IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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 よく洋楽のラブソングを聞きながら書いてます。
 つまり愛に溢れた作品なんです。


二十九話 少年を探る貴公子

 山田先生に抱き上げられた猫のような溶け具合で運ばれた結はその日見ることはなかった。

 

 部屋に帰った一夏はシャルルに結が悪いとは思っているから許してやってくれないか、と頭を下げたところ、シャルルは気にする素振りもみせず、軽く笑って流していた。

 

「大丈夫だよ一夏。ちょっと肌に合わなかっただけだろうし、これから仲良くなればいいだけだよ」

「そうか、ありがとな。シャルル」

 

 気にしていない様子のシャルルに救われた気になった一夏は一先ず結の事は置いておき、その日はもう休むことにした。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 真耶の部屋。

 

 例によって手厚く丁寧に扱われた結は既に風呂と胃に優しい夕食を終えて安静に寝かされていた。

 

 抗ったところで抑え込まれ、がっちりホールドされて寝かされるだけなので、何も言うまいと諦めて静かに寝ておく。

 

「真耶先生」

「なんですか結ちゃん?」

 

 二言目を言おうかどうか迷っていた結は、せめてこの学園で一番信頼している人にだけは伝えておこうと決心し、口をあける。

 

「あの、今日はじめて会った金髪のひと」

「デュノア君がどうかしましたか?」

「あの人がね、怖いの」

「怖い、と言いますと?」

 

 漠然とした物言いにいまいち要領を得ない真耶はもう少し詳しく聞き返す。

 対して感じ取った雰囲気からの感想を述べた結はなんと言えばいいのかわからず、また少し閉口したのち、うんうん唸りながら言葉を紡ぐ。

 

「何か隠してる、気がする。いろいろ変なの」

「ふぅむ」

 

 ずっと他人の話を聞いていて、自分から何か話すことが殆どなかった。

 口から出てくるのは疑問文ばかりで、人と合わせているというよりずっと離れて無遠慮に見られている気がして気味が悪かった。

 

「それと、あの施設にいた人と同じ目の感じがした」

「⋯⋯もう少し聞かせてもらってもいいですか?」

 

 結の言う施設と言うのは、この少年が生まれてここに来るまでの間滞在していた研究所のことだ。そこでは彼の背中にあるISの研究が主だったということは、既に彼の口から聞かされている。

 

 そこにいた人間と同じ目で結を見ていたとなると、多少警戒しておく必要がある。

 

「ぼくじゃなくて、ISを見てる感じがしたの。こう、じろじろ見られるような、遠慮がない感じ」

「なるほど⋯⋯私も彼についてもう少し調べてみます。ありがとう、結ちゃん」

 

 そう言いながら真耶はあやすように結の頭を撫でる。

 結はくすぐったそうに目を細め、真耶の細い指先に頭を擦り付ける。

 

「それと、もう一つだけ。あの人男の人? 女の人?」

 

 結の言葉に首を傾ける真耶。

 

「デュノア君は男ですよ?」

「んー⋯⋯ありがとうございます。真耶先生」

 

 どうしてそんなことを? と思ったが、彼が中性的だからわからなかったのだろうと納得させておいた。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 翌日。

 

「おはよう。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

 

 シャルルはクラスの生徒たちに聞き込みを行っていた。

 

 訊ね事は勿論結のこと。

 クラスは一緒でも授業を共にすることは他の同級生に比べて半分もない上、休憩時間は忽然と姿を消すので彼本人から話を聞こうにも、全くと言ってコンタクトが取れなかった。

 

 と言うより午後から体調不良で授業に出ず、ちゃんと話をしたのは放課後のアリーナでのほんの少しだけだった。

 

 

 なのでこうしてまずは結のクラスメイトから話を聞くことにした。

 

「上代くん? 可愛いよね! なんかミステリアスで!」

 

「結くんねぇー。あの子ISの授業でしか一緒にしないんだけど、もの静かでいい子だよ。あと可愛い」

 

「織斑くんたちとよく一緒にいるのを見たことあるけど、どんな子って言われたらよくわかんないなぁ。でもこれだけは言える。可愛い」

 

「仲良くなったら頭くらいなら触らせてくれるよ! そうじゃなかったら一定間隔を開けられて拒否られるから気をつけてね! 可愛いからって近づいたら逃げられちゃうよ!」

 

 

 

 

「わかった。ありがとう」

 

 

 何も分からなかった。

 

 本人が喋らないうえクラスメイトの中でもごく少数としか関わりがないらしく、クラスメイトの大半が上代 結という人物をおぼろ気にしか記憶していなかった。

 

 唯一共通の認識として可愛いというのがわかった。

 そうじゃない、知りたいのはそんな情報ではない。

 

 回りくどい聞き方をしたのがいけなかったのかもしれない。

 なので今度はストレートにISについて訊ねてみた。

 

 

「上代くんのIS? よくわかんない」

「盾しか持ってないって本人が言ってたよ」

「噂によると中にもうひとつISがあるとか聞いたなぁ」

「あんな小さい子があんなに大きなISに乗ってるって考えたら、作った人はロマンを知ってるよね!」

 

 

「⋯⋯はは、ありがとう」

 

 相変わらずふわふわした答えが多かったが、そのなかでいくつか気になる情報を入手した。

 

 まず盾しか待っていないという点。

 今日見た限りの性能からして第三世代か、特別に調整を受けた第二世代の可能性が高い。

 普通のISのようにいくつか武器を装備していてもおかしくないはずなのに、結のISには盾が一枚入っているだけだという。

 

 そして次に、中にもう一体ISが入っているという噂。

 

 あくまで噂であり、それ以上確信のとれる情報は入手できなかった。

 

 だが、昨日アリーナで見た、人の武器を使用許諾無しに使えたという事実と何か関係があるかもしれない。

 

 

 そうなれば、尚更結のISについての情報が欲しい。

 欲を言えばそのものが⋯⋯。

 

 

 

 その日の晩、一夏と同室になったシャルルは同居人と談笑に見せかけた情報収集に華を咲かせていた。

 

「結についてどう思ってるか? そうだな⋯⋯小さくて可愛いよな」

「それはもういいから!」

 

 散々聞かされた外見的情報にうんざりしながらシャルルは詰め寄る様に一夏に幅を寄せる。

 

「悪い悪い⋯⋯んー。大人しそうに見えて結構大胆なコトするようなやつで、かと思ったら遠くからこっちを見てて距離が離れてるんだよな」

「なんか曖昧だね」

「そうだな、言われてみたら俺って結について実はよく分かってないのかもしれない⋯⋯」

 

 一夏は陰る笑顔を下に向け、少しだけ寂しそうに語る。

 

「アイツ、人と関わろうとしないのか、同学年の生徒どころかクラスメイトとだってあまり喋らないんだよ。多分自分から避けてるんだと思う」

「それは、どうして?」

 

 なんでって、と言いかけた一夏は思わず口を閉ざしてバツが悪そうに視線を逸らせた。

 シャルルはそこに結のISと何か関係があるとほぼ確信したが、それ以上一夏が結について語ることは無かった。

 

「もう遅いし、寝ようぜ。シャルル」

「そうだね。おやすみ、一夏」

 

 

 

 

 翌々日。

 

 朝の教室。

 今日は午前はISの座学なので結も教室に顔をだしていた。

 身の丈にあっていない机と椅子について着かない足を泳がせている様はなんとも愛らしいが、本人の目から若干生気が抜けている。

 

 

 ちらほら生徒が増えていき、みな結の顔を見て嬉しそうに手を振って言葉をかけてくるクラスメイトに結は透き通るような眼差しで小さく手を振って返す。

 

 そうして時間を潰していくうちに席が埋っていき、結の前に座る本音もようやく顔出してふらふらと席についた。

 

「おはよ~ゆいゆい」

「おはよう。本音お姉ちゃん」

 

 ゆったりした動作で椅子に腰掛ける本音は、担いできた鞄からがさごそと箱に入ったお菓子を取り出しておもむろに封をあける。

 

 そのまま幸せそうに頬を緩ませ、夢中になって焼き菓子を貪る。

 その様子に本音の学友たちは集ってやじを飛ばしている。

 

「本音あんた朝からお菓子食べる気?」

「朝ごはん食べ損ねちゃって~これ朝ごはん~」

「ちゃんと食べないと太るぞー?」

「あはは~やだな~」

 

 笑って流す本音は焼き菓子を運ぶ手を止めることなく、あっという間に片手に持っていた菓子袋を空にしてしまう。

 もう一つは言っていた袋を箱から取り出して空箱と丸めた包装をカバンの中に突っ込み、同じように封を開けてかりかりと食べ始める。

 

「ゆいゆいも食べる~?」

「ん」

 

 本音から差し出された焼き菓子を受け取らず、結は本音の手をその小さな両手で包んだ。

 結に手を取られて更に撫でまわされ、寝ぼけまなこだった本音の頭はきれいに覚めた。

 

 何事かと思ってされるままに手を触らせていたが、結はそんな動揺の止まらない変ににやけた本音の目をじっと見つめてくるので、本音は生唾を飲んで結の真っ黒な瞳を見つめ返す。

 

「本音お姉ちゃん、無理しないでね」

「え?」

 

 突然そんなことを言われてキョトンとしている本音。

 

 何を唐突に、と思いもしたが本音を見つめる結の目には微かに心配する感情が見えたので、本音は少ししてからいつもの笑顔を作り、結の頭を撫でる。

 

「わたしは大丈夫だよ~。心配してくれてありがとね、ゆいゆい」

「んん⋯⋯」

 

 結が握る本音の手には小さな痣がいくつも浮かんでおり、掌にはマメが出来ているほどだった。

 そして隈を隠すために塗ったのであろう化粧がほんの少しだけずれており、隠したかった黒いシミを結は昔よく見た疲れ目の男と重ねて見つけてしまい、思わずあんな言葉が口走った。

 

 本音が何をしていてこんな状態になっているかは知らない。

 いつものほほんとしていて頑張るとは無縁のような彼女がここまで身体を疲弊させることが珍しく、何をしているかは知らないが、よほど大事なことのために働いているのだろう。

 

 そう思う結は何も言わず、ただただ彼女の手を労わる様に撫でるだけだった。

 

「どうしたの、ゆいゆい?」

「なんでもない。なんでも」

 

 妙な恥ずかしさで机に伏す結を撫でながら、愛しい感情に悶える本音。

 少年の熱の余韻をまだ覚えている手には工具を握っていた時の痛みが消えたような気がして、本音はその手を摩りながら小さく、含むように微笑む。

 

 

 今日明日は頑張れるなあ~。

 

 

 そんなことを考えていた本音はSHRが始まる寸前まで結の軽く撥ねっ毛が目立つ頭を心行くまで撫でていた。

 

 

 

 その様子を遠くから見つめる双眸が一対。

 

「ほほう⋯⋯」

 

 




 いいこと思いついた。




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