IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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 前回までのあらすじ。

 暴走した結が棺に封印され、地下に幽閉されていたが、それを狙って謎の武装勢力に学園が襲撃される。
 総出で迎撃に出るが、電脳世界からの敵に対処する為に一夏以外の一年組が追撃に向かうが、罠に陥れられ一夏が救助に向かった。
 全員の救助が終わったところで現れた最後の一つの扉に入ると、そこは結の深層世界だった。

 そこで結とファントムの戦いが始まってしまった。






 


百二話 ロンタオ

 目の前に立ち憚る巨大な鎧の巨人に、剣を奪った骸が襲いかかる。

 デタラメに振り回される剣を着膨れた鎧が両手で持つ大盾で防ぎ、空虚な青空に金切り声のような鋼鉄の衝撃音が絶え間なく劈く。

 

 二人の足元にあるハリボテの街並みは、彼らが暴れるたび簡単に吹き飛ばされ、家も壁もマネキンも、全て等しく塵芥と化していく。

 

「お前なんか、いなければよかったんだ!!」

 

 暴風雨のような斬撃の雨をものともせず、ぬぅ、と腕を伸ばした鎧が骸の腕を引っ掴み、大きなスイングで無造作に放り投げた。

 

『オレガ 居ナキャ オ前モ 産マレテ ネェン ダヨォッ!!!』

 

 放り投げられた骸は空中で身を翻し、カノンモードに移行させた左腕の『雪羅』の砲門を鎧へ向けて発射させる。

 乱れ撃つ光線に鎧は瞬時に召喚した八枚の小盾で防ぎ、地面を踏み抜きながら躯へ向かって飛び立つ。飛行しながら身を捻り、大盾による強烈な一撃を繰り出す。

 

 だが骸は四基の背部スラスターを匠に駆り、大振りな鎧の一撃避け、鎧の背後に滑り込んで剣を振り翳す。

 

『アノ 牛女 ニ 絆サレテ 名残惜シクナッタカァ!?』

 

 太刀筋も何もない滅茶苦茶な打撃を諸に喰らい、鎧の外装が一部砕け、中から骸の機体骨格が露出していく。

 しかしそれを耐えながら鎧は腕を伸ばして骸の剣を掴み抑える。巨大な掌で拳ごと剣の柄まで握られた骸はその場から逃げ出せず、鎧の報復を真正面から受けるハメになった。

 

「真耶先生を馬鹿にするなぁぁああ!!」

 

 大きく振りかぶったゼロ距離からの大盾による大打撃。なけなしに伸ばした左手の防御ごと押しつぶされ、骸は揺れる視界に乱されながら空中から弧を描いて落ちていく。

 

 そこへ追撃ちをかけるように鎧はシールドビットを全て送り、飛翔する分厚い鉄板は骸をすり潰さんと一斉に骸の跡を辿る。

 飛んできた八枚の小盾を見るなり骸は頭から落ちる姿勢を空中で捩りながら立て直し、着込んでいた白式を脱ぎ捨て、それを飛来する盾の囮にして八枚の攻撃を凌ぐ。

 

 脱ぎ捨てられた白式に立て続けに刺さる小盾を踏みつけて飛翔し、さらに迫る小盾を奪い自らの装甲とさせながら、骸は空中を駆け、上空で見下ろしていた鎧へぐんぐんと接近していく。

 

『潔ク オレ ヲ受ケ入レテレバ良カッタンダ!!!』

「お前と一緒にするな!」

『イイヤ 一緒 ダ!!』

 

 鎧の間合いに入る寸前、急停止した骸。カウンターを仕掛けていた鎧の一撃が空振りに終わり、すかさず開いた隙に骸の鋭い蹴り上げが鎧の顎を蹴り抜いた。

 

 その勢いで鎧の顔当てが砕け、中の髑髏のようなフェイスアーマーが露出する。

 骸は更に畳み掛け、奪い取った盾の鎧で迫る。ガントレットに変形させた小盾を握りしめ、一回り巨大化した両手を何度も、交互に叩きつける。

 

『オレニ明ケ渡シタ耳モ鼻モ舌モ目モ!! 死ニ タク無イカラ奪イ返シタンダ ロウ ガ!!!』

「……違う!!」

 

 なんとか構えていた大盾を剥がされ、拳の連打に耐え切れなくなり、鎧はヒビ割れ、中の骸が所々に垣間見える。

 

 その身を砕かれ、髑髏の眼光に赤い光を灯しながら、鎧は再び大盾を構え直し、骸の連打の片腕を止める。

 しかしとて続け様に振りかぶったもう片方の拳を、開いた片方の掌で受け止め、両者は崩れ行く隔絶された世界の空でぎりぎりと拮抗していた。

 

 同じ顔の二体は拮抗したまま、ゼロ距離で雄叫びを轟かせ、その鋼鉄の機体を震わせる。

 

 

「モルガァァ────ンッ!!!」

『アァーサァァァ───ッ!!!』

 

 

 両者はそれぞれ得意とする姿の名を叫ぶ。

 叫ぶと同時にそれぞれの機体が光に包まれ、その姿形を変形させていく。

 

『共鳴現象』

『共鳴現象』

 

 

『形態移行、MORGAN LE FAY』

『形態移行、ARTHUR』

 

 

 片や鎧と大盾が融合し、巨大な右腕を掲げる夢想の女王。

 此方骸と八枚の小盾が融合し、茨に全身を縛られた雄王。

 

 お互いが轟かせる声を重ね合せ、お互いの真に迫る姿へと変貌する。

 

 変身が終わると同時、どちらともなく同時に飛び出した双方は空中で激しくぶつかり合う。

 

『認めろ!!! 生きたくなったってよぉ!!!』

「うるさいッッ!!!」

 

 拳を交えながら、仮面の下で本心を叫び合う。

 鋼鉄のぶつかり合う音は怒号と混ざって酷い不協和音へと移り変わる。

 

 包み隠そうとした本音は明け透けて見られ、隠したかった本音を暴かれる。脳幹で繋がった二人の間に隠し事など意味を持たず、ただ無慈悲な正直さだけを強要される。

 

『生きたい亡者(オレ)と死にたい生者(オマエ)! どっちが残るかなんて明白だろうが!!!』

「うるさい!!!!!」

 

 ひたすらに並べられる生への執着。

 それは宿命や運命など知ったことではない矮小なこどもの我儘であり、生物本来の本能でもある。

 

 それを示すかのように雄王の拳が女王の鎧を砕く。

 それに抗うかのように女王の拳もまた、雄王の鎧を叩き割る。

 

『誰かの意見じゃねぇ!! お前の意志を聞かせろ、お前の言葉を聞かせろ!!! お前の本音を言ってみろ!!!!』

「……そんなの、意味無いじゃないかッ!!」

 

 だが理性は拒む。

 過去と倫理が否定する。

 

 生きていては駄目だ。

 所詮は駄々でしかないと、他人は許さないと。

 そんな我儘では、過去の罪は消えないと。

 生まれてきた罪は消えないと。

 

 二人の推力が底を突き、次第に高度を維持できなくなった双方の機体がもつれ合いながら地面に落下した。

 だが二人は未だ倒れることなく爪を立て牙を向く取っ組み合いに発展する。

 

『オレを見ろ!! オレを認めろ!! 無理矢理押さえつけて見ないふりしていたお前の欲望を見ろ!!!』

「嫌だッ!! そんなもの見たくない! 汚い、汚い!!!」

 

 覆い被さり首元を掴む片方が馬乗りのまま激昂するが、下敷きになっていた片方が目を瞑りそっぽを向きながら押し退ける。

 

 

 卑しく生に執着する自分自身の願いに穢らわしさに嫌気がさす。

 手に掛けた同胞に睨まれ、後ろ指を刺されているようだ。

 背後に、足元に感じる生ぬるい気持ち悪さ、冷たい視線、青い笑い声、ぬかるみのような怨恨が体を蝕む。

 

 楽しかった思い出を、学園での思い出を思い浮かべるたびに、同時に過去の思い出も浮かび上がってくる。

 けして忘れてはならないと言われているようだった。

 

 一つ、二つ……数え切れないほど殺めたその手で何を掴むというのか。まして普通の、争いなど知らないような誰かの手を握れるというのか。

 見下げるような冷たい眼差しはそんな事を言っているようだ。

 

 初恋の娘は恩師を手に掛け、その手を笑顔で差し伸べてくる。

 恐ろしく無邪気で艶っぽい笑顔で。

 お前と同じになれたと言わんばかりに。

 

『このッ……クソガキがぁ!!』

「出ていけッ……ゲス野郎!!」

 

 二人の鎧は完全に砕け散り、残骸の散らばる空間に二人の少年がちっぽけな意地の張り合いで喧嘩をしているような様だった。

 傍から見ればどちらが結でどちらがファントムか見分けがつかない。

 ただ呆然と見ているだけだった一夏は、今になってどっちが誰なのかわからなくなっていた。

 

『言えよッ! 生きたいってよぉ!!』

「先生の居ない世界なんて……! 生きてても意味無いじゃないか!」

 

 

 同じ顔。

 

 同じ声。

 

 同じ背丈。

 

 同じ機体。

 

 まったく瓜ふたつの少年。

 

 鏡合わせのような見た目で性格こそ正反対のような二人だが、互いに激昂し衝動的な殺意に満ち満ちた今の相貌では見分けなど付くはずがない。

 

 

「お前なんか……!」

『お前なんか……!』

 

 骸のような外骨格を軋ませながら、二人の少年は立ち上がる。

 散らばった破片を手繰り寄せ、片方は逆手に、片方は準手に持ち変え、血反吐混じりの口元を拭いながら足場を踏みしめる。

 

 最後の一撃、それを悟った一夏は一目散に飛び出し、投げ捨てられたガントレットを掴んで二人の間に割り込もうと駆け出す。

 

 間に合ってくれ……!

 

 願いながら【白式】を装着し、なけなしのシールドエネルギーを全て推力に充て、まっすぐに飛び立つ。

 

「居なくなればいいんだ!!!」

『居なくなればいいんだ!!!』

 

 振り下ろされた歪な刃。

 残酷なまでにゆっくりと進む視界の中で、結の刃は空振りに終わる。

 

 

 

「頼む、結……死にたいだなんて……言わないでくれ……」

 

 

 結を胸中に抱き締め、一夏は嗚咽を漏らしながら語りかける。

 一言一句紡ぐたびに声は上擦り、奥から奥から涙は止まらない。それでも一夏は少年を抱き締める腕に一層力を込め、力強くだきよせる。

 

 だが。

 

 

 

 

 

「は?」

 

 

 

 

 冷たい、重く冷たい刃物のような返事が返ってくる。

 思っていた返答は違ったからだ。もっと朗らかに泣きじゃくるこどもを思っていた。だが違った。そんな生温いものなんて無かった。

 濡れた包丁で腹を刺されたような感覚さえ覚えながら、一夏は荒い呼吸を押し殺しながら必死に抱きしめるものを恐る恐る目で捉える。

 

「生きろだって? 先生の居ない世界で?」

 

 背後からの流し目でこちらを見上げる少年。

 カッと見開いた片目からは筆舌に尽くしがたい激情の渦を感じられ、深く暗い瞳孔の黒が真っ直ぐにこちらを睨みつける。

 そこにあるのは憎悪か、激怒か、少なくとも有情な返答なんてものでは無い。明らかな敵意。確かな反発。認めない、許さない、そんな絶対的な拒絶の意志がありありと伝わってくる。

 

 

「死ぬ事を奪われたぼくが?」

 

 

 その言葉は氷のように冷たく、しかし冷え切った言い方の奥に焦土のような焼き焦がれた憤怒の熱を帯びていた。

 蛇に睨まれた蛙のように縮こまる一夏。抱き締める腕から徐々に力が抜け、だらしなく寝そべる彼の腕の名から少年はゆっくりと這い出る。ボロボロの体を抑えながら、汚泥のぬかるみから逃げるように辟易しながら抜け出す。

 

 

「そんな酷いこと言うんだ、お兄ちゃんは。」

 

 

 一夏に触られていたところを手で払いながら、結は青く冷たい視線で無様に涙を流したまま、瞬きも忘れて呆然と寝そべったままの一夏を見下ろす。

 まるで家畜の豚でも見るような視線。おおよそ絶対に人を見る目ではない。そんな少年から向けられる冷たい目に恐れ慄き、全身の血液がぎゅっと腹に向かって引いていく。頭からつま先までが一瞬で冷え切り、顔はすっと青ざめ、視界はモノクロに点滅する。

 

 

 全てに絶望した結に、今更になって選択を間違えたと感じた一夏。

 だがもう遅い。

 

 横たわる一夏を跨いで、結はずかずかとファントムの所まで戻る。

 

 

「ち、ちが……俺は、ただ……っ!」

 

 

 ふと意識を取り戻した一夏が今更になって必死に手を伸ばすが、伸ばした手は彼の腕を掴むこともできず空を振り、緊張で乾いた喉はまともに言葉を紡ぐ事もできない。

 一夏の言葉に耳も貸さず、結は歩みを進める。一歩、また一歩と、進むたび、少年の体には絞痕や弾創、裂傷痕や打撲痕が全身に掛けて浮き上がる。

 その傷跡は少年が過去に幾重にもその命を絶とうと試みた証であり、また全てが失敗に終わった恥辱の痕でもある。

 

 

 

「そっか。そうか。お兄ちゃんもぼくにこれ以上苦しめって言うんだね? ぼくに汚いものを押しつけるんだね?」

 

 

 

 散らばる瓦礫を足で無操作に蹴飛ばしながら、結は小さな歩幅で歩みを進め、横たわる自分の分身、ファントムの所までやってくる。

 ぐったりと寝そべるファントムを鉄のように冷たい目で見下ろす結。床に捨てられた卵のようにべったりと寝そべりながら見上げるファントムは、ついに覚悟の決まった結の心の内を見て笑うしかなかった。

 

 

「来い、ファントム」

『……へっ』

 

 結が一声かけると、ファントムはニィと笑いながら飛び上がり、その姿をこどもの姿からISの機体へと変貌させ、歪な骸骨のような機体となって少年の躰に纏わり付く。

 

 結は首からぶら下がる盾の首飾りを毟り取り、それを一夏に向けて乱雑に放り投げる。

 心の支えを無くした少年は、深い絶望の谷底へと堕ちて往く。

 少年の心の奥底に燻っていた篝火は今や地獄の業火へと姿を変え、少年自身を焼き焦がす。

 

 

 

「わかったよ。」

 

 

 

 半ば吐き捨てるように、結は髑髏の口を開く。

 

 

「今度はちゃんと、お兄ちゃんがぼくを殺してくれるまで、それまでぼくは生きているよ。」

 

 

 髑髏の虚な双眸の奥から据わった視線が一夏へ向けて注がれる。

 まるで深淵から覗いてくる目に一夏は視線を逸らすことも出来ず、ただじっと動かぬままにその視線の針に貫かれたまま動けなかった。

 

 そのまま動けないままの一夏へ向けて、結は骨ばった機体の腕を振るい、節くれだった茨の蔓の指先を振ると、方々に散らばっていた壊れたマネキンたちが一斉に立ち上がり、おおよそ人の動きではない不審な挙動で一夏に向かって一斉に襲い掛かる。

 

 壊れた腕、吊るされた片足、半壊した頭。凹んだ虚には真っ暗な闇が覗き、ガタガタと軋む関節を鳴らして掴みかかってくる。

 

「くっ……離せ、離せよ!!」

 

 指が欠けた手で、あらぬ方へ曲がった腕で、一夏の腕を掴み、腰にしがみつき、足を絡める。その場から動かすまいと、結のもとへ行かせるまいと、マネキンたちは一夏を押さえつける。

 

 全方位から拘束され、身動ぎすら許されない状況でそれでも地を這い暴れる一夏。

 

 その間にも結は一夏の前から遠のいていく。

 

 

 また結を逃してしまう、そんな一夏の逸る気持ちなど露ほど知らず、突然その姿をこの夢想空間に表す少女が一人。

 

 

「結お義兄様、お迎えにあがりました」

 

 

 そこに突如として現れたのはクラシックドレスに身を包む、銀髪の少女。

 結の心の内に入り込めるのは心の主たる二人と侵入権限を持った一夏、もしくはこの世界を構築した人物であろう。

 

「お前は誰だ!」

「はじめまして、織斑一夏様。私はクロエ・クロニクル。以後お見知りおきを」

 

 落ち着いたクラシカルな格好にそぐわないようなメカニカルな装飾品を身に着け、上品な立ち振る舞いで舞い降りた銀髪の少女。

 その顔つきにラウラを重ねるが、常に目を伏せ、身に纏う雰囲気はあまりにも彼女とはかけ離れていた。

 

 手には豪奢な装飾が施されたステッキと、教本で何度か見たことのある四面体のクリスタル───旧式のISコア。

 

 そんな彼女に結は何も言わずに掴まり、背後に現れた扉を開けて縁を潜ろうとする。

 

「用も済んだため、本日はこれにて失礼致します」

「待て! 結を、離せ!!!」

 

 IS展開状態を解除し、生身の体に戻った結は何か言いたげな目で一夏を一瞥し、しかしまた背を向けて少女とともに扉の向こうへと去っていく。

 二人が抜けていった扉が完全に閉まると同時に一夏を抑えつけていたマネキンたちは一斉にがたりと力なく崩れ落ち、木材の山に埋もれた一夏はすぐさま山の中から這い出て二人が消えた場所に駆け寄るが、そこには既に何もなく、虚空に向かって腕を振るっても何も掴めない。

 

 

「……っクソォ!!」

 

 

 やるせない怒りのままに、わなわなと握り締めた拳を何度も地面に叩き付ける。

 主の居なくなった世界は次第に崩壊していく。地面は割れ、空は砕け、物は形を保てず砂になる。

 作られた模造の心の中で、結の願望だった世界の中で、一夏は慟哭とも思えるような唸り声を割れる空に向けて吼える。

 

「うわぁぁぁぁあああああああああ!!!!! がぁぁぁああああああああああ!!!!!!!」

 

 何もできなかった。

 引き止めると、何度誓って実行しても、何も成せず、得られず、果には愛想を尽かせて去っていってしまった。どれどけ手を伸ばそうとも指の隙間からすり抜ける彼の手は、求める事すら拒む彼の手は触れる事すら叶わない。

 

 崩れる足場に流されるまま、一夏は真っ白な虚無へと消えていく世界に落ちていく。

 

 何もしたくない……。

 いったい幾つ選択を間違えればいい……。

 

 助けたいと、生きていてほしいと願う事さえエゴだと言うなら、もうな何を選べばいいんだ……。

 

 誰に向けているのかもわからない憤りと果てし無い無力感が体中を駆け巡り、思考回路はまた堂々巡りに陥る。

 明確な拒絶を示されたのではもはや打てる術などありもしない。

 

「あれは……」

 

 そんな一夏の視界にキラリと光る物陰が一つ。

 それは結がずっと持っていたガーディアンの鎧が収まったペンダント。

 

 落ちる最中、酷くひび割れたそれにふと手を伸ばし、掴みとる。

 

 ぎゅう、と胸に握ったペンダントを押し当て、消滅する世界とともに一夏の姿も宙へと霧散していった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「落ちるっ!?」

「きゃあっ!?」

 

 果てし無い落下感から不意に感じた地面の感触に全身の毛がブワッと逆だって飛び起きる。

 あの空中落下が夢の中の出来事だと理解すると同じく、仮想世界から無事に帰還出来たのだと悟る。周りを見渡せば白飛びしそうなほど真っ白な部屋に、各所に等間隔に置かれた寝台は誰かが使っていたような乱れた後が見れる。

 

 そう言えばと声のした方を見ると、腰を抜かして転けた簪がなにやらブツブツ唱えながら眼鏡をかけ直して立ち上がる。

 

「……突然、なんの連絡もなく、追跡信号が途絶えたので、焦った……」

「あぁ、悪い」

 

 悪びれることも無くしれっと謝る一夏の剽軽な表情に青筋を立てる簪だが、彼が手に持っていたペンダントを見て怒りをぐっと飲み込む。

 

「それなに?」

「え?」

 

 それは今まで結が持っていたガーディアンのペンダントだった。

 ところどころヒビ割れ、今にも砕け散ってしまいそうなそれはしっかりと紐で縛られており、見た目とは裏腹に叩いた程度では割れなさそうな頑丈さを指先から感じる。

 

「なんで、あなたが持ってるの……?」

「わからない、けど、向こうで拾ったんだ」

 

 簪に指摘されるまでわからなかったが、それまで呆けたまま手の中のそれを眺めていた一夏は、すぐにこの事実があの仮想世界での夢事ではないのだと気づき、急いで寝台から飛び退く。

 

「ちょ、どこ行くの!」

「結が連れて行かれたッ!」

「はぁ!?」

 

 頭に疑問符を浮かべる簪を押し退けながら、一夏は盾のペンダントを握り締めて白い部屋を飛び出す。

 ちょうど同じく白い部屋に入ってきた千冬に結が攫われた旨を伝えると、険しい顔を浮かべる千冬に連れられ、隔離区画に通されるが、そこは既に蛻の殻で、狐にでも化かされたかのように何かを繋いでいた鎖の束が転がっているだけだった。

 

「遅かったか……」

「……クソッ!」

 

 憤りで震える一夏の隣で静かに、しかし確かに安堵したように息を吐く千冬。

 その横顔に結の処分の件について知っていた真耶は何も言えず目を伏せ、対して何も知らない一夏は不信感を募らせる。

 

「なんでそんなに落ち着いてるんだよ」

「………後で話してやる。まだ厳戒態勢は解けていない」

 

 千冬の指示で司令区画に戻る二人はそれぞれの思いを胸に秘めたまま、ポッカリと空いた部屋を後にする。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 学園島のはずれに、一人の少女が棺を背負って立っていた。

 未だ厳戒態勢の解けていない学園と海の向こうで小さくなっていく艦の姿を眺めながら、去り際を見極めていた。

 

「それでは、速やかにこの場から離脱します」

『……わかった』

 

 背後の棺に声を掛けると、何処か啜り泣くような声で返事が返ってきた。彼女には別れというものがわからない、が、少なくともこの少年にとっては悲しいものであると推察するだけの思慮があった。

 

 少女は棺をISの格納スペースに仕舞い、文字通りその場から姿を描き消す。まるで最初からそこには何も居なかったかのように、不気味なほど静かな静寂だけが残る。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

『上代 結の処罰報告』

 

『所属不明の武装勢力に襲撃される』

 

『乱戦に見舞われ、死亡』

 

『よって学園所属の登録を抹消』

 

『経過観察の記録はIS研究機関に共有する事』






 超お久しぶりです。
 3ヶ月ぶりくらいですかね。

 仕事だったり他の趣味だったり構想を練っていたりと暇と時間を費やしていたらいつの間にかまた期間が開いてしまいました。
 すみません。

 さてさてついに結が学園サイドから離脱してくれましたので、これからは結×マドカをメインに書けられるかと思います。おねショタです。


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