IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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 どのくらいの方が把握しているのかわかりませんが、一話、六話に挿絵を追加しました。

 それと来週の投稿はないと思います。
 
 


三十二話 少女のプライド

 大慌てで部屋の掃除に取り掛かる簪と本音。

 

「かんちゃんこれ何処に置いとけばいい~?」

「それは、タンスの、下から二段目の、奥、いや手前に……!」

 

 設計図と参照データの書類や栄養ドリンク、携帯食料の残骸で形成された、趣ある汚部屋をもとの姿に戻そうというのだ。

 

 先日から手は着けていたものの、整理整頓など何処へやら。

 製作作業を一旦切り上げて片付けとはなったが、まずはゴミを掃いて次に脱ぎ散らかされた衣類を洗い、最後は重要書類の整頓とさばいていく。

 

 しかしマイペースな本音は簪の1/3の速度で動くうえ、たまに飽きて動かなくなるので簪がその倍働くはめになったりと忙しない。

 

 

 数日前、簪としては意気揚々と結を部屋に招待したのだが、悲惨な状態になっていたこの部屋のことを思い出して急遽片付けをしている次第である。

 

「あとは書類だけだから、本音も手伝って!」

「お茶淹れてきたよ~」

「本音っ!」

 

 マイペースである。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 生徒寮の廊下を小さな足が跡をつける。

 ポケットに入れたものを服の上から擦りながら、結は不味いことをしてしまったかもしれないも思いつつも、それを持っていたシャルルへの疑問を募らせる。

 

 初めて出会った時、股にぶつかったのにたじろぎする様子もなく颯爽と去っていった。

 一夏とぶつかったときは悶絶するほどだったのに、何もなかったなんておかしいだろう。

 

 二度目に会った時、やたらと一夏と自分に関わりを持とうとしてきた。

 他にも生徒は注目できるような人物は多いと思うが、何故に自分たちに固執するのかわからない。

 

 決定的なのは、今懐にあるシャルルの落しもの。

 

 暫く歩きながら考えた結は、口元を隠していた手を退けた。

 

 

 どうでもいいや。

 

 

 歩いていると後ろから誰かが走ってくる足音が聞こえたので振り向いてみると、そこには嬉しそうな顔を浮かべる一夏がいた。

 

「おーい結! 俺の部屋に行くんだろ、一緒に行こうぜ!」

「うん」

 

 そう言って駆け寄ってきた彼に差し出される手を取り、並んで歩く。

 

「おに×ショタ……」

「なんて神聖な光景……」

「お父さんお母さん、産んでくれてありがとう……」

 

 今日も今日とて絶好調な外野は既に、天に召されかけていた。

 

「一夏お兄ちゃん、シャルルさんと何かあったの?」

「いや別に、大したことじゃないんだけどさ」

 

 上手くいかないという風に顔をしかめる一夏は、先程更衣室であった出来事を結に伝えてみた。

 

 

 転校してきてから同じ男同士ということで、更に部屋も一緒になったシャルルとそれなりに親好を深めたいと思っていた一夏だった。

 

 しかしシャルルは一定のラインで線引きをしてきてそれ以上は関わらないような、妙な距離感を感じていた一夏は予てより山田先生を通して頼んでいた大浴場の使用許可が下りたので、一緒に入らないかと誘った。

 

 だがシャルルは頑なに拒んで逃げ出してしまい、今に至るという。

 

 

「一緒に風呂に入るくらい、いいじゃねーかよー」

「ぼくはやだなぁ」

「あ、まぁ、結はな」

 

 いくら自分たち三人しか居ないとはいえ、誰かに体を、背中を見られる事を好かない結は公衆浴場なんてものに通う気は更々無かった。

 

 シャルルもそんな理由なのだろうか。

 それともあんな下着を履いているところを見られるのが嫌なのか。

 

「一夏お兄ちゃん、これ」

「ん、なんだ?」

 

 結はポケットの中の落とし物を一夏に手渡してそれを見せる。

 シャルルの落とし物を受け取った一夏は、初めはなんなのか分からなかったが、手の中の布切れの正体が分かった途端にぎょっと驚いた。

 

「ゆ、結! これ誰のだ!?」

「シャルルさんの」

「嘘だろ!?」

 

 そんな、いやだって、まさか、否定的な言葉がいくつも喉を通っては掠れて消えていく一夏を尻目に、結は彼の手を引っ張って部屋を目指す。

 

「早くいこ、一夏お兄ちゃん」

「でも、部屋にはシャルルが……」

「だからだよ」

 

 疑問符を連ねる一夏など知ったことではないと言わんばかりに手を引いてくるので、一夏は逆に立ち止まってしまう。

 

「ねぇ一夏お兄ちゃん。シャルルさんは男の人?」

「そりゃ、俺と一緒の部屋だし、そういうことでこの学園に来たんだし……」

 

 そうは言いながら一夏はシャルルへの疑いがどんどん大きくなっていく。

 初日に裸を見られるのを嫌がったり、逆にやたらと肌を見てきたり、気軽に話しかけたりするわりには何処かよそよそしいと言うか、妙な距離感を感じていた。

 

「でも、だとしたらなんで、男だって偽ってきたんだよ」

「それを聞きに行くんだ」 

 

 不思議がっている結にとって、シャルルが男だろうと女だろうとどうでも良かった。

 

 ただ、隠し事をしているシャルルが気味悪く、時折見せる影に嫌な焦燥感を感じた結は、それが『先生』と似たような雰囲気だと思っていた。

 

 

 辿り着いた部屋の前で一夏がノックをする。

 

「シャルルー、入るぞー」

「へ!? ちょ、ちょっと待ってて一夏!」

 

 中から聞こえてきたのはやけに慌てている様子のシャルルの声だった。

 

 しばし部屋の前で待たされ、やっと出てきたシャルルは急いで着たのか乱れたジャージを身に纏い、さっきまでシャワーを浴びていたのだろう、濡れたままの髪を乱雑に後ろで纏めて垂らしている。

 

「さっき言ったやつ」

「お風呂のこと? 僕は嫌だよ!」

「そっちじゃねぇって」

「あっ、ボーデヴィッヒの方か」

 

 落ち着きに欠ける今のシャルルにいつもの毅然とした態度は影も形も見当たらない。

 

「結も来てたんだ」

「ん」

 

 一夏の後ろから顔を覗かせる結はじと、とシャルルを見上げている。

 部屋の前で立っている訳にもいかず、一夏に招かれて結は部屋にお邪魔することにした。

 

 用意された椅子に腰掛け、一夏が神妙な顔でお茶を淹れている間、結とシャルルは何も話すことはなく、ただじっと口を閉じたままだった。

 

 やっと戻ってきた一夏が全員に湯飲みを渡し、自分も腰を据えて話す態勢に入る。

 

「ところでシャルル、ちょっと聞きたいことがあるんだが」

「なに、一夏?」

 

 なんと言えばいいかわからなかった一夏は、何も言わず、言い出せず、それでも懐から真っ白な布を取り出してシャルルに手渡す。

 

「これ、お前のか……?」

「あぁ、それ、は……」

 

 渡された布切れもとい、女性用下着に目をおとしたシャルルはピタリと動きを止め、うんともすんとも言わずに押し黙ってしまう。

 

 

 

 あああぁぁァァァ        ッ!!!

 

 

 

 ここで『僕のです』と言えば正体がバレるか、もしくは変態の烙印を捺される! けど『違います』なんて言っても誰かのパンツを盗む変態と思われる! つまりどっちに転んでも変態と言われる! 嫌だ! 

 

「その、結がシャルルとぶつかったときに落としていったって言っててさ……」

「あ、あは、あははは……」

 

 男をとって、変態を受け入れるか。

 女をとって、プライドを守るか。

 

 待って。

 

 なんで男を取らないといけないんだよ。

 僕女の子なのに。

 

 

 女の子なのに!

 

 

 シャルルは心の中で何かが吹っ切れた。

 

「これは! 僕の! パンツだぁぁぁ!!!」

 

 勢いよく立ち上がり、パンツを力強く握りしめる。

 

「そして僕は男じゃない、女の子だもんっ!」

 

 今までずっと着けてきた特殊コルセットを外して投げ捨て、ISのパッケージ内からハンドガンを展開して一夏と結に厳つい銃口を向ける。

 

「僕が自由になるには、君達を犠牲にしても僕は自由を手に入れる……これは、僕の、フランス革命だぁっ!!」

 

「待て、シャルル!」

 

 尚も止まらないシャルルを取り押さえようと一夏が飛び付くが、自棄になった人間というのは存外暴れるもので、一夏はなんとか結だけでも逃がそうと目線を向けたところ、少年は微動だにせず俯いて座っていた。

 

 いけない、この騒動で気絶したか!?

 

 早いところ逃げてもらわないと怪我人が出る!

 

 ああでもないこうでもない。決断出来ない問答を繰り返す一夏を端に、少年は髪をかき上げながら被ってたフードを下ろし、一つ舌打ちをして二人を見上げる。

 

 

 

 

 

 

 

「『()()()()()』」

 

 

 

 

 

 

 誰が言ったのか。

 声音からしてそれは明白だったのに、誰が口を開いたのか一夏とシャルはわからなかった。

 

 同時に悪寒の走った一夏は冷や汗を一筋垂らし、声のした方を恐る恐る振り向く。

 

「『ピーピー喚くんじゃねぇ、猿ども』」

 

 したり顔でふてぶてしく座っていた結が、ニヒルな笑みでにたりと嗤った。

 






 書いてて自分は疲れてるのかなって思った。

 
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