それとこの辺りの原作知識がうやむやになっているので、イベントの順番がずれているかもしれません。
ご容赦ください。
アンケートにつきましては、甘えたがりに関してはヒロインが揃ったところで、山田先生との回については近日中を目安に執筆させていただきます。
はい、二つです。
その日は教室でのIS専門座学が午前にあり、結も一組の教室に足を運んでいた。
「うぅ~トイレトイレっと……お゛ッ」
「ぶ」
まだホームルームも始まる前、一夏がお手洗いに駆け込もうと教室の戸を開けた瞬間、逆に教室に戻ってきた結の頭が丁度一夏の股間に直撃し、一夏の股間から除夜の鐘が鳴り響いた。
「うぉぉぉ……すまねぇ、結ぃぃ……」
「なまあたたかかった」
そこそこの勢いで結が教室に入ってきたのには訳がある。
自室から移動するとき、他のクラスの生徒が寄って集って結を追いかけ回していたのだ。
それらから逃げ惑い、ようやく安置に到着したところで教室に滑り込もうとしたら、丁度一夏が戸を開いてさっきの惨劇が起こった。
「なるほど、織斑くんのおまたは生暖かい、と」
「あんなにオーバーな反応しなくても」
「やっぱり痛いのかな?」
男の痛みを知らない女子は言いたい放題だが、そんなことを気にする余裕もないらしい一夏は震えながらもお手洗いに向かった。
「なんで急に追われるようになったんだろ」
「知らないのゆいゆい~?」
前の席に座る本音が体を後ろに向け、結の疑問に答えてくれた。
「この前しののんがおりむーに言ってたんだ~」
そう言いながら事の顛末と成り行き、尾ひれなど着いていった原因を聞かされて少年は渋い顔で項垂れる。
話に聞き耳を立てていた箒は羞恥心で肩を狭めていた。
「お付き合い、好きな人……」
ふつふつと独り言を呟きながら少年は上の空で考え事に入り込む。
「上代くんおはよ!」
「結くんおはよう」
「ゆいゆい、おはよ~」
「おはよう」
しかし無表情ながら挨拶は返すので、少なくともクラスの女子たちに可愛がられてはいるようだった。
「おはよう、結」
「おはよう、ございます」
しかしシャルルに対してだけは未だに敬語を使い、『他人』という境界線から踏入れさせようとはしていなかった。
「結、少しいいかな」
「……なん、ですか」
被さるフードの隙間からきな臭い貴公子の顔を見上げる結は、あからさまに嫌な顔をする。
「今度の休日、時間をくれないかい? 少しだけだからさ」
「よーけんは」
「男同士でお話したいんだ。一夏もいるから」
「………………わかった」
かなり間の開いた返答にシャルルは内心胸を撫で下ろしていた。
「ありがとう、またね」
「……」
その結の対応に一部の女子は「三角関係……!?」と嬉しそうに黄色い声を発して朝から騒がしそうにしている。
「織斑くんの事が大好きな結たんがシャルルくんに嫉妬……」
「でもシャルルくんは結たんが気になるけど、あえて織斑くんに言い寄って結たんの気を引いている?」
「鈍感な織斑くんは二人の好意に気付かないから……キャー!」
実に楽しそうだ。
「おはよう結。今日昼飯一緒に食わないか?」
「今日は真耶先生と食べる」
「そっか、分かった」
無理強いは出来ないので、寂しいながらも身を引く一夏は結の頭を撫でてから自分の席に着いた。
◆
放課後、結は廊下を走っていた。
いけないことだけとは重々理解しているが、どうも守るに守れない状況なので仕方無く走っている。
後ろからは複数人の足音が怒濤の勢いで床を踏んでいる。
「上代くん待ってぇーっ!」
「さきっちょだけ、さきっちょだけだからぁ!」
「ショタ、拝まずにはいられない!」
姦しいことこの上ない。
いやもしかすればそれ以上だろうか。
初日やそこらは殆ど誰も関わらなかったのが、例の転校生の金髪の方が来てからやたら過激になってきた気がする。
しかしこうも毎日追い掛けられては埒か開かない。
どうしたものか。
「あ、簪お姉ちゃん」
「結。そんなに慌ててどうし……」
曲がり角に差し掛かった結は、そこでばったり簪と遭遇した。
「ちょっとごめんなさい」
「え、なに、急に、きゃっ!?」
勝手に断りをいれた結は何を仕出かすのかと思いきや、いきなり簪のスカートを捲って彼女の足の間に体を滑り込ませてきた。
え、なに? 新手のスカート捲り? でも結に限ってそんなやんちゃな事ってするのかな。わかんないわかんない。いやでもなんで急にそう言うことになっちゃったの? て言うか今日のパンツ何色だったっけ……ストッキング越しでも見えるよね。でも結なら目を瞑ってくれているかもしれない。あとなんか股の間が変に温くて妙な感じがする。
何事かと驚くのも束の間、そこそこの人数の団体が結が来た方向から押し寄せてきょろきょろと辺りを散策し、うちの一人が簪に訊ねてきた。
「ねぇ貴女。こっちに上代君来たでしょ? どっちに行ったか分かる?」
「え? えぇと、あっち……」
簪は咄嗟に下りの階段を指差してその場を誤魔化す。相手は短く感謝し、団体を率いて馬車の如く騒々しい足音で階段を下りていった。
「もう出てきてもいいよ」
「んん、ありがとう。簪お姉ちゃん」
控えめに呼び掛けると、腰の辺りから暖簾を潜るように結がもそもそ這い出てくるので、妙な風の通る感じに苛まれる簪。
「いつもあんな感じなの?」
「うぅん。あの金髪の人が来てから」
金髪と聞いて思い浮かべたのは最近一組に転校してきた三人目の男性操縦者と囃される人物で、名前は確かシャルル・デュノアだったか。
「最初は一夏お兄ちゃんだけだったのが、あの人が入って一緒に追い掛けられてて、ついでに追われてる感じ」
「難儀だね、結……」
同情する他なかったが、別段本人は気にしておらず、人気の無い道を探して行こうとしたので、簪は咄嗟に少年を呼び止めた。
「ねぇ、結!」
「なぁに?」
後ろ髪を掴まれたように立ち止まり、振り向いた結はそのままとてとてと簪のところまで歩いてくる。
そんな少年に、膝を屈めて結の目線に遇わせた簪は少し緊張した様子で唇を噛み、彼の手を取って用件を伝える。
「も、もしよかったら、今日か明日、また私の部屋でアニメ、見ない……?」
いや待てよ。
ここ最近ISの製作に追われてまともな生活を送っていないので、部屋は荒れ生活は乱れそれはもう年頃の女子の部屋として見れば目も当てられない惨状になっている事を思い出した簪は、慌ててさっきの誘いを訂正する。
「いや、待って。今日はちょっと……明日、いや週末……そうだ週末にして、お願い」
「わかった。じゃあ土曜日に行くね」
「うん。待ってるから」
危うく女どころか人としての尊厳を子供相手に失うところだったと肝を冷やし、少年が見えなくなったあたりでふとさっきスカートの中身をありありと見られたことに赤面して暫く動けなくなった。
み、見られた……でも、結ならいいよね?
◇
山田先生の特別補習が終了し、早足にアリーナへ向かう一夏は近道をしようと通りが買った中庭で、自分の姉である千冬とその元教え子らしいラウラがなにやら話しているところに出くわした。
「お願いです教官、もう一度ドイツに戻り、我が隊の指揮を!」
「……何度も言わせるな、今の私はこの学園の教師だ」
先日自分を打ったときのような冷徹なものではなく、何処と無く駄々を捏ねる幼さをラウラに垣間見た。
「この学園の生徒たちはISをファッションか何かと勘違いしている、こんな辺境なところにいては教官の価値が鈍ってしまいます!」
それより先を言わせる前に、千冬は閉口していた姿勢を崩してラウラに威圧的な視線を送る。
「あまり調子に乗るなよ小娘」
「ッ……」
「弱冠十五で選ばれた人間気取りとは恐れ入る」
「私は……」
これ以上の言葉を発することは許されない。
そんな気さえ起こしてしまうほど、千冬の眼光は鋭く、本当に斬られている錯覚を見るほどだった。
「いたわ、あっちよ!」
「しーつこーい……」
上から声がした、と見上げた瞬間。中庭の上空、結が二階の窓から身を乗り出していた。
迷うことなく窓額を蹴って跳躍し、下を向いた少年とラウラはバッチリ目が合う。
「えっ」
「はぁっ!?」
放物線を描いて跳んでくる少年はそのまま重力に従い、向かう先は織斑先生の立っているところだった。
思わずその場にいた全員が飛び出して受け止めようとしたが、重力加速度に人間の瞬発力が勝ることは出来ず、接触事故が起きてしまうと誰もが予想し肝を冷やしたが、結果は思っていたものより呆気なかった。
「よっ、と。窓から飛ぶのは止めなさい。上代」
「ごめんなさい」
意図も容易く四、五メートルはありそうな高所から飛来する小学校低学年くらいの男の子を受け止める織斑先生は、あくまで涼しい顔で結を受け止めてしまうので周りは感嘆な息をつく。
「な、何をしている上代 結!」
空から少年が落ちてきた事象に理解が追い付かないラウラは声を裏返しながら、織斑先生に抱えられている結を指差して怒鳴り付ける。
「色んな人達に追いかけ回されてて、あそこから飛べば逃げ切れると思ったの」
そう言って結が指差した窓から複数人の女子生徒が悔しそうに結を見詰め、やがて諦めたのかすごすごと帰っていく様が窺えた。
「くぅっ、逃げられた!」
「しかもお相手はあの千冬様よ。勝ち目は無いわ」
「この次は捕まえてみせるッ!」
姿を消す生徒たちを眺めて結は胸を撫で下ろし、織斑先生から解放されたと同時に小さく小突かれる。
「無茶はするな、山田先生に怒られても知らんぞ」
「はぁい」
山田先生を出され、流石に肩を窄ませる結は小突かれたところを擦りながら間延びした返事をするだけだった。
その様子にほとほと呆れたラウラは怒るのも馬鹿馬鹿しいと云った感じで額を抑え、踵を返す。
「付き合いきれん、私は先に失礼します……」
ラウラのいなくなった中庭を、結が探るように周囲を見回し、何故か一夏がいるところをじっと見つめる。
「……?」
「………」
互いの視線が衝突し、隠れていた側の一夏は身を低く屈めて茂みの影に隠れるが、 もう遅い。
訝しみながら首を傾げて近づいてくるので一夏は再びぎょっと驚いて逃げようと身体を反転させるが、何故逃げるのだろうと考えている間に結につかまり、袖を引かれて千冬の前に連行される。
「覗き趣味か? 感心しないな」
「違うって!」
目まぐるしく変わる展開に目を回していた一夏。
「こんなところで油を売っていないで修練に励め。そんなことでは今度のタッグトーナメントで大恥をかくことになるぞ」
「わかってるよ、千冬姉」
しまったと口を押さえたが遅かった。
一夏の頭上に落とされた拳骨は、さっき結にしたものとは比べ物にならないほどの威力で放たれ、鈍い音をたてて直撃する。
「学校では織斑先生と呼べ」
「結の時と全然違うじゃないかよ!」
「私に子供を強く殴れと? 酷なやつだ」
「そうじゃねぇ!」
このままではいけないと踏んだ一夏は結を引き連れて早々とアリーナへ向かう。
「俺、強くなるよ。今よりもっと」
少年の手を引きながら、一夏は自分に言い聞かせるように言う。
結は不思議そうに聞いていたが、にこりと笑って励ました。
「一夏お兄ちゃんならなれるよ、いつか……」
いつか、ぼくを●●●くらい。
その笑みの裏に枯れ果てた感情が隠っている事を、そのときの一夏は見つけられなかった。
結「黄色ってどうなんだろ?」
一夏「どうした?」