IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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 話を進めるか殺し合いさせるか迷ってました。


タッグトーナメント編
二十三話 少年と貴公子


 翌朝、結は先に起きて身支度を済ませ慌ただしく部屋を出て行った真耶を見送り、こんこんと朝日を浴びながら背伸びをし、自分も朝食と身支度を済ませて背負えるように改造された通学鞄を背負ってからフードを目深に被った。

 

「いってきます」

 

 オートロック式の扉は閉まるとともにがちり、と重たい金属音を鳴らしてドアノブを固定する。扉が開かなくなったことを確認して腕時計に目を落とし、まだ登校時間は余裕があることを知ってゆっくり歩く。

 

 しかしあたりを見回さず、ずっと下を向いて学園へ小さい足で歩いていれば前方不注意で誰かとぶつかってしまった。

 

「わぶっ」

「わ、危ないよ⋯⋯えっと、なんでここに子どもが?」

 

 誰かの真っ白いズボンの股の間に顔が埋まった。

 一夏かと思ったが声が違う。

 それに足の長さからして明らかに別人だと思って結はフードの奥からその人物を見上げると、そこには優しそうな困り顔を浮かべてこちらを見つめる男とも女とも取れないような、中性的な誰かがいた。

 長い金髪を後ろで三つ編みにして垂らし、昔図鑑で見た紫陽花のような瞳を持つ誰かはしゃがんで目線を合わせてきて、頭をフードの上から撫でながら怪我はしてないかと聞いてくるので首を横に振って答える。

 

「誰、ですか?」

「君こそ、なんでこんなところに居るの? ここは学園の関係者しか⋯⋯その制服、もしかして」

 

 その人物は自分が着ている制服と同じデザインの制服に身を包む結を改めてじろじろと見回した後、一人で勝手に頷いて立ち上がる。

 

「多分、また会えるよ。じゃあね!」

 

 その人は爽やかな笑顔で立ち去り、残された結は何のことだと考えてみたが分からなかったので、構わず教室へとぼとぼ歩みを再開させた。

 

 

 

 ◇

 

 

 一年一組。既に何人かの生徒が教室内で談笑していたり、教科書を開いて予習をしていたりと各々の時間を過ごしている所に、扉を半分だけ開いて結が躊躇い勝ちに教室の中に入ってくる。

 みな結を二度見し、人だかりを形成して結を取り囲む。

 

「上代くん! 久しぶりじゃんか!」

「あの後無事だったの!?」

「元気で良かったよぉ~⋯⋯」

「ゆいゆい~三日ぶり?」

「本音あんた上代君に会ってたの!?」

 

 結への心配だったり、安否の確認であったり、しばらく顔を見せていないはずがまさかの人間がその間に会っていた事へ矛先が向いたりと教室入り口で人だかりが時間を増すごとに増えていく。

 やがて教室に来た一夏と箒の二人と目が合った結は少しだけ見つめた後、バツが悪そうに視線を外してしまうが、一夏は結を見つけるなり女子の波をかき分けて結のところまで駆け付け、少年を引き寄せる。

 

「結! もう学校来れるようになったんだな!」

「う、ん。おはよ、お兄ちゃん⋯⋯」

「もう体はいいのか、上代」

「もう大丈夫だよ、箒お姉ちゃん⋯⋯」

 

 あくまで少年の心配をしていた一夏は結が学校に出てきてくれたことに喜んでいたが、箒はフクザツそうに結のことを見ていた。むしろそうして距離を置いてくれた方が結としては気が楽でもあったが、一夏はそうでもなかったよどうしていいか分からず眉を垂らすしか出来なかった。

 

「一夏。お前の気持ちも分かるが上代を解放してやれ。病み上がりで回復しきれていないかもしれんのだぞ」

「あぁ、それもそうだな。悪かった結。ちょっと嬉しくてさ」

 

 ようやく解放された結は乱れた服装を正し、脱げかけていたフードを被りなおして短く「いいよ」と答えて自分の席に着く。

 

 あれだけの大事があり、十数日と出てこれない状態に陥ってなお平静が崩れることも取り乱すこともなく、何事もなかったと言わんばかりに結は本を読んでいた。

 いつもと変わらないと思えたが、フードで顔が見えなくなった結との距離に、初日以上の幅を感じた一夏は何と声を掛けたものかと悩んでみるが何も思いつかず、もどかしさを抱えたまま自分の席に着くしか出来なかった。

 

 

 やがて時間はSHR開始時間になり、教壇には山田先生が立ち、横に織斑先生が座って話し始める。

 

「みなさんおはようございます。今日はみなさんの新しいお友達を紹介しますよ!」

 

 山田先生の声に、二人の生徒が入室し、教壇の前に並んで立つ。

 片方は薄い金髪を後ろで三つ編みにして垂らし、中性的な出で立ちの恰好からその性別の判断が出来ず、もしや⋯⋯と胸を躍らせる生徒が複数人騒ぐ。

 

 もう片方は対照的な銀髪を真っ直ぐおろし、眼帯で隠され隻眼になっている瞳は赤く、冷たかった。踵を揃え、背筋をまっすぐに伸ばし、後ろに手を回して直立する様は正しく軍人と呼べるものだった。

 

「フランスから来ました。シャルル・デュノアです。僕と同じ男性操縦者の方がいると聞いています。よろしくお願いします」

 

 嫌味のない、爽やかな笑顔でしめる。

 その言葉選びから察しがついた女子生徒の過半数はピタリとフリーズし、何かを肌で感じた結は蹲って耳を塞ぎ、対応に入れなかった一夏は諸に絶叫を喰らって眩暈を起こしていた。

 

「貴公子! フランスの貴公子よ!」

「織斑君との掛け合いもばっちりよ!」

「上代君との歳の差CPだって捨てられない」

「この三つ巴、どうする」

 

 やいのやいのと騒ぎ立て、果ては不穏なことを言い始めた腐女子の群れに悪寒が走る三人。

 まだ騒ぐ女子生徒を織斑先生は苦そうな咳払いで納め、もう一人の転校生に声を掛ける。

 

「自己紹介をしろ、ボーデヴィッヒ」

「分かりました教官」

「教官はよせ、織斑先生と呼べ」

「はい」

 

 かなりのボリュームの絶叫に晒されたと言うのに不動を貫いていたもう一人の生徒は何事もなかったかのように澄ました顔で口を開く。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

 それだけ言うとまた口を噤んでしまい、山田先生は困り果ててあたふたしているが、ラウラと名乗った銀髪の少女は一夏の席まで歩き、一夏に平手打ちを放った。

 

 凍りついた空間に、弾けるような音が木霊する。

 

 驚いたり、動じなかったり、反応はそれぞれだったが当の叩かれた一夏は訳も分からずに動揺し、ラウラに食らいつく。

 

「何するんだよいきなり!」

「私は認めない、貴様のような奴が教官の弟など……」

 

 冷徹な瞳は怨みを籠めて一夏を睨む。

 一触即発の空気が流れる雰囲気を、織斑先生が割って入り指示を飛ばす。

 

「一限は二組との合同実習だ。諸君、準備を済ませ第二アリーナに集合、以上!」

 

 織斑先生の指示に皆は立ち上がり、早々に動き出す。

 女子生徒たちが着替え始めるよりもはやく教室を出た結、一夏、シャルルの三人はアリーナの更衣室へ向かう。

 

「君が織斑君で、そっちが今朝の……カミシロユイ君、かな? 僕のことはシャルルでいいよ」

「よろしくシャルル。俺も一夏でいいぜ。ややこしいしな」

「何でもいいよ」

 

 シャルルは握手を求めて手を差し出したが、一夏はその手を掴んで走り出した。

 

「わぁ!? な、なんで!?」

「わり、俺達の更衣室って遠いからさ、急がないと授業に遅れちまうんだ。それと……」

 

 一夏が説明するよりもはやく、その状況は形成されてしまった。

 学年様々の女子生徒の徒党が廊下階段あちこちから姿を表し、三人を見つけるなり鬨の声を上げて迫り来る。

 

「居たわ、噂の転校生よ!」

「フランス貴公子の品格、魅せてもらうわよ!」

「居たぞ、居たぞぉぉぉぉぉ!!!」

 

 未確認生物でも見つけたときのような雄叫びを上げて女子の群れが襲いかかる。

 追い付かれてはいけないと三人は全速力で走るが、歩幅の違いからどうしても結は遅れをとってしまう。

 

「結、掴まれ!」

「いい」

 

 階段に差し掛かったところで結は手すりを軽く掴んで段差から飛び降り、手摺に体重をかけて器用にUターンをしながら駆け降りていく。

 

「先に行っとくね」

「お、おー」

「はは、アクティブだね」

 

 あれだけ動けるのなら心配も無用か……と思った一夏だが、まず先に自分の心配をするべきだった。

 迫り来る大群から逃げ惑い、更衣室に辿り着くまでにはすっかり体力を使い倒していた。

 

「先に出てるよ」

「お、おぉ~……」

「はぁっ、はぁっ……みんな、元気、なんだね……」

 

 すっかりくたびれながらも着替え出す二人。

 結は先にジャージのパーカーを羽織って先に出ていった。

 スパッツのような布地の衣類に「引っ掛かる」とか愚痴りながらも着替える。

 

「これ、履きづらいんだよな。引っ掛かるし」

「ひ、ひっかか……ひ、へえー……」

 

 何処か慌てた様子のシャルルと共にアリーナへと出るころには皆集合し終わっていた。

 

「これより二組合同実習授業を行う!」

 

 




 よく、というか全部の話に誤字があり、毎度毎度訂正してもらえることに甘んじて見直しもしない愚か者なんですが、本当に感謝してます。
 たまに素で間違ってたりとかするので自分でも疑心暗鬼だったりするのは内緒。


 誤字、脱字あればご報告願います。

 感想、評価もお願いします。

 書いておけばもらえるってだれか言ってた。
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