IS【小さな少年は盾を構える】   作:屍モドキ

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 なんとなく真耶とワチャワチャする回。
 以前のアンケートの解とは言えないかもしれませんが、楽しんでいただければ。


三十四話 少年と氷の少女

 少年はふと目を覚まし、覚えのない部屋で知らない間に寝ていたことに違和感と心地よさを感じた。

 

「あ、起きました?」

「真耶、先生……?」

 

 なぜここに真耶先生がいるのか、そもそも今自分は何処にどんな経緯で寝ていたのかわからない。

 

「昨日更識さんの部屋に行ったそうで、そこで寝てしまったのを織斑先生に回収してもらって、何故か私の部屋に運ばれました」

「どうして」

 

 アリーナ地下の自分の部屋に放り込まれていたなら分かる。どうしてわざわざ教員寮の真耶先生の部屋に移されたのか、そこが分からなかった。

 

 寝起きの頭で呆けながら真耶と自分が今いる部屋、自分が寝ていたところを見回して隣から膝立ちの姿勢で自分を覗き込む真耶に目線を合わせる。

 

「真耶先生、一緒だった⋯⋯?」

「あぁー、夜も遅かったし、代わりの布団を敷くのも手間だったので一緒に寝ましたよ」

 

 軽い感じでさらっと答えた真耶だが、改めて自分の口で説明した内容を鑑みてそれはそれで危ないのではと一人でもんもんとしている隙に、結は素知らぬ顔でベッドから這い出て身支度をしていた。

 

「そっか、うん、ありがとう、ございました。さようなら」

「うぇぇ!? 待ってください!」

 

 滑りながら手を掴んでくる真耶に止められ、結はそれに従い部屋を出るのはもう少し後にすることにした。

 

「朝ごはん、食べて行きませんか? もう二人分作ってあるので」

「じゃぁ、いただきます」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 座卓に並ぶ二人分の朝食。

 

 サラダ、フレンチトースト、コーンスープ、ハムエッグ、牛乳。下手に尖った物はなく、色鮮やかな品々は栄養と味の両立が取れたものだった。

 

「いただきます」

「いただき、ます」

 

 座卓を挟んで合掌。

 やたら柔らかい食感のそれらを口に運び、サラダの軽い歯触りに安心感を覚え、それらをスープで飲み干す。

 

 今まで数回、こうして真耶と一緒に食事をしてきた結は、未だに慣れない他人との距離を恐る恐る縮めている感覚があった。

 

「美味しいですか?」

「うん、美味しい、です」

「それはよかっ……あちっ!」

 

 突然スープを飲もうとした真耶がカップから口を離して跳ねる。

 火傷した舌を牛乳で冷やしていた真耶だったが、思い出したように牛乳を卓上に叩きおいて結の手を取る。

 

「結ちゃんスープ飲みました!?」

「う、うん」

「お口あーんしてください!」

「あー」

 

 真耶に言われた通りに口を開いて咥内を見せる。

 頬を掴み、おもむろに中へ指を入れて舌の様子を見ていた真耶はあっ、と声を漏らして結の牛乳を掴み渡す。

 

「舌火傷してます結ちゃん、今すぐ冷まして!」

「はぁい」

 

 なるほど舌を焼いていたのか、などと楽観的な気持ちでグラスの回りに水滴を垂らす牛乳をちびちびと舐めるように飲む結を見ながら、真耶は結の頭を撫でてほ、と息をつく。

 

「痛かったらちゃんと言ってください!」

「ふぁい」

 

 あまりすすめられる行為ではないがコップに舌を突っ込み患部を冷やしている結。

 大げさだと思いつつ、コレが普通の反応なのかと他人事のように感心しながら、ようやく自分が怪我をしていたのかと自覚してむなしい気持ちになる。

 

「ごめんなさい、私がもっと気をつけていれば……」

らいよううあおに(だいじょうぶなのに)

 

 起きて一時間も経たないうちに泣きそうになっている真耶を見てどうにか元気付けよう、心配させないようにしようと考える。

 

「ねぇ、真耶先生」

「なんですか?」

 

 牛乳を飲み干した結はコップを卓に置き、白くなったくちもとを拭って上目遣いで真耶を見上げる。

 

「お散歩行きたい」 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 十時前、私服に着替えた真耶と、水筒を肩に掛けた結が仲良く帽子を被って学園島の海辺を散歩していた。

 

 夏が近づき日差しの強くなるこの頃、昼時に出歩くなら日除けが無いとつらいものがあり、半袖のワンピースから華奢な腕をみせる真耶は事前に自分と結に日焼け止めクリームを塗っておいた。

 

「結ちゃん、暑くないですか?」

「平気」

 

 少年の手を引きながら、小さな歩幅で付いてくる結を逐一確認しつつ、無理をしない程度に歩く様は親と子のそれだった。

 

 

 漸く歩いていると屋根のあるベンチを見つけ、そこに逃げ込むように座って束の間の涼を取る二人。結の持っていた水筒からよく冷えたお茶を二人で飲み、青空と遠い海を見渡して一息つく。

 

 ポケットから取り出したハンカチで少年の汗をふいてやりながら、真耶は素朴な疑問を結に投げ掛ける。

 

「……結ちゃんは、ここから逃げようとか思ったこと、ありませんか?」

 

 真耶の質問に結は目を見開き、悲しむような、肯定するような、気まずくはにかんで水平線を見つめる。

 

「一回、じゃないかな、いっぱいあるよ」

「っ……そう、ですか。そうですよね」

 

 初めてこの学園に送り込まれたとき、地下室の隅でずっと膝を抱えて塞ぎ込むか、人気のない場所を探して彷徨うかの二つしかしなかった結。

 

「最初のころは早く出たい、て思ってた」

 

 千冬やその他の教員達に幾度となく帰りたい、出してと懇願していたが、次第に気力も尽きて部屋に居ることの方が多くなった。

 

「けど、出たところで行くとこが無いから」

 

 頭のなかには常に『先生』の事でいっぱいで、会えもしない彼にずっと助けを求めていた。しかし、その信念も徐々に霞み、全てを諦めて部屋で過ごすようになった。

 

 やがて真耶が予定より早くに学園に召還され、結の相手をするよう命じられた。

 

「それに今は真耶先生がいて、千冬先生や一夏お兄ちゃんがいて、みんながいて……楽しいんだ」

「結ちゃん……」

 

 カップを少しだけ強く握って視線を水平線から真耶に切り替え、見上げながらにへ、と微笑む。

 感極まって涙腺をやられた真耶は思わず結を抱き締めて遠慮なしに頬擦りをする。それがなんとなくくすぐったくて落ち着かない結だったが、嫌な気はしないのでされるままにした。

 

 が、楽しい時間も長くは続かないようで、懐に仕舞われてあった真耶の携帯電話のコールが鳴る。

 

「もしもし山田です。織斑先生、どうしました? ……わかりました、すぐ向かいます」

 

 見るからに残念そうな顔でベンチを立った真耶は、結に自分の部屋の鍵を渡して弁明をする。

 

「ごめんなさい結ちゃん、どうやら仕事が押してるようでヘルプが来たので行ってきます……」

「わかった、行ってらっしゃい。真耶先生」

 

 教員という仕事はなかなかに激務なようで、しばしば休日出勤に駆り出される教員がいるのが珍しくないのはこのIS学園でも同じこと。

 

 折角の休日で、しかも結と戯れている時間を潰しての仕事だけあって今にも泣きそうになっている真耶を慰めながら、結は広げていた水筒等を片付ける。

 

「頑張って、真耶先生」

「……はい、行ってきます結ちゃん!」

 

 大きく手を振って駆けていった真耶を見送り、もうしばらく海を眺めたあと、ひさしの影から出た結は見下ろされる日光に目を細めながら、照り返して眩しいアスファルトを踏み締めてとことこ帰る。

 

 時季的には梅雨時で、蒸発した雨の蒸し暑さに加えもう既に脱皮してきたらしい蝉のけたたましい鳴き声が遠くから聞こえてくる。

 

「ふぅ……」

 

 額から、首から、それこそ全身から吹き出る汗を拭ってみるものの、拭いたそばからまたじわりと滲んで意味をなさない。

 

 帽子のつばの先に見える焼け付くような光景に眩みながらも小さな足跡は続く。

 時々立ち止まって水分を摂り休憩を挟むが、それでも払拭しきれない茹だる暑さは齢二桁にも達していないような子供にはつらいものがあった。

 

 陽炎が揺らめき視界を不安定にさせ、意識が朦朧としているのがなんとなくわかる。

 

 痛みも熱も鈍く感じる結にとって、身体に異常が起きているかわからない事が、何よりも危ないことだった。

 

 こんなことなら真耶先生と一緒に行けば良かった。

 

「あ、れ……」

 

 やがて歩くことが困難だと察した結は、辺りを見回して見つけた木陰に這うようにして逃げ込む。街路樹の影はくっきりと明暗が別れて伸びており、影のなかに収まるよう身を屈め、足を折って小さく踞る。

 

「……」

 

 止まってくれない汗に多少の危機感を覚えながら、どうやってこの状況を脱しようか悩むが、煮だってきた頭では発案すら満足に出来ず、瞳を伏せて待つことしか出来なくなっていた。

 水筒の中は空になって重石にしかなっていない。

 

 今は、少し、休もう……。

 

 地に手と膝を着き、深い息遣いで浅い眠気に身を任す。

 

 

 

「……あの子って」

 

 

 

 

 …………

 ………

 ……

 …

 

 

 

「あ、起きたスか」

「おねえちゃん、だぁれ……?」

 

 やたら茹だる頭をもたげて、真上から覗き込む半目の少女の顔を見上げる。

 

 ここは何処だ、日陰の差したベンチに横たえられているのか。

 結は起き上がろうとして謎の少女のやけに冷たい腕に押し戻され、再び彼女の太腿の上に頭がすとんと落ちた。

 

「まだ安静にしとくスよ」

「なんで、ぼく……」

「やっぱ憶えてないみたいスね、君」

 

 変わった口調で話す彼女の話を聞くに、どうやらこの鬱陶しいくらいのいい天気で日光浴をしていたらそのまま気を失い、彼女にここまで運ばれたそうだった。

 

「軽い熱中症みたいな状態だったんで、私のISで冷やしておいたスよ」

「ありがと、ございま、す」

 

 彼女の腕を見ると深い紺色のISの腕が横になる自分の胸と頭に添えられ、霜を降らせる冷気が掌から漏れていた。

 

「キモチイイ……」

「それは良かったス」

 

 寝ぼけ眼がだんだんと開き、頭が少しずつ冴えてくる。

 余分な熱を吸われたような感覚で、酷暑の今日には丁度いい体温にまで落ち着いた結は起き上がって振り向く。

 

 そこには細いおさげを肩から垂らす黒髪の小柄な少女が気だるそうに、しかし少しだけ心配している風に此方を見ていた。

 

「まだ寝てなくていいスか?」

「うん、『熱はもうない』て、フーも言ってる」

「フー?」

「なんでもない」

 

 つい口にしてしまった名前をはぐらかして口元をきゅっと閉じる。

 

「お姉ちゃん、お名前はなんて言うんですか」

「あー、通りすがりの美少女、てとこスかね」

 

 せめてお礼がしたいと聞いてみたが、向こうも変な言い訳で誤魔化して名乗ろうとはしなかった。されども食い下がろうとする結のほっぺを横から両手で挟み、もにもにしながら少女は結を立たせてやる。

 

「またすぐ会えるスよ」

「そう、かな……」

 

 持っていた未開封のペットボトルを結の首もとに押し当てて、少女は立ち上がって去っていく。

 

「さらばッス、ボイスレコーダーの少年君。一応保健室に行ってちゃんと治療してもらうッスよ」

 

 凍ったペットボトルを大事に握りしめ、結は自分の呼び名に首を傾げた。

 

「……ボイスレコーダー?」

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 その後、事情を聞いた真耶は新人と思えない速度で仕事の山を片付け、結がいるらしい保健室に飛び込んで扉の縁に足を引っ掛け勢い良く倒れていた。

 

「治療場に怪我しにこないでよ」

「ご、ごべんなはい……」

 

 鼻を押さえながらふらふらと立ち上がった真耶は、丁度点滴を射ち終わって顔色の良くなった結のところに駆け寄り、全身を触診してやっと息を吐く。

 

「何処も怪我してないですか、具合は悪くないですか、身体が熱いとか気分が悪いとか……」

「大丈夫」

「じゃないでしょ」

 

 割って入った保健医は氷枕を結の頭に押し当てて冷やす。

 

「軽度だったとはいえ熱中症だったんだからよく冷やす。山田、部屋帰ったら水風呂に入れてやりなさい」

「は、はい!」

 

 名指しで任を言い渡された真耶はすかさず立ち上がって敬礼する。その姿に失笑しつつ、保健医は真耶の肩を叩いて椅子に腰かけた。

 

「変な気は起こさないでよ?」

「仮にも教師ですよね!?」

 

 氷枕を両手で掲げる結は嬉しそうにきゃんきゃん騒いでいる大人二人を眺めながら、きんと冷えていく頭で楽しそうだな、と楽観的に眺めていた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 そのまま今日も真耶の部屋に泊まる事となり、帰宅早々に汗を流すべく浴室に直行する真耶と結。

 

 脱衣所に入るなり着替えてきますと言った真耶に浴室に向かうように促され、結は先に水浴びをしていた。

 

 ISを持っていた謎の少女から始まり、保健室では氷枕等でよく冷やされ、殆ど身体に害は無いだろうとは思うが大人は頷いてはくれず、風邪を引きそうなほど冷やさねば納得してくれない。

 

 未だにくしゃみ一つ出ないので良しとしようと考えながら冷水のシャワーを頭から被っていると、浴室の扉が開かれて、水着を着た真耶がもじもじと恥ずかしそうに入っていた。

 

「お待たせ、しました」

「下着?」

「み、水着です」

 

 水着を見たことの無かった結にとって布面積の少ない服は総じて下着の認識だったので、真耶が服を着たまま入ってきたのかと思って少しばかり驚いた。

 

「なんで?」

「どうせなら夏っぽくしようと、思いまして……」

 

 赤くなるわけでもなく、ただただ疑問を持って問い詰めたところ真耶は恥ずかしそうに縮こまり、何も喋らなくなった。

 

「ごめんなさい脱いできます!」

「もうそのままでいいです」

 

 羞恥心に殺されそうになった真耶は浴室を飛び出そうとしたが、結に手を取られて止められたのでそのままの格好で大人しく水風呂に入ることにした。

 

 

 椅子に座らされ、背中側から頭を洗われる結。

 改めて直視されると恥ずかしいらしいので特に詮索はせず、まじまじと見ないように努める。

 

「冷たく無いですか?」

「大丈夫」

 

 適度な指圧で頭を揉まれるのは心地が良かった。

 全身をくまなく洗われた後、されっぱなしというのもいい気分では無かったので真耶の背中を流したりする結。

 

 そうして二人とも身体を清めて水面に浸かる。

 

「ひゃっ、冷たい!」

「つめたい」

 

 膝まで足を浸けた後、恐る恐る腰を落とす真耶と呆然と立ち尽くして真耶を見る結。

 真耶が全身浸かってやっと結も座り、真耶を背もたれにして浮いた胸に頭を置く。と言うよりそうなるように真耶がした。

 

 曲げた足の間に収まり、胸枕によって頭が沈まないよう固定され、だめ押しとばかりに両手をからだの前に回されて確りとホールドされた。

 

「はぁぁ~~……冷たいけど気持ちいいですね~」

「うん」

 

 背中と後頭部越しから直に伝わる真耶の体温と、それ以外の全身にかけてが冷水に濡れる感触に揺れて妙に心地のいい。

 

 真耶と風呂に入るときはいつもこうしてホールドされる結。

 浴槽に張ってあるのが湯槽ならこれでいいかもしれないが、今回は冷える事が目的なので、密着しているのは如何なものか。

 

「ひゃんっ! くすぐったいですよ結ちゃん」

「ん、ごめんなさい」

 

 結は急に身体が冷えたので身震いしてみたら、真耶の身体と擦れて変なところに当たったらしい。

 可愛い声を出して恥ずかしかったのか、真耶は咳払いをして結の身体を抱き留める。

 

「真耶先生?」

「……いつも、なんで君の力になれないんだろうと思って、悔しくなるんです」

 

 それは真耶の吐露であり、理想と現実のギャップ。結を助けたいと思う気持ちとそれが叶っていないと言う現実の狭間に焦がれる想いだった。

 

「私に誰かを助ける力なんて無いのかな、て……そう思うといつも泣きそうになって、でもそれじゃいけないって躍起になって……」

 

 いつも目の前にいる少年は何処か遠くにいるようで、どれだけ傷付いたのか推し量れる筈もなく、しかし少年は泣くことも怒ることもなく、ただ笑っていた。

 

 少年を抱く腕に力がこもってしまう。

 離したくない、もう怪我をさせるようなことに巻き込みたくない。しかしいつの間にか結は怪我をして、倒れて、それでも立って何処かへ行ってしまう。

 

「真耶先生」

「ゆ、結ちゃん?」

 

 結は体勢を変えて真耶と対面になるようにして、真耶の膝の上に乗り、彼女の肩に手を置いてまっすぐ目を見つめる。

 

「おしっこ漏れそう」

「お手洗いに行きましょうっ!」

 

 流石に冷えすぎたようで膀胱が限界点を迎えて決壊寸前だった。濡れたまま水風呂から上げられそのまま身体も拭かずにトイレに駆け込む二人。

 

 流石に用を足すところに入るのは真耶も気にするところがあったようで、扉前に立っていた。

 

 タオルを腰に巻いて出てきた結はどこかスッキリした様子で手を洗い、犬のように頭を振って水滴を飛ばすので真耶はバスタオルを持って身体を拭いてやる。

 

「う、真耶先生」

「なんですか?」

 

 髪をタオルで覆う真耶の手を小さな手で押さえ、結は目にかかるほどの前髪とタオルの隙間から真耶を覗く。

 

「ぼく、守ってもらうだけなのは嫌なんだ」

 

 結は昔施設にて育ててくれた『先生』の事を思い出す。

 結や他の子供達のために泣き、笑い、さまざまな事を教えてくれた『先生』は結を庇って何処かへ行ってしまった。

 

 『先生』だけではない。あの施設にいた他の研究員や警備員はあのウサギの女によって大多数が殺されたらしい。

 

「ぼくを守って死んだ人が沢山いた。そんなの嫌。誰かに死なれるなら、ぼくはもう守ってほしくない」

 

 次第に俯いていく結を真耶は何も言葉をかけることが出来ず、しかし何もしないわけではなかった。

 

 泣き出しそうになる涙腺に喝を入れて涙をぐっと堪え、膝を着いて結を見上げる。

 少年の手をとって強く握り、確固たる意志を持った眼差しで結をみる。

 

「私は、何処へも行きません。結ちゃんを一人にはさせません!」

「真耶先生……?」

 

 そう言いつつ真耶はにへ、と笑って結の頭を撫でた。

 

「だから、これからも私の……私たちの側に居てくれませんか?」

 

 真耶のお願いはたったそれだけだが、もう他人には戻れないほど進んだ関係を築いてきたからこそ、敢えてそんな言葉にした。

 

 結は開いた口をつむぎ、少しだけ笑って見せて答える。

 

「ぼくも、みんなのとこに居たい。居させてください」

「ありがとうございます……!」

 

 何でもないような、それでいて大切な約束を交わして真耶は喜び結を抱き締める。

 

 他人からちょっとずつ変わっていく関係。

 呼び方は分からない。

 それでも、進んでいるのだと実感した。

 

「まだ服は着ないの?」

「あっ」

 

 羞恥心に殺された真耶だった。

 

 




 
 クラス代表就任パーティーの時。
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