IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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 なんとなく書きました。
 遅まきながら五十話突破記念ということで。
 





番外編 大きくなった結

 いつも通りの平日の朝。

 特に変わらず寮の自室を出て食堂で朝食を済ませた一夏はその足で真っ直ぐ自分の教室に向かった。

 

 戸を開けば見慣れた顔触れが何人か教室に来ており、お互い顔を見合わせて知ったように挨拶しあう。

 

「おはよう織斑君!」

「おう、おはよう」

 

 教室の、いやこの学園の生徒のほぼ全員が女子であり、右も左も異性に囲まれてどうなるかと思っていたが、案外なんとかなっている。

 

 加えて唯一の同性であるもう一人の男性操縦者は年端もいかない幼子で、頼るどころか頼られる立場だと思うと肩身が狭かった。

 

 最初は人見知りの激しかった彼も、今では滞りなく話せるくらいには仲良くなった。

 

「おはよう、一夏」

「おう、結。おは……」

 

 あれ、結の声ってこんな低かったっけ。

 てか俺の事呼び捨てだったっけ、お兄ちゃんとかつけてなかったか?

 

 振り向くと自分と同じくらいまで大きくなった結が、当たり前のような顔でそこに立っていた。

 歳のほど十五、六ぐらいか。高校生ぐらいまで大きくなった結はいつものようなあどけなさが薄れてガッシリとした体型にこそなっているが全体的な線の細さは変わらず男よりの中性的な印象は残っていた。

 

「結!?」

「どうした? 一夏」

 

 お前なんでそんな平然としてんだ?

 でかい、俺と同じくらい。いや少し小さいか?

 

 物陰に隠れて此方を見ていたような引っ込み思案な雰囲気は欠片もなく、メチャクチャフレンドリーな態度で話しかけてきたのでびっくりした。

 

「誰だお前は!」

「結だよ。大丈夫か一夏?」

 

 突如として成長した弟分のようなものだった結に頭の心配をされたが、そんなことを気にしていられるほど余裕はなく、目の前の出来事を受け止めるだけのキャパシティーが今の一夏には無かった。

 

「どうした、朝から騒がしいやつだな」

「箒、結が、結が、でかい! でかくなった!」

「何がでかいと……誰だお前は!?」

 

 一夏に振られて見た先に居た結の姿を二度見する箒。

 

 頭から爪先までを二往復し、もう一度一夏を見てエリを掴んで引き寄せ内緒話に持ち込む。

 

「どういうことだ!?」

「俺に聞かれても知らねぇよ!」

 

 突然の出来事に箒は取り乱しながらも原因を追求するが悲しいかな、一夏としてもそんなことがわかるはずもなく二人揃って……否クラス全体が騒然としていることから事実を受け止めきれてにいなかった。

 

 あまりの騒がしさに耐えかねたらしい二組の鈴が不機嫌気味に一組へ文句の一つでも垂れるべくズカズカとやってきて来た。

 

「ちょっとアンタら朝っぱらからうるさいのよ……あんた誰よ!?」

「結だよ」

「誰に許可とってアタシよりでかくなってんのよ!!」

「知らないよ」

 

 何故許可が必要なのか、そもそも何に対しての許可なのか、当の結は検討もつかないと言わんばかりに肩をすくめて項垂れながら背伸びをして結に吠える鈴の相手をしていた。

 

 そうこうしていると後からシャルロットとラウラが教室に登校してきて皆と同じように大きくなった結に驚愕していたが、ラウラは然程気にすることなくふてぶてしく腕組みをしながら顎に手を添え、まじまじと結を見上げていた。

 

「結なのか? にしては随分でかいな」

「そうかな、いつもと変わらないよ」

「解釈違いだ、出直してこい」

「酷くない?」

 

 あまりの塩対応にしょんぼりと涙ぐむ結の頭を気に食わないとペシペシ叩くラウラ。

 そんなラウラを引き上げて彼女の猛攻から結を救うシャルロットは感慨深く結を見上げながらため息をつく。

 

「はえ〜……大っきくなっちゃったね結」

「もともとこんなだったでしょ」

「いやいや、僕の知ってる結はもっとちっちゃくて可愛かったのになぁ。なんだか寂しいよ……」

「なんだかなぁ」

 

 そんな時に一組に現れたのは四組の簪。

 本音のメール着信を受け、渋々やってきた彼女は本音のメールに記載されてあった目の前の謎の男子生徒に訝しげに近づいてじとー、と眺めているとその雰囲気からこの男が結であることに気がつく。

 

「え、結?」

「そうだよ」

「抱っこ出来ない……」

「抱っこならぼくがするよ」

「ちがう、私がしたい。あの丁度いいぬいぐるみ感覚の抱き心地が良かったの。あの感覚を返して」

「わがままが過ぎるよ」

 

 そうしていれば予鈴がなり、急いで各々の教室に戻る他組の生徒たち。

 入れ替わるように教室に入ってきた副担任の真耶はクラスのものによって目の前に突き出された男子生徒、結を見て一瞬驚いたように硬直したが、やがて嬉しそうに頬をほころばせながら結に訊ねる。

 

「結ちゃんですか?」

「そうだよ真耶先生」

「わぁ、まぁまぁ。大きくなりましたねぇ」

 

 真耶は少し背伸びをしながら結の頬に手をあてがい、少し擦ってから頭に掌を移し、優しく撫でてやる。

 結は恥ずかしそうにしながらも拒絶はせず、あくまで真耶の手を受け入れされるままに頭を撫でられていた。

 

「なんか、恥ずかしいな……」

「そうですか? 何も変わりませんよ、ふふ」

 

 もしも結ちゃんが大きくなればこんなふうになるのでしょうか。

 少しだけ大人びた教え子の姿を拝むことができてどことなく嬉しさが溢れる真耶。

 これは夢なんでしょう。だからこんなにも嬉しい事が起きるんです。

 

 もっと見ていたいけど、結局は夢だから、本当はまだまだ子供で、手がかからないようで手のかかる愛おしい男の子がいるから。

 

「また、そのカッコイイ姿を見せてくださいね、結ちゃん」

 

 それまでは

 

 

 

 …………

 ……… 

 ……

 …

 

 

 

 ぱちりと目が覚め、ベッドから飛び起きた一夏は時計の数字と日付を確認し、洗面所で顔を洗いついでに頬を強めに打って目を覚ます。

 

「ゆ、夢……?」

 

 良かったような、そうじゃないような……。

 その日ほとんどの生徒が同じ夢を見たとしてすこしふしぎな話題になったが、話の中心であった結は夢を見ていないと証言し、怪奇現象のような一連の出来事は一時期学校新聞の一面に掲載されるほどの話題になったとか。




 夢オチって楽でいいですよね。
 もしも結が大きくなればどうなるんでしょうか。

 ではでは。
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