IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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 半分くらいキャラが勝手に動いて書きました。


二十二話 少年の拠り所

 翌朝。

 

 教員寮、真耶の部屋。

 

 目が覚めた結は、目の前に人が居ることに一瞬驚いて自分が何処に居るのかを思い出してから落ち着く。

 

 なんとか真耶の腕のなかから這い出てきた結は、カーテンの隙間から差し込む朝日を半目で眺めたあと、持ってきていた着替えに袖を通して忍び足で部屋を出ようしたが、なんと起きてきた真耶がそれを見つけて早々に捕まえられる。

 

「おはようございます結ちゃん」

「おはようございます⋯⋯」

 

 後ろから腹に手を回されて抱き上げられ、逃走阻止されたことによって力なく項垂れる結を部屋の奥に連れ戻す真耶。

 

「何処に行くんですか?」

「学校に⋯⋯」

「ふーん」

 

 まじまじと至近距離で結を見つめる真耶に、結はばつが悪そうに視線をずらして横を向く。

 

「だめです」

「えっ」

 

 まさかゴーサインが出ないとは思っていなくて、呆気に取られる結を真耶はそのままお姫様抱っこで持ち上げてまたベッドに横たえさせる。

 

「病み上がりなんですから、あと一日は大人しくしなくちゃいけませんよ」

「でも、もう」

「寝てないと怒りますよ」

「⋯⋯はい」

 

 大人しく布団に潜る結の頭を、優しく撫でる真耶はにっこりと微笑んで朝食を作るべく台所に向かった。

 

 手早く用意された朝食を早々に片付けた結を真耶は寝かしつけて着替える。部屋を出る前に、真耶は結を力一杯抱き締めてブーツを履いて玄関扉を開ける。

 

「なるべくはやく帰ってくるので、ちゃんと寝ててくださいね」

「うん」

「それじゃあ行ってきますね!」

「いってらっしゃい、真耶先生」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 四組教室。

 

 早くから登校した簪は、ホログラムディスプレイの代わりとして機能しているメガネの奥に映るプログラミングの画面を見つめながら手元のキーボードを叩く。

 

 そしてその片手間に、昨日の出来事を思い出していた。

 

 

 少しだけ気になって覗いた病室で、ただ運んだだけの少年に感じた暗い感情に自分と似通ったなにかを感じた簪。

 先生に頼まれた忘れ物を届ける口実で少年を追いかけ、なんだかんだ姉と口論になってしまい、少年を自分の部屋へと連れ込んでいた。

 

 人見知りの強い性分だとは思っていたのだが、ここまで心を許したのは何故だろう。

 

 病室で積まれた大皿の山は明らかにあの小さな体に収まりきるとは思えなかった。

 ただ消化が早いという言葉では済まされないが、聞いた話ではあの子はまだ入院していなくてはいけないらしいが、目の前で平然と歩いて出ていった様子から既に回復していると言っても良かった。

 

 ならば、食べている最中に傷を癒していたのだろうか?

 

 そんな馬鹿な話があるわけがない。

 きっと治療を担当した先生が何か間違えただけだ。

 

 

 不可解なのはそれだけじゃない。

 あの背中の機械、いやISだ。

 

 彼の口振りからしてあのISのせいで他人を傷付けてしまったらしいが、だからと言って殺される道理もないはずだ。

 

 一緒にアニメを見ていたとき、あの子は悲しそうに笑っていた。

 

『ぼくはあの怪物だ。お兄ちゃんが倒してくれる』

 

 まるで誰かに殺してくれることを望んでいるかのような言い方に、私は考えるよりも速く体が動き、あの子の口を塞いで抱き締めていた。

 

 織斑 一夏は私の敵だ。

 あの子を殺すのが奴なら、私にとってあの子は味方だ。

 

 眉間に皺が寄る。

 ふと手が止まっていたことに気がついて、またタイピングを再開する。

 

 あんな奴に結を殺させはしない。

 だからこそ力がいる。

 結を守るための力が。

 

 早く完成させなくては⋯⋯。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 二組。

 

 鈴は浮かない顔で教室に着いた。

 腕にはつい先日渡された甲龍の待機形態である細い腕輪が填まっている

 

 彼女は自分の席について、頬杖をつきながらその小豆色に近い赤をした腕輪を眺めていた。

 

『破損部位の修理と、使用履歴の一部消去をしておいた。あとは問題無いはずだが、何かあれば言いなさい』

『わかりました。ありがとうございます』

 

 そう言われて返された自分の愛機は何も変わらずの状態だったが、それが逆に恐ろしくもあった。

 

 結に奪われたとき、まるで自分のISに見放されたような気持ちだった。

 単純な力で組伏せられ、何の抵抗もなく甲龍は私から離れてあの妙なISに取り込まれてしまった。

 

 それから一夏によって倒さた直後にあの棺に詰められた結と一緒に甲龍は閉じ込められていた。

 一緒に排出された甲龍は限界値を超えた使用によって破損していたらしく、本国からのパーツ輸送で破損部位を換装。使用履歴はIS学園内で一部を消去することで終わった。

 

 使用履歴にはノイズが掛かっており、使用者の名前には途切れてはいたが『PHANTOM』と書かれていたそうだ。

 

 結ではない、恐らく、あの子の背中にあるあれだろう。

 成す術なく奪われただけだった。

 なにも抵抗出来なかった。

 

 悔しい。

 だがそれ以上に怖かった。

 

 あの子に、結に襲われ、もしかすれば殺されていたかもしれないという事が。

 

 腕輪を力強く額にぶつける。

 

「私は、何を信じたらいいのよ⋯⋯」

 

 最も近いところにあると思っていた心の拠り所は、いつでも崩れてしまいそうなほどに脆く蝕まれてしまっていた。

 

 

 

 ⋯⋯⋯

 ⋯⋯

 ⋯

 

 

 

 昼時。

 真耶は職員室で自分が拵えた弁当箱をつついていると、隣に座っている千冬から声をかけられた。

 

「今日はここですか。山田先生」

「織斑先生。まぁ、今日は一人なので」

 

 購買で買ってきたらしいパンと牛乳の封を開ける千冬。

 あまり栄養も味も関心がない食生活に昔から変わらない、と思い出に耽りそうになっていた真耶だが、少しだけ俯き気味に千冬に訊ねる。

 

「織斑先生。結ちゃん⋯⋯あの子は、どうしてあんなにも屈託のない笑顔をしていられるんでしょうか」

「⋯⋯⋯⋯」

 

 真耶の問い掛けに千冬は返す言葉が見つからなかった。

 一口パンを齧ってゆっくりと咀嚼し、牛乳と一緒に飲み干してから、千冬は口を開く。

 

「以前、アイツと話したことがある」

 

 山田君に預けるより前に、此処へ来たばかりのアイツは私を含めた数名が相手をしていたんだがな。その時のアイツはあのアリーナの地下室に引き籠ってずっと誰かを呼んでいた。

 

『先生はどこ⋯⋯? 先生に会いたい、会いたいんだ⋯⋯!』

 

 初めはずっとそうして『先生』とやらを呼び続け、まともに動けなくなるまでそうしていた。直ぐ様医療機器を持ち込んで治療したりと、随分手間をかけさせてくれたよ。

 次第にやる気が失せたのか私達を必要以上に拒絶事は少なくなったが、それでもアイツなりの一線と言うものがあるのだろう。

 フードの奥、あのISに触れさせてくれたのは私だけだった。私以外が触ろうとすれば歯を剥いて嫌がり、私にだけは渋々だったが触れさせてはくれた。

 

『何故私はいいんだ?』

『お姉さんを見てると、何だかあの子を思い出すんだ。少しだけ一緒にいたあの子を、安心する。だから』

『⋯⋯そうか』

 

 一度に多くは語ってはくれなかったが、どの話にも多かれ少なかれ『先生』が絡んでいた。

 

「きっと、今でも信じているんだろう」

 

 アイツの言う『先生』にまた会えると。

 

 それこそが、結の望みであり、今の彼の全て。心の支えになっているものだと千冬は感じていた。

 どれだけの苦痛を味わい、誰に罵倒さえ、蔑まれたとしても結は『先生』に会える、きっといつか再会出来ると信じ、それだけを頼りにして毎日を生きている。

 

 ある意味で崇拝主義に似た信念に突き動かされている少年。

 子にとって頼るものは親だ。

 だが不意に突き放されては戸惑うのも無理はない。それこそもう一度会いたいと願うなと言うほうが酷だ。

 

 何を捨てても、何を犠牲にしても『先生』に会えるのならば、きっと命すら……。

 

「やめてください」

 

 よく通る、ドスの効いた声で真耶が千冬の言葉を遮る。

 

 箸を握る手は震え、俯いていて顔は見えないが、纏う雰囲気から怒りの匂いを感じ取った。

 

「失言だったのは謝る、すまない。だがこれは本当だと思っている。だからこそ君に任せたんだ、山田君」

「⋯⋯」

 

 謝罪を垂れる千冬の言葉に、怒りを沈めながら耳を傾ける。

 

「放っておけばあの子は自ら命を投げ出してもおかしくない。だから、その時は君が止めてやってくれ。誰よりもあの子を信頼している君が」

 

「言われずともやります。だって私は、あの子の先生なんですから」

 

 千冬の目を見つめ、真耶は静かに宣言する。

 瞳の奥、涙を溜めた真耶の目に、底知れぬ熱意の輝きを見た千冬はその炎にみいる。

 

「ふふ……やっぱり君に任せて正解だったよ」

 

 手元のパンを平らげ、牛乳で流し入れた千冬は卓上の資料を持って立ち上がり、振り返り様に不敵な笑顔を浮かべて職員室を去っていく。

 

「さて、私もアイツらのために働いてやるとするか」

 

 ヒールを鳴らし進む歩みは力強く、勇猛であった。

 

 

 同時刻、食堂。

 

 食堂の片隅で、指すら覆い隠す袖を垂らしながら器用に箸で色々なものを混ぜてしまった昼食の丼モノを貪っている布仏 本音の元に、簪が訪れた。

 

「本音ちょっといい?」

「あれ、かんちゃん? なぁに?」

 

 学校で、しかも高校生になって簪から話しかけてくるとは随分と珍しい。

 そう思いなから人様には到底お見せできない内容物の丼を見ながら一瞬「またか……」と言いたげに顔をしかめる簪だったが、一つ咳払いをして話を持ちかける。

 

「本音に頼みたい事があるの」

 

 

 ◇

 

 

 放課後、真耶は早足に学園から寮に戻っていた。

 鍵の解錠すらかもどかしく、キーを落としそうになるがなんとか握りしめて鍵を開け、扉を勢いよく開いた。

 

「結ちゃん、ただいまっ!」

 

 玄関は暗いまま。

 それは別に構わないが、廊下を伝ってワンルームのリビングすら明かりがついていなかった。

 もしや勝手に部屋を抜け出してしまったのか、嫌でも暗い考えが浮かんでしまう。焦ってブーツを無造作に脱ぎ捨て、四つん這いになりながらリビングに飛び込む。

 

「結ちゃんッ!」

 

 そこで見た景色に、真耶はぴたりと動きを止め、思考すら置き去りにしてしまう。

 

「すぅー⋯⋯ふぅー⋯⋯」

「寝てましたか⋯⋯」

 

 パーカーのフードを目深に被ったまま小さな座卓に突っ伏し、顔こそ見えないがフードの縁を寝息で揺らす少年の姿が座卓の足越しに見えた。

 立ち上がって部屋を見ると、特に散らかっている様子もないところから本当に大人しくしていたのか、と嬉しいやら不安やらで複雑な気持ちになったが、座卓の上に置かれた本の上に、結の手が乗っていた。

 

「あらら、読んでる途中に寝ちゃったんですね」

 

 いや、手元には本の他にノートの切れ端があることから、恐らく予習をしていたのだろうと予想を変える。

 見よう見まねで書いたような、震えた文字で書かれた単語や文章などが箇条書きで記されており、そのどれもがIS基礎知識の教本に記されている事柄だった。

 

 そして、その下には一言『どうして』と書かれていた。

 

 その言葉が、何故だか胸に深く突き刺さる。

 別にただ分からない単語に対して何となく書いた事ではないのか。

 その考えはただの深読みした思い込みの可能性だってあるだろう。

 

 どうしても暗い考えに行きついてしまう摩耶は頭を振って気を取り直し、頬を叩いてから暗い気持ちを振り払ってから結を起こした。

 

「結ちゃん。起きてくださーい」

「ん、んんん⋯⋯」

 

 瞼を擦りながら起きた結は辺りを見回し、明るくなっていた部屋に目を焼いて顔を顰めるが、真耶を認識した途端にぱっと目を開いた。

 

「真耶先生。おはようございます」

「といってももう夕方ですけどね。ご飯にしましょう!」

「ん、はい」

 

 夕食後、真耶の強引な決定によって真耶の部屋にもう一泊することになった結は、もう何も抵抗することなく終止大人しく縮こまっていたらしい。

 

  




 余談、何もありませんでした。
 次回、ISが出るかもしれません。

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 では。
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