IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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 飯食うのにどれだけ時間を費やしたのやら。


二十六話 少年とお昼ごはん

 ラウラに足止めを喰らって遅れた分、出来るだけ早足で屋上に辿り着いた結は荒い呼吸のまま扉を開き、そよ風に吹かれて目を細めた。

 風で捲れそうになるフードを片手で抑え、意地悪な風のいたずらを堪えれば、なんとも他人事な青空の景色が広がる。

 

「あ、来た。おーい結、こっちだぞー!」

「一夏お兄ちゃん」

 

 屋上の一角で集まっている集団の中から見知った顔の人物が立ち上がって手を振ってきたので、そちらへ目掛けて一直線に進む。

 花壇の塀を避けながら早足で走っていたら、遊び足らない突風が今度は強めに吹いてきて、結の体が少しだけ浮いて足元を掬う。

 

「あれ?」

「結っ!」

 

 一瞬の浮遊感と地を踏み損ねた足裏がその勢いのまま宙を踏み、結は綺麗な弧を描いて気の毒なほどの勢いで顔から屋上のタイルに目掛けてごん、と固く鈍い音を立てて転倒した。

 

 先に来ていた一夏とシャルルが慌てて駆け寄り、器用に弁当だけは地面に着けることなく倒れた結を優しく抱き上げて怪我の確認を取る。

 

「結、大丈夫か!?」

「凄い音がしたけど、怪我はしてない!?」

「んう、おべんとうはまもれた」

「「自分の心配をしろ(して)!」」

 

 見たことのある光景だ。と女子陣は駆け出しそうになった体をベンチに据え、胸を撫で下ろしながら思う。

 

 また飛ばされないようにと一夏に手を引かれながら、結は片手で真耶から受け取った弁当を抱えて短い歩幅で早足についていく。

 

「よし、みんな揃ったし、飯にしようぜ!」

「ちょっと待て一夏」

 

 食事にありつこうとしたした一夏に待ったをかけた箒は、一夏を引き摺って茂みに隠れる。

 

「一緒に昼食をと聞いて来てみれば、なぜセシリアや鈴まで来ている」

「だって、みんなで食った方がいいだろ? それにシャルルはまだ学園に来たばっかで不安だろうし、結は結でさ、見てないと怖いからよ……」

「それは、そうだが……」

 

 一夏の言い分で渋々了承したものの、納得はしていない箒。だがこれ以上愚痴を垂れたところでなにも起こるはずもないので、黙って受け入れることにした。

 

 戻ると結がお腹を押さえているので何事かと思えば、可愛らしいとは言いがたい音量で結が腹を鳴らした。

 取り敢えず食べようということになって、一夏の合掌でみな持参した弁当に手をつける。

 

「い、一夏、受けとれ」

「今朝言ってたやつか。サンキュー箒!」

 

 おずおずと箒が一夏に二つあるうちの片方の弁当箱を手渡し、待ってましたと言わんばかりに喜びながら、中を見て更に一夏は心を弾ませる。

 

「美味そうだな~! とくにこの唐揚げ!」

「唐揚げではないのだが、そうか」

「あれ、箒のやつなんか全体的に少なくないか?」

 

 同じものを作ったのなら同じだけ入っていてもおかしくないはずだが、自分が持っている物と箒の物を見比べてみてもおかずの品数が少ない、総じてこじんまりしていた。

 

「わ、私はいい。今はダイエットしているからな」

 

 苦し紛れの言い訳だが本当は上手く出来たものを一夏の弁当に選んでいたら自分の分がだいぶ減ってしまっただけである。これも自戒と一時は納得したが、やはり些か少なかったのか欲しがりな腹は足らないと文句を垂れている。

 

「それじゃあ足りないだろ。ほら、あーん」

「えぇ!?」

 

 まさかこんな公衆の面前で、しかも鈴やセシリアやデュノアもいるのに、上代に見せたらなんと言われるか。

 

「あ、これが日本のカップルがするっている「はい、あーん」てやつだね!」

「あんたちょっと黙りなさい!」

「はした、はしたないですわ!」

 

 やたらと嬉しそうに言ってくるデュノアを有識者が取り押さえる。

 そんなはやし立てる周囲も構わずに一夏はずい、と箒におかずを差し出すので、観念してそれを頬張る。

 

「ふ、うまい、な」

「自分がつくったんだから自信もてって」

 

 鈴はその甘ったるい様子に嫉妬なのかわからない複雑な心境を抱きながらも、なんだかんだ今朝早起きして作ってきた酢豚の入ったタッパーを取り出して見せる。

 

「そういやアタシも今朝なんだか早く起きちゃって、多めに作ってきたからアンタも食べなさいよ」

 

 妙に早口になっているあたりまだ意識しまくっている。

 一夏に対し特筆して特別な感情を抱いていない人間からすれば滑稽ではあったが、何も言わずに触れないようにした。

 

「結も、食べてみてよ。美味しいからさ」

「うん。いただきます」

 

 刻み野菜と一緒に豚肉を摘まみ、口を開き雛のように待ち構える結の小さな口のなかにお手製の酢豚を運びいれる。口に酢豚を入れてもらった結はそのまま静かな咀嚼を繰り返し、一息で飲み込んで一言「美味しい」と言って終わる。

 

「結ってさ、ISに乗ってるときはよく笑うよな」

「そう? わかんない」

 

 フードに隠された少年の頭を撫でながら、一夏は苦笑交じりに想ったことを口にしてみるが、当人は全くの無意識だったようでよく分からないと首を傾げて見せる。

 同級生は確かにと首を縦に振り、今日あったばかりのシャルルはそうなのか。となんとなく納得していた。

 

「わたくしも今朝は早くに起きまして、サンドイッチを作ってみましたの。皆さん如何ですか?」

 

 横からバスケットを取り出したセシリア。中を開けば色とりどりの具を挟んだサンドイッチが華やかに並んでいた。瀟洒なものが作ればこうも鮮やかな出来上がりになるのか、と周囲は感心する。

 

「ささ一夏さん。結さん。おひとつどうぞ」

「おう、ありがとうなセシリア」

「いたらきまふ」

 

 箸をおいてサンドイッチを受け取る一夏と、既に空になった弁当箱に蓋をした結が受け取ったサンドイッチに齧り付く。

 また何一つとして表情を崩さない結がすぐさま飲み込み、席を立つ。

 

「ごちそうさま。おいしかったよ」

「結、もう行くのか?」

「うん。後でね。一夏お兄ちゃん」

 

 控えめに手を振って屋上から立ち去る結の後ろ姿を見えなくなるまで眺めた後、自分もサンドイッチを一口齧って動けなくなった。

 

「ッ!?」

「一夏、どうした?」

「お口に合いませんでしたか、一夏さん?」

 

 よく分からない味が舌の上で混ざり合い、仮装パーティーの社交ダンスを繰り広げていた。個性の主張をしあっていて統一が無い、それどころか誰も立ち退くことをしないのでずっとに中に居座り続ける。身体がこれを食べることを拒否している。顎が動かない。飲み込めない。嘔吐機能が働こうとアップをしている。

 

 しかし人から頂いたものを吐き出すことが出来るほど人を辞めていないので、男の意地を見せた一夏はやせ我慢の元精一杯の笑顔を浮かべ、飲み込んでしまう。

 

「い、いや、美味しかったよ、セシリア⋯⋯」

 

 我に返った一夏は結が消えていった出入口を見る。

 あのサンドイッチを食べて普通でいられたのなら、とんでもない胆力の持ち主か若しくは味覚が機能していないかだ。

 どちらにせよ結が無事であるかがものすごく不安だ。

 

 一夏は箒から受け取った弁当の中身を一気に平らげ、席を立つ。

 

「お、おい一夏! どこに行く!?」

「悪いみんな、ちょっと用事思い出したから先に戻る! あと箒、唐揚げ美味かったぞー!」

 

 言い捨てる様に走り去っていった一夏の後ろ姿をただ呆然と見ているだけだった他の者たちは何事かと考えるが、何もわからずそのまま昼食を食べ終えた。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

「結ッ!!」

「一夏お兄ちゃん。どうしたの?」

 

 なんの変わりのない様子で廊下を歩いていた少年の後ろ姿に一安心するが、それもよそに一夏は結の元に駆け寄って膝を着き、肩を掴む。

 

「結、大丈夫か、何ともないか。変に我慢したりとかしてないか!?」

「なに、なに? どうしたのお兄ちゃん」

 

 一夏の必死の形相に戸惑うしかない結は何事か、と疑問符を浮かべるしか出来なかった。

 だがまもなく一夏の危惧していたことが起きてしまう。

 

 突然、結が糸の切れたマリオネット人形のようにその場に崩れ落ち、一夏の胸の中に倒れる。

 一夏は動かない結を抱き留めて仰向けると、涎を垂らして動かない結が訳が分からないと言う風に目を開き、一夏のことを見ていた。

 

「ふへ?」

「結、大丈夫か!?」

 

 足腰に力が入らない。それどころか指先にも力が入らない。

 IS、フーとの連結が途切れたか。

 しかし何故?

 

『オマエ、ナンカ変ナモン喰ッタロ』

「(なに、どういうこと)」

 

 頭の中でフーの声が聞こえる。

 随分と焦った様子で、忙しそうに何かしているそうだ。

 

『毒物分解スルカラ、シバラクソノママナ』

「(わけわかんない)」

 

 毒なんて食べた覚えはないが。しかし今こうして動けない以上、何処かで何かを口にしてしまったのだろう。

 

「とにかく、保健室に行こう、結」

「ふ、うん」

 

 かろうじて動く唇を震わせて結がうなずく。

 動かなくなった結を抱き上げ、いざ運ぼうとした途端に一夏の目の前に、水色の髪をした眼鏡の少女がものすごい剣幕で立ち塞がる。

 

「織斑、一夏⋯⋯その子に、何してる、の?」

「え⋯⋯?」

 

 一夏は察した。

 面倒事だと。

 




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