IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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 if番外編。
 今回のは結と真耶が同棲してます。

 ではでは。


お義母さんといっしょ

 携帯電話から目覚ましのアラームが鳴る。

 いまわしく長方形の画面を操作し、しかめっ面で黒く光る時間アプリの画面を睨みつけ、手探りで見つけた眼鏡を掛けて起き上がる。

 

 重たい上半身をぐぐっと反らし、部屋のカーテンを開いて朝市っ番の日光を全身に浴びる。

 身体に染みわたる陽光がじわじわと眠気を覚まし、暗がりに慣れきっていた瞳の奥がじんわりと痛みを伴いながら潤いをもって覚醒していく。

 

 一度深呼吸してしまえば、身体からはすっかり眠気が抜けてしゃきっと背筋が伸びる。

 そうしたところで再びベッドに戻り、未だに掛け布団にくるまっている彼に手を添えて優しく囁く。

 

 

「朝ですよ結ちゃん」

「んう⋯⋯」

 

 軽く揺すってやると、少年は小さな身体を起こして開ききっていない瞼をしばしばと細くさせていた。そんな彼を抱き寄せ、揺り椅子で赤子をあやすように前後に振れてやる。少年は細い腕を私の身体に回してひしとしがみついており、まだまどろみの中に居ることだろう。

 

 なので少し強めにぎゅうっと抱き締めてやる。

 私のデカい胸に彼の顔がずっぽり収まり、呼吸の熱がパジャマ越しに伝わってきてくすぐったい。

 それでようやく目が覚めたのか、少年は開ききってない寝ぼけまなこを半目に開き、胸の谷間から顔を覗かせてきた。

 

「ぉあょうごじゃいまぅ⋯⋯」

「ふふ、おはよう。結ちゃん」

 

 胸の中でもぞもぞとおくびをされるものでくすぐったい。まるでネコかなにかのようでそれがまた愛おしくもある。

 だが忙しい日本の朝にあまり悠長にしてはいられない。

 

 私は正しく猫のように少年を持ち上げ、ベッドから降ろす。

 背中を押しながら洗面台まで連れて行き、朝の冷水で顔を洗えば眠気も汚れも流れ落ち、頭がきりりと引き締まる。

 私が歯磨きをしている横でワンテンポ遅れて洗顔をし終わった少年も歯ブラシに歯磨き粉をにゅるりと少量たらし、口に突っ込んで泡立てている。

 そんな彼を横目に口を濯ぎ、私は早々に台所へ向かう。

 

「朝ご飯作ってきますね。歯磨き終ったら来てね」

「ふぁい⋯⋯」

 

 少年はまだ目覚め切っていない。が、彼はごはんを前にすると目が覚めることを知っているので、内心は憎たらしくも愛らしく思ってしまうのは親心か、それとも世話焼きか。

 

 角型のフライパンを火にかけ、少量の油を敷いて温める。

 その間に食器を並べ、食パンをトースターに差し込みレバーを押し込んで焼く。

 冷蔵庫から卵とウィンナー、青菜の和え物を取り出し、卵を二つ熱したフライパンに落として焼いていく。ぱちぱちと油が弾け、端の白身からじわりと色味が付いてくる。

 黄身が焼ける手前に片方はフライ返しで掬い出し、もう片方はひっくり返して両面じっくりと固焼きにしていく。

 どうにも少年はカタい歯触りのものを好むらしく、というより下手に柔らかいと噛まずに飲みこむ癖がある。改良を重ねる段階で目玉焼きも両面焼きなるものが有ることを初めて知った。

 

 

 もう片方も焼き終え、空になったフライパンに今度はウィンナーを数個転がして焼いていく。

 冷蔵されていただけあり火の通りはそれほど早くはないので、焼ける間にタッパーから和え物を二皿に同じだけ盛り付ける。それとプチトマトもついでに洗って転がしておく。

 

 そうしていればトーストが焼け終わり、取り出すころにはウィンナーも火が通って焼き目をつけていた。

 

 全てを一つの皿に盛りつけ、二枚の朝食を食卓に並べる。

 

「ごはん⋯⋯」

 

 丁度歯磨きの終わった少年は目元を擦りながら現れる。

 

「さ、ごはんですよっ」

「いただきます⋯⋯」

 

 小さなちゃぶ台を挟んで二人、私はコーヒーを、彼は牛乳を飲みながら、朝食に手を付ける。

 

 まだ眠そうにしていた彼だが、トーストを齧り、フォークでウィンナーを一本食べると落ちていた瞼が次第に起き上がり、活力が湧いてきたようで彼の食べる速さが少し上がる。

 和え物も目玉焼きも一緒くたにめいっぱい頬張り、それを牛乳で流し込む。

 トーストを三口ほど齧ってはバリバリと咀嚼し、ウィンナーとまとめてごくんと飲み込む。

 

「もっと落ち着いて食べてもいいんですよ」

「だって、んぐ。美味しいんだもん」

 

 そんなことを言われると弱ってしまう。

 でもマナーとかあるし⋯⋯でも本当に美味しそうに食べるなぁ⋯⋯。

 

 半熟の目玉焼きをトーストと一緒に齧り、もどかしさ半分嬉しさ半分で悩ましい。

 

 一心不乱に食べ物を見つめ、大きく上下する顎は確かにごはんを噛みしめていた。

 手早く用意した朝食はキレイに皿から無くなり、流し台に食器を付けてまた歯磨きを。

 

 

 冷食や作り置きのおかずとごはんを詰め込み、二人分のお弁当を包んで鞄に収める。

 

 私は制服替わりにキャミソールにとワンピースを纏い、寝癖を整えて眼鏡を掛けなおす。

 彼も背丈にあった小さいパーカーと制服を着こみ、バックパックのように改造された通学鞄を背負って靴を履く。

 

「それじゃあ、行きましょうか」

「ん。行ってきます」

「いってらっしゃい。いってきます」

 

 何とも奇妙な会話。

 変だと思いつつ、この部屋が私の彼の帰る場所だと思うとなんだかしっくりくる。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 学校での生活は半分程が彼との生活になる。

 と言うのも、彼の学習プログラムはどうしても小学生用のものになるので、ISの専門分野以外は別教室にて教育が行われる事になっている。

 

 そして、それを担当するのは副担任である私。

 高校に就任して小学校の内容を教えるとは思ってもみなかったが、彼の学習能力の高さもあり、それほど難しくはないので助かっている。

 

 

 今日は朝から昼まで彼との対面授業。

 二人きりの教室はやたらと広いので、教卓は殆ど使わず彼の向かいの席に座って教える事が殆どだ。

 

「ここはこの文章をよく読むとわかりやすいですょ」

「んん〜……」

 

 読解力に多少壁を感じているものの、基礎問題と暗記に関しては人より覚えがいいのは若さ故の記録力か、それとも彼の頭の良さか。

 

 二人では手に余る広さの教室で、中央の席に並んで座って勉強を見る。

 他の教室も当たり前に授業中なので、学園全体は静かで、遠くから聞こえるアリーナの喧騒が他人事のように響いてくる。

 

「解けた!」

「どれどれ〜? ……うん、正解です!」

 

 問題集の回答欄に丸をつけ、よくできましたと手厚く褒める。

 少年は気恥ずかしくはにかみながらも私の抱擁を受け止めくれる。

 

 今日の授業範囲が終わったところでちょうどチャイムが鳴り、そかかしこから号令の掛け声が聞こえてくる。

 そして昼休憩の時間になり、いつにもまして生徒たち姦しい声が学園のあちこちから聞こえてきた。

 

「それじゃあ私達もお昼にしましょうか」

「うんっ」

 

 簡素に作ったお弁当。

 中身は二人とも変わらないが、朝とは変わって米が主食の和風な中身。

 最近になって箸の使い方覚えた結は、まだあどけない手つきで箸を握り、弁当の中身を恐る恐る食べる。

 

「ん、ん、美味しいっ」

「良かったです!」

 

 中身はシュウマイやアスパラベーコン、葉野菜の浅漬けや卵焼き。

 ご飯には玉子ふりかけをまぶし、彩り豊かな出来栄えに満足していたり。

 

 二人で同じ中身の弁当をつつき、残り少ない昼休憩を名残惜しく思いながらも午後の授業に向けてそれぞれ移動する。

 

 と言っても荷物をまとめて本教室である「一年一組」に戻るだけだが。

 私は教員なので一度職員室に戻り、座学のための教材を揃えて教室に向かう。

 

 ようし、午後も頑張るぞっ!

 

 

 ◆

 

 

 学校も終わり、私は明日の課題などの準備や事前予習のため、職員室にて教本やプリントに目を通す。

 明日は専門教科が多い日なので、入念に調べておかなければならない。

 そうして予習も済まし、そそくさと荷物を纏めて私は早足に職員室を後にする。

 

「それではお先に失礼しますね」

「あぁ、お疲れ様。山田先生」

 

 織斑先生に見送られながら、私は自分の寮に戻る。

 帰ると先に帰宅していたらしい少年が、宿題に手を付けていた。

 

「真耶先生、おかえりなさい」

「ただいまっ、結ちゃん」

 

 一緒に宿題もみてあげようともしたが「一人でできるもん」との事なので私は台所へ撤退。お夕飯を作ることにした。

 

 手を洗い、エプロンを巻き、調理器具を戸棚から出す。

 

「よしっ」

 

 冷凍していた白米をレンジで温め直し、その間に玉ねぎ、鶏肉を刻んでフライパンで炒める。グリンピースも投入し、そこに解凍が終わった米も入れてケチャップを適量。

 

 簡単に作ったチキンライスを二枚の皿に楕円形に盛り付け、卵と水、砂糖を少々かき混ぜてフライパンに投下。

 じゅわりと焼ける卵液を軽くかき混ぜ、底が固まり始めたところで卵液を包み、ほいっとひっくり返してふわふわオムレツを作る。

 オムレツを割らないようにゆっくりとチキンライスの上に乗せ、同じものをもう一つ作って並べる。

 そして重ねたオムレツの背に包丁を入れ、まっすぐに縦に割ってやると、中から半熟の卵がふわりと広がってチキンライスの山からなだれ落ちる。

 

 レタスを千切って残っていたグリンピースも混ぜ、切ったトマトも添えてドレッシングを回しかける。

 

「結ちゃん、お夕飯にしましょう!」

「はぁい」

 

 ちゃぶ台に並ぶオムライスとサラダ。

 湯気を立てるオムライスを前に、子どもらしく目を輝かせる結にスプーンを差し出し、二人で合掌して食べ始める。

 

「いただきます!」

「いただきます」

 

 ふわふわオムレツは簡単にスプーンで解け、朱色に染まったチキンライスと一緒に掬った結は、大口を開けてそれを頬張る。

 大人用のスプーンでは食べづらいかと思えたが、彼はそれでも口端をスプーンの湾曲に沿わせて抜き取り、口の中でじわりと溶けるオムライスに嬉しそうに舌鼓を打っている。

 

 一口分のオムライスを飲み込み、彼はきらきらした目のまま私に向いて感想を述べてくれる。

 

「美味しい! すっごく美味しい!」

「うふふ、よかったです」

 

 素直な感想がこんなにも嬉しいとは思わなかった。

 実に美味しそうに食べる姿に私も良い気分のままオムライスを食べ終える。

 

 その後、二人で食器を洗い、宿題の丸付けを済ませてお風呂に入る。

 

 一人で入ると聞かない少年を担ぎ上げ、スポンと、服を脱がせて風呂場に入れる。

 少年を自分の膝に座らせ、全身くまなくお湯洗いで濡らしたあと、頭からつま先まで丸洗いしてやる。

 

 お湯をかけられる頃には大人しくなってしまうので、扱いが楽だと言うと聞こえは悪いがその通りなので仕方ない。

 

 自分も体を洗い終わり、二人揃って狭い湯船に浸かる。

 足も伸ばせない個室の風呂だが、バスタブがあるだけまだマシか。

 

 彼を胸の浮袋に挟み、前後並んで足を折り曲げながら浸かる。

 

「ふぅぅ〜〜〜……極楽〜〜〜〜………」

「一人で入れるもん」

 

 少し根に持ってるのかまだ強気な事を言っている少年ををぎゅっと抱きしめる。

 

「それじゃあ今度は一人で入りますか?」

「施設にいた頃はそうしてたもん」

 

 ぷぅと膨れる彼の濡れた頭を撫でながら話を水に流し、体の芯まで温もったところで浴槽から上がる。

 その頃には彼もすっかりふやけて若干舟を漕いでいた。

 

「にゃむ……」

「寝るならお布団に入ってからにしましょうね」

 

 少年に歯磨きをさせている間に髪を乾かしてやり、ベッドに包ませている頃には寝息を立てていた。

 

 私はまだ寝るには早い。

 明日のご飯の下ごしらえや授業で使うものの準備を済ませ、その頃には既に夜遅い時間になっていた。

 さぁ寝ようと寝室の戸を開けたら、そこにはちょうど起きてしまったらしい少年が立っていた。

 

「ん……どうしました、結ちゃん?」

「眠れないの、真耶先生……」

 

 見ると眉をハの字に垂らし、潤んだ瞳で弱々しく見つめくる少年の顔が映る。

 

「私も今から寝るので、一緒に寝ましょうね」

「うん………」

 

 彼を抱き上げ、暗いベッドに二人で潜り込む。

 横になれば少年はすぐさまひっついてきて、啜り泣くような声を押し殺して泣いている。

 

 幾度となく悪夢に苛まれ、出会った当初はしょっちゅう気絶していたような彼だが、こうして一緒に寝るようになってからは悪夢で起きてしまう事も少なくなってきていた。

 

 けれど、たまにこうして寝付きが悪い日もある。

 なのでそんな時、私は決まって彼を抱き締めてあげるのだ。

 

「ぎゅ〜〜〜♡ ふふ、どうですか?」

 

 少年の頭と背中に腕を回してしっかりと抱き寄せ、彼の下半身も太ももに挟んで全身ガッチリホールドし、割と強めにハグしてあげる。

 機体に乗れば強い彼も、身一つになれば歳相応に弱々しくなってしまう。そんな弱さがちゃんとこの子も人なんだと思い知らされるようで、寧ろ安心できる。

 

 人肌の温もりに包まれながら、安らぎに満ちた寝息を立てるまでそうしてやると、私のパジャマの裾を掴んでいた彼の小さな手から力が抜けていくのを感じる。

 

「んぶぅ……」

 

「寝ちゃいました? ……おやすみなさい」

 

 さっきの怯えも何処へやら、すっかり安心しきって寝入ってしまった彼に続き、私も瞼を落として少年を湯たんぽ代わりに抱いて眠る。

 子供の体温は高いと言うが、存外心地良い温もりで、彼と同衾するようになってからの寝付きは結構良い。

 

 さて私も意識を手放そう。

 そうして深く沈んでいく思考に身を委ねていると、胸元の彼から何やら寝言が聞こえてきた。

 

「ん……お、かぁ……さ……」

 

 そう言いながら、結は私の背中に回している手に力を込める。

 しがみつくように、離れたくないと言わんばかりに。

 

「………私、頑張るね、結ちゃん」

 

 どうしょうもなく切なくて、愛しくて。

 それでも、彼に慕われる事がとても嬉しくて、私は無意識に流れる涙で枕を濡らし、不格好な笑顔でこの子を抱きしめる。

 

 大好きだよ、結ちゃん。






 どうも。
 特に本編がどうとか関係なく、最近買った新車が廃車になって車を新規契約した腹いせに書きました。
 一応無事でした。

 ではでは。
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