IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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 ワッフルワッフル。


十七話 少年と彼らの溝

 学園地下。

 

 照明の落とされた会議室のような部屋の中で、スクリーンに映された映像を頬杖を付きながら見る楯無の姿があった。

 

「これが上代 結の、本当のIS⋯⋯」

 

 スクリーンには学園を襲撃した二機のうちの片方を、馬乗りになって殴っている結のガーディアンが映されていた。

 

 装甲は所々ヒビが入って砕け、剥がれ落ちている所もある。

 そしてガーディアンの下に、剥き出しになったフレームに紛れて小柄なISの姿が垣間見える。

 それは見間違い等ではなく、頭部の甲冑が砕けたときに見えた髑髏の眼孔がのぞいていたことで確信した事実だった。

 

「ISの中にISか⋯⋯いや、あの鎧はそもそも外部パッケージなのかしら?」

 

 機体情報が極端に少ない彼のISは、何世代かも分からない故に性能を測ることが難しく、IS自体が結と同化している状況にあるため、無闇矢鱈と手出しができない。

 

 ついでに言えば楯無が余計な真似をしたおかげで彼女に対する結の不信感がバリバリに働いているため、近づくことすら叶わない。

 

「さて、何から始めようかしら」

 

 パチリと閉じた扇子をもう一度開く。

 

 そこには『属目』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 ガチリ、と神経が連結する音がした。

 

 目が覚めた。

 

 場所はどこだろう。

 

 頭と全身を真っ白なベッドに包まれる柔らかさの中に、背中の一部分だけ固いものが背骨を圧迫している。この嫌な圧迫感こそ自分の持っているISの待機形態であり、自分が生きるために必要なパーツ。

 

 上を見上げる視界の右側に見えるのは、自分の名前が書かれた液体の入った袋と、その下に繋がれた透明な管は液溜まりを通って自分の腕に繋がれている。

 

 

 起き上がろうとして体に力をいれたら、全身から裂けるような痛みがして、持ち上げた頭が枕へ落ちる。

 

 目を動かして見える限りの視界から情報を得る。

 

 白い簡素なベッド、それを囲むようにしてかけられた同じ色のカーテン、天井も白く、カーテンから差し込める光は黄金色をしていてやたら眩しい。

 

 今度は手をついて起き上がろうとして、それも憚られた。

 

「手錠⋯⋯?」

 

 小さな少年の両手に掛けられた、あまりにも似つかわしくない鉄の輪。そして右腕にはリストバンドが填められており、バイタルチェックかそれとも監視用か、淡い光を放っていた。

 

 それらを一瞥し、記憶を思い起こす。

 

 あのISがピットの中に入ってきて戦闘になったあと、記憶が大分飛んでしまっている。

 ただ、フーと入れ替わってしまったので、良くないことになっているのはこの手錠を見ればわかった。

 

 それと、夢の中でみた一夏の姿。

 

「⋯⋯」

 

 あれが現実なのか、それともただの夢なのか。

 

 ただひたすら嫌な予感しかせず、出来る限り考えないように努めて結は体を無理やり起こして何かしようと辺りを見回す。

 

 枕元には盾のペンダントが置かれており、制限に制限を重ねられた腕を何とか伸ばし、ペンダントを手繰り寄せてなんとか掴んだ。それを胸元に添えれば、起きた傍から感じていた違和感が解消されてほっと息が漏れた。

 

 気分も優れてきてはいるものの、腹の中は空っぽで味覚もないのに飯を求め、泣いている。かと言って食べられるようなものは見当たらず、動くことも出来ないので、結は誰か来るのをベッドの上で待つことしか出来なかった。

 

 そして待つこと数分、カーテンを開けて真耶が入ってきた。

 

「結ちゃん、今日は起きてます、か⋯⋯」

「ぁ、真耶先生、おはようございます」 

 

 真耶はベッドで体を起こしている結の姿を見るや否やその場で硬直し、手に持っていた教材の類いをその場にばさばさと落としてしまった。

 

「へ、あ、あぁ⋯⋯」

 

 そして覚束ない足取りでベッドに歩み寄り、溢れる涙を気にすることもせず、ひしと結を抱き締めた。

 

「ょ゛か゛った゛⋯⋯ゆ゛い゛ちゃ゛ん゛、よ゛か゛った゛よ゛ぉ⋯⋯!」

「ぅえ、先生、ぐるじい」

 

 大の大人がおいおいと大泣きしている。

 泣きじゃくる鼻声と、ぐしゃぐしゃに濡れた顔を少年の肩口に押し込み、絶対に放さないとばかりに結を抱き締める真耶。それを目の当たりにして結はどうすることも出来ないので、泣き止むまでされるがまま泣きつかれることを選んだ。

 

 そのまま、真耶が泣き止むまで結は胸を貸し、圧迫される点滴の針も気にせず真耶の肩に頭を落とす。

 大人の匂いに、結は忘れられなかった懐かしさと寂しさを感じて鼻の奥が痺れた。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 それから結は自分がどれほど気を失い、時間が過ぎていたのかを聞いて驚き、それでいて妙に納得しているような顔を見せつつ事の顛末をじっと聞いていた。

 

「そうだったんだ、ぼくが、うん、うん⋯⋯」

「結ちゃん⋯⋯」

 

 ガーディアンの暴走、鈴のISの強奪、そしてガーディアンの拘束。

 

 何も覚えていない。

 

 いや、知っているのはもう一人だろう。

 

「そろそろ私は戻りますけど、何か欲しいものはありますか?」

「うぅん、平気。真耶先生も気を付けてね」

「っ、はい。頑張ります!」

 

 目尻に溜まっていた涙を払いながら、真耶は精一杯の笑顔を浮かべて病屋を後にした。

 

 

 そして入れ替わりで一夏と箒、セシリア、鈴が部屋に入ってきた。

 

「結!」

「上代、もう大丈夫なのか」

「結さん、ご無事でしたか!?」

「⋯⋯」

 

 それぞれ待ち焦がれて慌てていたり、そんな中で平静と保とうと上がる感情を抑えながらも食い気味になっていたり、はたまた何も言わず、距離を取っていたりと様々だった。

 

「おはよ、お兄ちゃん、お姉ちゃん」

 

 かすれ気味の喉を震わせて、病室に入ってくる四人に向けて出来る限りの笑顔を浮かべる。

 体を起こし、言葉を交わし、笑顔を浮かべる結を見て全員は安堵するが、手錠を見つけて怪訝そうな顔をする者と、理解しつつも受け入れられない者とに別れる。

 

「結、それは……」

「お兄ちゃんなら分かるでしょ」

「そりゃ、そうだけど……」

 

 あくまで平然としている結に一夏は歯切れの悪い返事しか出来なかった。他の三人も何も言わず、鈴だけは結に目線を合わさず二の腕を掴んでいた。

 

「ごめんね。一夏お兄ちゃん、鈴お姉ちゃん。ひどいことしちゃったみたい」

「結……」

 

 あくまで記憶はなく、他人事のような物言いをする結に鈴は抱え込んでいた感情を爆発させてしまう。

 

 

「なんでそんなに平然としてられんのよアンタは!」

 

 

 その場の全員が凍りつく。

 この事件で一番被害を被ったのは恐らく彼女だろう。

 親しみを持って接していた子供に裏切られ、自身のISを奪われた。学園に来た当初からやや不安定気味だったメンタルは既に限界を迎えており、もう投げやりだった。

 

 結は肩を跳ねさせて俯き、何も言わず鈴を見て苦笑いを浮かべる。

 

「……ごめんね、鈴お姉ちゃん。ごめんなさい」

「アタシ先に出てる……」

「あ、おい、鈴!」

 

 鈴はやるせなくなって、早足で病室を出ていく。

 一夏は一度結を見て、それでも微笑みを崩さない少年になんと声を掛けたらいいのかわからず鈴を追い掛けていった。

 

「お姉ちゃん、少し、一人にして」

「上代⋯⋯」

「お願い」

 

 掠れそうな程小さくなる結の言葉に、残された箒とセシリアは何も言わずに部屋を出ていった。

 遠退いていく足音が聞こえなくなったところで、結は毛布を強く握りしめ、枕に頭を落とす。

 

 

 あぁ⋯⋯またか⋯⋯。

 

 昔、施設にいた頃の記憶が甦る。

 検査と称して行われる何かがあるときは、決まって記憶が飛んでいた。

 

『人殺し!』

 

『お前なんかいなければ⋯⋯!』

 

『アイツを返せよ!』

 

 そして検査がある度同じ施設にいた子供は数を減らし、中には大怪我を負っている子供からは罵詈雑言を浴びせられた。

 

 最初はどうしてそんなことを言われるのかわからず、ただただ泣いていた。

 だが、フーの存在を知ってからは何もかもを覚ってしまい、死のうとしたが、それを見つけた先生は大泣きしながら止めてきた。

 

『結、君のせいじゃない。君は何も悪くない。だから、こんなことはもうしないでくれ⋯⋯』

 

 そんな恩師の言葉を愚直に飲んだ結は、その後どれだけ非難を浴びようとも、自ら命を断つことは無かった。尤も、もしそんなことに臨もうとすれば、背中に埋まったISが勝手に阻止していたことだろう。

 

「なんでこうなっちゃうんだろう⋯⋯」

 

 

 ねぇ先生。

 ぼくはまだ、生きていないとだめですか。

 

 

 

 手錠の鎖を撓ませて腕で目元を隠し、勝手に流れる涙を静かに拭った。

 

  




 悪いのは誰なのか。
 盛り上がってまいりました。
 どうなるんでしょうね。キニナルー。

 ではでは。
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