前回からサブタイのスタイル変えてますが、特に不都合無ければこのまま進めます。
『土足で来るとはいい度胸じゃねぇか』
「貴方は……」
上下も左右も無い、光と闇の電脳世界。
現実では巨大な棺が置かれた地下区画のある一室。
電脳世界の少女の前にはニヒルに笑う少年が。
現実世界の少女の前には棺桶が鎮座している。
交差する二つの世界で、少女の前には同一の人間が目の前に立っている。しかしその人格は同じでは無い。
「はじめまして、上代 結 お義兄様。
以後お見知りおきを」
二つの世界で少女はドレスのスカートを軽く摘み上げ、恭しくお辞儀をしながら畏まった挨拶を述べる。
長い銀髪を背中に垂らす少女。その顔付きは少年がよく知る彼女、ラウラと非常によく似ていた。
「此の度は、【暮桜】のISコアとお義兄様の御身を頂きに参りました」
◇
研究所を飛び出した一夏は日本上空を真っ直ぐ飛び去り、学園島までものの数分で辿り着いた。
速度は維持したまま降下角度を下げ、ハイパーセンサーで島の周囲の様子を確認する。
島の裏側に艦が一隻、校舎からは煙が上がってる……だけど人影は見えない。
いや、居た。
そこには複数の武装した男達が拘束された楯無を包囲していた。
ぞわりと怒りが込み上げる。だが頭の芯は酷く冷たくて冷静だった。
着地地点を楯無の居る場所に定め、一夏は抜刀して加速する。抜いた【雪片弐型】を逆に構え、あくまでも峰打ちを狙う。
降下角度を維持し、最後に加速を加えて一夏は彗星の如く武装集団へと飛び込む。
「その人を、離せッ!!!」
飛び込みながらの横一文字。楯無の襟首を掴んでいた男の胸元に当たるよう刀を振るい、そのまま薙ぎ払う。
まずは一人目。口の中でカウントしながら一夏はすぐに反転し、近くに居たもう二人を蹴り飛ばし、すでに反撃に移っていたらしいもう一人も柄頭で殴り飛ばす。
「く……このッ!」
「ッ!」
背後で銃を抜いた兵士をハイパーセンサーで捉え、弾が発射されると同時に身を躱して避ける。
至近距離での射撃を躱した事に気づかれるよりも速く、一夏はカノンモードで備えたいた左腕の【雪羅】で敵兵を撃ち抜く。最小威力だが電気ショックを与えるには十分な光の弾丸が男に当たると当時に眩く爆ぜ、敵兵は壁際まで吹き飛んだ。
男らを全員武装解除させて拘束した後、ぐったりして動かない楯無に駆け寄る。
「楯無さん、無事ですか!」
「一夏、くん……」
失血が多いらしく楯無の顔色は真っ青だった。
一夏は彼女を優しく抱き上げ、すぐに拘束を解く。
「何があったんです!」
「時間が、無いの……すぐに、地下に向かって……」
ぐっと胸に押し付けられたメモ書きを受け取り、一夏は唇を噛み締める。
「ちょっと、一夏くん……!」
「せめて医務室まで!」
ISを解除し、楯無を担ぎ上げた一夏が彼女の静止も聞かずに走り出す。が、廊下の角を曲がったところで、学園内を巡回していたダリル達とばったり遭遇した。
「生徒会長は私が預かっといてやる」
「ダリル先輩……お願いします!」
荒れた室内と倒れている特殊部隊の男達を一瞥し、状況を察したダリルは一夏から楯無を預かり、地下へ向かうように促す。
その後ろで黙って話を聞いていたフォルテは訝しげに自分の恋人を見上げていた。
「なんでここってわかったンすか?」
「女の勘」
見上げるダリルの横顔からは何も感情を見いだせなかったフォルテは、胸に抱えた疑心を一旦しまう事にした。
◇
渡されたメモの通りに学園内を【白式】で駆け抜ける一夏。
閉じられたシャッターを粒子砲でぶち抜き、最短距離を走りながらメモ書きに記されていた場所まで辿り着く。
扉を開けるのももどかしく思う程にパネルのロックを解除し、なだれ込むようにして入室する一夏が目にしたのは千冬と摩耶、そして拘束された謎の女だった。
「誰ですか! 何があったんですか!?」
「説明は後だ、篠ノ之達の救出に急げ!」
千冬に急かされ、一夏は機体に転送された位置データを頼りにまた長い通路を走り抜け、指定された部屋に入る。
真っ白で無機質な部屋にはこれまた無機質な寝台と、そこに静かに横たわる篠ノ之達の五人と、すぐ近くのコンソールの前で狼狽えている簪の姿があった。
「簪さん! 何があったんだ!?」
「あ、えっと……」
口下手な彼女は緊急事態で口吃るが、すぐに携帯電話を取り出し、両手で抱えて何やら文面を記載しているようだ。
すぐに一夏の端末にメールが届き、内容を確認する。
『織斑くんへ。
今現在このIS学園は何者かの攻撃によって無力化されています。
コントロールを奪還すべく電脳世界に進入した篠ノ之さんたちも、同様に何かしらの攻撃を受けて連絡がつきません。また、このままでは目覚めることもないでしょう。
そこで織斑くんには同じようにISコア・ネットワーク経由で電脳世界へダイブし、みんなを救出してください。
よろしく頼みます。
更識簪より』
……よし、わかった。
詳しくはわからないが、緊急事態で介入が必要だと言うことは理解した。
「それで、電脳ダイヴってどうしたら……」
「痛みは一瞬だから、ね?」
「えっ」
端末画面から目線を上げた一夏の前に簪の姿は無く、背後から声がしたと思ったら、突然一夏の体に凄まじく痺れる衝撃が掛け巡った。
「いいいいいいいいい!!?」
焼けるような熱さ、全身の筋肉が硬直する不快感、頭の先からつま先まで突き抜けるような痺れが駆け巡り、一夏は一瞬で意識が飛んだ。
「急に何すんだッ!?」
回復と同時に飛び起き、文句の一つでも言わなければと叫ぶ一夏の前に簪はいなかった。と言うよりも一夏自身がさっきの白い部屋とは違う空間にいる事に気がつく。
目の前に広がる青々とした草原にうっかり気が抜けそうになるが、それも空中に現れた、自然の風景とは全く合わないようなホログラムウインドウによってここが現実ではないのだと思い知らされる。
『森の中に急いで! みんなそこで信号が途切れたの!』
「わかった!」
待っててくれ、結、みんな!
焦る気持ちを抑えるように拳を握り、一夏はまっすぐに草原を駆け抜けた。
◆
電脳世界と現実世界の両方で対面する少女と少年。
電脳世界の少年が訝しげに口を開く。
『結のロットから後は無かったはずだが?』
「そう、正確に私は後継ではありません。お恥ずかしながら、私は後の系譜からこぼれた、失敗作でございます」
『ドイツ女の姉妹か』
「左様です」
同じ銀髪と未だ閉じられた双眸から、似たドイツの少女を思い浮かべる少年はそうかそうかと頷く。
『それで、はいわかりましたとオレが付いていくとでも?』
「束様からのご命令ですので。お言葉ですが、ご自身の立場であれば此方へ来られるのが聡明かと」
束には先の無人機襲撃事件から暴走の顛末まで、全てを知られている。そしてその後の選択肢として学園を離れ、束達と同行する事を提示されている。目の前の少女はその選択を迫っているのだ。
だが電脳世界の少年、ファントムはその出来過ぎた話の流れに意図を感じてしまう。と言うより束の思惑通りに動いてしまうのがとにかく癪に障る。
だが有無を言わせる間もなく少女は自らの機体を展開し、閉じられていた双眸を開く。
結膜は黒く、金色に輝く瞳孔をしたその目は生身の人間にはありえない代物であり、ラウラと同じく眼球に特殊な装置を埋め込まれているのだろう。
「夢を魅せましょう【黒鍵】」
二つの世界でクロエが持っていたステッキを振るう。
ステッキが辿ったところから金色の鱗粉のようなものが漂い、それらは幕のように広がって少年の身体と棺を覆い被さるように飲み込む。
そして閉ざされた精神世界へと少年の意識を誘い、電脳世界の少年は背後に現れた扉の中に消え、現実世界の棺は棺桶の電力が切れたようにピタリと静かになった。
「どうか今だけは、安らかにお眠りください。お兄様⋯⋯」
クロエは棺を避けながら彼の先にあるISのコアを奪取するべく結を通り過ぎようとして誰かに足を掴まれた。
「な⋯⋯動ける⋯⋯!? そんなはずは⋯⋯」
振り向て足元を見ると、棺の隙間から伸びるIS自体の腕に己の足が掴まれており、腕部ユニットは結の背中に植え付けられた生体ユニットから生える何本も束ねられた茨のようなチューブに繋がっていた。
「これは⋯⋯例のファントム」
『正解ダ』
どこからか声がした。
結は相変わらず動かないが、背中のそれはがたがたと震え、一拍おいてユニットからどろりとした半透明の粘液状の何かがあふれ出した。
それはどくん、どくん、と脈打ちながらかろうじて人型を形作って這い蹲るようにおどろおどろしく立ち上がり、成人男性よりも一回り大きい体躯を成形して結を飲み込みファントムのIS展開形態をとる。
その出で立ちや出現の仕方はさながら【VTシステム】と酷似していた。
『ISハ……搭乗者ガ、居ルダケデ⋯⋯動ケル⋯⋯例エ、リンクガ〇%ダッタトシテモ……オレ達ハ、動ケルンダヨォォォッッ!!!!』
「くぅっ!!」
亡霊のように揺らめくファントムはタイルの床を緩急をつけて這いまわり、掴んだクロエの足を入り口へ向けて背負うように投げ飛ばした。
「束様の介入もなくISの自我が機体そのものを動かしている!?」
『ソレガ オレ、コレコソ ガ ファントム!!』
敵に幻覚を見せ、戦う前に戦闘不能に陥れる事を目的とした【黒鍵】に戦闘能力は有されていない。
クロエはドレススカートを翻しながらタイルの地面に降り立ち、目の前まで迫ってきていたファントムの追撃を半身に反らして躱す。
木枯らしのような機体をマリオネット人形のような繊細な動きで操り、泥人形のようなファントムの追撃を難なく躱し、一際大きく跳躍してファントムと距離を離す。
「仕方ありません、【ワールド・パージ】最大出力」
ステッキの先端をファントムへ向けて振るうと、【黒鍵】の影から四体の複製が現れ、地を滑るように飛翔しながらファントムの周囲で旋回する。
本体も同じように旋回の渦に混じり、五体の枯木のような影が前後左右不規則に入り乱れる。
『チッ、センサー モ 弄リヤガッタナ!!!』
「僭越ながら、私も生体融合型の同型機ですので」
ファントムの視界センサーには五体全てに本体と同じく機体コード書かれた本体と言う表示がされており、触れるまでそれが影か実体かの判別がつかない。
そして一斉に襲い掛かる【黒鍵】の群れに一瞬挙動が止まるファントム。
ファントムの十八番である敵機のシンクロ率操作をまさか自分に行われ、か細いリンクのみで立っていたファントムはたちまち泥のように崩れ、生身の結の身体がクロエの腕の中に残った。
「素敵で儚い悪夢を、お義兄様」
お久しぶりです。
私事ながら昇格しました。
週休0日がたまにあるくらいになったので更新が進まね〜〜〜〜〜。
感想お願いします。
ではでは。