IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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二十四話 少女たちと教師

「これより二組合同実習授業を行う!」

 

 

 アリーナに織斑先生の声が響き渡る。

 殆どが整列し終わっている一組、二組の中に一夏とシャルルは紛れる様に加わり、シャルルは先に出て行った少年の姿が見えないことに気が付いて一夏に小声で尋ねる。

 

「一夏、結はどこにいるの?」

「実習授業の時はアイツ列には入らないんだよ」

 

 その代わり、と一夏が指差した先、アリーナ内の空を騎士のようなISが一機。大回りな飛び方で旋回する影が見えた。

 今時珍しく一切肌の露出がない真っ黒なインナーと、全身にわたる身の丈に対してアンバランスなほどの分厚い装甲と、十字架の様なデザインのバイザーに覆われて誰なのか一見判別できなかったが、一夏に言われてようやくあれが結なのだとシャルルは理解した。

 

「あれ、あのISあそこまでデカかったっけ」

 

 図体の大きさはこれまで通り変わらない。

 全身装甲や留め具も今まで通り。だが、それに付け加えて手枷や足枷のようなものが両手足に繋がれ、それぞれから疎らな長さの鎖が短くぶら下がっていた。

 顎にもチンガードの様な口あてが添えられ、より頑丈さを増しているようにも見えた。

 

 訝しげに結の『ガーディアン』を見ていた一夏だったが、視界の先で落下してくる何かに気が付いて肝を冷やす。

 

 

「ど、どいてください~~~~~~~~~!!!」

 

 

 飛行中に姿勢を崩したのか、きりもみ回転をしながら飛来する緑色の鉄塊こと『ラファール・リヴァイヴ』に乗った山田先生が叫びながら落下してきた。

 

「な⋯⋯白式!」

「真耶先生ッ!」

 

 咄嗟にISを展開した一夏よりも速く、空中旋回していた結が軌道を変え、瞬時加速で山田先生の下に回り込み、彼女を抱えたまま他の者がいない方向へ自分が下敷きになりながら不時着する。

 

 地面を抉り、壁に激突してやっと停止した結と山田先生のもとに数名が織斑先生とISを展開していた一夏が赴く。

 

「山田先生、ご無事ですか」

「結、大丈夫か!?」

 

 たち込める砂煙の中で、山田先生を腹に抱えたままの結はぐったりとして動かない。

 ガーディアンの腕を押し上げて飛び退いた真耶は仰向けに伸びている結を引き起こして安否を確認する。

 

「いたた⋯⋯ぁ、結ちゃん! ごめんなさい、大丈夫ですかっ!?」

「⋯⋯う、ん」

 

 声をかけられてゆっくり起き上がった結は、水を被った犬のように頭を振ってから、山田先生の手を借りて立ち上がる。

 

「本当に大丈夫ですか、何処か怪我してたり痛めたりとかしてませんか。あぁ私が不甲斐ないばかりに結ちゃんに怪我させてしまってたらどうしよう⋯⋯」

「真耶先生、大丈夫、大丈夫だから」

 

 ガーディアンのヘルメットやら結の全身至るところを展開中のラファールのマニピュレータでペタペタと触診していた真耶が少々鬱陶しかったのか、結は真耶の手を掴んで止め、言い聞かせるように無事を伝える。

 

「二人とも無事なようなら授業を再開するぞ」

「はい」

「後で保健の先生に診てもらったほうが⋯⋯」

「もう、大丈夫だって!」

 

 転校生二人は山田先生の対応に苦笑いを浮かべたり、呆れたように溜め息を吐いたりしていた。

 

「山田先生、その辺で⋯⋯」

「あ、スミマセン織斑先生⋯⋯」

 

 織斑先生に嗜められて渋々結から離れる真耶は、背筋を正して織斑先生の後ろに着き、その横に結も倣う。

 

「さて、そうだな⋯⋯模擬戦を行う。オルコット、凰。ISを出して前に出ろ」

 

 織斑先生からの指名を受けた二名は苦虫を噛んだように顔をしかめて嫌々と言う風に出てくる。

 

「どうして私が⋯⋯」

「なんでアタシなのよ⋯⋯」

 

 気力不十分、あまり積極的ではない雰囲気の二人に織斑先生はにやりと口角を釣り上げて不敵な笑みを浮かべ、彼女たちに耳打ちをする。

 

「そう言うな。もしかすればアイツらに良いとこを見せれるかもしれんぞ?」

 

 下手をすればセクハラとも言われかねないおっさん臭い台詞に二人は溜息を吐きそうになったが、寸でのところで飲み込んでぶっきらぼうにISを展開する。

 

「ええいやってやるわよ! ここで名誉挽回してやりゃあいいんでしょ!」

「気が乗りませんがそれも良いでしょう。華麗に散らして差し上げますわ!」

 

 二人ともそれぞれの得物を構え、一触即発の空気を流したところで織斑先生が呼びかけて止める。

 

「待て。貴様らの相手はもう決まっている」

「え、セシリアと戦うんじゃないの?」

「わたくしもてっきりそういうものかと、何方なんですの?」

 

 誰が出てくるのか。専用機持ちである一夏や結だろうか。それともつい今朝方顔合わせしたばかりの、右も左も分からないような転校生二人か。

 二人が一体だれが出てくるのか⋯⋯と思考を巡らせている間に出てきたのは、先ほど墜落未遂を起こした山田先生だった。

 

「まさか、山田先生?」

「しかも二対一、ですか?」

「あはは、お手柔らかにお願いします」

 

 教師相手とはいえ、二対一でしかもこちらは両方第三世代型の専用機。方や山田先生は第二世代型の『ラファール・リヴァイヴ』で特筆するような力や専用武装があるわけでもない。

 本当に戦えるのか、とも思っていたが、そんな余裕は一瞬にして打ち砕かれた。

 

 猪突猛進の勢いで先行し、青龍刀による連撃を繰り出す鈴の攻撃を意図も容易く躱し、グレネードを置いて離脱する。

 負けじとグレネードを斬り払うが、煙幕を抜けた先でライフルによる弾丸の雨を受けて足止めを喰らう。

 

 セシリアは細かい軌道を描く山田先生(ひょうてき)へ照準を合わせることにあくせくしている間に突撃する鈴が割って入ってしまい、狙撃タイミングをことごとく逃してしまう。

 泣く泣く四基のブルーティアーズによる攻撃を行うが、山田先生にはかすることもなく、逆に鈴の足止めをしてしまう結果になってしまう。

 

「ちょっと! 何処狙ってんのよ!」

「そちらこそ、少々出しゃばりすぎではなくて!?」

 

 思い通りにならない連携に、二人は互いに当たりはじめる。

 その様子には失笑する他なかった。

 

「デュノア。ラファールの解説をしてみろ」

「はい。えっと、ラファール・リヴァイヴはフランスのIS企業、デュノア社製の第二世代量産機で、汎用性に優れた機体になっています。使い手によってカスタムすることで近接にも遠距離にも対応できるという汎用性の高さから世界シェアは第三位を誇っています」

 

 それでも諦めずに飛び込む鈴。だが振り回す青龍刀は当たらず、空を斬る。

 躍起になり、助走をつけ、大きく振りかぶった一撃があっけなく躱され、勢いを押し切れずに飛んで行った先にはブルーティアーズの操作でもたついていたセシリアがそこに居た。

 目が合い、避けようと動く間もなく二人は空中で激突。

 

「なんでここに居んのよ!」

「どうしてこっちに突っ込んできますの!」

 

 まるでなっていない連携。

 これには織斑先生も額に青筋を立てて眉間を抑えていた。

 

 ぎゃあぎゃあと言い争いをしている二人に山田先生は躊躇いなくグレネードランチャーを向け、引き金を一回引く。

 

「「あ」」

 

 終わりは実にあっけなく、終始山田先生の優勢で閉幕となった。

 仲良く墜落する二人を回収しに結と一夏が飛んで赴き、山田先生は集合して観戦していた生徒たちの前に降り立つ。

 

「山田先生は元日本代表候補性で実力は見てもらった通りだ。今後は敬意をもって接するように」

「といっても候補生止まりでしたけどね⋯⋯」

「確か異名は『銃央矛塵(キリング・シールド)』でしたっけ?」

「その話はよしてください!」

 

 後輩いびりもほどほどに、過去の負の遺産(くろれきし)を突かれて慌てる真耶とそれに愉悦を感じる千冬の様子に、生徒たちは意外な一面を見たと感じたり自分もイジられたいとマゾの感情を抱いたりと忙しなく心を躍らせていた。

 

「お姉ちゃんたち、大丈夫?」

「二人とも、怪我はないか?」

「くぅぅ⋯⋯早く退いてくださいまし、鈴さん!」

「言われなくても退くっての! にしても強くない? あの先生」

 

 墜落後にISを解除し、それぞれ一夏と結の手を借りて起き上がった二人は改めて山田先生の実力を思い知り、同時に自分たちの身の程を痛感した。

 現行の最新型の第三世代二人掛かりでまともに立ち回ることも出来ないままに撃ち落されてしまった。

 

 性能差云々は元より、パイロットとしての腕の違いを見せつけられてしまい、己の無力さに正直へこんでしまう。

 

「お姉ちゃん」

「どうかしました?」

「何よ」

 

 結に呼ばれ、不貞腐れた顔を上げた途端、ガーディアンのゴツイマニピュレータに二人は額を軽く突かれた。

 

「すっごいカッコ悪かったね」

 

 顔の見えないフルフェイス越しに手を添え、くふふ、と笑いながらそんなことをのたまう結にセシリアと鈴は大人気もなくカチンと頭にきたようで、言葉をまくしたてて言い寄る。

 

「あんたねぇ、もうちょっと言い方ってもんがあるでしょ!? 慰めるとか励ますとかねぇ!!」

「もう少しオブラートに包むことが出来ませんの!?」

「まぁまぁ二人とも、結だって悪気があったわけじゃ無いと思うし⋯⋯」

「アンタは黙ってて!」

「一夏さんは黙っててくださいます?」

 

 あまりの圧に気圧されて一夏は小さく縮こまる。

 

 ISの中に納まる結を見上げて二人は睨みつける。

 当の本人は仮面の下の顔を見せないまま肩を揺らして笑う。

 

「だって本当なんだもん」

「ぐっ⋯⋯」

「何も言えませんわ⋯⋯」

 

 笑いを堪える結に噛みつきたい気持ちを年上の余裕と言う言い訳で押さえ込み、二人は気持ち強めの歩みで集合している生徒達のところに戻る。

 その後姿を見てから結はガーディアンを待機形態に戻すと同時に、格納していたパーカーをすぐさま羽織ってフードを被る。

 

 息をついて笑みをもみ消す結に一夏が背をかがめて小さく耳打ちしてくる。

 

「あんなこと言って、大丈夫なのかよ?」

「知らない。でも元気になったと思うよ」

 

 ほら、と彼が指差す二人にさっきまでのしおらしい様子はなく、何時か見返してやらんと言う気迫があった。

 そこまで見越してあんなことを言ったのか、と感心する一夏は結の頭をフードの上から撫でてやる。

 

「まぁ、励ましてやるなんて優しいよ、結は」

「そんなんじゃないよ。そんなんじゃ」

 

 結は一夏の手を拒むことはなく、むしろ自ら手を差し出して自分よりも背の高い、兄の様な一夏の手を取る。

 

「行こ、一夏お兄ちゃん」

「おう」

 

 

 




 結の出番が少ない!
 
 まぁいいや。

 ではでは。
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