連の有名な狙撃手は悪魔と恐れられた。逆にドイツの独裁者は極悪人と称されるが、祖国を戦後の貧困から救うため尽力した人物でもある。
そして現在、世界にISを齎した科学者は、天災と称され世界中から指名手配を受けて逃げ回っている。
「沢山敵を殺した者? それとも勇敢に戦った者?」
機体とケーブルで繋いたタブレットを操作しながらヒカルノは続ける。
「転んでも立ち上がった者だよ」
「は、はぁ……?」
そう言うとヒカルノはにやりと不敵に笑いながら、呆気にとられる一夏に畳み掛けるように話す。
「何度裏切られても他人を信じ、何度挫折してもまた立ち上がって進み続ける者だ。それこそが英雄だよ」
「…………」
まるで今の自分を見透かされているかのような言い方にただ黙って聞くしかなかった。
いや、恐らくは先日の戦闘記録でも確認したのだろうが、それにしても、何故その様な事を自分に言ってきたのか、それがよくわからない。
誰かを信じる、そんな事、今の自分にはとても難しい事だ。
もはや自分すら信じられず、目の前の事実からひたすら目を背けて逃げ、挫折して蹲るだけの自分に、いったい何が出来るだろうか。
冷えた竈のように虚になった心に、胸の中の蟠りや他人からの言葉が落ち葉のように積もっていく。
いっそ責めてほしいとさえ思うのは、自らを罰してほしいと思うのは、自分を正当化して精神を安定化させるためのエゴだろう。
人を斬ったのに責められない。むしろ助けてくれたと褒められたのは彼の心を壊すには十分な傷となった。
緊急回線がつながり、【雪羅】からけたたましい音で子供の声が鳴り響く。
『一夏お兄ちゃん!! みんなを助けてっ!! 学園危ないんだ!!!』
「ゆ、結ッ!?」
突然オープンチャットで鳴り響く子供の声は、施設中に響く様な大音量でSOSの信号を投げ掛けられる。
今も地下で幽閉されているはずの結の声。
助けてと言いながら騙し討ちをかけてきた少年。
自分が斬り、首を爆ぜさせた。顔が青くなりながら、優しく微笑む少年。
それが今、助けてと叫ぶのだ。
学園が今危ないと叫ぶのだ。
その言葉は火の粉なり、その小さな明るい粒は一夏の心の竈に飛び込む。
積もった落ち葉に火がつき、枯葉はたおやかに燃えながらメラメラと竈を燃やす。温まった竈にはようやく火が入った。。
結の言葉が、「助けて」と呼ぶ声が一夏の心を蘇らせた。
また裏切られても、俺は結を信じたい。
皆を、結を助ける、そう決めたから!
「ヒカルノさん……俺、行きます」
「そうかい」
腑抜けていた彼はもういない。
ヒカルノを見る彼の目には明るい火の光が見えた気がしたから。
「緊急カタパルト開放! 防風障壁もだ! メンテは切り上げて機材を片付けろ!」
ヒカルノはハンガーデッキの上から職員達に支持を飛ばす。機体に繋がれていたケーブルなども慌ただしく外され、部屋中の機材などが右往左往しながら次々に別室へと運ばれていく。
手持ち無沙汰にしている一夏がもう突っ切って飛び出そうか思っていたところに、ヒカルノが懐から取り出した焼き魚を一夏の口の中に突っ込む。
「おりゃ」
「むぐっ」
警報のサイレンが鳴り響く中、突然突っ込まれた魚を困惑しつつももぐもぐと咀嚼する一夏に、ヒカルノは笑いながら言葉をかける。
「足りないだろうが食べておきなさい。腹拵えは戦士の基本だぜ」
そういえば最近殆ど食事をしていなかった、と気がついた一夏はものの数秒で魚を骨まで平らげ、食べ終わると同時に出撃準備が整った上空を見上げる。
上階全ての天井が開放され、外の青空が覗いていた。
辺りには緊急避難用の防風障壁が展開され、多少の無茶が起きても問題はなさそうだ。
「ありがとうございます! 行ってきます!」
一夏は短く感謝を伝え、深く屈みこむ。そして縮めたバネが一気に飛び跳ねるように、スラスターを全力で吹かし、研究所の天井を突き抜けて青空へと一気に飛び出した。
「待ってろ、皆!」
はるか上空に飛び出た一夏は学園の方角を定め、瞬時加速のスタートダッシュで目にも止まらぬ勢いのまま消えていった。
その様子を研究所の外まで出てきたヒカルノが双眼鏡で見送っていたが、すぐに見えなくなってしまった。
「あ〜〜、行ってしまった……」
その声は随分と落ち込んでいたが、なんだか楽しそうでもあった。
「必要なデータは揃ったし、まぁいいか。各自、準備をしろ」
ヒカルノの指示のもと、研究員らは足早に部屋の片付けと別の機材の準備に取り掛かる。
そして用意されていたのは一機のIS。
「次世代機量産計画を進めよう」
お久しぶりです。
別の作品のエロいやつ書いてました。
スッキリしましたのでこっちに集中します。
ようやく一夏が元気になったので私も元気になりました。
もう少しでまた書きたかったところが出せると思うとワクワクしますね。
誤字脱字などあればご報告お願いします。
評価、感想もお願いします。元気になります。
ではでは。